アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

皮膚の表面には外部の様々な刺激から体を守るバリア機能があります。アトピー性皮膚炎は、外部からの様々な刺激から体を守る皮膚のバリア機能の異常がもとで、かゆみのある湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。アトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症する慢性疾患で、大人になると治まることが多かったのですが、最近では大人になっても治らない、大人になってから発症するといったケースも増えてきました。アトピー性皮膚炎の発症には体質が影響しているといわれますが、まだ完全には解明されておらず、アトピー素因(※)があっても、十分なスキンケアで予防ができ、症状が軽快すると考えられています。

※アトピー素因:本人または家族がぜんそく、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、または複数の疾患にかかっている、または、アレルギー反応に関わるIgE抗体をつくりやすい体質であること。

監修プロフィール
芝大門 いまづクリニック院長 いまづ・よしひろ 今津嘉宏先生

1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。

アトピー性皮膚炎について知る


アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の発症は、家族歴・既往歴が影響する(アトピー素因)

アトピー性皮膚炎は、家族にアトピー性皮膚炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)アレルギー性結膜炎のいずれか、または複数の疾患の既往歴があったり、アレルギー反応に関わるIgE抗体をつくりやすい体質であったり、本人がこれらに該当したりすると発症しやすいとされています。


衣食住のありふれたものがアレルゲンとなりアトピー性皮膚炎を引き起こす

身の回りの様々なものが「アレルゲン(アレルギーの原因物質)」になり得ます。例えば、衣類や化粧品、アクセサリーなど肌に触れるもの、普段口にする食べ物、そしてカビやダニ、花粉などの呼吸と共に吸い込んでしまうものなど、様々です。さらにはストレスや寝不足などといった要因も加わります。


皮膚のバリア機能の低下がアトピー性皮膚炎を招く

外部からの刺激や、異物が入り込むのを防ぐために、皮膚にはバリア機能が備わっています。この機能が低下している皮膚では、ダニやほこり、花粉などのアレルゲンが入り込みやすくなって、かゆみが生じるようになります。さらに、アレルギー反応を起こすIgE抗体をつくりやすい体質だと、アトピー性皮膚炎の炎症も引き起こしてしまいます。いったんバリア機能が低下すると、健康な皮膚なら影響を受けないようなものも刺激となってしまうのです。バリア機能を低下させたり、障害になったりする要因は以下の通りです。

  • アトピー性皮膚炎の要因①:乾燥肌
     アトピー性皮膚炎の患者の多くは乾燥肌である。皮膚が乾燥していると皮脂の分泌量が減り、水分を保つ角質細胞間脂質セラミドも少なくなり、皮膚の水分がどんどん蒸発してしまう。すると、外からの刺激物質が侵入しやすくなるだけでなく、外界の刺激に対して過敏になるため、汗や衣服のこすれ、石けんといったわずかな刺激でもかゆみを感じるようになる。
乾燥肌のメカニズム
  • アトピー性皮膚炎の要因②:かく、こする
     皮膚をかいたり、強くこすったりすると、バリア機能を保つために大切な皮膚の表面の角質層がはがれてしまう。かいたりこすったりすることで皮膚に炎症がおきると、湿疹が生じ、かゆみも増すことになる。かゆいからといってかきむしるとますます悪化し、またかきむしるという悪循環が起こる。治療では悪循環を断ち切ることが重要となる。
  • アトピー性皮膚炎の要因③:乳幼児
     バリア機能を保つために大切な角質層は、通常、皮脂や保湿作用のあるアミノ酸、セラミドなどで守られているが、子どもは大人に比べて皮膚が薄く、アミノ酸やセラミドも少ない。また、皮脂は毛穴から出て皮膚の表面全体を覆っているが、出生2~3カ月後からぐんと減り、思春期までは皮脂が少ない状態が続く。これらのことより、乳幼児や子どもはバリア機能が未熟で、皮膚トラブルを起こしやすい素地があるといえる。

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎は体の左右対称に湿疹が現れ、慢性化する

アトピー性皮膚炎では、赤くなる、ブツブツができる、皮膚が乾燥してむける、というようなかゆみのある湿疹が、慢性的に繰り返されます。乳児では2カ月以上、それより年齢が上の場合は6カ月以上症状が続くと、アトピー性皮膚炎と見なされます。これらの湿疹は、体の部位に左右対称に発症するのも特徴です。

アトピー性皮膚炎の診断基準
アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎は年代別に発症しやすい部位が変化する

年齢によって発症しやすい部位が変わっていくのもアトピー性皮膚炎の特徴です。乳児の場合は、頭、顔、首にできやすく、胸や背中、さらに手足に広がることもあります。幼児では、首回り、臀部、ひじの内側や膝関節の裏側、思春期以降の成人では、胸や背中から顔までの上半身、ひじの内側や膝関節の裏側といったように変化します。

年代別症状の現れやすいところ

乳幼児にアトピー性皮膚炎になると「アレルギーマーチ」を起こしやすい

成長と共にバリア機能は強くなっていくため、自然に回復する場合がほとんどですが、乳幼児の時に発症した場合には、成長につれて様々なアレルギー症状が出ることもあります。例えば、乳幼児期にアトピー性皮膚炎になると、1〜3歳頃に気管支ぜんそく、思春期頃にはアレルギー性鼻炎などを発症するといったケースが見られます。これを「アレルギーマーチ」と呼んでいます。


アトピー性皮膚炎の対策

アトピー性皮膚炎の悪循環を断ち切るため、まず薬で炎症を抑える

アトピー性皮膚炎は、発症原因が分かりづらいため医療機関の受診が不可欠となります。アトピー性皮膚炎の治療は、正しい診断と重症度を評価した上で「薬物療法」と「スキンケア」と「悪化要因への対策」の3本柱になります。皮膚に起きている炎症を抑えるために、まずは適切な薬を選び治療を行います。炎症が抑えられれば、かゆみも和らぐため、かゆい→かく→皮膚炎が悪化する…という悪化要因を減らすことが可能となります。治療の中心になるのはステロイド外用薬と、炎症の部位によってはタクロリムス軟膏です。かゆみ止めの目的で内服薬を用いることもあります。いずれの薬も、医師の指示に従って、正しく使用することが大切です。

治療の3本柱

アトピー性皮膚炎 重症度の目安

重症度 症状
軽症 面積にかかわらず、軽度の皮疹のみ見られる
中等症 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満に見られる
重症 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満に見られる
最重症 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に見られる

※軽度の皮疹:軽度の紅斑、乾燥、落屑主体の病変

※強い炎症を伴う皮疹:紅斑、丘疹、びらん、浸潤、苔癬化などを伴う病変

  • アトピー性皮膚炎のくすり①:ステロイド外用薬
     ステロイドとは副腎皮質という臓器でつくられるホルモンと同じ働きをする薬で、湿疹・かゆみを引き起こす原因となっている皮膚の炎症を抑える効果をもっている。強さに応じて5段階に分類されており、発症部位や症状の強さ、年齢によって使い分けられる。長期間の使用により皮膚が薄くなる副作用が見られることもあるが、医師の指示に従わず、必要量を塗らなかったり途中で使用を中止したりすると十分な効果が期待できないばかりか、逆に症状を悪化させてしまうこともある。必要な量、必要な期間しっかり使い、アトピー性皮膚炎の治療を長引かせないことが大切。
  • アトピー性皮膚炎のくすり②:タクロリムス軟膏
     免疫抑制剤の一種で、皮膚のアレルギー反応を抑える効果がある。ステロイド薬の副作用が出やすい顔や首などにも使用できる。使い始めにヒリヒリした痛みやほてりが出ることもある。最初にステロイド外用薬を使って皮膚をきれいにしておいて、タクロリムス軟膏へ移行する、というような使用法をとることもある。傷のある部分には使用しない、2歳未満の子どもや妊娠中、授乳中は使用しない、使用の際は寒い季節でも日焼け対策をしっかりとする、といった注意点がある。

スキンケアによって皮膚のバリア機能を回復させる

スキンケアの原則は「まずきれいに、そしてしっとりさせる」です。皮膚には常に汗やホコリ、カビなどがついています。健康な皮膚ならバリア機能が働き、これらの刺激物から保護してくれますが、アトピー性皮膚炎によってバリア機能が低下していると症状を悪化させる要因になるため、まずは刺激物を洗い流すことが大切となります。その後、季節を問わず必ず保湿剤を塗ります。スキンケアは、薬物療法の効果をより高めることにもなるのです。スキンケアのポイントは以下の通りです。

  • アトピー性皮膚炎スキンケアのポイント①:石けん選び
     皮膚についた汚れ、刺激物は石けん(ボディシャンプー)を使って洗い流しますが、防腐剤や着色料、香料の入っていないものを選ぶ。強い殺菌効果のある薬用石けんは刺激が強過ぎることがある。
  • アトピー性皮膚炎スキンケアのポイント②:こすらず優しく洗い、優しく拭く
     洗い方は、よく石けんを泡立て、顔も体もスポンジやナイロンタオルなどでゴシゴシこすらず、手のひらで優しくなでるように洗う。拭く時はタオルで水分を吸い取るように優しく押さえる。ゴシゴシ洗ったり、拭いたりすると角質を傷つけ、皮膚のバリア機能を低下させてしまう。
  • アトピー性皮膚炎スキンケアのポイント③:保湿剤の使い方
     入浴後は皮膚が潤い、角質層も軟らかくなっているため、保湿剤を浸透させるのに最適な時。水分をよく拭き取ってから保湿剤を塗る。夏場でも必ず保湿剤を塗ることが大事。夏場はさっぱりしたタイプのもの、冬場はこってりしたタイプのものと使い分けるとよい。
  • アトピー性皮膚炎スキンケアのポイント④:入浴時間は短めに
     皮膚を清潔にすることは大事だが、温まるとかゆみが増すため入浴時間は短めにする。また湯温が高いと保湿成分が失われて乾燥しやすいので、お風呂の温度は40℃くらいまでを目安にする。

アトピー性皮膚炎を悪化させる要因を除去する

アトピー性皮膚炎を悪化させるアレルゲンとなる、ダニ、ハウスダスト、カビなどをできるだけ除去することで、アトピー性皮膚炎の発症を抑え込みます。基本は日頃の掃除を丁寧に行うことです。じゅうたんやソファーを使用している場合は、掃除機を丁寧にかけ、ホコリのたまりやすい部屋のすみも注意して掃除します。布団は天日干しや布団乾燥機を使って乾燥させてから、掃除機やクリーナーを使ってダニやその死骸を取り除きます。

また、食物アレルギーとの関係が疑われるなら、アレルギーのもととなる食物を除いた除去食も必要となりますが、必ず医師の指導のもとで行います。


アトピー性皮膚炎の予防法

清潔な環境を心がけ、室内の湿度調整で乾燥を防ぐ

日頃から清潔な環境を心がけ、アレルゲンを遠ざけるようにします。特に冬場は室内のこまめな換気を行い、加湿器などで湿度は50~60%を目安に調節し、肌を刺激や乾燥から守ります。また、衣類や寝具にも注意が必要です。ザラザラした衣類や寝具が肌の刺激になってかゆみが起こることもあるので、肌触りのよいものを選びましょう。セーターはチクチクするので、直接肌に触れないように中にシャツを着たり、トレーナーに替えたりするのも一案です。毛布なども直接肌に触れないよう、肌触りのよい木綿の布などでカバーしてかゆみが起こるのを防ぐとよいでしょう。


出生直後から1年間スキンケアを特に徹底する

赤ちゃんの肌はプルプルできれいという印象があるかもしれませんが、赤ちゃんや子どもの肌は新陳代謝が盛んなため、汗や垢で汚れやすく、バリア機能も未熟であるため、外部からの刺激に弱い傾向にあります。生後1年間、スキンケアを十分に行うと、アトピー性皮膚炎にかかる率が少なく、また発症したとしても軽症で済むことが確認されています。さらに最近では、食物アレルギーも食べたからではなく、バリア機能が低下した皮膚からアレルゲンが侵入して発症するという考え方も提唱されています。

上記「スキンケアのポイント」が予防にもなるので、これを参考にスキンケアを徹底しましょう。


「アレルゲン免疫療法」で、アトピー性皮膚炎の誘因となるアレルギーを治療する

アトピー性皮膚炎の誘因となるダニやスギ花粉によるアレルギーは、治療ができます。アレルゲン免疫療法は、ごく少量の原因物質を毎日摂取することで、改善する方法です。


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