食中毒

食中毒

食中毒とは、細菌やウイルス、化学物質などの有害なものを含んだ食品を食べたことで、下痢や腹痛、発熱、嘔吐などの症状が出る病気のことです。食中毒は原因物質によって大きく次の3つに分けられます。 ①細菌やウイルスなどの病原微生物や寄生虫によるもの、②農薬や金属などの化学物質によるもの、③フグや毒キノコなどの自然毒によるもの、です。症状や食べてから症状が出るまでの時間は原因物質によって様々。抵抗力の弱い小さな子どもや高齢者は重症化しやすく、死に至るケースもあります。最も発生件数が多いのは、①食品中の細菌やウイルスによるものです。

食中毒の原因
監修プロフィール
芝大門 いまづクリニック院長 いまづ・よしひろ 今津嘉宏先生

1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。

食中毒について知る


食中毒の原因・症状

食中毒を起こす細菌やウイルスは様々ある

食中毒を起こしやすい食品としては、生鮮食品が第一に挙げられます。肉類や魚介類、卵、およびその加工品などで、特に加熱していない料理に多く見られます。

食中毒の原因となる細菌やウイルスは種類も多く、特性も原因となる食品も様々です。細菌による食中毒にかかる人が多くなるのは気温が高く、細菌が育ちやすい夏場ですが、貝類に多いノロウイルスなどのウイルス性食中毒は冬場に多く発生します。ですから、食中毒には一年中注意が必要です。


食中毒にかかると下痢、腹痛、嘔吐、発熱などが現れる

食中毒は下痢、腹痛や嘔吐が主な症状で、下痢は水のような物や粘液や血液が混ざった物などが見られます。発熱が起こる場合もあり、かぜと間違えて放置すると処置が遅れることもあるので注意が必要です。

いずれも倦怠感や微熱感があるなどの前駆症状が現れ、それぞれの症状が顕著になりますが、食中毒かどうか症状がはっきりせず診断が困難な場合もあります。食品を食べて症状が出るまでの潜伏期間は、食中毒の原因となる細菌・ウイルスや、どのくらいの量を食べたかによって異なります。

食中毒による腸管感染症の主な症状

食中毒を起こす主な細菌とウイルスの特徴

食中毒の原因となる細菌・ウイルスの特徴や感染源を知っておきましょう。

サルモネラ菌 潜伏期間 6時間~2日
特徴 十分に加熱していない食品に多く、増殖が早い。生卵の場合、白身に存在するが古くなると黄身に侵入。熱に弱いので加熱で殺菌可能。
感染源 鶏肉や牛肉のたたき、レバ刺し、生卵、オムレツ、洋生菓子など。犬や猫などのペットからの感染も。
症状 嘔吐、腹痛、38℃前後の発熱、下痢などが急激に起こる。1週間ほどで回復するが、乳幼児はけいれんやショック状態に陥り、重症になることもある。
黄色ブドウ球菌 潜伏期間 2~4時間
特徴 人ののどや鼻、傷口などに日常的にいる菌で、人の手を介して食品に感染。菌そのものではなく、食品の中で菌が増殖するときに産生する毒素によって起こる食中毒で、この毒素は熱に強く、加熱して菌は死んでも毒素は残り、食中毒は防げない。手指に傷がある時や手荒れがひどい時は、直接食品に触らない、できれば調理をしないといった注意が必要。
感染源 おにぎり、寿司、サンドイッチなどなど素手で調理した食品。
症状 胃のむかつき、激しい嘔吐に続き、腹痛、下痢が起こる。おおむね1~2日で回復。
腸炎ビブリオ菌 潜伏期間 10~20時間
特徴 水温15℃以上で増えることから、初夏から秋にかけて海水の温度が高くなる時期に発生。増殖が早く、二次感染を起こしやすい。真水や熱に弱いので調理器具をよく洗い熱湯殺菌すると効果的。
感染源 刺身など生の海産の魚介類。
症状 水溶性の下痢、発熱。特に上腹部の腹痛が激しく、しびれやチアノーゼが出ることも。通常、3~4日で治るが、高齢者の場合は嘔吐や大量の下痢などによる脱水から重症化することもあるので注意が必要。
カンピロバクター 潜伏期間 2~7日
特徴 近年増加している食中毒で、主に十分に加熱されていない食肉(特にとり肉)に多く発生する。味見程度といった少ない量を食べただけでも発症する可能性がある。食肉は加熱、飲料水は煮沸して滅菌できる。特にバーベキューの際は十分に加熱し、調理器具にも菌が付着しているので、他の食品に二次汚染しないよう注意する。
感染源 十分に加熱されていない食肉(特にとり肉)、レバ刺し、生乳、飲料水、生野菜、鶏肉、不完全消毒の飲料水など。犬や猫などのペットからの感染も。
症状 腹痛、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感など。腹痛はかなり強く、場合によっては1日に10数回の水様または粘液と血液の混じった下痢となる。感染した数週間後に、手足のまひや呼吸困難などを起こすギラン・バレー症候群を発症する場合も報告されている。
腸管出血性大腸菌(O157など) 潜伏期間 2~8日間
特徴 肉の調理過程で汚染。手洗い、加熱、調理器具の殺菌、乾燥が有効。少量の菌数でも感染し、感染力が強いので、感染者の便等からも感染する。
感染源 十分に加熱されていない牛肉(特に内臓)、ハンバーグ、ローストビーフなどの加工食肉製品、水耕野菜、よく洗っていない野菜サラダ、生乳、井戸水やわき水など。
症状 下痢、血便、激しい腹痛。放置すると意識障害や脳症、尿毒症が起こることもあるため早期からの観察が必要。特に乳幼児や高齢者などは重症化しやすく、死に至る場合も。人への感染の可能性もあるので要注意。
ノロウイルス 潜伏期間 1~2日
特徴 冬から春にかけて多く発生。少量でも感染し、感染力が強いので、ノロウイルスに感染した人の手やつば、ふん便、嘔吐物などを介して、二次感染するケースも。集団発生も多い。加熱と次亜塩素酸消毒が有効。
感染源 十分に加熱されていないカキ、アサリ、シジミ、不完全消毒の飲料水など。
症状 激しい嘔吐と下痢が起き、頭痛、発熱、のどの痛みなど、かぜと似た症状が現れることも。嘔吐物には直接触れないよう要注意。
ボツリヌス菌 潜伏期間 12~36時間
特徴 酸素が多いところでは増殖できないため、真空パック入りの食品が原因になることも。
感染源 真空パック、缶詰、ビン詰めの食品や発酵食品など
症状 物が二重に見える、食べ物を飲み込みづらくなる、発声障害、呼吸困難など。
ウェルシュ菌 潜伏期間 8~22時間
特徴 加熱処理後、放置していると再び増殖する。その都度過熱を十分にすることが有効。
感染源 カレー、シチューなど肉類の煮込み料理。
症状 腹痛、下痢、ときに嘔吐も。おおむね1~2日で回復。

食中毒の対策

食中毒は医療機関で診察を受けることが基本

食中毒が疑われる場合は必ず医療機関で診察を受けましょう。特に、下痢が1日10回以上起こる、体がフラフラする、意識が遠くなる、尿の量が減る、または尿が12時間以上出ない、下痢便に血液が混ざる、嘔吐が止まらないなどの症状が出た場合は早急な治療が必要です。

なお、食中毒は内科や小児科、感染症科で診察・治療を行います。どこの病院へ行けばよいか迷う時は最寄りの保健所に電話などで相談することをおすすめします。

こんな場合は、すぐに病院で受診を

食中毒になったら水分を補給し、吐きやすい体位で寝る

食中毒で特に注意しなければならないのが、下痢や嘔吐によって起こる脱水症状と、吐いた物がのどに詰まるのを防ぐことです。脱水症の予防には水やお茶、スポーツ飲料などで水分の補給を。冷たい水や清涼飲料水は腸への刺激が強いので避けましょう。吐いた物が気管支に詰まると呼吸困難や肺炎を起こすことがあるので、吐きやすいよう横向きに寝るようにしましょう。

注意すべきこととしては、自己判断で下痢止めの薬や解熱鎮痛剤をのまないこと。下痢止め薬をのむと、細菌・ウイルスや毒素を腸内にとどめてしまい、症状を悪化させるケースがあります。薬をのんでしまった場合は診察を受ける際、その薬を持参するようにしましょう。

水分を補給し脱水症状を防ぐことが回復のカギ

家族も食中毒の原因菌に感染していないかを確認し、二次感染を防ごう

食中毒の感染源と思われる食べ物を他の家族が摂取していないか、摂取していた場合、感染していないか、感染者の便や嘔吐物、その飛沫によって二次感染していないかなど、受診して確認しましょう。

他の家族への二次感染を防ぐためには、家庭内での消毒や感染者への接し方の知識を得て、実行することが大切です。家庭での注意のポイントは以下の通りです。

  • 手洗い

感染者も家族も調理や食事の前、トイレ後には、必ず手洗いをする。手洗いで気をつける点は、病原体が入り込みやすい爪の間をブラシなどで重点的に洗い、流水で十分に洗い流すことが重要。さらに市販の消毒用アルコールでの消毒も有効。

手洗い
  • トイレの消毒

水洗トイレの把手やドアノブ、便器など、菌に汚染されやすい場所を消毒用アルコールなどでこまめに消毒。

トイレの消毒
  • 感染者の便の処理

感染者の便を家族が処理する場合には、ゴム手袋や使い捨ての手袋を使用し、ゴム手袋の場合は使用後にその都度熱湯消毒。

感染者の便の処理
  • 洗濯

感染者の便で汚れた下着はまず除菌剤に漬け、家族の洗濯物の後に別に洗う。

洗濯
  • 入浴

感染者はシャワーかかけ湯を使い、家族は感染者と同じ湯を使わないように注意すること。バスタオルの共有も避ける。

入浴

食中毒の予防

食中毒は「細菌やウイルスを付着させない」「量を増やさない」「殺菌する」

食中毒を防ぐには「細菌やウイルスを付着させない」「量を増やさない」「殺菌する」が3大原則です。そのために、普段から手洗い習慣を徹底することが大切。また、食品は流水で丁寧に洗い、火を通すべき食品はしっかり加熱し、細菌やウイルスを殺します。肉類などは中まで十分に火を通し、加熱したらできるだけ早く食べましょう。スープなどを再加熱する時も、温める程度でなく、十分に火を通すことが大切です。できるだけ作り置きせず、必要量だけを調理するのが理想です。

また、肉や魚を使った後のまな板はすぐに熱湯消毒し、さらに週1回は殺菌漂白しましょう。晴れた日に直射日光に当てることも有効です。

まな板の消毒

食中毒を防ぐには買い物や保存の仕方にも注意を

買い物をする時から、食中毒の予防は始まっています。特に肉や魚などの消費期限はしっかり確認し、他の食品に汁などがつかないよう、個別にビニール袋に入れるようにしましょう。また、冷凍された肉や魚は最後に買ったり、保冷剤を活用したりし、温度の上昇を防ぎましょう。

買い物から持ち帰ったら、素早く冷凍・冷蔵庫へ。冷凍庫はマイナス15℃以下、冷蔵庫は10℃以下を保つようにしましょう。食品を詰めすぎると冷気の循環が悪くなり、庫内の温度上昇につながるので注意が必要です。

食中毒の予防

食中毒は食べ物の見た目ではほとんど見分けられない

食品が腐敗している場合は見た目やにおい、味によって「腐っているかな」と判断できますが、食中毒のほとんどは見た目などでは判断できません。食中毒は腐敗が進むよりも少ない菌の数で発症に至るためです。

ですから、食品に見た目の変化がないからといって安心しないようにしましょう。


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