性感染症

性感染症

性感染症(STI=sexually transmitted Infections)は性行為を介して感染する病気の総称です。近年、20~30代の若い世代を中心に性感染症が増加しています。新しく増えてきた性感染症の中には症状がはっきり現れないものが多く、本人が気づかないまま感染を広げているケースも少なくありません。「性感染症は一部の人だけがかかる特別な病気」といった認識は、もはや時代遅れ。性感染症は性的接触があれば、誰もがかかる可能性のある病気といえます。

監修プロフィール
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿理事長 つしま・るりこ 対馬 ルリ子 先生

産婦人科医・医学博士。1984年弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、東京都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年に「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院。女性のための総合医療を実現するためにNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立(現理事長)。様々な情報提供、啓発活動、政策提言などを行っている。

性感染症について知る


性感染症の原因

女性は性器の構造上、性感染症に感染しやすい

性感染症は男性がかかりやすい病気と、女性がかかりやすい病気があります。女性は、腟、子宮、卵管などが全てつながって腹腔内に開いているため、腟で感染した病原体が子宮、卵管、骨盤、腹膜にも感染するおそれがあります(クラミジア、淋菌など)。自分の身を守るためにも性感染症の感染を防ぐ方法や、どんな病気があって、それぞれの性感染症でどんな症状が出てくるのかを知っておくのは大切なことです。

女性性器の構造と感染経路

性感染症の感染者数が多いのは20代

ほとんどの性感染症において、最も感染者数が多いのは20代です。その一因として、予防法や対処法についての知識がないことや、短期間でパートナーが変わること、さらに症状が現れにくいため気づかないうちに他の人へも感染を広めているといったことが考えられます。今や性感染症は、一部の人がかかる特別なものではなく、かぜやインフルエンザと同様に、普通に生活していて、性行為をしている人であれば、誰がかかっても不思議ではない病気です。性感染症に対する正しい知識を身につけ、感染の予防に努めましょう。


性感染症は気づかず放置しているうちに、感染が広がる

性感染症には、多くの種類があります。最近では淋菌感染症(淋病)、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖型コンジローマ、HIV感染症(エイズ)などの他、梅毒の感染が若い女性を中心に急増しています。これらの多くは感染しても症状が現れにくいのが特徴です。そのため気づかずに放置しているうちにパートナーにうつしてしまったり、感染が性器以外にも広がって重症化してしまったりといった、深刻な事態を招いています。その他、オーラルセックスにより性器と口腔が接触する機会が増え、のどから感染(咽頭感染)するケースも増えています。

性感染症増加のおもな要因

性感染症が不妊や子宮外妊娠の原因になることも

性感染症が不妊や流産の原因になることも少なくありません。例えば性器クラミジア感染症は自覚症状が少ないまま症状が進行し、卵管や卵巣に感染が広がった結果、卵管が詰まり、妊娠しづらい状態になってしまうこともあります。子宮外妊娠の原因にもなります。妊娠前に定期的に医療機関で検査をし、感染していると分かったらパートナーと一緒に治療しましょう。


性器クラミジア感染症

女性の約8割が無症状の「性器クラミジア感染症」

クラミジア・トラコマチスという微生物を病原体とする性感染症で、若い男女に多く見られます。感染しても自覚症状がないことも多く、女性では約8割、男性では約5割が無症状。症状が現れたとしても軽く、おりものの増加や下腹部の痛みなどが出る程度で、気づかずに放置している間に、関係を持った相手にうつしてしまうことはもちろん、感染による炎症が子宮頸管を通り過ぎ、骨盤内に広がってしまうほどに重症化することもあります。

男性の場合も約5割は症状がありませんが、残りの5割は排尿時のかゆみや不快感、膿が少し出るなど、軽い症状が現れます。


抗生物質の服用で、通常は1〜3日で完治する

女性は、子宮頸部の粘液を採取して行う抗原検査や血液検査によって、感染の有無を診断。男性は尿検査によって診断します。感染していた場合は抗生物質を服用。通常は1~3日で完治しますが、症状が進行し、子宮付属器炎や骨盤腹膜炎などを起こしていると注射薬が必要になるなど、治療にお金と時間がかかります。


性器ヘルペス

20~30代の女性に多い「性器ヘルペス」

単純ヘルペスウイルス1型、または2型の感染による性感染症の1つ。20~30代の女性に多く、口唇ヘルペスに感染した人とのオーラルセックスや、性器ヘルペスの人とのオーラルセックスによって、性器の他に、のどの粘膜に感染するケースがあります。


外陰部などに小さな水ぶくれが現れるが、感染に気づかないことも

女性は外陰部、男性は亀頭や包皮に小さな水ぶくれが多数現れ、それが潰れて潰瘍となり、激痛を伴います。高熱や灼熱感、足のリンパ節の腫れが出ることもあります。

口唇ヘルペス同様、免疫力が低下していると再発し、年に何回も繰り返すこともあり、予防的治療も保険適用になっています。お尻や大腿部、肛門周囲などに症状が出ることもあります。

また、性器ヘルペスに感染すると梅毒やエイズなど、血液を介してうつる性感染症にもかかりやすくなります。

性器ヘルペスは症状や血液抗体検査で診断されます。抗ウイルス薬の服薬と塗布により、3~5日間で症状は治まります。


梅毒

感染者数が10年間で8倍以上になった「梅毒」

古くから知られている性感染症。梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌がキスや性行為によって感染すると、リンパ液や血液に乗って全身に広がってしまいます。感染者数は年々拡大しており、この10年間で8倍以上に増加しています。

中でも20代を中心とした女性の感染者が増加、それによって胎児が感染する「先天梅毒」も増えています。先天梅毒は母親から胎児に感染するもので、死産や早産、新生児死亡、体の奇形など重大な影響を及ぼします。

梅毒の症状は下記のように4段階で進行していきます。

経過 症状
1期 約3週間の潜伏ののち、性器や口などの感染部分にしこりができ、潰瘍になる。痛みやかゆみはない。やがて潰瘍は消え、潜伏期間に入る。この段階で感染に気づく人はほとんどいない。
2期 感染から約3カ月後、バラの花のような発疹が全身に出る。そのほかリンパ節が腫れることも。この段階で異常に気づき、受診する人が多い。
3期 2期から治療をせずに3年以上過ぎると、皮膚や骨、筋肉の他、内臓にゴムのようなしこりができる。
4期 治療せずに10年以上経過した場合、脳や神経にも影響が生じ、脳梅毒の症状が現れる。歩行マヒや痴呆のような症状が起こることも。

抗生物質または注射で治療を行う

日本では世界で通常使われる注射薬が認可されていないため治療に時間がかかってしまいます。抗生物質の内服または注射で治療を行い、上記の1~2期なら1カ月ほど服用すれば治ります。

治っても血液検査では梅毒の陽性反応が出ることがありますが、感染力はありません。

なお、梅毒にかかった人は感染リスクを防ぐため、以後、献血ができなくなることを覚えておきましょう。


腟トリコモナス症

黄色や黄緑色のおりものが増える「腟トリコモナス症」

トリコモナス原虫という虫が病原体。トリコモナス原虫はぬれた状態の暖かい場所を好むため、性行為だけでなく便座や浴槽、下着、タオルなどから感染することもあります。

男女ともに感染しますが、男性はほとんど自覚症状がなく、相手に感染させてしまうことが多々あります。女性が感染すると黄色や黄緑色の泡立ったようなおりものが増え、悪臭を放ったり、外陰部がただれたりなどの症状が現れます。感染から発症まで、1~2週間を要します。


内服薬+外用薬(腟剤)で治療する

トリコモナス原虫はおりものの顕微鏡検査で簡単に見つけることができます。治療は約2週間、抗原虫剤の内服薬+外用薬(腟剤)を使用します。なお、この薬はアルコールと一緒に服用するとめまいや吐き気などの副作用が現れることがあるため、服用中は飲酒を避けること。


カンジダ腟炎

妊娠中にも発症しやすい「カンジダ腟炎」

カンジダ腟炎は腟内に存在する常在菌、カンジダ・アルビカンスを主とした真菌感染症。性感染症の1つではありますが、妊娠中やホルモン薬の服用中、長期にわたって抗生物質をのんだ時など、性行為以外の原因でも発症します。

カンジダ腟炎を発症すると、外陰部や腟に炎症が起こり、強いかゆみを伴う他、ドロッとしたカッテージチーズ状のおりものが多量に出ることもあります。

治療は、抗菌薬の内服薬+外用薬(腟剤)の使用や腟の洗浄を行います。


尖圭コンジローマ

子宮頸がんと同じウイルスが原因「尖圭コンジローマ」

ヒトパピローマウイルス(HPV)による感染で、外陰部や肛門の周囲、子宮頸部などに先のとがったイボができます。痛みはなく、良性であり、がん化はしません。

できたイボには痛みやかゆみはないものの、皮膚がこすれると広がってイボが増えていきます。増えたイボがカリフラワーのようになる場合もあります。

治療は、外科的切除、電気メスや液体窒素による凝固、レーザー治療、軟膏の塗布といった治療法の中から、イボのできた場所や範囲によって適切な方法を選択します。切除しても再発しやすいのが特徴なので、根気よく治療を受けましょう。


淋病

のどや目に感染することもある「淋菌感染症(淋病)」

淋菌という細菌が性行為を介して感染。オーラルセックスでのどや目に感染することもあります。

女性は症状が出ないケースも多いですが、外陰部のかゆみ、黄色い膿のようなおりものが見られることがあります。放置すると子宮内膜炎や子宮付属器炎、骨盤内腹膜炎に進行することもあります。

男性は性器から膿が出ることで気づく場合が多いです。

淋病は、抗生物質の内服または注射で1~2週間治療すると治ります。一時期、感染者数は減少したが、ここ数年は横ばい傾向にあります(30代の男性に多い)。


HIV感染症(エイズ)

体の抵抗力を下げる「HIV感染症」

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)への感染によって発症します。性行為やオーラルセックス、感染者の血液が傷や粘膜に触れることなどで感染。無症状が数年〜10数年続き、症状が出た状態を「エイズ」といいます。

発症すると体の抵抗力が弱まり、様々な病気にかかりやすくなります。

HIV感染症を完治させる薬はありませんが、今は治療によって長期間エイズの発症を抑えることが可能です。

感染の疑いがあれば早めに検査を受け、結果が陽性の場合、予防的治療を開始することで発症を遅らせることができます。


毛じらみ

感染するとかゆみを生じる「毛じらみ」

毛じらみは体長1~2mm程度の昆虫。それが陰毛の毛根に寄生することで起こります。ほとんどは性行為によって感染しますが、まれに下着や寝具から感染する場合もあります。

主な症状は感染部位周辺のかゆみ。毛じらみは1日に数回、血液を吸い、卵を産みます。この吸血によってかゆみが生じるのです。

毛じらみの治療では、陰部の毛を剃り、外用薬を塗布します。最初の治療を行ってから約1週間後、卵がふ化するタイミングで再度治療することで完治が期待できます。なお、毛じらみは人体を離れると1~2日で死滅するため、感染した人の衣類を別洗いする必要はなく、通常の洗濯で問題ありません。


性感染症の予防法

コンドームを着け、複数の相手との性行為を避ける

性感染症の予防にはコンドームの使用が不可欠です。それも射精直前ではなく、始めから、勃起したらすぐ着けなければ意味がありません。コンドーム=避妊具と考えている人がいるかもしれませんが、コンドームは性感染症の感染予防ツールです。避妊のためにピルを使用している人も、性感染症の予防として、コンドームを併用する必要があります。アメリカをはじめとする先進国では、エイズを含む性感染症の検査やコンドームの使用の普及に努め、性感染症を抑制すると共に、エイズ感染者数の増加を食い止めることができています。

また、複数の相手との性行為を避け、パートナーは1対1にすること。お互いが検査を受け、性感染症でないことが分かっていれば、性交時は避妊だけを考えることができます。

性感染症の予防法

治療はパートナーと一緒に

気になる症状が少しでもあったら医療機関を受診しましょう。女性は産婦人科や婦人科、男性は泌尿器科で診てもらいます。前述の通り、おりものの量やにおい、性器のかゆみなどの自覚症状があれば、早めに受診してください。性感染症に感染していることが分かり、パートナーがいる場合は、お互いにうつし合う「ピンポン感染」を防ぐため、一緒に治療することが必要です。

HIV感染症やその他の性感染症の検査は、医療機関だけでなく、保健所でも行われています。HIV感染症に関しては、ほとんどが無料で、匿名で受けることができます。パートナーが変わったら、その都度検査を受けるなどして、性感染症を予防することをおすすめします。

治療はパートナーと一緒に

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