子宮筋腫は子宮の壁の筋肉にできる良性の腫瘍です。子宮筋腫は小さなものも含めると、30歳以上の女性の20~30%に見られるといわれる、身近な病気です。子宮筋腫の発生原因には女性ホルモンのエストロゲンが関係すると考えられていて、主な症状は筋腫のできている場所により、生理の経血の量が多い、頻尿や圧迫感など様々です。筋腫が大きくなると腹部を触った時にしこりを感じることもあります。日常生活に支障が出るほど強い症状がある場合などは手術を行いますが、その他は経過観察や薬による治療が中心です。
産婦人科医・医学博士。1984年弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、東京都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年に「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院。女性のための総合医療を実現するためにNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立(現理事長)。様々な情報提供、啓発活動、政策提言などを行っている。
子宮筋腫は女性ホルモンのエストロゲンとの関わりが深い病気です。エストロゲンは脳の視床下部・下垂体が卵巣に指示を出すことで卵巣から分泌されるホルモンで、基本的には女性らしい体をつくり、妊娠を助ける役目をしています。子宮筋腫はエストロゲンにより増殖する性質があるため、出産が少なくなった現代では、エストロゲンの分泌期間が長くなり、筋腫が増大していきます。
子宮筋腫の他、子宮内膜症や子宮腺筋症、乳がんなども同じようにエストロゲンが関係しています。
子宮筋腫は、がんのような悪性ではなく、良性の腫瘍です。子宮筋腫があっても約半数の人は特に症状がないまま過ごしています。ただし、筋腫のように見えても悪性の肉腫などは急激に増大するので、超音波などで経過を診ることが大切です。
生理のたびに徐々に経血量が多くなったり、生理痛が強くなったりするのが子宮筋腫の典型的な症状です。その他、以下のような症状が現われることもあります。
日常生活に支障を来すほど強い症状がある場合には治療を行います。
子宮筋腫の症状はできる場所と関係があり、症状によって筋腫のある場所を推測することが可能です。
基本的に子宮体部にできることが多いのですが、まれに子宮頸部や腟部に発生することもあります。
子宮の内側に筋腫がある人は、筋腫のない女性と比較して妊娠率、着床率の低下が認められています。また筋腫以外に不妊の原因がない女性が筋腫を切除すると、体外受精の妊娠率が改善するというデータもあり、子宮筋腫があると不妊や流産(習慣流産)につながってしまうことが報告されています。
筋腫が小さくて無症状の場合、治療はせず、経過観察をすることがほとんどです。筋腫の状態や場所に応じて定期的に検診を行い、筋腫が大きくなったり、症状が現われたりしてきた場合は治療を行います。子宮筋腫は、閉経を迎えるとエストロゲン減少の影響を受けて必ず小さくなるため、閉経が近い年齢であれば、経過観察を行いながら閉経を待つことになります。
治療法には手術と薬があります。ただし、子宮筋腫の根本的な治療薬は今のところなく、薬で子宮筋腫を治療する場合は、子宮筋腫を小さくする偽閉経療法、もしくは過多月経や月経痛などの症状を軽くする対症療法をとります。
子宮筋腫を根治させるには手術を行います。妊娠を希望するかどうかによって、どちらの方法を選択するかが異なります。
子宮筋腫ははっきりとした原因がわかっていないため、確実な予防は難しいのが現状です。しかし婦人科検診を定期的に受けていると、筋腫の有無や大きさの変化、場所などを早めに把握することができます。結果として、妊娠の時期を調整したり、つらい症状と付き合う時間を短くしたりできるので、生活の質(QOL)を落とさずに済みます。
低用量ピルには女性ホルモンのバランスを整える働きがあります。若いうちから低用量ピルを服用していれば、子宮筋腫の一因であるエストロゲンの過剰分泌を防ぐことができ、またプロゲステロンの作用により、子宮筋腫の発生を抑えられる可能性があります。低用量ピルは婦人科で処方してもらうことができ、様々な女性特有疾患の治療薬としても使われています。