卵巣がん

卵巣がん

「サイレント・キャンサー(静かながん)」とも呼ばれる卵巣がんは、症状がないため早期発見が難しく、女性特有のがんの中で死亡率が最も高いのが特徴です。進行すると、腫瘍が大人の頭ほどに大きくなったり腹水がたまったりしてお腹が腫れますが、太っただけと見過ごされ、発見された時にはかなり進行していることが多いです。ライフスタイルの変化により近年増加傾向にあり、40〜60代に多く見られます。若い時から低用量ピルを服用していると、子宮内膜症や排卵の抑制をしておくと卵巣がんのリスクは最大8割減らせることを知っておきましょう。

監修プロフィール
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿理事長 つしま・るりこ 対馬 ルリ子 先生

産婦人科医・医学博士。1984年弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、東京都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年に「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院。女性のための総合医療を実現するためにNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立(現理事長)。様々な情報提供、啓発活動、政策提言などを行っている。

卵巣がんについて知る


卵巣がんの原因

排卵のたびに傷つく卵巣には、腫瘍ができやすい

卵巣は、成熟した卵子を周期的に放出(排卵)する器官で、腫瘍ができやすいところでもあります。それは毎月の排卵のたびに傷つき次の排卵までに修復する、ということを繰り返しており、この繰り返しによって遺伝子の情報伝達ミスが起こりやすく(がん化しやすく)なるためです。

卵巣の腫瘍は様々な種類がありますが、そのほとんどは卵巣を覆う被膜に発生するがん(上皮がん)。一般的には、この上皮がんを卵巣がんと呼んでいます。

卵巣がん

妊娠・出産経験のない人に多く発症

卵巣がんは40代以上の女性に多く見られますが、多いのは60代です。発症の原因は排卵が多過ぎることです。つまり、卵巣被膜が頻回に傷ついたため、修復過程にミスが起こりやすい人、あるいは妊娠や授乳中の無月経期間が短くて、たくさん排卵した人です。現代女性はほぼ全てが当てはまるといえます。

現在では、子宮内膜症があり、卵巣にチョコレートのう胞をもっている人が40代以上になってがん化しやすいことが分かっています。

この他のリスク因子としては、月経不順、肥満、子宮内膜症、家族に卵巣がんになった人がいる、高脂質や高タンパクの食事などもリスクです。欧米に比べると日本人女性の卵巣がん発生率はまだ低いほうですが、食生活の欧米化や出産年齢の高齢化などライフスタイルの変化などによって、年々患者数は増加しています。


卵巣がんの症状

自覚症状がほとんどないため早期発見しにくい

卵巣がんの初期には、痛みや出血などの自覚症状が全くありません。卵巣は腹腔内の底にある小さな臓器で、子宮の左右に1つずつあり、普段は2〜3cmの大きさですが、手の拳大あるいは新生児の頭の大きさくらいになってもまず症状はなく、超音波やMRIなど画像診断しなければ全く見つかりません。

卵巣がん

かなり進行しないと現れない「腹部腫瘤」

卵巣がんは、初期にはほとんど症状が現れず、自覚症状(腹部膨満など)が現れた時にはかなり大きくなっています。卵巣がんの進行は次の4つの病期(ステージ)に分類されますが、約半数がⅢ、Ⅳ期の進行した状態で発見されています。

・Ⅰ期

がんが卵巣内にとどまっている状態(早期がん)。全く症状がない。検診などで偶然、超音波検査を行って早期発見されることがある。

卵巣がんの進行1

・Ⅱ期

がんが子宮や卵管だけでなく、骨盤内に広がっている状態。ほとんど症状が現れないが、下腹部の張りや、お腹の違和感を感じることもある。

卵巣がんの進行2

・Ⅲ期

がんが腹腔全体に広がった状態。そけい部のリンパ節や、肝臓の表面などに転移していることも。腫瘍が大きくなって腹部全体が腫れたり、腹水がたまったりしていることが多く、圧迫されることで違和感が生じる。息苦しさなどの症状も現れる。

卵巣がんの進行3

・Ⅳ期

がんがお腹の中で破れて腹膜に捲腫(※)する他、がんが腹腔を超えて、肺や肝臓に転移している状態。倦怠感、食欲不振、体重減少、貧血などの全身症状も強く現れる。肺に転移した場合は胸水がたまる。

※がん細胞が小さな種をまいたように散らばった状態。

卵巣がんの進行4

卵巣がんの対策

できるだけ早期に発見することが重要

卵巣がんに限らず、がん治療に重要なのは早期発見・早期治療です。そこで気をつけたいのが、企業や自治体などの集団健診では、卵巣がんを調べていないこと。「健診(健康診断)」が病気の危険因子がないかどうかを確認するのに対し、「検診」は特定の病気を早期に発見するのが目的。卵巣がんを調べるには、超音波検査やがんマーカーなど病院やクリニックで行っている婦人科の個別検診を受けましょう。


卵巣がん予防のためにも、食生活や肥満の改善を

卵巣がんのリスクとなる高脂質の食事や肥満は自分で改善することができます。卵巣がん予防のためにも、50代以上の女性は肥満予防と適度な運動が大切です。心身のストレスは何にせよがん化のスイッチを入れやすくするので、できるだけ規則正しい生活と十分な睡眠を心がけ、ストレスをため込まないよう上手に解消することも大切です。


卵巣がんの治療

卵巣がんの検査の流れ

卵巣がんは体の奥にあるので、異常を感知しても細胞や組織を直接採取して検査することができません。そのため卵巣がんが疑われる場合、まずは超音波検査の他、MRIの画像や、血液検査の腫瘍マーカー(卵巣がんが分泌する物質)を調べて、良性か悪性かを推定します。しかし、最終的な診断は、手術で摘出した組織の病理検査後にしかできません。


治療の原則は、手術によるがんの切除+抗がん剤

卵巣がんの場合、手術でできる限り病巣を少なくするのが治療の基本です。早期がんで妊娠を希望する場合は、片方の卵巣と子宮を残す保存手術も可能ですが、大抵は妊娠が難しい40代以上で発症するため、両方の卵巣、卵管、子宮や、そけい部から大動脈周囲のリンパ節まで全ての切除が基本です。

卵巣がんは、婦人科のがんの中で最も抗がん剤治療(化学療法)の効果が高いため、術後は抗がん剤治療が併用されます。

なお、がんが広範囲に及び手術による切除が難しい場合は、はじめに抗がん剤治療でがんを縮小させてから大きな腫瘍を取り除く手術を行うこともありますが、根治が難しくなります。自覚症状が出てから見つかる場合は、ほとんどがこれに当てはまります。


卵巣がんの予防法

若い時から、低用量ピルの服用+定期的に婦人科検診を受けよう

早期発見が難しい上、死亡率も高い卵巣がん。これを防ぐには、若い時から低用量ピルを服用し、排卵を抑えるのが有効です。これによって卵巣がんのリスクを最大8割減らせることが実証されています。あわせて、若い時から婦人科の定期検診を受けることも大切。10〜30代までは2年に1回、40代からは年に1回、超音波検査を受けるようにしましょう。


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