前立腺は男性のみにあり、精液の一部である前立腺液をつくっている臓器です。前立腺疾患のうち、前立腺肥大症はこの前立腺が大きくなってしまうことで尿の出方や勢いが悪くなる病気、一方、前立腺がんは前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することで発生する病気です。いずれも男性に特有で、尿の状態や量の異常から気づくケースが多いのが特徴です。
日本Men’s Health医学会理事長。日本抗加齢医学会理事長。泌尿器がんの根治手術と男性医学を専門とし、全ての男性を元気にする医学を研究している。
前立腺は男性特有の臓器で、尿道を取り囲むように存在しています。形や大きさは栗の実によく似ています。子どもの頃はとても小さいですが、思春期の頃に急速に大きくなり、成人と同じ大きさになります。前立腺液という精液の一部を分泌する他、射精時に精液が膀胱に逆流するのを防ぐ働きもしていますが、まだ詳細が分かっていないことも多い臓器です。
前立腺は特に異常がなくても、30代後半くらいから徐々に肥大し始めます。これを「組織学的な肥大」といい、40代では40%に前立腺の組織学的肥大が見られます。その後、年齢と共にその割合が増加し、70歳では70%の人に見られるといわれています。すなわち、高齢男性の多くに前立腺肥大が起こっているのです。
しかし、前立腺が肥大したからといって必ず症状が生じるわけではありません。そこがこの病気の難しいところです。前立腺肥大症の正確な原因は分かっていませんが、男性ホルモンの減少が関わっているといわれています。高齢化と共に男性ホルモンの分泌量が低下していきます。すると相対的に女性ホルモンが増加することになり、ホルモンバランスが崩れた結果、前立腺肥大症が起こると考えられています。
前立腺肥大症は、以下の3つの段階を経て症状が進行していきます。
前立腺肥大症そのものは、早めに適切な治療を行えば、生命にかかわる病気ではありません。しかし症状が進行し、残尿が増加すると腎機能の低下や腎不全につながることがあります。その状態がさらに進むと生命にかかわる危険な状態となる可能性もあるので、注意が必要です。
前立腺肥大症の進行をとめるには、それぞれの段階において適切な治療を行う必要があります。
前立腺肥大症の治療には様々な方法がありますが、大きくは以下の4つに分けることができます。
前立腺肥大症の治療法
分類 | 主な治療法 |
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薬物療法 | 内服薬や注射薬を使って、排尿障害の改善や肥大の縮小を図る治療法 |
低侵襲手術 | 低侵襲とは、患者の体への負担が少ないという意味。内視鏡やレーザーなどを使ってメスによる切開を減らし、体への負担を少なくした手術方法 |
開腹手術 | メスで腹部を切開し、肥大した前立腺を切除する方法。現在はほとんど行われない |
物理療法など その他の治療法 |
肥大した前立腺を加熱して除去する「温熱療法」、前立腺を切除せず、尿路を確保する「尿道ステント留置法」などがある |
これらのうち、症状が進行していたり、緊急の処置が必要だったりする場合を除き、基本的に前立腺肥大症の治療は、薬物療法からスタートします。
また症状の改善には治療のみならず、日々の心がけがとても大切です。日常生活を送る際は以下の点に注意しておきましょう。
前立腺がんは男性のがんで胃がん、大腸がん、肺がんに次いで4番目に多く、年齢別にみると60歳頃から顕著に罹患率が高くなっています。がんの進行自体はゆっくりしていて、早期の前立腺がんは多くの場合、自覚症状がほとんどなく、自分では気づきにくい傾向があります。
前立腺がんが発症するはっきりとした原因は分かっていません。しかし、危険因子(リスクファクター)として加齢、遺伝的要因、高脂肪食などが挙げられています。
初期の前立腺がんには、自覚症状がほとんどありません。そのため、検診や人間ドックなどを受けなければ、前立腺がんの発症に気づかないことが多いでしょう。最も気づきやすいのが排尿障害ですが、前立腺がんは初期の場合、尿道からやや離れた領域に発症します。尿道に症状が現れるということは、それなりにがんが進行していると思ってよいでしょう。また前立腺がんは骨やリンパ節に転移すると背骨や腰の痛み、足のしびれ、下肢や下腹部のむくみなどを引き起こすことがあります。
前立腺がんの早期発見には、採血のみによって行われる腫瘍マーカー「PSA検査」が使われています。ただし、PSAの値は、がん以外でも肥大症や炎症などでも数値が上がってしまうため、施設によっては、より正確な診断のためにMRI検査などを併用することがあります。
PSAはテストステロン(男性ホルモン)が働いて分泌されるため、テストステロン値が高い人は基本的にPSAも高めですが、テストステロンが低いのにPSAが高いと、がんが隠れている可能性が高くなります。
前立腺がんと診断するには、まず問診やPSA(腫瘍マーカー)検査、直腸診、超音波検査、MRI検査などを行い、前立腺がんの疑いがあるかどうかを確認します。一連の検査でがんが疑われた場合は、前立腺生検という確定診断を行って、がん細胞の有無や悪性度を判定します。その結果、前立腺がんと診断されると治療を行いますが、前立腺がんの治療法は他のがんと比べて数が多く、選択肢の幅が広いという特徴があります。
前立腺がんの治療法
分類 | 主な治療法 |
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手術療法 | ・ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術 ・腹腔鏡(内視鏡)下前立腺全摘除術 ・前立腺全摘除術(開腹) |
放射線療法 | ・外部照射療法 ・3D-CRT ・IMRT ・粒子線療法 ・内部照射療法(小線源療法) |
超音波療法 | ・HIFU(高密度焦点式超音波療法) |
その他 | ・待機療法(経過観察) ・監視療法 |
治療の際にはいくつかの選択肢が示されることが少なくありません。その場合、それぞれの治療法のメリット・デメリットなどを把握した上で、「自分が何を優先したいのか」を考えて、自分に合った治療法を選びましょう。
前立腺肥大症も前立腺がんも、高齢男性に特有の病気です。特に前立腺がんは60歳頃から患者数が急増します。加齢と共に発症の割合が多くなることを理解し、好発年齢が近づいてきたら定期的に検診を受けるようにするとよいでしょう。
前立腺肥大症は予防がなかなか難しい病気です。また進行性の病気でありながら、初期症状が出ているのに、発症に気づかないケースも少なくありません。そのため病気の発症に気づき、適切に治療を行って進行を止めることが前立腺肥大症の予防に近いといえます。
前立腺肥大症の特徴的な症状に頻尿があります。前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、トイレに行っても1回で排尿できずに何度も行くようになります。一般的な成人の1日の排尿回数は多くても5~6回程度といわれています。それよりも回数が多い、最近トイレに行く回数が増えた、夜トイレに行くことが増えたなと思ったら、一度病院を受診してみましょう。
前立腺がんに関しては、日本人を対象とした研究結果から定められた「科学的根拠に基づいた『日本人のためのがん予防法』」にある、がんリスクを減らす健康習慣を実践することで、がんになる確率を低くしていくことが可能です。がんリスクを減らすための健康習慣とは、以下の5つです。
これらの健康習慣を実践することで、がんリスクはほぼ半減するというデータがあります。
適切な医療機関の受診、そして生活習慣の改善を心がけ、前立腺疾患の予防につなげていきましょう。