RSウイルス感染症

RSウイルス感染症

「RSウイルス」は、人が生涯にわたって何度も感染し、感染するとかぜ症状を引き起こします。1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%の人が1度はRSウイルスに感染します。大人では軽い鼻かぜ程度で済むことが多い一方で、初めて感染した乳幼児(特に2歳未満)は重症化しやすいのが特徴です。乳幼児における「肺炎」の約50%、「細気管支炎(さいきかんしえん)」の約50~90%はRSウイルスが原因だといわれており、乳幼児期の重症化に特に注意が必要な感染症です。また、高齢者も重症化しやすいので気をつけましょう。 RSウイルス自体に有効な抗ウイルス薬はなく、通常は1週間ほどで自然治癒します。しかし、重症化しやすい乳幼児は入院になるケースもあり、特に生後2カ月未満の乳児は無呼吸などの重篤な症状を引き起こしてしまうこともあるため、慎重な対応が必要です。

監修プロフィール
こどもとおとなのクリニック パウルーム 院長 くろき・はるお 黒木 春郎先生

千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉大学医学部臨床教授。公認心理師。千葉大学医学部小児科医局に所属し、関連病院勤務を経て、1998年千葉大学医学研究院小児病態学教官。2005年外房こどもクリニック開業(千葉県いすみ市)を経て、08年医療法人社団嗣業の会理事長、23年より「図書室のなかのクリニック」をコンセプトにした、こどもとおとなのクリニック パウルームを東京都港区に開業。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医・評議員。日本遠隔医療学会理事。著書に『駆け抜けた17年』(幻冬舎)、『プライマリケアで診る小児感染症 7講』(中外医学社)、共著『最新感染症ガイド R-Book 2018-2021』(日本小児医事出版社)ほか多数。


RSウイルス感染症の「季節外れの流行」に注意!

RSウイルスが流行する時期は、これまでは秋に始まり冬にピークを迎え、春先に収束する、いわゆる「冬季のウイルス」という認識が一般的でした。しかし近年、流行の始まりが夏に前倒しされるなど季節外れの流行が増えており、流行時期の変動を注視する感染症となっています。 特に2021年は、春から全国的に季節外れの大きな流行を見せています。乳幼児に呼吸器症状や発熱があれば、いち早くかかりつけの小児科医に相談しましょう。

 

2021年のRSウイルス感染流行状況
出典:国立感染症研究所「RSV Infection cases reported per sentinel weekly [定点当たり報告数]」


RSウイルス感染症について知る


RSウイルス感染症の原因

RSウイルス感染症とは、かぜと同じような症状を引き起こす病気で、生涯にわたって何度も感染します。乳幼児や高齢者は重症化しやすく、特に注意が必要な感染症です。RSウイルス感染症の原因について専門家に伺いました。


RSウイルスは毎年流行する感染症。重症化しやすい乳幼児への「家庭内感染」に注意

RSウイルス感染症はインフルエンザなどと同様に、毎年流行する感染症です。感染者の咳やくしゃみの飛沫で感染する「飛沫感染」と、ウイルスがついた物を触り、その手で目・鼻・口を触ることで感染する「接触感染」によって感染します。
注意したいのは、RSウイルス感染症にかかっても学童期や大人では軽いかぜの症状で済むため、感染に気づかない場合があることです。かぜの症状がある時はRSウイルスの可能性も疑い、重症化しやすい2歳未満の乳幼児への家庭内感染を防ぐことが大切です。

赤ちゃんの「飛沫感染」と「接触感染」に注意

RSウイルス感染症の症状

RSウイルス感染症は、毎年流行する感染症でかぜ症状が出ます。重症化しやすい乳幼児は、細気管支炎や肺炎などにかかる場合もあり慎重な対応が必要です。RSウイルス感染症の症状について専門家に伺いました。


RSウイルス感染症の鼻かぜ症状は1週間程度で改善。年齢が低いほど重症化に注意を

RSウイルスに感染すると4~6日間の潜伏期間を経たのち、鼻水、くしゃみ、せき、発熱などのかぜ症状が出ます。鼻水がたくさん出ることも特徴です。RSウイルス感染症の症状の強さは乳幼児でも個人差が大きく、多くの場合は軽症で済み、1週間程度でよくなります。ただし、年齢が低いほど重症化しやすく、また初めて感染した場合に最も症状が重くなりやすい傾向にあります。


2歳未満では重症化のリスクが高く、「細気管支炎」や「肺炎」になる場合があります

RSウイルスによる炎症が、鼻やのどなどの上気道(じょうきどう)で2~3日続いた後、下気道(かきどう)に及ぶと重症になります。乳児の場合、肺胞に近い気道である細気管支に炎症が起きる「急性細気管支炎」の50~90%はRSウイルス感染症が原因とされています。急性細気管支炎は一般的に2歳未満、特に生後6カ月未満の乳児がかかりやすく、入院に至るケースもあります。

乳幼児の気管支、肺

かぜ症状が出てから2~3日して、以下のように呼吸状態が悪化してきた場合は、細気管支炎や肺炎などに進展して呼吸困難に陥っている可能性があるので、すぐに病院を受診してください。

  • 「ゴホゴホ」という、たんが絡んだ重い咳が出る
  • 呼吸をする時に、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」「ゼロゼロ」「ゴロゴロ」と、気道が鳴る「喘鳴(ぜんめい)」がある
  • 呼吸が速く、浅い(正常な呼吸数の目安=新生児40~60回/分、乳児30~40回/分)
  • 息をする時、のど元や横隔膜のあたりがペコペコとへこむ「陥没呼吸」になっている
  • 鼻の穴を膨らませて、苦しそうに呼吸をしている
  • 母乳やミルクののみが悪く、水分が摂れない
  • 機嫌が悪く、泣き叫ぶ
  • ぐったりしている
  • 40℃以上の高熱がある
陥没呼吸

<まれに起こる重篤な症状>

  • 生後2カ月未満の乳児で、呼吸が短時間止まる(無呼吸発作)
  • 血液中の酸素が不足し、くちびるなどが青紫色に変化する「チアノーゼ」の症状がある

生後2カ月未満や低出生体重児、心肺に疾患があると無呼吸発作が起こりやすい

生後2カ月未満の乳児や2,500g未満で生まれた低出生体重児、心臓や呼吸器に先天的な病気があったり免疫不全があったりする場合は、特に重症化しやすくなります。そのような乳幼児の場合、せきや鼻水など初期のかぜ症状の段階で、突然死につながる無呼吸発作を起こしてしまうことがあるので注意が必要です。


RSウイルス感染症の対策

RSウイルス感染症は、鼻水やせきなどかぜと症状が似ており、区別することが難しい感染症です。RSウイルス感染症が疑われる場合や感染した場合、どのような対策をとればよいか専門家に伺いました。


RSウイルス感染症の疑いがある場合、簡易検査で診断します

症状が軽い場合にはRSウイルス感染症と通常のかぜとの区別は難しく、医療機関では症状や流行状況などを踏まえながら、疑いがある場合にRSウイルスの簡易検査キットを使って診断します。RSウイルスに有効な抗ウイルス薬はないため、軽症の場合は症状を緩和するかぜ薬や気管支拡張剤などが処方され、つらい症状を和らげていく対症療法となります。症状が強い場合は入院し、点滴や人工呼吸器による治療を行うこともあります。


呼吸状態の悪化に注意しながら、自然治癒するまで安静に過ごしましょう

家では部屋が乾燥しないように冬場は加湿して安静にし、脱水症状を起こさないように水分を摂るようにしましょう。母乳やミルクが飲みにくい場合は1回の量を少なくし、数回に分けて飲ませるとよいでしょう。 呼吸が苦しそうな時は体を起こすように抱っこをしたり、背中をやさしくトントンとたたいてあげたりすると楽になります。また、鼻がつまって苦しそうなら、鼻吸い器を使って鼻水を吸い取ってあげることも大切です。 かぜ症状が2~3日続いた後に重症化して、急に呼吸状態が悪化することがあるため、注意深く観察しながら看護をするようにしましょう。

RSウイルス感染症の対策

RSウイルス感染症の予防法

RSウイルス感染症は、大人は軽い鼻かぜで済むことが多いですが、乳幼児は重症化しやすいのが特徴です。感染症を予防するためには家庭内感染に注意する必要があります。RSウイルス感染症の予防法について専門家に伺いました。


RSウイルス感染症対策は、マスク・手洗い・うがい、こまめなアルコール消毒、人混みに行かないなど基本の徹底を

RSウイルス感染症は、乳幼児にとっては、大人や年長のお子様などが家に持ち込んだウイルスで感染する「家庭内感染」が最も多い感染経路となります。大人や年長のお子様はRSウイルスに感染しても鼻かぜ程度で済んでしまうため、感染に気づかないことがあります。
そのため、かぜ症状がある家族は常にRSウイルスの感染を疑い、重症化しやすい2歳未満の乳幼児にはなるべく接触しないようにしましょう。やむを得ず赤ちゃんのお世話をする場合は、赤ちゃんに触れる前に薬用石けんでよく手を洗い、うがい、マスクをつけるなど感染症対策をしっかり行ってからお世話をするようにしてください。
また、赤ちゃんが触ったりなめたりしやすいおもちゃ、コップ、手すり、イスやテーブル、ベビーカーなど身の回りの物をこまめにアルコール消毒することも大切です。さらに、赤ちゃん連れで外出する際はなるべく人混みを避けるようにしましょう。

赤ちゃんへの家庭内感染を防ぐポイント

ハイリスクの乳幼児には、保険適用で予防的な抗体投与を行うこともあります

早産で生まれた乳幼児や心臓などに先天的な病気がある場合、免疫不全の場合など、RSウイルス感染症の重症化リスクが高い乳幼児は、保険適用でRSウイルスに対する抗体を投与して予防する方法もあります。かかりつけの小児科医に相談するとよいでしょう。


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