ロコモティブシンドローム(運動器症候群)

ロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome/以下、ロコモ)とは、骨や関節、筋肉などの運動器の衰えが原因で、「立つ」「歩く」といった移動するための機能が低下している状態のことを言います。ロコモは、日本整形外科学会によって2007年にはじめて提唱された概念です。ロコモが進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。

立つ、歩くといった能力は、体の様々な機能が連携して、はじめて発揮される力です。私たちは普段、何気なく体を動かして歩いたり走ったり、飛んだり跳ねたりしていますが、そのように自由に体を動かすには、体を動かす指令を出す「脳」、脳からの指令を全身に伝える「脊髄」、そしてそれらの指令を受ける「筋肉」や「骨」「関節」「神経」などが正しく連携されている必要があります。これらが連携して体を動かす仕組みを「運動器」といい、運動器の連携がスムーズに行われることによって、私たちは体を自在に操ることができています。どこか一箇所でも不具合が生じると、途端に体をうまく動かすことができなくなり、ロコモになってしまうことも少なくありません。

足腰の筋肉は40代から衰え始め、50歳前後からは男女ともに骨がもろくなり始めます。平均寿命が80歳を大きく超えた現代の日本では、支援や介護を必要とせず、元気で自立して過ごせる「健康寿命」を延ばすことが重要ですが、実は要支援・要介護になってしまう原因の多くは転倒、骨折や関節の病気など運動器の障害であり、ロコモが大きく関係しているのです。

ロコモは、ちょっとした運動習慣を日々積み重ねていくことで予防が可能です。まずは、かんたんにできるロコモのセルフチェック(ロコモ度テスト)で、ご自身のロコモ度をはかってみましょう。

監修プロフィール
伊奈病院整形外科部長 いしばし・ひであき 石橋 英明 先生

1988年東京大学医学部卒業。96年同大学院医学研究科学位取得。99年東京健康長寿医療センター整形外科医長。04年より現職。日本整形外科学会「ロコモチャレンジ!推進協議会」委員、NPO法人高齢者運動器疾患研究所代表理事、日本骨粗鬆症学会評議員。

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)について知る


ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の原因

ロコモティブシンドロームは運動器の衰えが原因で起こる

ロコモは骨や関節、筋肉などの運動器の衰えが原因で起こります。例えば、筋力の低下によりバランス能力が低下して歩けなくなる、関節の軟骨がすり減ることにより痛みがでたり曲げ伸ばしが十分にできなくなる、骨の量が減る骨粗しょう症が原因でちょっとした転倒で骨折して寝たきりになるなど、日常生活に支障をきたします。いつまでも自分の足で歩き続け自立した生活を送るためには、生活習慣を見直したり、運動習慣を身につけたりして、これらの運動器の衰えを防ぐことが重要です。

ロコモティブシンドロームの概念

ロコモは若いころからの生活習慣がリスクになることも。自覚症状がなくても要注意。

ロコモは、若い世代の人にも決して無関係ではありません。若いころの生活習慣が、将来ロコモになるリスクを高めることもあるからです。

子どものころの運動不足や過剰なダイエット、またスポーツのやり過ぎによる運動器の損傷などにより、筋肉や骨の発達が妨げられると、筋肉量や骨量がじゅうぶんに増えないことが考えられます。ヒトの骨量は20歳ころにピークを迎え、骨量も筋肉量も40歳を過ぎると徐々に低下するといわれていて、低下が進むとともにロコモになる可能性が高くなっていきます。筋肉や骨のピークの量が少ない場合、少し低下するだけでロコモのリスクが増えやすく、注意が必要です。便利な移動手段が多く、運動不足になりやすい現代社会では、日常生活に支障がなくても、ロコモがすでに進行していることも考えられます。

そのほか、高血圧など生活習慣病のある人は、比較的若い頃からロコモのリスクが高いことも分かってきています。

筋肉量低下と骨密度の低下

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の症状

日常生活にひそむ、ちょっとした変化がロコモの兆し

ロコモは知らず知らずのうちに、私たちのそばに忍び寄っています。しかも、ロコモを生じさせる運動器の衰えは日々少しずつ積み重なって生じていくため、衰えていること自体に気づかないことも多々あります。生活を送るうえで、以下のような兆候を感じていたらロコモのセルフチェック(ロコモ度テスト)をしてみましょう。

①片足立ちで靴下がはけない……片足立ちで靴下をはくという何気ない動作で、脚力とバランス能力をはかることができます。この動作ができないと、筋力や運動機能の低下が疑われます。

②家の中でつまずいたり、滑ったりする……つまずいたり滑ったりすることによる転倒は、寝たきりになる主な原因のひとつです。転倒への恐怖心から歩こうとする意欲がなくなったり、骨折によって長期間歩けなくなったりすると筋力の低下を招き、寝たきりにつながることがあります。

③手すりがないと階段を上るのがつらい……階段の上り下りができるかどうかは、外出の可否にも関わってきます。生活圏内に手すりのない階段があり、その上り下りがつらければ閉じこもりがちになり、ロコモが進行することも考えられます。

④布団の上げ下ろし、掃除機をかけるといった力の必要な家事が困難……筋力の衰えは40歳を過ぎたころから徐々にはじまり、50歳を過ぎると急激に進むといわれます。筋力が衰えると、重い物を持つなど力の必要な家事をするのがつらくなることもあります。

⑤牛乳パックやペットボトルなど、重たい買い物をして持ち帰るのが困難……ロコモになると、自立した生活を送るのが難しくなることもあります。買い物などの日常生活に困難を感じるのは、ロコモの兆候といえます。

⑥15分歩き続けるのがつらい……運動器の中でも、加齢によってとくに弱まるのが、大臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋といった下肢の筋肉だといわれています。これらの筋肉は歩行や転倒・つまずきの回避にかかわっています。

⑦横断歩道を青信号で渡りきれないことがある……歩行者用の信号の多くは毎秒1mの歩行速度で渡り切れるように設定されているため、筋力が低下して歩行速度が落ちると青信号のうちに渡り切れなくなります。


ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の対策

適度な運動とじゅうぶんな栄養で、運動器の改善を

ロコモの発症にかかわる骨や関節、筋肉などの運動器は、運動をして動かすことで、より鍛えられていきます。したがってロコモの兆候を感じたら、適度に体を動かして、運動器を鍛えることが大切です。加えて、バランスのよい食事を心がけ、筋肉や骨のもととなる栄養素もじゅうぶんに摂取していきましょう。

●運動・・・ロコトレ(ロコモーショントレーニング)

ロコトレは運動器を鍛えて、ロコモの予防や改善をする運動です。自信がない人は机に手をついて行うなどして負荷を調整しながら、無理せずに自分のペースで続けましょう。

(1)開眼片足立ち(バランス能力のトレーニング)

①背すじを伸ばし、両足を床につけて立つ。
②転倒しないように机などにつかまり、目を開けたまま、片足を床から5cmほど離して、1分間キープする。
③反対側の足も同様に行う。
④これを1セットとして、1日3セット程度繰り返す。

開眼片足立ち

(2)スクワット(下肢の筋力のトレーニング)

①両足を肩幅くらいに開いて立ち、つま先を30°くらい外側に向ける。

②いすに腰かけるように、息を吐きながらゆっくりと腰を下ろす。膝はつま先と同じ方向に向けて、つま先より前に出ないようにする。
③膝が90度近く曲がるところまで腰を下ろしたら、ゆっくり呼吸をしながら元の姿勢に戻る。痛みが出ないよう、膝は90°以上曲げないようにする。
④5~6回を1セットとして、1日3セット程度繰り返す。転倒が心配な場合は無理をせず、机に手をついて行う。

スクワット

●栄養・・・タンパク質・カルシウム・ビタミンD

タンパク質は筋肉をつくるために欠かせない栄養素です。タンパク質の必要量は、体重1kgあたり1gを目安にするとよいといわれています。タンパク質を多く含む食材というと、「肉」を思い浮かべる人も多いでしょう。肉にはタンパク質のほかに、牛肉ならば鉄や亜鉛などのミネラル、豚肉ならばビタミンB群といった、体に大切な栄養素も多く含まれています。タンパク質以外の栄養素は、肉の種類によってそれぞれ異なるため、肉を食べる場合は特定の種類だけを食べるのではなく、様々な種類を組み合わせると、より有効です。

タンパク質に加えて、骨をつくるもととなる栄養素、カルシウムも積極的に摂取しましょう。カルシウムは「摂り貯め」ができないため、一定量を定期的に摂取していくことが必要です。1日あたりのカルシウムの摂取量は、骨の健康を考えると、成人男女ともに800mgを目標にするとよいといわれています。牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、豆類やナッツ類、ほうれん草、小松菜、チンゲン菜などの青菜、シシャモやイワシなどの骨ごと食べられる魚といった、カルシウムを多く含む食品を意識してとりましょう。

ビタミンDはカルシウムと共に、骨をつくるために必要な栄養素として知られています。ビタミンDはイワシやサケ、ウナギなどの魚類、マイタケ、キクラゲ、シイタケなどのキノコ類に多く含まれています。また、日光に当たると皮膚で合成されるので、適度な日光浴もおすすめです。


3つのテストでロコモ度をチェックしてみよう

ロコモかどうかは、「ロコモ度テスト」と呼ばれる3つのテストでチェックします。これらのテストの結果により、ロコモの度合いを判定することができます。

<行う際の注意点>
・無理をしないよう、気をつける。
・テスト中、膝に痛みが起きそうな場合は中止する。
・反動をつけると後方に転倒する恐れがあるので、反動をつけずに行う。

<立ち上がりテスト>
①40cmの高さの台に腰かける。
②両足を肩幅くらいに広げ、少し足を引き、両腕は胸の前でクロスする。
③反動をつけずに両足で立ち上がり、そのままの姿勢を3秒間キープする。

【ロコモ度テスト1】立ち上がりテスト

下肢の筋力を測るテストです。片足または両足で、座った姿勢から立ち上がれるかどうかで、ロコモ度を判定します。けがを防ぐため、必ず以下の「行う際の注意点」を守って行うようにしてください。

立ち上がりテスト:まずは両足で

両足で反動をつけずに立ち上がれなかったり、立ち上がった後にバランスを崩してしまったりした人は、ロコモ度3「移動能力の低下が進行して、生活に支障を来している状態」に相当すると判定されます。

④両足で立ち上がることができたら、今度は片足で立てるかどうかをチェックする。同じく40cmの高さの台に腰掛けて両足を肩幅に開き、立つ方の足を少し引き、反対側の足を軽く上げる。
⑤両腕を胸の前でクロスする。
⑥反動をつけずに立ち上がり、そのままの姿勢を3秒間キープする。

立ち上がりテスト:両足でできたら片足で

40㎝の台から片足で反動をつけずに立ち上がれなかったり、立ち上がった後にバランスを崩してしまったりした人は、ロコモ度1「移動機能の低下が始まっている状態」に相当すると判定されます。

⑦左右どちらの足でも片足で立ちあがることができたら、台の高さを10cmずつ低くして、④~⑥を繰り返す
⑧片足立ちができなくなったら、今度は両足で同様に10cmずつ低い台に座って立ち上がり、どこまでできたかで下肢の筋力をチェックする

立ち上がりテスト:成功したら片足、失敗したら両足

20㎝の台から両足で立ち上がれなかったり、立ち上がった後にバランスを崩してしまったりした人は、ロコモ度2「移動機能の低下が進行している状態」に相当すると判定されます。

【ロコモ度テスト2】2ステップテスト

歩幅を調べて、下肢の筋力・バランス能力・柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価し、ロコモ度を測定します。 2回行い、良かったほうの結果を採用します。けがを防ぐため、必ず以下の「行う際の注意点」を守って行うようにしてください。

<行う際の注意点>
・介助者のもとで行う。
・滑りにくい床で行う。
・準備運動をしてから行う。
・バランスを崩さない範囲で行う。
・ジャンプしてはいけない。

<2ステップテスト>
①スタートラインを決め、両足のつま先を合わせる。
②できる限り大股で2歩歩き、両足を揃える(バランスを崩した場合は失敗とする)。
③2歩分の歩幅(最初に立ったラインから、着地点のつま先まで)を測る。
④2回行い、よかったほうの記録を採用し、以下の方法で「2ステップ値」を算出する。

2ステップ値 = 最大2歩幅 (cm) ÷ 身長 (cm)

2ステップテスト

2ステップ値が1.3未満の場合は、ロコモ度1「移動機能の低下が始まっている状態」に相当すると判定されます。また、1.1未満の場合はロコモ度2「移動機能の低下が進行している状態」、0.9未満の場合はロコモ度3「移動機能の低下が進行して、生活に支障を来している状態」に相当すると判定されます。

【ロコモ度テスト3】ロコモ25

25の質問に答え、身体の状態、生活状況からロコモ度を測定するテストです。

質問にはそれぞれ5つの選択肢があり、それぞれ0~4点が割り振られています。合計点数によって、ロコモ度を判定します。つまり、合計で0点から100点の間の点数がつき、点数が低いほど良好な状態となります。

質問票は日本整形外科学会が運営するロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモONLINE」からダウンロードすることができるほか、こちらのページでも調べることができます。

25問の合計点数が7点以上の場合、ロコモ度1と判定され、「移動機能の低下が始まっている状態」にあると考えられます。また、16点以上の場合はロコモ度2「移動機能の低下が進行している状態」、24点以上の場合はロコモ度3「移動機能の低下が進行して、生活に支障を来している状態」に相当すると判定されます。


6週間以上、膝や腰の痛みが続くときには医療機関を受診しよう

痛みとなってあらわれた運動器の衰えが、ロコモの原因となる疾患の悪化につながることも考えられます。とくに、ロコモの三大原因疾患と呼ばれる「骨粗しょう症」「変形性膝関節症」「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」は、放置すると痛みの悪化を招きます。骨粗しょう症は“沈黙の疾患”といわれ、通常痛みは伴いませんが、重症化すると背骨が圧迫骨折し、痛みを生じる場合があります。

また、長引いて慢性化した痛みは複雑化し、治療が難しくなる傾向もあるほか、心にも影響を与え、うつ症状などを引き起こすこともあるといわれています。軽い痛みであっても6週間以上続いている場合は、 痛みの慢性化とロコモ発症のリスクを考慮し、医療機関を受診したほうがよいでしょう。以下のような痛みがあれば受診してください。

●膝の痛み 受診の目安
□動き始めに痛む
□膝を曲げ伸ばしする時に痛む
□膝を曲げ伸ばしする時に違和感がある
□いすから立ち上がる時に痛む
□正座をすると痛む
□膝が腫れている

→1つでも続くときは「変形性膝関節症」の可能性がある。

●腰の痛み 受診の目安
□強い痛みがあり、日常生活に支障がある
□横になっても痛み、楽な姿勢がない
□1カ月以上痛みが続く
□痛みやしびれが太ももやすねまで広がる
□しばらく歩いていると太ももやすねの痛みがでる

→1つでも続くときは「脊柱管狭窄症」「背骨の圧迫骨折」「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」などの可能性がある。 


ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防法

1日10分の運動習慣でロコモを予防しよう

ロコモの予防には、運動によって筋肉などの運動器を鍛えることが欠かせません。ジムなどに通ってトレーニングをするのもよいのですが、毎日の生活に少しずつ体を動かす習慣をプラスするだけでも、じゅうぶんロコモ予防につながります。以下のような習慣を身につけて、ロコモ予防に努めましょう。

・歩くときには歩幅を広くして、速く歩くようにする
・いつもより遠くのスーパーまで歩いて買い物に行く
・エレベーターではなく階段を使う
・テレビを見ながら、ロコトレやストレッチを行う
・掃除や洗濯などの家事をキビキビこなし、合間にストレッチをする
・仕事の休憩時間に体を動かす
・休日にも外出を楽しむ
・地域のスポーツイベントに参加してみる
・近くの公園や運動施設を利用し、運動習慣をつける
・ラジオ体操やご当地体操を行う

※参考:厚生労働省「アクティブガイド2013」

こうした運動習慣を身につけるとともに、栄養バランスのとれた食事を積極的にとることも大切です。ロコモは肥満でも、痩せすぎでも生じやすくなります。つまり、食べすぎもよくないですが、食べなさすぎもよくありません。タンパク質、カルシウム、ビタミンDを中心に、バランスのよい食事を適量とり、適正な体重を保つことは、動きやすい体づくりにもつながっていきます。様々な工夫をして、ロコモの予防に努めましょう。


この記事はお役に立ちましたか?

今後最も読みたいコンテンツを教えてください。

ご回答ありがとうございました

健康情報サイト