アロマの効果と正しい取り入れ方を医師が伝授!

アロマの効果と正しい取り入れ方を医師が伝授!精油の瓶のイメージ画像

アロマセラピーの専門店も増え、最近では身近な存在になってきましたが、興味はあっても、正しい使い方まではよく分からないという人も多いのではないでしょうか。日本初のハーブ専門外来を開設した実績をもち、地域に密着した在宅診療にてアロマやハーブの指導も行う総合内科専門医の入谷先生に、医療的な視点から見た香りの効能や正しい使い方についてうかがいました。

監修プロフィール
医療法人社団勝榮会いりたに内科クリニック 理事長・院長 東京女子医科大学呼吸器内科 非常勤講師 いりたに・えいいち 入谷 栄一 先生

呼吸器専門医、アレルギー専門医、がん治療認定医、総合内科専門医。一般社団法人日本フィトセラピー協会顧問、NPO法人日本融合医療研究会名誉理事長、NPO法人日本メディカルハーブ協会顧問、NPO法人心とからだの研究会顧問。東京女子医科大学第一内科、東京都職員共済組合青山病院などを経て現職。がんの臨床研究を通じて補完医療の実態に触れ、さらに自身のぜんそく・アレルギーの治療のために現代医療に補完医療を取り入れた経験から、ハーブを使った自然療法を用いるようになり、日本初のハーブ専門外来を開設。現在は地域に密着した在宅診療にてアロマやハーブの指導も行う。


アロマセラピーとは、植物の香りを使った「自然療法」

アロマセラピーとは、植物の香りを使った「自然療法」。植物のイメージ画像

アロマセラピーとは、精油を使った自然療法を指します。
もともと植物の香りには、自らを守ることや、子孫繁栄といった明確な役割があります。植物の中でも、人間の生活に役立つ香りをもつ植物がハーブであり、ハーブの中でも美容や健康管理に使用されるものを「メディカルハーブ」と呼んでいます。このメディカルハーブの花や葉、果皮、種などから抽出した芳香成分からなる天然の揮発性オイルが精油です。ただしオイルといっても一般的なオイル(油脂)とは異なります。
洗剤や化粧品、食品など身近な物に使用されている合成香料は、天然由来の精油とは分子構造が異なる、あくまで香りを楽しむためのものです。薬効を目的とするアロマセラピーに使うことはできません。

●精油選びのポイント
分子が細かい精油は体に取り込まれやすく、体内に残る性質があるため、品質が悪いと健康に影響を及ぼす場合もあるので注意が必要。100%天然成分か、原料となる植物の学名が明記されているか、原料の産地や栽培方法、抽出に使う部分部位、抽出方法などが信用できる製品かを確認する。劣化を防ぐため、容器は褐色のガラス瓶で、1滴ずつ落ちるドロッパーがついているものがよい。精油は基本的に専門店での取り扱いになるが、ハッカ油は薬局でも購入が可能。

精油に含まれる主な有機化合物
アロマセラピーによる効能は、精油に含まれる様々な有機化合物によってもたらされます。その主な有機化合物の特徴をご紹介します。

※これらに関する科学的証拠は限定的であり、個人差や使用方法によって効果が異なる場合があります。

●テルペン
リラックス効果、抗菌作用、抗炎症作用などがある。例えば、ラベンダーオイルに含まれるリナロールは、リラックス効果をもたらす。

●フェノール類
強い抗菌作用をもち、体の浄化や免疫力の向上に役立つ。

●アルデヒド類
柔らかく甘い香りが特徴で、鎮静作用や抗炎症作用がある。レモングラスオイルに含まれるシトラールがその例。

●ケトン類
組織の再生や傷の治癒を助けるとされているが、一部には毒性があるため注意が必要。例えば、ペパーミントオイルに含まれるメントンなどがある。

●エステル
リラックス効果や鎮静作用があり、ストレスや不安の軽減に役立つ。ラベンダーオイルのリナリルアセテートがその一例。


アロマセラピーの歴史。古代より愛され現代まで続く

アロマセラピーの歴史は長く、世界に目を向ければ、紀元前からその効能が認められており、古代ローマでは、医師・植物学者のディオスコリデスが植物の効能をまとめた「マテリア・メディカ」を著しています。中世ヨーロッパでは教会や修道院で薬草やハーブを使った治療が行われるようになり、16世紀以降は専門知識をもつハーバリスト(植物療法士)が活躍しました。
20世紀の初めにフランスの化学者であったガットフォセが、実験中に負ったやけどがラベンダーの精油で癒えたことからその効果についての研究をスタートさせ、「アロマセラピー=アロマ(香り)+セラピー(治療)」という言葉を生み出しました。1960年代には生化学者のモーリーによって精油を使ったマッサージが提唱され、後に「ホリスティック・アロマセラピー」として発展していき、今に至ります。

日本においても、室町時代に香道が誕生するなど、古くから香りは親しまれてきましたが、医療的な活用はなかったと考えられています。アロマセラピーが日本で認知されたのは近年です。香道のイメージ画像

日本においても、室町時代に香道が誕生するなど、古くから香りは親しまれてきましたが、医療的な活用はなかったと考えられています。アロマセラピーが日本で認知されたのは近年のこと。1985年に『The Art of AROMATHERAPY』という本が翻訳出版されたことがきっかけとなりました。
すでにフランスやベルギーでは、医療行為として認められているアロマセラピー。日本では、香りを医療へ活用することはありませんでしたが、最近は補完医療として、アロマセラピーが医療や介護の現場に浸透しつつあります。


精油が心身に働く仕組み

精油の成分が体に取り込まれ、吸収されていくには3つの経路があり、その経路によって心身への影響や作用が異なります。

●精油が体に取り込まれる3つの経路

①鼻から脳へ
鼻や口から吸い込んだ精油の成分は電気信号となり、感情や記憶をつかさどる大脳辺縁系や、自律神経系やホルモン系などをコントロールする視床下部に届き、全身に影響を与える。実は五感のうち脳に最も早く伝わるのが嗅覚で、その所要時間はわずか0.2秒以下。命にかかわる危険の察知と回避のため早くなったとも考えられている。

②肺から全身へ
呼吸によって取り込んだ精油の成分が肺に達し、肺胞を囲む毛細血管から血液に取り込まれて体内を巡る。

③皮膚から全身へ
皮膚に塗られた精油の成分が毛細血管から血液に取り込まれ、体内を巡る。 

●吸収経路の違いによる3つの作用

①脳を刺激して起こる作用…自律神経系・内分泌系・免疫系・感情や情動の調整、認知機能の向上
②呼吸からの吸収と皮膚からの吸収の組み合わせで起こる作用…鎮痛、抗炎症
③皮膚からの吸収で起こる作用…抗炎症、抗菌、抗真菌

アロマセラピーの医療現場における活用

医療現場におけるアロマセラピーは補助的な治療法であり、従来の治療に代わるものではありません。副作用の可能性もあるため、患者の状態や既往歴に配慮し、適切な管理のもとで行う必要があります。ただし、不安やストレス、痛みなどを緩和する効果から、手術や薬による治療ではカバーできない、患者の生活の質(QOL)を高める補完医療として以下のような分野で期待が高まっています。

アロマセラピーの医療現場における活用。手を精油でマッサージするイメージ画像

●緩和ケア
がん患者の緩和ケアにおいて、不安やストレスを減少、不眠や痛みの緩和に役立つとされる。家族が患者の好きな香りを使って患者の体をさすったりマッサージしたりすることにより、患者は不安が和らぎ、家族は患者の最期にかかわれたという心のケアになる。

●手術前後
手術前後の患者の不安を和らげる。

●出産
出産時の痛みや不安を軽減しリラックスさせる。

●高齢者医療
不眠、不安、記憶障害などの症状を緩和する。特に認知症の患者に対して利用されることもある。

●ストレス関連疾患
ストレスや疲労による頭痛、筋肉痛、消化不良などを和らげる。

●呼吸器系の不調
咳、鼻づまり、喘息、たんなどの呼吸器系の症状を緩和する。酸素が足りていても息苦しい時やたんが絡む時は、スーッとする香りで和らぐことも。

●皮膚の不調
皮膚の炎症、感染症、乾燥などの症状を緩和する。

●むくみ
病気の有無にかかわらず、むくみにはアロママッサージが有効なことも。

アロマセラピーを毎日の暮らしに取り入れる方法

アロマセラピーを毎日の暮らしに取り入れる方法。ディフューザーなどを使ったりして室内に香りを漂わせる芳香浴のイメージ画像

寝つきが悪い時にラベンダー、かぜやアレルギー性鼻炎などにユーカリ、生理痛にクラリセージなど、日々の不調のセルフケアにも香りは用いられます。どのように使うのか、その具体的な方法をご紹介します。

●芳香浴(ほうこうよく)
アロマストーンやお湯などに精油を垂らしたり、ディフューザーなどを使ったりして室内に香りを漂わせる方法。好みの香りは副交感神経を優位にし、安眠などの効果も期待できる。ホテルや航空会社がオリジナルの香りを作っているように、好きな香りで自分だけの空間プロデュースを楽しむのもよい。

●アロマ吸入
ティッシュやコットン、お湯に精油を垂らして、鼻と口からゆっくりと吸い込む方法。ボトルから直接吸い込むのは刺激が強過ぎるのでNG。花粉症などで鼻づまりがつらい時は、ガーゼにペパーミントのようなスーッとする香りのオイルを1滴垂らして、マスクの内側に挟み込むとよい。

●アロマバス
バスタブや洗面器から立ち上る湯気で精油の成分を取り込む。体を温め、血行促進や疲労回復も期待できる。全身浴だけでなく、手浴や足浴もOK。精油はお湯に溶けず、直接触れると肌トラブルの原因にもなるので、全身浴の場合は塩と混ぜたバスソルトなどにする。

●アロマトリートメント
精油を植物油で希釈したトリートメントオイルを作って体をマッサージすると、血行促進やリラックスに有効。低濃度のトリートメントオイルを、こりや痛みがある部分に塗ってもよい。

●アロマ湿布
精油を垂らしたお湯や水に浸して絞ったタオルを、肩こりや目の疲れ、生理痛、打ち身などの症状のある部分に当てる。

精油を使う時の注意点

●用法・用量を守る
用途に合わせた用量を使用するのはもちろん、副作用や禁忌について事前に調べることも大切。例えば、妊娠中にフェンネルやセージの精油が使用できないように、持病のある人や乳幼児、妊婦などが使えない精油がある。また、ユーカリ、フェンネル、ローズマリー、セージなどは、大量に使用したり直接服用をしたりすると、けいれんやてんかんを誘発する可能性がある。使用方法の範囲内であればリスクは少ないが、誤った使い方には注意する。

●適切に保管する
精油は空気に触れると酸化し、光や温度などによっても品質が劣化する。直射日光の当たらない冷暗所でボトルを立てた状態で保管し、使用期間を守る。引火性があるので火を扱う場所での保管・使用はNG。

●パッチテストを行う
精油によってはアレルギー反応を起こすこともあるので、事前にパッチテストを行う。

アレルギーなどの副作用にも要注意

アロマテラピーに際して、アレルギーなどの副作用にも要注意。鼻をつまんで拒否する女性のイメージ画像

精油やハーブは天然成分のため、医薬品などと比べて「安心・安全・無害」といったイメージがありますが、副作用もゼロではなく、使用方法や使用量によっては次のようなダメージを受ける人もいます。

①化学物質への過敏反応
人によっては香りに含まれる化学物質に対して、アレルギー反応や化学物質過敏症を示すことがある。

②気分や健康状態の悪化
香りが原因で頭痛、吐き気、めまい、気分の悪化などの症状が現れる。特に、片頭痛や慢性疲労症候群をもつ人にとって、強い香りは症状を悪化させる可能性がある。

③心理的反応
香りには記憶や感情が結びついていることが多く、人によっては特定の香りが不快感やストレスの原因となる。

自分の体質や心身の状態を考慮するのはもちろん、妊婦や持病のある人、アレルギー体質の人などは、精油を使用して問題ないか、飲んでいる薬と併用しても大丈夫かなど、事前にかかりつけ医に確認してください。赤ちゃんや幼児がいる家庭も、使用にあたっては専門店のスタッフに相談しましょう。

香りに敏感な人が悩む「香害(こうがい)」に配慮を

香りの感じ方には個人差があるため、自分にとってはよい香りでも他の人は不快に感じることもあります。最近では、過剰な合成香料によって生じる化学物質過敏症が、「香害」として問題になりました。

香害というと、合成洗剤や柔軟剤、化粧品、芳香剤について言われることが多く、精油は問題がないと考える人も多いかもしれません。しかし、精油も香りの分子を漂わせることに変わりはなく、使い過ぎると頭痛やアレルギー症状などを引き起こす可能性があります。公共の場や家族やパートナーと同居するスペースでは、周囲への気遣いやマナーを大切にしましょう。


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