メタボ診断基準の1つ 「中性脂肪」について、詳しく知りたい!

中性脂肪は体を動かすエネルギー源として、なくてはならないもの。しかし、たまり過ぎると肥満やメタボリックシンドロームの状態になり、生活習慣病にかかる可能性を高めます。近年の研究では、魚の油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)が、中性脂肪の対策に有効であることが分かっています。食事では脂肪の摂取量を単純に減らすのではなく、脂肪の種類を選び、バランスよく適量を摂ることが大切です。

監修プロフィール
(財)三越厚生事業団顧問 なかむら・はるお 中村 治雄 先生

1959年慶應義塾大学医学部卒業。64年同大学大学院修了後、米国ハーネマン医科大学留学。慶應義塾大学医学部老年内科科長、防衛医科大学校第一内科教授などを経て、現職。著書・監修本に『新版心臓病 よくわかる最新医学』(主婦の友社)、『生活習慣病を克服する 病気の分かりやすい解説からその予防・治療まで』(ライフ・サイエンス)など多数。

そもそも中性脂肪の役割とは?なぜたまってしまうの?

中性脂肪は別名トリグリセライドとも呼ばれます。体の中に存在する脂肪を総称して「体脂肪」といいますが、体脂肪のほとんどは中性脂肪です。中性脂肪は活動のエネルギー源として脂肪細胞の中に蓄えられますが、たまり過ぎるといわゆる肥満やメタボリックシンドロームの状態になり、生活習慣病にかかる可能性も高くなってしまいます。

中性脂肪がたまる仕組み

一緒に聞くことの多い「中性脂肪」と「コレステロール」は、どう違う?

中性脂肪とコレステロールはどちらも主として肝臓で合成される脂質の一種ですが、体の中での役割が違います。中性脂肪は体を動かすエネルギー源となり、余った分は蓄えることができます。体温を一定に保ったり、体を衝撃から守る働きもしています。
コレステロールは細胞膜の構成成分となる他、副腎皮質ホルモンや消化・吸収を助ける胆汁酸などの材料になります。血液中のコレステロールには善玉と呼ばれるHDLコレステロールと、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールがあり、バランスを保ちながら存在しています。

中性脂肪とコレステロールの役割

中性脂肪値(TG)が高いと怖いのは、動脈硬化が進み心筋梗塞などの原因になるから!

健康診断などで「中性脂肪値が高い」と言われることがありますが、これは血液中の中性脂肪が多い状態を意味します。中性脂肪が多いと、動脈硬化を進めてしまうことが問題です。
動脈硬化は、心臓から送り出された血液を運ぶ動脈が硬くなる疾患です。血管の内側の壁にコレステロールがたまって血管の内腔が狭くなり、同時に血管が硬くもろくなることで、血栓ができたり、血管が破れやすくなったりします。
動脈硬化は、進行しても自覚症状はありませんが、日本人の死亡原因の上位を占める、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となります。
過剰に中性脂肪が増えると、次のようなことが起こります。

●善玉コレステロール(HDLコレステロール)が減少する
血管内で回収できなかったコレステロールが増加し、血管の内壁にたまる。

●悪性度が高まった超悪玉コレステロール(小型LDL [sdLDL])が増える
小型LDLは血管壁に入り込みやすく酸化されやすいため、動脈硬化を強力に進める。

●血液の粘度が高まる
血管が詰まりやすく、血管壁に無理な力が加わって、血管が破れやすくなる。

●炎症が促進される
血液中の脂質バランスが崩れると、血管内壁の細胞が傷ついて炎症を起こし、白血球の仲間のマクロファージと呼ばれる細胞がコレステロールを取り込んで、プラーク(動脈硬化巣)を形成する。中性脂肪はこの炎症反応を強める。


中性脂肪の基準値は、50~149mg/dL。その数値を超えると、脂質異常症の1つである「高トリグリセライド血症」と呼ばれます。脂質異常症は軽視されがちですが、十分に注意するようにしましょう。

動脈硬化が進む仕組み

男性は30代から、女性は50代から、中性脂肪の増え過ぎに注意!

中性脂肪の基準値は50~149mg/dL。この数値を超えると脂質異常症の1つである「高トリグリセライド血症」と呼ばれます。150mg/dL以上の人は男性約1800万人、女性約1100万人で、男性は30代、女性は50代から急増します。

高トリグリセライド血症の人口

中性脂肪と生活習慣病の関係とは?詳しく解説!

生活習慣病になりやすい危険因子を複数併せ持った状態をメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群、通称:メタボ)と呼んでいますが、中性脂肪値はその診断基準の1つです。メタボリックシンドロームの人は、動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気を引き起こす危険性が高くなります。
内臓脂肪は腹部の内臓の周囲につく脂肪で、食べ過ぎなどで使い切れなかった中性脂肪がここにたまります。つまり、中性脂肪が増えると、生活習慣病の要因である内臓脂肪の増加につながります。
また、メタボリックシンドロームの症状が進行すると、中性脂肪を減らす働きをする生理活性物質アディポネクチンが減り、炎症反応と共に、血液中の中性脂肪が必要以上に増加してしまいます。こうしたことから、中性脂肪が増えると内臓脂肪が増え、内臓脂肪が増えてメタボリックシンドロームになってしまうと、さらに中性脂肪が増えるという悪循環に陥ります。

メタボリックシンドロームの診断基準
内臓脂肪型肥満はメタボ原因に

中性脂肪値には、生活習慣が大きく影響します

中性脂肪値が高くなる原因には、主に次のものがあります。

●過食
●アルコール
●運動不足
●遺伝的体質

これらの中でも影響が大きいのは、過食と運動不足です。食べ過ぎで過剰なエネルギーが体に入ってきたり、運動不足でエネルギーの消費が少なかったりすると、余ったエネルギーは中性脂肪に変換され、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織に蓄えられます。
アルコールは、中性脂肪を分解するリポ蛋白リパーゼという酵素の働きを低下させることで、中性脂肪値を高くします。また、お酒を飲むと食が進みやすく、つい食べ過ぎてしまいがちなことも間接的に中性脂肪を増やすことにつながります。
遺伝による影響は3割、食事などの生活習慣の影響は7割ともいわれ、多くの場合は生活習慣を見直すことで、中性脂肪値のコントロールが可能です。

中性脂肪が増える原因

中性脂肪が基準値内でも、「少し高め」からのケアが大切です

中性脂肪は、増え過ぎても何ら自覚症状がありません。症状がないからと放置しておくと、動脈硬化が進み、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった致命的な病気を引き起こすこともあるので注意が必要です。中性脂肪がどれくらいかは、血液検査を受けない限り分からないので、定期健診を欠かさず受け、早期発見、早期治療を心がけるようにしましょう。
また、基準値の150mg/dL未満だからといって、安心は禁物です。善玉コレステロールは中性脂肪値が130mg/dLくらいから減り始めることが確認されており、この段階でも動脈硬化を進めないための対処が必要となります。基準値はあくまでも目安と考え、中性脂肪値が「少し高め」であったり、前回の検査と比較して数値が高くなっている場合には、生活習慣の見直しなど早めのケアに取り組みましょう。
特に、血圧や血糖値が高い人や運動不足など中性脂肪値を高めやすい生活習慣がある人は、一層の注意が必要です。

中性脂肪ケア:セルフチェック

中性脂肪を減らす食習慣のポイントは、アルコールを控えバランスよく食べることです

中性脂肪対策の基本は、毎日の食習慣の見直しです。次のことを心がけましょう。

●適正なエネルギー量を守る。
●1日3食を規則正しく摂る。
●腹八分目を心がける。
●よくかんで食べる。
●夜遅い食事は避ける。
●間食はなるべく摂らない。
●栄養素をバランスよく摂る。
●肉よりも魚を多めに摂る。
●食物繊維の多い食品を摂る。
●野菜、大豆製品を摂る。
●アルコールを控える。
●脂っこい食品を摂り過ぎない。
●ご飯やパンなどの糖質を摂り過ぎない。
●砂糖や菓子類を摂り過ぎない。
●果物を摂り過ぎない。

主食は、白米や白パン、うどんなど精製された物よりも、玄米、ライ麦パン、そばといった精製度の低い穀類を選ぶようにすると、中性脂肪の合成が抑えられ、不足しがちな食物繊維も補給することができます。

中性脂肪を減らす食習慣のポイント

魚の脂肪、EPAには中性脂肪値を下げる働きがあります

近年の研究により、魚の油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)が、中性脂肪の対策に有効であることが分かっています。
EPAは脂質の主成分である脂肪酸の一種です。
脂肪酸は、その組成により大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分類されます。飽和脂肪酸は肉類や乳製品などの動物性脂肪に多く含まれ、摂り過ぎるとコレステロールを増やす原因になりやすい脂肪酸です。
一方、不飽和脂肪酸はオリーブ油などに多い「一価不飽和脂肪酸」と植物性脂肪や魚の油に多い「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。不飽和脂肪酸にはコレステロールを減らす働きがあり、一価不飽和脂肪酸よりも多価不飽和脂肪酸のほうがその働きが強いといわれています。
多価不飽和脂肪酸はさらに、「n-3系」と「n-6系」の2系統に分けられます。EPAは「n-3系多価不飽和脂肪酸」の1つです。
EPAは、次のような作用によって中性脂肪値を下げ、動脈硬化を予防・改善します。

●悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減らし、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やす。
●血小板の凝集を抑制し、血栓がつくられにくくする。
●動脈の弾力性を保持する。
●炎症を抑える。

EPAはこの他にも、高血圧、アレルギー性疾患、炎症性疾患などの予防・改善に効果があります。食事では脂肪の摂取量を単純に減らすのではなく、脂肪の種類を選び、バランスよく適量を摂ることが大切です。

脂肪酸の分類、EPAの働き

EPAとDHA、中性脂肪値を下げる効果はどっちが高い?

DHA(ドコサヘキサエン酸)は、EPAと同じn-3系の多価不飽和脂肪酸で、サバ、マグロ、ブリといった青背の魚に多く含まれます。脳の機能を高める効果で有名になりましたが、他にもコレステロールや中性脂肪を減らす、血液をサラサラにする、炎症を抑制するなどの働きが知られています。ただし、DHAとEPAの得意分野には若干の違いがあり、中性脂肪値を下げる効果はEPAのほうが高いといわれています。

DHA

EPAを摂るなら、サバ、マグロなど青背の魚を食べよう

EPAは魚の脂肪中に含まれており、他の食品からはほとんど摂ることができません。また、脂肪中に含まれるため、白身の魚よりも、イワシやマグロ、サバなど脂がのった青背の魚のほうが含有量は多く、効率的に摂取することができます。
近年、食生活の欧米化により日本人の総脂肪摂取量は増えましたが、魚の摂取量は減少しているため、EPAの摂取量も減少しています。摂取量の目安は、1日1グラム以上ですが、現代の日本人は、その半分ほどしか摂っていないといわれます。生活習慣病の予防のためには1日1切れを目標に、積極的に魚を摂るようにしましょう。

EPAを効率的に摂るには刺身(生食)が最も適していますが、脂肪を逃さないホイル焼きなども適しています。多価不飽和脂肪酸は酸化されやすいので、新鮮なうちに食べることが大切です。抗酸化物質の豊富な緑黄色野菜などと一緒に食べるとよいでしょう。

EPA摂取量と動脈硬化性疾患死亡率
主な魚のEPA含有量(可食部100g当たり)

中性脂肪を上手に減らして生活習慣病を予防し、いつまでも健康な体を保ちましょう。


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