家族でメタボ対策

生活習慣病の注意信号であるメタボリックシンドローム(通称:メタボ)。メタボといえば世間では中高年男性ばかりが注目されがちですが、実際は年齢や性別を問わず注意すべきことであり、子どもを含めその患者数は年々増加傾向にあるのです。生活習慣病になる前に家族みんなで対策を始めませんか?数値チェックと共に、食べ過ぎ、高脂肪食、運動不足など、早めの改善対策が必要です。

監修プロフィール
(財)三越厚生事業団顧問 なかむら・はるお 中村 治雄 先生

1959年慶應義塾大学医学部卒業。64年同大学大学院修了後、米国ハーネマン医科大学留学。慶應義塾大学医学部老年内科科長、防衛医科大学校第一内科教授などを経て、現職。著書・監修本に『新版心臓病 よくわかる最新医学』(主婦の友社)、『生活習慣病を克服する 病気の分かりやすい解説からその予防・治療まで』(ライフ・サイエンス)など多数。

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは?

内臓の周囲や腹腔の内側に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、健康に様々な悪影響を与えます。内臓脂肪の蓄積は高血圧や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病を悪化させます。また、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞など、命にかかわる病気を引き起こすリスクが高まります。こうしたリスクが重なった状態をメタボリックシンドロームといいます。

メタボは国民病

メタボリックシンドロームの診断基準を知っておこう

診断基準の数値を見ると、血糖値や血圧値は正常値の域を少し超えただけで当てはまることが分かります。やや高めの値でも注意が必要です。

メタボリックシンドロームの診断基準

【ウエスト周囲径とメタボの関係】
内臓の周囲や腹腔の内面につく内臓脂肪。この内臓脂肪がたまると、生活習慣病を招く生理活性物質の分泌量が増え、逆に生活習慣病を防ぐ生理活性物質は減少することが分かっています。内臓脂肪の蓄積により増加する生理活性物質は、次のようなものがあります。

●TNF-α・・・血糖値を一定に保つ働きをするインスリンの働きを妨げ、血糖値を上げる。
●アンジオテンシノーゲン・・・血圧を上げる。
●PAI-1・・・血栓(血液の塊)をつくり、動脈硬化を促進する。

一方、内臓脂肪の蓄積により減少する生理活性物質には、次のようなものがあります。

●レプチン・・・満腹中枢を刺激して、食欲を抑制する。
●アディポネクチン・・・血圧や中性脂肪を下げる。傷んだ血管を修復して、動脈硬化を防ぐ。

内臓脂肪の蓄積が生活習慣病を招く

つまり、内臓脂肪が増加すると炎症が進み、血糖値、血圧の上昇や中性脂肪が増加。すると、血管の損傷が進み、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、動脈硬化などの危険性が高まります。生理活性物質は皮下脂肪からも分泌されますが、その量は内臓脂肪に比べて圧倒的に少ないとされています。

内臓脂肪と皮下脂肪

内臓脂肪の面積はウエスト周りのサイズに関係するため、メタボリックシンドロームの診断基準では内臓脂肪の蓄積量を測る目安として、ウエスト周囲径が使われているのです。

ウエスト周囲径の計り方

疾患が連鎖する!恐ろしい「メタボリックドミノ」とは?

メタボリックシンドロームを放置していると、ドミノ倒しのように連鎖して病気を招いていきます。これは、「メタボリックドミノ」と呼ばれ、次のように進んでいきます。

(1)内臓脂肪が増加・・・食べ過ぎや運動不足など生活習慣の乱れが続くと、内臓脂肪が増加する。
(2)生活習慣病のリスクが高まる・・・生活習慣病を招く生理活性物質の分泌量が増え、リスクを防ぐ生理活性物質は減少する。
(3)様々な病気を引き起こす・・・高血圧、食後高血糖、脂質異常症など生活習慣病と同時に動脈硬化が進行。心不全や脳卒中など命にかかわる重篤な病気を引き起こす。

倒れ始めると止めにくいメタボリックドミノ

危険因子(倒れるコマ)の数が多くなるほど危険度は高まります。例えば、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症の4疾患のうち、3疾患以上あると、これらの疾患が全くない場合に比較して、心血管疾患の発症率が35倍にもなります。
このように、生活の乱れから始まったメタボリックシンドロームは生活習慣病を連鎖させ、重篤な病気へとつながっていきます。一度この流れが始まると、後になればなるほど止めるのが困難になります。ですから、早期に生活習慣を見直し、改善することが大変重要なのです。

【高尿酸血症とメタボの関係】
食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足といった生活習慣は、高尿酸血症とメタボリックシンドロームの共通要因です。尿酸値が上昇するとメタボリックシンドロームの頻度が高くなり、また糖尿病、脂質異常症、高血圧症といったメタボリックシンドロームに該当する病気が増えるにつれ、尿酸値が上昇することが分かっています。高尿酸血症の症状である痛風患者の37%にはメタボリックシンドロームが認められています。

高尿酸血症とメタボの関係

メタボは家族みんなで取り組む課題

生活習慣病の注意信号であるメタボリックシンドローム(通称:メタボ)。世間では中高年男性ばかりが注目されがちですが、実際は年齢や性別を問わず注意すべきことであり、子どもを含め、その患者数は年々増加傾向にあります。
メタボリックシンドロームは食生活や運動、生活習慣と密接に関係します。こうしたことからも、家族にメタボリックシンドロームの人がいれば、同じ環境で生活する他の人もなり得る可能性は十分にあります。また同様の理由から、対策には家族のサポートが欠かせません。

メタボは家族単位で対策を

子どもの肥満は、大人と同様にメタボを招く

肥満気味の子どもが30年前と比べると約2倍に増え、現在では約10人に1人が肥満傾向児(標準体重を20パーセント以上超えている児童)という結果が出ています。
その背景には、テレビゲームへの没頭など室内中心の不規則な生活や運動不足、肉類中心の高脂肪の食事、受験の早期化などによる強いストレスといったことが挙げられます。
肥満により蓄積された内臓脂肪が生活習慣病を招くことは、子どもも決して例外ではありません。実際、糖尿病や高血圧など子どもの生活習慣病患者は年々増加傾向にあります。また、たとえ子どものうちに発症しなくても、小さい頃に身についた生活習慣は成人後も改善されにくく、結果としてメタボリックシンドロームを招くことにつながります。
子どもの肥満対策は、何よりも生活習慣の改善にあります。健全な身体の発育を妨げる無理なダイエットは避け、規則正しい生活を心がけるようにしましょう。その際、子ども本人だけでなく、家族全員が一緒に取り組むことが大切です。

子どもは親を見て育つ

【小さく生まれた子どもは将来、メタボのリスク大】
妊婦のやせ過ぎや喫煙は、低体重の子どもが生まれる危険性を高めます。低体重で生まれた子どもは、大人になった時に生活習慣病にかかる確率が高まることが分かっています。その理由として次のことが考えられます。

●栄養が不足した環境で育った胎児は、自分を守るために少ない栄養を最大限に利用しようとする節約遺伝子が働き、体質的に肥満になりやすい。
●低体重であるために通常より小さい臓器に過度の負担がかかり、メタボリックシンドロームを発症しやすくなる。

女性は閉経後、メタボにご用心

メタボリックシンドロームの診断基準では、ウエスト周囲径について男性が85センチメートル以上なのに対し、女性は90センチメートル以上。女性が男性よりも5センチメートル大きいのは、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの影響で、女性は内臓脂肪よりも皮下脂肪のほうが多いことが関係しています。
エストロゲンは内臓脂肪をつきにくくする他、活性酸素の害を防ぐ抗酸化作用を持ち、次のような働きがあります。

●動脈硬化を予防する。
●HDL(善玉)コレステロールを増やし、LDL(悪玉)コレステロールを減らす。
●食欲を抑制する。
●血糖値の上昇を抑える。

ところが、閉経後はエストロゲンの分泌量が激減し、内臓脂肪がつきやすくなります。メタボリックシンドロームのリスクは男性同様に高まり、生活習慣病の発生率も急激に上がります。

エストロゲンとメタボの関係

メタボになりやすい人は、ロコモにもなりやすい

メタボリックシンドロームに加え、新たな国民病としてロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称:ロコモ)に注目が集まっています。これは、骨、筋肉、関節などの運動器の機能の低下により生活の質が著しく低下するだけでなく、要介護や寝たきりになった状態や、将来的にその危険性が高い状態を指します。
現在進められている研究により、このロコモティブシンドロームとメタボリックシンドロームの関連が明らかになってきました。例えば、肥満がロコモティブシンドロームの主要疾患である変形性膝関節症のリスクを高めること、また、メタボリックシンドロームの構成要因に当てはまる数が多いほど変形性膝関節症のリスクが高まること(グラフ参照)などの研究報告がされています。
要介護の2大要因である「メタボとロコモ」。どちらも最大の予防法は、肥満の解消と生活習慣の改善にあります。

ロコモとメタボの関係

過度のストレスは、メタボリスクが増す

適度なストレスは体や脳によい刺激を与え、生命活動を活性化させる作用がありますが、過剰なストレスはメタボリックシンドロームを引き起こす要因となります。

●肥満を招く・・・脳の食欲中枢の働きが悪化し、暴飲暴食につながる。
●不規則な生活になりやすい・・・一時的なストレス解消として喫煙や飲酒量が増え、寝つきが悪くなり、睡眠不足に。
●コレステロール値が上昇する・・・以上の結果、血液中のコレステロール値が上昇。メタボリックシンドロームや脂質異常症、高血圧症などの発症リスクを高める。
このような理由から、できるだけストレスはためず、早めに解消することが大切です。

ストレスが暴飲暴食の原因に

禁煙とメタボ対策、どっちが優先?

結論から言えば、両方とも速やかに対策を始めるのが一番です。食べ過ぎや運動不足だけでなく、喫煙もメタボリックシンドロームの発症リスクを高める要因となります。これは喫煙による次の作用が影響するためです。

●血糖値や中性脂肪値の上昇、悪玉コレステロールの増加、善玉コレステロールの低下・・・炎症を進め、インスリンの働きが低下。糖代謝や脂質代謝に異常を引き起こす。
●血圧が上昇・・・血管が収縮する。
●内臓脂肪の増加・・・内臓脂肪を増やす作用があるホルモン、コルチゾールが増加する。

非喫煙者に比べて1日31本以上喫煙する人のメタボリックシンドローム発症リスクは約1.6倍という研究結果も出ています(グラフ参照)。また、メタボリックシンドロームに喫煙が加わると、動脈硬化がより進行しやすくなり、虚血性心疾患や脳梗塞など重篤な病気の発症リスクが著しく増大します。
ですから、メタボリックシンドローム対策と禁煙は「車の両輪」と考え、両方とも速やかに実行することが大切です。
禁煙をすると味覚と嗅覚が回復して食事がおいしく感じられることや、消化管の血流が回復して消化吸収がよくなることで一時的に体重が増え、血圧や中性脂肪値などが上昇することがあります。しかし、禁煙と同時に食事や運動などの生活習慣を見直すことで、中長期的に体重増加を抑えることは十分に可能です。

禁煙によるメタボリックシンドロームの発症リスク

【禁煙が難しい理由】
私たちの体はたばこを吸うと脳の快感をとらえる場所にニコチン受容体ができ、体内に一定量のニコチンが入ってこないと脳が不快な状態ととらえ、正常に機能しなくなります。通常、喫煙後30分で血中のニコチンの量が半減するといわれ、イライラや眠気、集中力の低下などの「ニコチン切れ」症状が出ます。これを改善するために喫煙を繰り返すという依存性が、たばこをやめにくくしているのです。医療機関の禁煙外来での治療の他、忙しくて医療機関に通えない場合は、市販の禁煙補助剤を使用するのも一案です。

メタボを予防する生活習慣改善のコツ

メタボリックシンドロームを予防、改善するには食生活と運動習慣を見直し、内臓脂肪の過度な蓄積を防ぐことが最も重要です。大切なことは毎日の生活の中で取り組み、それを継続させること。極端な取り組みは、長続きしないばかりか体に負担をかけることになります。無理をせずに自分のライフスタイルに合わせて工夫しましょう。
食生活においては、1日の総エネルギーのコントロールが必要となりますが、次の点に気をつけましょう。

●体重は1カ月に1~2キログラムの減量を目安にする・・・エネルギーを制限し過ぎると善玉コレステロールまで低下してしまう。穏やかな制限を長く続けるようにする。時には空腹感を味わって。
●バランスのよい食事を心がける・・・エネルギー制限をするとカルシウム、鉄、ビタミンなども不足しがちに。栄養素を偏りなくきちんと摂るよう心がける。

運動も同様に継続できるかが鍵。どの運動が優れているというものではありませんので、心から楽しめるものを見つけ、自分に合った活動的な生活スタイルを実践しましょう。適度な運動は、ストレスケアにも有効です。

注意信号が出たら、生活習慣で改善

【塩分にも注意】
メタボリックシンドローム診断基準の1つである血圧上昇は肥満や塩分の摂り過ぎも原因となります。また、濃い味つけの料理を好む人は、必要以上に食欲を刺激されてご飯などの糖質を多く摂りがちに。その結果、エネルギー摂取過剰になり、肥満を増進させます。健康のための1日の塩分摂取の目標量は、成人男性8.0g未満、成人女性7.0g未満(2015年版・日本人の食事摂取基準)。メタボリックシンドロームのリスクを避けるためにも、塩分に気をつけた食生活を心がけましょう。

塩分に注意

メタボリックシンドロームの予防・改善は、家族みんなのチーム戦です。無理をせずに励まし合いながら取り組んでいきましょう。


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