子育て世代に、笑いと元気を!芸人からシングルファーザーの会社員を経て確立した新ジャンル「子育てインフルエンサー」木下ゆーきさん

子育て世代に、笑いと元気を!
芸人からシングルファーザーの会社員を経て
確立した新ジャンル「子育てインフルエンサー」


「子育てインフルエンサー」木下ゆーきさんは、子育ての大変さを笑いに替えた「おむつ替え動画」がネット上で話題となり、一躍有名人に。SNSをはじめ、メディア出演、書籍、企業のタイアップなど、その仕事は多岐にわたっています。


【木下ゆーきさん】プロフィール紹介。笑いを交えた子育て情報を発信するSNSは、総フォロワー数100万人超。SNSをはじめ、メディア出演、雑誌、CMなど多岐にわたり活躍中。

木下ゆーき(きのした・ゆーき)

1989年、愛知県生まれ。タレント・子育てインフルエンサー。笑いを交えた子育て情報を発信するSNSは、総フォロワー数100万人超。元シングルファーザー。現在11歳、5歳、2歳の3児を育児中。チャイルドカウンセラー資格保有。NHK『すくすく子育て』出演の他、雑誌、CMなどでも活躍。
https://kinoshitayu-ki.website/

もともとはお笑い芸人として東京で活動していた木下さんですが、一度は芸能界を諦め、帰郷して会社員になりました。シングルファーザーとして子育てに奮闘していた時期もあります。
現在は家族と共に、広島県福山市に移住。全国を飛び回り、自ら確立した「子育てインフルエンサー」の仕事と家庭生活とをバランスよく満喫している木下さんに、人生の波を乗りこなす秘訣をうかがいました。


「パパインフルエンサー」ではなく「子育てインフルエンサー」


【木下ゆーきさん】「パパインフルエンサー」ではなく「子育てインフルエンサー」は、僕がつくった新しいジャンルの肩書き。子育ては「笑ってないとやってらんない!」くらい孤独で忍耐の連続。

子育て情報の発信は2018年頃から始めましたが、フォロワーさんが増えてきた時、とある取材で「パパインフルエンサー」と呼ばれたんです。それに対して「ん? 子育てって、男女関係なくするものだよな」と違和感を覚えました。そこで、「“子育てインフルエンサー”でお願いします」と伝えて、そこからですね。だから「子育てインフルエンサー」は、僕がつくった新しいジャンルの肩書ということになります。

発信のきっかけは、ネットニュースで目にした、とある虐待事件でした。生後11カ月の赤ちゃんを殺害した母親が逮捕されたという見出しを見た時は、「なんてひどい母親なんだ」と思いましたが、続報を見て驚きました。亡くなった赤ちゃんは、三つ子だったのです。初めての育児で、ミルクの回数は1日24回。1時間の睡眠すら連続してはとれない。役所にも相談していたそうですが、事件は起こってしまいました。虐待=ひどい親、そう考えがちですが、要因の1つに、産後うつや育児ノイローゼがある場合もある。このニュースで、いろんな状況を考えなければいけないな、と思うようになりました。

僕もかつて、夜泣きがひどかった息子を抱いて、真っ暗な部屋の中を2時間歩き回り、やっとのことで寝かしつけた後にSNSを開いたら、独身の友達が居酒屋でビールジョッキを片手に笑顔の写真を投稿していて、孤独感にさいなまれたことがありました。同じように子育てで思い悩み、苦しんでいる人に、SNS上でクスッと笑える何かを提供できたらいいな、という思いから、子育て情報の発信をじわじわと始めて、「おむつ替え動画」をきっかけに、たくさんの人に僕のことを知っていただくことができました。


子育ては「笑ってないとやってらんない!」


子育てって、孤独で、忍耐の連続です。僕も「笑いに変換するぞ」と意識的だったわけではなくて、もう笑ってないとやってらんない! というくらい大変なので、諦めて楽しんじゃっている……というほうが正しいかもしれません。

頑張ったのにうまくいかなかった時って、一番ストレスがたまりますよね。
例えば食事中に、テーブルから自分の箸が転がって落ちそうになることってあるじゃないですか。とっさに伸ばした手に箸が当たったことによって、完全に落ちる。腹が立ちますよね。だから僕、そんな時には、あえて手を出さずに落ちるのを見届けるようにしています。後で拾いながら、「落ちたんじゃないぞ、僕によって落とされたんだぞ」って思う。そうするとちょっと気が楽になったりして(笑)。

子どものイヤイヤ期もそう。無理にご飯を食べさせようとしたら、お互いにワーッとなって、余計に時間がかかります。だからそこで、「嫌だよね、食べるの。分かるわ、お父ちゃんもある、食べたくない時。今、何したい? あ、動物クイズやる? 」って提案したりして。
「チュウチュウって鳴く動物なんだ?」「ネズミ!」「正解。ネズミさんのご飯はこれくらいだよね」ってスプーンを口に運ぶと、パクッと食べる。

こんな一見遠回りに見えることが、近道だったりする。これも一種の諦めからくるものですけれど、子育てこそ、急がば回れ、なんですよね。


子育ては人それぞれ、認め合うことが大切


【木下ゆーきさん】子育ては人それぞれ、お互いに認め合うことが大切。どの瞬間も人生にとって大きな意味がある。逃げたり、迷ったりすること恐れなくていい。

子育てをしていると、子どもの頃の忘れていた記憶や感情がフラッシュバックしてくることがあります。
先日、長男が、「あ〜、気をつけなくちゃ、月曜日」って言うんですよ。なんで? って聞いたら、「金曜日の5時間目に席替えしたから、月曜日はもとの席に座っちゃいそう」って。ああ、そうだった! 僕も小学生の頃、よくそう思っていたな〜とか(笑)。本当に、些細なことですけど、こういう記憶が呼び覚まされると、なんだかとても嬉しくなる。子育てをやっていてよかったと思います。

子育ては、どこまでかかわるかで、感じ方が変わるものだと思います。
駄菓子屋さんに行っても、お金を渡して外で待っていたら何も変化はありませんが、一緒に店の中まで入って駄菓子を見ると、懐かしさがあふれてくる。このお菓子こうやって食べたな〜とか、子どもと一緒になって楽しくなる。

僕はこういうことを好きでやっているわけですが、もちろん、誰もがそこまでやる必要はない。おっくうだなと思う人は、無理をしないことです。自分ができる範囲で、ストレスにならない程度でいいと思います。

とかく子育ての情報は、ネット上でも炎上しがちです。SNSは自分の物差しで物事を簡単に意見できる媒体なので、極端な声が1つ上がると、それに共感する人たちの声が雪だるま式にどんどん集まってしまう。
だから僕も、そういう部分は気をつけているし、動画投稿でも注意している部分はあります。

ただ、子育ては100人子どもがいれば100通りあるわけで、他人がとやかく言うべきものじゃないとは思うんですよ。それぞれの親子関係、子育てへのかかわり方を、お互いに認め合うことが大切なんじゃないでしょうか。


逃げることを恐れなくていい


名古屋市出身の僕は、高校1年生の頃、大道芸人として人前に立ち始めました。お笑い芸人を目指し、大学2年生の時に上京して、芸能事務所の養成所へ。しばらく芸人として活動をしていましたが、結婚して長男が生まれ、その後、離婚をきっかけに息子を連れて実家に戻りました。一時期は、IT系の会社に勤務。その仕事を通じて現在の妻と知り合い、再婚して娘が生まれました。この娘のおむつ替えを動画シリーズとして投稿したところ、SNSでバズってインフルエンサーになり、今に至ります。

高校ではバレー部に所属していましたが、大道芸をやり始めてバレーボールをやめ、お笑いも道半ばで結婚もうまくいかなくなり、シングルファーザーになって……振り返れば、その都度、「いろんなことに挑戦している」自分と「あらゆることから逃げている」自分が両方いました。でも、そんなふうに「逃げてきた」からこそ、たどり着いた道もあるんじゃないかと思っています。

大道芸をやっていたから、トークショーで臨機応変に動くことができる。お笑いをやっていたからコミュニケーション力があって、IT会社でも重宝されましたし、ネタづくりのノウハウは動画制作に活かせていると思います。また、シングルファーザー時代があったからこそ、ワンオペ育児、働きながら子どもを育てる大変さが分かる。男性目線・女性目線、両方を味わうことができたから、この仕事に結びついている。

だから逃げたり、迷ったりすることを恐れずに。どの瞬間も人生にとって、大きな意味があると思いますね。


必要とされている場所で、目の前のことに全力で取り組む


【木下ゆーきさん】今が楽しくなければ意味がない。「今が楽しい!」が、ずっと続いていけばいいな。これからどんな方向に進むにしても、アンテナは常に立てておきたい。

「子育てインフルエンサー」としての将来のビジョンは? と聞かれることがよくあります。
実は自分でも分からないんですよ。とはいえ、焦りもないです。
必要としてもらえる場所で、自分ができる最高のパフォーマンスを続けていれば、道は開けていくのかな、と考えています。目標を定めて頑張ることも大事ですが、そこに固執してしまうと、他の道が見えなくなるような気もします。

子どもの頃は、「もっと将来のことを考えなさい」って言われたものですけど、今が楽しくなければ意味がない。「今が楽しい!」が、ずっと続いていけばいいな、と思います。今は「子育てインフルエンサー」でやっていますけど、数年後は「反抗期インフルエンサー」をやっているかも。どんな方向に進むにしても、アンテナは常に立てておきたいです。

ただ1つ言えるのは、来年も再来年も、夏の初めには、簡易テントの折りたたみで苦戦するだろうな。それは何年経っても変わらないだろうなって。これが子育てあるあるですよね(笑)。


【木下ゆーきさん】今が楽しくなければ意味がない。「今が楽しい!」が、ずっと続いていけばいいな。これからどんな方向に進むにしても、アンテナは常に立てておきたい。

取材・文/山野井春絵 写真/後藤渉 ヘアメイク/冨田愛美 スタイリスト/江口由利子