発熱

発熱

発熱は、体の異常を知らせる身近なサインです。ただし、平時の体温(平熱)は人によって異なるため、発熱と呼べる体温にも個人差があります。まずは自分の平熱を正しく把握した上で、発熱を確認することが大切です。

監修プロフィール
河北ファミリークリニック南阿佐谷院長 しおた・まさよし 塩田 正喜 先生

2007年 秋田大学医学部卒。淀川キリスト教病院にて初期研修、河北家庭医療学センターにて後期研修を行う。亀田ファミリークリニック館山 FDフェローシップ修了。日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医・プログラム責任者。日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医・プログラム責任者。家庭医療を軸に、地域の中で内科、小児科、老年医学、緩和ケア、リハビリ、在宅医療等を幅広く提供している。

発熱を知るために、まずは平熱について知っておこう

私たちの体温は常に一定の温度に保たれており、これを「平熱」といいます。一般的に平熱は36.5℃±0.5℃くらいを指しますが、個人差があります。また、以下のように様々な要因でも変動します。

●平熱の主な変動要因

①日内変動(にちないへんどう)
平熱は脳にある「体内時計」によってコントロールされており、1日の中でも変動します。これを日内変動といい、通常は早朝から午後にかけて約0.5℃程度上昇します。午前6時が最も低く、午後4~6時に最も高くなる※1というのが一般的です。

※1 Mackowiak PA, et al. A critical appraisal of 98.6F, the upper limit of the normal body temperature, and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich. JAMA. 1992:268(12): 1578-1580. 

日内変動(にちないへんどう)

②月経周期
排卵前の2週間は朝の体温が低く、排卵と共に約0.5℃上昇して、月経が起こるまでその温度を維持することが知られています。月経のある女性はこのように平熱が変化するので、周期ごとの体温を把握しておくと、発熱かどうかを確かめる時に役立ちます。なお、月経周期による体温の変化は微細なため、把握したい場合は一般の体温計ではなく、小数点以下第2位まで測れる「基礎体温計(婦人体温計)」を使用し、舌下で計測します。

月経周期

③加齢
加齢による基礎代謝の低下などにより、高齢者は平熱が低くなる傾向にあります。ただし、肥満は体温の上昇に関係する※2ため、肥満(BMI 25kg/m2以上)の高齢者の場合は、必ずしも体温が低くなるとは限りません。

※2 Obermeyer Z, et al. Individual differences in normal body temperature: longitudinal big data analysis of patient records. BMJ. 2017 Dec 13;359:j5468. doi: 10.1136/bmj.j5468.

●自分の平熱を正しく把握しよう

平熱は、年齢、性別、月経周期、基礎疾患や生活環境など様々な要因に影響を受けて、個人差が生じます。発熱と判断するのに一般的な平熱を基準とするのではなく、「自分の平熱」を日内変動も含めて把握しておくことが大切です。

新型コロナウイルス感染症でも、発熱は感染の重要なサインの一つです。発熱を見逃さないためにも、まずは自分の平熱を把握することから始めましょう。平熱の正しい測り方は、「お役立ちコラム」で紹介しています。

発熱とは、何度以上のこと?

では、発熱は何度以上のことを指すのでしょうか?日本の感染症法の届出基準では、「37.5℃以上を発熱、高熱は38℃以上とする」と定義されています。ただし、これまで述べてきた通り、平熱には個人差があります。正しく計測した上で平熱が低い人の場合は、平熱よりも1℃程度体温が高ければ、発熱の目安としてよいでしょう。

また、発熱には原因があります。平熱よりも体温が高い場合、「体温の上昇以外に、体にどのような症状があるか」と併せて発熱を判断します。


発熱について知る


発熱の原因

発熱には、狭義の「発熱」と「高体温」がある。その違いを知っておこう

一般的な「発熱」の中には、狭義での「発熱」と「高体温」とがあります。その違いについて知っておきましょう。

●発熱

発熱とは、脳の視床下部にある「体温中枢」で調節された体温上昇のことを指します。体温が高いほうが体に入ってきたウイルスや病原菌などを撃退しやすいため、脳が調節して発熱しているのです。例えば、かぜなどで熱が上がると寒気を自覚し、布団に入って体をさらに温める行動を取らせる……というように、さらなる熱の調節行動を行いやすくしています。

●高体温

気温の過度の上昇、うつ熱(服の着せ過ぎ、布団のかけ過ぎ、過剰な暖房)や脱水などにより、体温中枢とはかかわりなく、調節能力の限界を超えて体温が上昇してしまった状態のことをいいます。熱射病や薬剤熱、内分泌疾患などが原因となり、命にかかわる危険性があります。

発熱には、狭義の「発熱」と「高体温」がある。その違いを知っておこう

急性の発熱の原因とは?

急性の発熱(高体温以外)には多くの原因がありますが、そのほとんどがウイルスや細菌に感染して起きる「感染症」による発熱です。特にウイルス性上気道炎(いわゆるかぜ)が圧倒的に多く、他にも感染性の胃腸炎や肺炎、尿路感染症などが身近な発熱の原因となります。また、インフルエンザや新型コロナウイルスのように一時的に流行が集中する感染症も、発熱の原因として注意が必要です。

このように発熱は様々な感染症が原因となるため、せきや下痢など他の症状と併せて原因を探っていきます。

まれに原因不明と思われる発熱が続き(いわゆる不明熱)、がんや膠原病などの疾患がその原因となっていることもあります。多くの場合、これらの疾患は発熱して数日では解熱しないため、発熱が続く場合には詳細な検査が必要になります。発熱が続いたら必ず受診するようにしましょう。ただし、急な発熱が起こった最初の時期にそれらを心配する必要はほとんどありません。


発熱の症状

発熱には原因があるので、「発熱以外の症状」の確認を

発熱にはほとんどの場合、原因となる疾患があり、他の症状が同時に現れることが多いものです。発熱の症状が現れたら、他にかぜ症状(のどの痛み、鼻水、せき)、腹痛や下痢、膀胱炎の症状(排尿時の痛み、残尿感)、体に新しい発疹(ブツブツ、水疱)などが出ていないか、関節が腫れていないかなどを確認しましょう。

また持病のある人は、普段から、かかりつけ医と「こういう時は受診したほうがよい」という症状を確認しておくようにしましょう。


乳幼児・高齢者の発熱で、注意が必要な症状は?

症状が自分で伝えられない乳幼児や、平熱が低く、症状も出にくい高齢者は、以下のような様子を確認してすぐに受診しましょう。

●3カ月未満の乳児で38℃以上の発熱は早めに受診

3カ月未満の乳児で38℃以上の発熱は早めに受診

3カ月未満の乳児で38℃以上の発熱がある場合、たとえ元気そうでも必ず早期に受診してください。入院が必要となる場合が多くあります。

●乳幼児は、「水分が摂取できない」「ぐったりしている」「強い症状」がある場合はすぐに受診

自分で症状を話すことができない乳幼児の場合、水分が摂れるか、見た目がぐったりしていないか、強い症状がないかなどをまずは確認します。以下のような様子がある場合、早期に受診が必要です。
(1)水分が摂取できない

水分が摂取できない

・半日程度水分が全く摂れない

(2)極端にぐったりしている

極端にぐったりしている

・目線が合わない
・ぐったりして周囲に興味を示さない
・極端に動かない  など 


(3)極端に強い症状がある

極端に強い症状がある

・ゼイゼイ音がする(喘鳴:ぜんめい)
・肩で息をしている
・呼吸が普段よりひどく早い
・せき込んで吐いてしまう
・顔色が蒼白(そうはく=血の気が引いて青白い) など

●高齢者は体調が急に大きく変わった場合、発熱がなくても受診

高齢者は平熱が低くて発熱が分かりにくかったり、肺炎でもせきをしないなど、症状が出にくかったりすることが知られています。そのため発熱や症状はなくても、次のような状態は「発熱性疾患のサイン」であることがしばしばあります。
・急に食べなくなった
・急に認知症が進んだ
・急に動けなくなった など
このように、体調が急に大きく変わった場合は発熱がなくても受診しましょう。

高熱でなくても、すぐに受診するべき危険な症状

発熱は疾患から生じる症状の1つに過ぎないため、体温の高さだけで緊急度を判断することはあまりありません。37.5℃が39℃より軽症とは限らないのです。そのため、高熱かどうかにかかわらず、症状や様子を見て、以下の症状がある場合はすぐに受診してください。

(1)呼吸が苦しい
・トイレに行く程度の移動でも呼吸が苦しくなる
・肩で息をしている など
(2)低血圧
・ふらついて立ち上がれない
・家庭にある血圧計で測った時に、普段より明らかに血圧が低い など
(3)意識の異常

高熱でなくても、すぐに受診するべき危険な症状

・意識がはっきりせず、ぼんやりしている
・けいれん
・普段と明らかに違う意味不明な言動がある など

(4)今まで経験したことがないような強い痛み

高熱でなくても、すぐに受診するべき危険な症状

・頭痛
・腹痛
・背中の痛み など

(5)布団をかぶっても止まらないガタガタとした震え(悪寒・戦慄)
(6)発熱が4日以上続く
(7)食事や水分の摂取ができず、尿が出ない

発熱時、早めに受診したほうがよい人は?

妊娠中や持病があるなど、以下のような人は重症化しやすかったり、複雑な病態だったりする場合があります。高熱かどうかにかかわらず早めに受診しましょう。
・妊娠している
・1カ月以内に海外渡航歴がある
・入院や手術を受けた直後である
・がんの治療を受けている
・免疫を抑える薬を使っている
・持病がある(特に糖尿病や心臓の病気など)


発熱の対策

覚えておきたい、発熱時の上手な受診の仕方

発熱と何らかの症状があって病院を受診することは多いものです。病院を受診する際、スムーズな診断につながるよう覚えておきたいことを紹介します。

●受診時の持ち物・服装

<持ち物>

かかりつけ医ではなく、初めての病院やクリニックに受診する場合は、お薬手帳、これまでの採血の結果や健診結果などがあれば持参しましょう。また、持病がある場合はその一覧などがあるとよいでしょう。

受診時の持ち物・服装

<服装>

胸部の聴診や診察台での腹部の診察時に妨げとなるので、上下がつながったワンピースや脱ぎにくい靴は避けましょう。

●医師への上手な症状の伝え方

あらかじめ、次のように自分の症状を伝えやすく整理しておくと、スムーズに受診できます。
 ・何の症状があるのか
 ・それぞれの症状はいつから始まったか
 ・発熱は続いているか(1日に1回でも熱が出ていれば発熱が続いているとみなすため、日内変動は詳細でなくてよい)
・ここ数日で特に悪化している症状や目立つ症状は何か
・今の困りごと、不安なことは何か

加えて、以下の項目に該当する場合は、医師に伝えましょう。
・持病と、内服している薬
・アレルギーの有無
・周囲で流行している感染症(あれば)
・海外渡航の有無

医師への上手な症状の伝え方

●「新型コロナウイルス感染症」が疑われる時は

「症状が強い人」「重症化のリスクがある人(高齢者・持病がある・妊婦など)」は積極的に受診してください。その際、病院・クリニックによって発熱外来の形は様々です。受診をする前にホームページでの確認や電話連絡を必ず行いましょう。

若い方で持病がなく、自宅に置き薬や市販薬があるなど自力で症状に対応でき、それほど体調も悪くない方は、市販または行政が配布する抗原検査キットの活用なども検討してください。

今は受診せずに検査を行い、その結果をもって行政のサポートを受けることも可能です。

●「インフルエンザ」が疑われる時は

インフルエンザの検査が陽性に出るのは、発症から12~24時間程度経過した後です。発症後、すぐに受診すると、感染していても検査が陰性に出ることがあり、発熱から少し時間をおいてから受診するほうが適切な検査結果が得られやすくなります。

ただし、そもそも全てのインフルエンザの患者に抗ウイルス薬の使用が必要というわけではありません。また、迅速検査での診断が全ての患者に必須ということもありません。若くて持病のない方は、以下のホームケアの基本に留意しながら、自宅で様子を見ることもできます。

ただし、乳幼児、高齢者、妊婦、施設入居者、持病のある人など重症化の可能性のある方と、症状の強い方は受診しましょう。


発熱時に知っておきたい、ホームケアの基本

私たちの体は、体温を上昇させたほうがウイルスや病原菌と戦いやすくなります。そのため脳の「体温中枢」が調節して体温を上げているのが「発熱」です。つまり、必要があって体は発熱しているということ。そのため、熱が出たらすぐに冷やすのではなく、体温上昇の段階に合わせたケアが大切です。そして、熱が出たらまずは体を休めるのが基本です。

●寒気(さむけ)がある時は暖め、顔が赤くなり、手足が温かくなったら熱を逃がす

発熱初期の寒気や震えは、「体温中枢」が設定した体温まで上昇させるために起こります。そのため、寒気を感じ、手足が冷たい間は布団に入り、暖かくしましょう。逆に、顔が赤くなって手足も温かくなり、寒気がなくなったら、熱が上がりきった証拠です。熱が上がりきったら、今度は室温や掛布団などを調整して熱がこもらないようにしましょう。

発熱時に知っておきたい、ホームケアの基本

●とにかく体を休めることが大切。入浴は体力の消耗を避けて

発熱した時は、とにかく体を休めることが基本になります。体調が悪い時は、必ずベッドで休むという必要はありませんが、外出はせずに家でゆっくりと過ごしましょう。

また、発熱中でも入浴は構いませんが、体力の消耗を避けるために、短時間かシャワー浴程度にしましょう。

●発熱時の食事と水分摂取

発熱時は、脱水を避けるために、食欲がなくてもこまめに水分を摂りましょう。基本的には本人が食べやすいもので構いませんが、ゼリー、お粥、豆腐など、食物繊維や脂肪分が少なく、消化のよいものにして、胃に負担をかけないようにしましょう。手軽にエネルギー摂取と水分補給のできるゼリー飲料もおすすめです。

●発熱時の食事と水分摂取

下痢・嘔吐を伴う場合や、食欲がなく食事が進まない場合などは、水分と共に体の電解質も失われてしまうため、塩分・糖分を含む経口補水液などを積極的に利用しましょう。

●解熱鎮痛剤を使うのはどんな時?

●解熱鎮痛剤を使うのはどんな時?

解熱鎮痛剤は熱と、それに伴う症状(頭痛・筋肉痛・関節痛など)を和らげてくれます。発熱やそれに伴う症状のせいで食事が摂れない、うまく眠ることができない……などの苦痛な症状が生じている場合には解熱鎮痛剤を用いて緩和しましょう。

逆に、熱があっても本人が困っていない場合は、特に解熱鎮痛剤を使う必要はありません。

●看病する人の感染対策(感染症の場合)

かぜのような気道感染症(せきや鼻水の出る感染症)の場合、次のようなことに気をつけましょう。
・可能であれば、患者とそれ以外の家族の過ごす空間を分けましょう。
・部屋の換気はできるだけこまめに行いましょう。
・看病の間は、患者も看病する人も、お互いにマスクをつけましょう。
・看病の前後でしっかりと流水・石けんで手を洗いましょう。
・可能であれば看病する人を1人にするなど、限定しましょう。


お役立ちコラム

自分の平熱を知っておこう

自分の平熱を把握しておくことは、発熱時など体の異常を知る時の大切な手がかりとなり、体調管理に役立ちます。1日のうちでも変化する(日内変動)ため、時間帯ごとに測っておくとよいでしょう。

●平熱の測定方法

体調のよい時に、「起床時」「午前」「午後」「夜」の計4回体温を測り、この体温値を時間帯ごとの平熱として覚えておきます。ただし、食後すぐは体温が上がるため、食前や食間に検温するようにしましょう。同様に体温が上がる入浴後、運動後も避けましょう。

また、平熱の測定は1日だけでなく、体調のよい時に、日をあけて何日間か測定してみると、さらに正確になります。

●正しい熱の測り方(腋下体温計の場合)

わきで体温を測る場合は、必ず「腋下体温計(わき式体温計)」を使用し、汗をかいている場合はしっかり拭き取ってから測ります。

①電源を入れ、わきの下のくぼみの中央に体温計の先端を当てます。この時、体温計の先を下から上に向け、押し上げるようにしてわきに挟みましょう。体温計が上半身に対して30度くらいの角度になるようにし、体温計の表示部分は体側にくるようにします。

平熱の測定方法

②わきが密閉されるようにしっかり閉じます。ひじを脇腹に密着させ、手のひらを上向きにするとわきが閉まります。もう片方の手で腕を軽く押さえて体に密着させます。
電子音がなるまで体温計や体を動かさないようにしましょう。

平熱の測定方法

子どもの体温を測る時は膝に座らせて、腕の外側から優しく押さえます。

平熱の測定方法

この記事はお役に立ちましたか?

今後最も読みたいコンテンツを教えてください。

ご回答ありがとうございました

健康情報サイト