痛風

痛風

その名が知られているわりには、原因や症状を意外と詳しく知らない人も多い痛風。シーザーやアレキサンダー大王も痛風であったのは有名な話ですが、日本では明治時代までは痛風患者がほとんどいなかったとされます。しかし、その後の食生活を含めた生活習慣の変化のために、特に最近50年間は増加の一途といわれています。2019年の国民生活基礎調査からは推定患者数が125万人以上と算出され、予備軍を含めるとその数は1000万人以上と考えられています。さらに、この数年で新型コロナウイルスの感染対策としてステイホームやリモートワークが広がったことは、多くの国民の生活習慣に影響を及ぼしており、患者数がますます増えることも懸念されます。

痛風は主に中年男性に起こりやすい疾患ですが、20代でも珍しくありません。海外では高齢者での増加も注目されています。今回は、痛風の原因や症状、その対処や予防法をご紹介します。

監修プロフィール
公益財団法人結核予防会複十字病院 膠原病リウマチセンター長 たにぐち・あつお 谷口 敦夫 先生

1983年、三重大学医学部卒業後、東京女子医科大学附属リウマチ痛風センター助手、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員、東京女子医科大学膠原病リウマチ内科教授などを経て現職。一般社団法人日本痛風・尿酸核酸学会理事、日本リウマチ学会指導医・リウマチ専門医、日本脊椎関節炎学会理事。著書に『完全図解 痛風・高尿酸血症のすべて』『尿酸値にホントにいいこと帳』(ともに主婦の友社)など。

痛風について知る


痛風の原因

血液で増え過ぎた尿酸が関節で結晶化し、激しい痛みの痛風発作を起こす

血液で増え過ぎた尿酸が関節で結晶化し、激しい痛みの痛風発作を起こす

白血球が尿酸の結晶を取り除こうと攻撃する→白血球から炎症を起こす物質が放出され、激痛が起こる

痛風発作の原因になる尿酸は、核酸(DNAやRNAなど)の成分でもあり、エネルギー源としても使われるプリン体が肝臓で代謝されてつくられます。どんな人の体の中にも一定量あり、主に尿に溶けて体外に排泄されますが、体内で尿酸が過剰につくられたり、うまく排泄されなくなったりすると、血液中の尿酸が正常値(7.0㎎/㎗以下)を超えて「高尿酸血症」になります。高尿酸血症になってもすぐに痛風が起こるのではありません。しかし、高尿酸血症の程度が強かったり、高尿酸血症が長く続いたりすると、尿酸が主に関節で固まって結晶化します。最近では関節超音波という方法を用いて、関節にたまった尿酸の結晶を見ることもできます。このような結晶が何らかのきっかけで剥がれ落ちると、白血球が「体内に異物が入ってきた」と攻撃し、炎症を起こすいろいろな物質を放出し、激しい痛みを起こします。この状態が痛風発作です。高尿酸血症のおよそ10人に1人が痛風になると考えられています。


痛風を引き起こす「危険因子」とは?

ある疾患を起こしやすくするような状態や行動を危険因子と言います。痛風は高尿酸血症を経て発症しますので、尿酸値を上昇させる原因が痛風の危険因子になります。痛風の危険因子には、「肥満」「アルコールの摂取」「果糖の摂取」「プリン体の摂取」などが挙げられます。

痛風の危険因子①肥満
肥満は、皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に分かれます。まず皮下脂肪型肥満は、腹筋の外側につく皮下脂肪が多くたまり、下腹部やおしり、太ももにつきやすいため、「洋なしタイプ」と呼ばれています。このタイプは尿酸の排泄量が低下してしまう結果、尿酸値が高くなります。一方の内臓脂肪型肥満は、上半身から腹部の内臓周りに脂肪が多くたまる肥満で、「りんごタイプ」と呼ばれています。内臓脂肪が多いと、尿酸が過剰に作られ、尿酸値が高くなります。いずれの肥満タイプにおいても尿酸値が高くなるので、肥満の程度が高ければ尿酸値も上昇しやすいといえます。

痛風の危険因子②アルコールの摂取
酒類の中でもビールは、摂取量の増加と痛風の発症しやすさが関係することで知られています。ビールは酒類の中ではプリン体を多く含みますが、プリン体をほとんど含まない蒸留酒でも痛風が起きやすいことが分かっています。これはアルコールそのものに血清尿酸値を上昇させる作用があるからです。アルコールには尿酸の生成を促すだけでなく、過剰に摂取すると尿酸の排泄を抑える作用もあります。ただし、グラス1杯程度のワインは痛風の発症しやすさとは関連しないことが分かっています。

痛風の危険因子③果糖の摂取
果糖は果物などに含まれる糖分の一種で、摂取すると代謝される過程で尿酸が増えやすいことが分かっています。果糖はいろいろな甘味飲料に含まれているため、甘味飲料を摂取し過ぎると血清尿酸値も上昇しやすくなります。砂糖はブドウ糖と果糖が結合したものなので、砂糖の摂り過ぎも尿酸値を上げる原因に。ただし、生果実から果糖を摂取する場合は過剰にならなければ問題はあまりないようです。生果実に含まれる繊維分やビタミンCは尿酸値を抑えるように作用しますので、その影響が考えられます。

痛風の危険因子④プリン体の摂取
尿酸はプリン体から作られるので、内臓類などプリン体をたくさん含む食品を摂取しすぎると血清尿酸値は上昇します。プリン体は核酸にも含まれることを説明しましたが、核酸は細胞の核にあるため、食べ物にたくさん細胞が含まれていると、プリン体もたくさん含まれることになります。そのため、肉や魚介類を摂取し過ぎると尿酸値が上昇します。


痛風の症状

痛風は突然足の親指の関節が赤く腫れ、激痛が走る

痛風の「風」は、風疾や中風の「風」と同じで「病気」という意味です。つまり「痛風」は「痛い病気」ということになります。痛風発作は強い痛みが特徴で、痛風発作を起こしていると他人が床を歩く振動でも痛みが強くなる、という人もいます。そんな痛風の症状の特徴や痛みの経過を紹介します。

<痛風発作の特徴>
●7割の人が足の親指の付け根に発症
●痛みは1ヶ所のみ(2ヶ所以上に発症することは珍しい)
●足の親指以外は、ひざ・くるぶし・足の甲・アキレス腱の付け根に発症
●2度目の発作は半年~1年後

<痛風発作の進行>

痛風発作の進行

●予兆/痛風発作の半日~1日前
主に寝る前に患部に「チクチクする痛み」「むずむずとした違和感」「軽い捻挫のような痛み」といった症状が現れる。

●痛風発作当日~2日目
強烈な痛みが起こり、患部が赤く腫れて熱をもつ。痛みや腫れの症状は24時間以内にピークに達する。深夜から早朝にかけて痛みが起こることが多い。

●痛風発作から2~3日目
痛み、腫れ共に徐々に和らいでいく。

●痛風発作から7~14日目
痛み、腫れ共に自然に消えていく。

●痛風発作から半年後~1年後
治療をせずに放置すると、多くの場合再発する。数年〜10年程度の経過で関節炎が慢性化し、皮下に尿酸の結晶の塊(痛風結節)が生じるようになる。


痛風の対処

痛風発作が起こったら医療機関へ

痛風発作が起きたらできる限り早く医療機関(内科、整形外科など)を受診しましょう。痛風の痛みは14日以内に消えるといっても、痛みが強いので社会生活に影響します。また14日を超えて痛みが続くこともあります。薬物治療が早ければ早いほど、痛みの軽減や回復を早めることができます。医療機関では痛風発作の治療薬が処方されますが、治療薬は合併症や併用薬を考慮して選択します。


覚えておこう!痛風発作の「応急3ステップ」

すぐに医療機関を受診できない場合もあると思います。そんなときは以下の3つのステップが役に立つでしょう。

覚えておこう!痛風発作の「応急3ステップ」

<ステップ1>
痛風の炎症を抑えるために氷などで患部を冷やす

<ステップ2>
患部に負荷をかけない。重い靴やきつい靴はNG。できれば横になって、足を心臓より少し高くしておく。

<ステップ3>
禁酒(アルコールは全てNG)。動物性脂肪を多く含む食品(霜降りの肉など)も避けた方がよい。


関節に溜まった尿酸の塊を減らすには

痛風の発作が治まったとしても、それは痛風の症状が一時的になくなっただけで、関節にたまった尿酸の塊がなくなったわけではありません。血液中の尿酸値も高いままで、時間がたつうちに、関節の中にはまた尿酸の結晶が増えてきます。結晶を減らすには、尿酸降下薬による薬物治療を行い、血液中の尿酸値を6.0mg/㎗以下に下げる必要があります。

尿酸降下薬をのみ始めても、関節の中に蓄積した尿酸の塊が減るには時間がかかります。一時的に尿酸値が下がったからといって、自己判断で薬の服用を中断するとまたふりだしに戻ることも。とはいえ、必ずしも一生服薬しなければいけないということでもありません。服薬と同時並行で食事内容の見直しや飲酒量のコントロールなどで生活習慣の改善を続ければ、尿酸値が低下しやすくなり、薬の量を減らしたり、服用をストップしたりすることも可能でしょう。尿酸降下薬をどのくらいの期間続ければよいかについては、まだきちんとしたことはわかっていませんが、数年間にわたって血液中の尿酸値が安定していて、生活改善も順調であれば、医療機関で薬の減量や中止について相談してもよいでしょう。生活習慣の改善については痛風の予防のところで説明します。


痛風の痛みが消えたからといって安心はできない

痛風発作が治まっても、高尿酸血症が続いていると関節の中に尿酸の結晶が溜まり、痛風発作が再発します。痛風発作を繰り返すうちに14日では治らなくなり、慢性化したり、痛風結節が生じたりするようになります。そうなると、関節にダメージが残ってしまう場合があります。

高尿酸血症はメタボリックシンドロームや腎機能の低下(慢性腎臓病)と深い関係があるため、痛風でもこれらの合併症が問題になります。痛風は高血圧、脂質異常症を合併しやすいことが分かっています。さらに、尿路結石の合併も増加しますが、尿路結石もメタボリックシンドロームと関連することが知られています。また、尿酸値を下げるよい治療薬がなかった頃は、痛風の患者さんの多くが腎機能障害を合併していました。さらに痛風に合併しやすい脂質異常症なども加わり、心臓・脳血管系にも悪影響を及ぼしかねません。痛風発作の痛みが消えたからといって安心せずに、生活習慣の改善を行い、合併症の有無を調べ、適切な治療を受けることで再発や合併症の防止につなげましょう。

一方、尿酸値が基準値を超えた高い状態(尿酸値が7.0㎎/㎗を超える)でありながら、痛風発作を起こしたことがない場合を「無症候性高尿酸血症」といいます。健康診断などでよく指摘されるものです。高尿酸血症とメタボリックシンドロームは密接に関連しますので、高血圧や脂質異常症、糖尿病、脂肪肝の有無や腎機能障害がないかなどもチェックし、生活習慣の改善に努めることが大切です。


女性の痛風は少ない。しかし閉経後は尿酸値が上がりやすい。

痛風患者の95%以上は男性といわれており、日本で痛風が増えているのも男性に限った話です。これは、女性は「エストロゲン」という女性ホルモンによって腎臓からの尿酸の排泄が促進されるため、尿酸値の平均が男性の方が高いからです。ただし、女性も閉経後には女性ホルモンの分泌が低下するため、閉経前よりも尿酸値が上がりやすくなります。男性よりはるかに少ないとはいえ女性にも痛風は起こりますので、該当するような症状があれば医療機関を受診しましょう。


痛風と間違えやすい「偽痛風」とは?

「足の関節が突然痛くなった」「最近膝の関節が痛い」などの症状で、ご自身の痛風を疑った経験がある人もいるのではないでしょうか。「偽痛風」と呼ばれる病気をはじめ、痛風に似た症状の病気が多くあるため、どのような病気が痛風の症状と間違いやすいのか、その特徴を知っておきましょう。

●偽痛風
ピロリン酸カルシウムという結晶が関節痛を起こす病気。この結晶は加齢と共にできやすくなるので、高齢者に多い。痛風と異なり男女差はあまりない。足の親指の付け根よりも膝や手首、肘などに痛みが起こることが多い。
●変形性関節症
加齢に伴い関節部の骨や軟骨がすり減り変形することで、関節が炎症を起こし、痛みが現れる。
●外反母趾
足の親指の付け根の関節から先の骨が、くの字に曲がる状態。進行すると炎症を起こし、赤く腫れて痛むため痛風と間違えやすい。

他にも蜂窩織炎や爪周囲炎なども痛風と紛らわしいことがあります。医療機関を受診して診断を受けることが大切です。


痛風の予防法

食事・アルコール・運動のすべてを「適度なバランス」に

痛風が起きる原因である尿酸値を上げないことが予防の第一歩。尿酸値を上げないようにするには、食事・アルコール・運動といった生活習慣において「適度なバランス」を保つことが大切です。最近は、多くの職種でリモートワークを取り入れていますが、たとえ電車通勤であっても意外と歩数を稼げているため、リモートワークになってから体重が増加した、脂質検査が悪化したといった声がよく聞かれます。生活の変化に応じて、食事や運動のバランスを考慮し、健診での尿酸値にも注目するようにしましょう。ここでは、尿酸値を上昇させる危険因子を取り除き、生活習慣を改善する具体的な取り組みや改善方法をご紹介します。

●痛風予防の食事の摂り方
・栄養バランスの取れた規則正しい食生活を心がける。
・肉類、魚介類の過剰摂取を控える。プリン体は多くの食品に含まれているので、厳格になりすぎると栄養のバランスが崩れる。肉類、魚介類は一人前にとどめ、プリン体が特に多い内臓類(もつやレバー、干物の内臓など)は避けた方がよい。

痛風予防の食事の摂り方

・果汁入りの甘味飲料は避ける。ただし、生果実の摂取は過剰でなければ問題ない。
・野菜にもキノコ類やブロッコリー、大豆などのようにプリン体を多く含むものがあるが、これらは摂取しても問題ない。豆類には痛風発症を抑制する作用も報告されている。
・尿をアルカリ化する作用があり、尿酸が尿に溶けやすくなると期待されるひじきやわかめなどの海藻は積極的に摂る。
・乳製品には尿酸値を低下させる作用がある。特に低脂肪乳製品がおすすめ。
・コーヒーにも血清尿酸値を低下させる作用がある。ただし砂糖入りは避ける。尿路結石がある場合には控える。
・塩分は少なめに、できれば1日7~8グラム以内に抑える。
・水分を十分に摂り、1日2リットルの尿を出す。腎臓や心臓に持病がある場合は医療機関に相談を。

●痛風予防のアルコールの摂り方                             
・プリン体の分解と尿酸の産生を促すため、過剰な摂取は控える。
・つまみとして内臓類や脂肪の多い肉類は避ける。豆類や低脂肪チーズ(リコッタチーズ、カッテージチーズ)はつまみにすすめられる。

●痛風予防の運動のしかた
・水分補給に気をつけながら、ウォーキングや水泳など適度な運動の習慣化。自分のライフスタイルに合った運動で、持続可能なものがよい。
・最近の台湾での研究で、高尿酸血症の人は週5日以上、1日30分間、3〜6メッツ(METs)の運動を行うと健康維持によいことが示された。メッツというのは、運動の強さの指標で、たとえば自転車で通勤するのは6.8メッツ、窓掃除が3.2メッツ。どのような運動がどのくらいのメッツになるかについては国立健康・栄養研究所の『身体活動のメッツ(METs)表』が参考になる。


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