ストレスの多い現代は、日常的に不眠に陥っている人が多くいます。しかし、不眠の原因で最も多いのは、「ちゃんと眠れるかな……?」という不安だといわれています。心身共に健康なウェルネスを手に入れるためには、まずは眠りに対する不安やプレッシャーを手放すことが第一歩です。今回は、不眠の種類をお伝えすると共に、不眠の改善に有効な食べ物やハーブを中心にした飲み物など、眠れない時に手軽にできるセルフケアをご紹介します。
1954年生まれ。東邦大学医学部卒業。医学博士。内科・小児科医、循環器専門医。神奈川県南足柄市にある緑蔭診療所で、西洋医学に漢方やアロマセラピー、ハーブを取り入れた診療を実践。セルフケアの指導も行う。著書に「補完・代替医療 ハーブ療法」(金芳堂)、「アロマ&ハーブセラピー手帖」(マイナビ出版)、「専門医が教える 体にやさしいハーブ生活」(幻冬舎)、「40歳からの幸せダイエット」(講談社)など。
一言に「不眠」といっても、その症状は人それぞれです。寝つきが悪い「入眠障害」、眠りが浅く、睡眠時間はしっかり取れているのに熟睡感のない「熟眠障害」、朝早くに目が覚めてしまい、その後眠れない「早朝覚醒」、眠っている途中に何度も起きてしまう「中途覚醒」などです。
これらの不眠の症状は、いずれも「睡眠障害」の一種で、不安や緊張、うつ病に伴ってよく起こります。また、加齢と共に朝早く目覚めてしまう人が多いのは、年齢を重ねると睡眠は浅く、短くなるからです。加えて、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があると、睡眠障害を起こしやすくなることもあります。
しかし、不眠の原因で最も多いのは「眠れなかったらどうしよう」と、脳が緊張してしまうケースです。眠りに対する不安やストレスによって脳が緊張すると、寝つきが悪く、眠りも浅くなってしまいます。不眠の改善には、まずは「眠れるかどうか」の不安を手放すことが大切です。
不眠を訴える人の中には、入眠儀式を日課にしている人も多いもの。しかし、「こうすれば眠れるはず」と毎日自分にプレッシャーをかけて、さらに眠れない悪循環に陥っている人はとても多いのです。
ただ、「眠れない」と悩んでいても、1日のうちどこかで軽い睡眠をとっており、深刻な睡眠不足の人は、実はそれほど多くはありません。眠りやすいタイミングは2〜3時間ごとに必ず来ます。「寝るにはまだ早い時間帯かな」などと思わず、入眠のタイミングを逃さないようにしましょう。ただし、日中に強い眠気があったり、不安があったりする場合は、早めに専門医を受診してください。
人間には1日24時間強の周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっています。この体内時計の働きによって、日中は心と体が活動状態に、夜は自然な眠りに導かれるようになっています。少し専門的な話になりますが、体内時計の中心は脳の「視交叉上核」という部位にあります。体内時計は体のほぼ全ての臓器にあり、脳の体内時計から指令を受けて、連動しながら生体リズムを刻んでいるのです。しかし、何らかの原因で体内時計がずれると、様々な不調を引き起こします。
体内時計は、毎朝太陽の光を浴びることでリセットされます。ずれてしまった体内時計を整えるためにも、できるだけ毎日決まった時間に起きて、太陽の光を浴びるようにしましょう。
朝食を摂る時間も大切です。朝起きて1時間以内に摂れば、体と脳が活動に向いた交感神経の活発な状態に切り替わります。
「忙しい朝は、パンとコーヒーだけ」という方は多いでしょう。また、若い世代では、朝食を摂らない人も増えています。しかし、不眠で悩む人にとっては、朝こそ良質なタンパク質を摂ることが大切です。
肉や魚、乳製品、大豆製品など、タンパク質が豊富な食材には、トリプトファンというアミノ酸が多く含まれています。トリプトファンは、体内で体内時計を調節しているメラトニンやストレス反応を和らげる神経系にかかわるセロトニンに変換されます。朝食にタンパク質を摂ることで、トリプトファンをチャージしてストレスマネジメントのセルフケアを実行したという前向きな気持ちになり、毎日の睡眠にもよい影響を与えてくれるというわけです。
朝食におすすめなのは、手軽に摂取できる卵やヨーグルト、牛乳、豆乳などです。ただし、ゆで卵は少し消化が悪いので、食べてすぐに走ったりすると、気持ちが悪くなることも……。逆に、「朝食を摂ってもすぐにお腹が空いて、つい食べ物に手が出てしまう」という人には、腹持ちがいいゆで卵はよい選択です。
コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるカフェインには、脳を刺激する覚醒作用があります。カフェインは摂取後5〜6時間は作用するため、夕方以降は控えるようにしましょう。緑茶もカフェイン飲料なので、夕食後に飲むのも、快眠のためには控えたいものです。
最近は、テレワーク中のリフレッシュにコーヒーを飲む人も多いですが、1日5杯以上飲むのは飲み過ぎです。不眠の改善のためには、カフェイン飲料は朝だけにして、日中もカフェインレスのハーブティーなどを飲むとよいでしょう。例えば、昼間はペパーミントなどが入ったスッキリ系のハーブティーを、夕方以降はレモンバーベナなど、リラックス系のハーブティーに切り替えるのもおすすめです。
不眠改善のためには、夕食はできるだけ就寝2時間前までに済ませたいものです。22時以降にヘビーなものを食べて寝ると、朝の目覚めが悪くなり、起きてもまだ胃がもたれていて、朝食を抜くなどの悪循環に陥りがちです。残業などで夕食が22時以降になる人は、19時頃におにぎりやサンドイッチなどを食べ、帰宅後はスープやサラダ、豆腐料理や魚など、軽めの夕食を摂る“分食”もおすすめです。
夕食がどうしても遅くなってしまう場合は、体内時計を整える意味でも、仕事の途中で、決まった時間に食事を摂るように心がけましょう。
良質なタンパク質と食物繊維など、バランスのよい朝食を摂ると、朝食後の血糖値の上昇が緩やかになるだけでなく、2回目以降の食後の血糖値上昇まで緩やかになります。ウェルネスのためには、1回目の食事が非常に重要で、次の食事の後の血糖値までよい影響が及ぶ現象を「セカンドミール効果」といいます。普段から朝食を抜いている人は、少しでも朝食を摂ること。また、タンパク質を摂っていない人は、卵や乳製品など普段の朝食に1品加えてみましょう。
ハーブには心身の不調を改善する様々な効果があります。ハーブの成分を最も手軽に摂取できるのがハーブティーです。ここでは、不眠の改善に役立つハーブの取り入れ方を紹介します。
精神を安定させ、安眠効果が高い「リラックス系」ハーブの代表格は、パッションフラワーです。リンデンフラワーも高ぶった気持ちを鎮める効果があります。例えば、パッションフラワーと、これもリラックス効果の高いジャーマンカモミールをブレンドして、夕食後や就寝前に飲むのもおすすめです。
頭も体もくたくたなのに眠れない時は、心身の緊張が同時にほぐせるアロマバスが最適です。眠る2時間前くらいにぬるめのお湯で、長めに入浴しましょう。使用する精油は、安眠効果の高いラベンダーやオレンジスイートなどがおすすめです。
「眠れるかな」という不安が強くて眠れないタイプの人は、日中の活動レベルを上げて、脳や体を適度に疲れさせておくと、夜に眠りにつきやすくなります。日中はカフェイン系の飲み物の代わりに、リフレッシュ系のハーブを飲みましょう。リフレッシュ系のハーブには、体を温め、発汗作用のあるエルダーフラワーや、適度な酸味が気分をシャキッとさせるローズヒップやハイビスカス、ペパーミント、ローズマリー、レモングラスなどがあります。
このように、飲むものを工夫したり、食事のちょっとしたコツを掴んだりするだけでも「体内時計」は整いやすくなります。そして何よりも、「眠れなかったらどうしよう」という睡眠のプレッシャーを忘れることが不眠改善にはいちばんです。リラックスして毎日を過ごしていきましょう。