更年期になるとホルモンバランスが変化し、どうしても体調の変化が起こりがちです。特に女性ホルモンの分泌量低下による自律神経への影響は大きく、ほてりやのぼせなども起こりやすくなります。そうした更年期の不調を改善し、自律神経のバランスを整えるのにも、食べ物やハーブによるセルフケアが役立つことがあります。おすすめのハーブやセルフケアのポイントをご紹介します。
1954年生まれ。東邦大学医学部卒業。医学博士。内科・小児科医、循環器専門医。神奈川県南足柄市にある緑蔭診療所で、西洋医学に漢方やアロマセラピー、ハーブを取り入れた診療を実践。セルフケアの指導も行う。著書に「補完・代替医療 ハーブ療法」(金芳堂)、「アロマ&ハーブセラピー手帖」(マイナビ出版)、「専門医が教える 体にやさしいハーブ生活」(幻冬舎)、「40歳からの幸せダイエット」(講談社)など。
女性はほぼ生涯にわたり、卵巣から分泌される2つの女性ホルモン、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響を受け続けます。通常はこの2つのホルモンが互いにバランスを取り合いながら分泌され、その変化に伴い月経が起こっています。ですが更年期になると卵巣の機能が低下するため、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が大きく低下し、ホルモンバランスが崩れてしまいます。
特にエストロゲンの低下は著しく、それによってホルモン分泌の指令を出す、脳の視床下部も影響を受け、自律神経のコントロールがうまくいかなくなることも。そのせいで更年期には不調が生じやすくなるのです。
更年期には様々な体調不良が生じますが、中でも代表的なのが「ホットフラッシュ」と呼ばれる、体のほてりです。自律神経が乱れることによって血管の調節機能に不具合が起こり、突然体がほてって汗がどっと出るのが、ホットフラッシュの特徴です。40代半ばを過ぎ、「最近、急に顔が熱くなって汗をかきやすくなった」という場合、ホットフラッシュの可能性が考えられます。
ホットフラッシュを含め、更年期に生じやすいといわれる症状の例をまとめてみました。
めまい、動悸、胸が締め付けられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れやすさ、ほてり、のぼせ、発汗
気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠
ただし、このように多様な症状があるものの、更年期症状のほとんどが軽いもので、日常生活に支障が出るほど症状がひどくなるケースはそう多くありません。日常生活に支障が生じるほどの激しい不調があると、「更年期障害」と呼ばれる、治療が必要な状態と診断されます。その場合は医療機関を受診してください。
医療機関を受診するほどでもないけれど、体調不良があるという場合は、セルフケアをしてみましょう。まずは食べ物で必要な栄養を摂取するのがよいでしょう。
更年期には、減少する女性ホルモンや体の変化をサポートするような食べ物を摂ると、更年期症状の緩和につながりやすくなります。例えば以下のような栄養素を含む食品を積極的に摂取すると、不調が和らぐかもしれません。
腸内環境を整えるには、たくさんの種類の腸内細菌がいるのがよいといわれています。発酵食品を多く含む食事を摂っていると、腸内細菌の種類がどんどん増え、腸内が理想的な環境になっていくと考えられます。納豆、ヨーグルト、チーズ、みそ、キムチといった発酵食品と、同じく腸内細菌を増やす効果があるといわれる食物繊維を積極的に食事に取り入れ、腸内環境を整えていきましょう。
大豆イソフラボンに含まれる「エクオール」と呼ばれる成分には、エストロゲンの働きをサポートする機能があることが分かっています。そのため更年期に大豆製品は積極的に摂りたい食べ物です。ただし、摂取した大豆イソフラボンをエクオールとして利用するには、腸内細菌によってイソフラボンを分解する必要があります。そのためには上記で紹介した発酵食品や食物繊維を摂取して、腸内環境を整えておくことが大切です。
更年期で閉経が近づくと、ホルモンバランスの乱れによって経血の量が増え、貧血(鉄欠乏性貧血)になる人もいます。疲れやすさやめまいなどの自覚症状がある場合、貧血の可能性も考えられます。心当たりのある人は鉄分を多く含む食べ物、例えば赤身の肉や魚などを積極的に食べて、鉄分の摂取を心がけましょう。赤身の肉や魚には鉄分の他、体をつくるタンパク質も豊富に含まれています。
自律神経のバランスを整えるにはハーブも役立ちます。リラックス効果が高いとされる、下記のようなハーブをハーブティーや薬酒で取り入れるのがおすすめです。
チャイニーズアンゼリカは当帰(とうき)という漢方生薬としても知られる、代表的な女性向きのハーブです。月経にかかわる様々な不調に用いられており、更年期の体調不良にも効果的です。
ローズの花びらの精油成分で、心の揺れを鎮める作用をもつといわれるハーブです。不安からくる不眠や、更年期の揺れる心におすすめです。
ローズの実であるローズヒップはビタミンCの宝庫で、ハーブティーにすると鮮やかな赤色をした甘味のあるお茶になります。気持ちを引き立ててくれる効果があるといわれています。
ビターオレンジの花であるオレンジフラワーは、ハーブティーにするとフローラルでフルーティーな香りが広がり、イライラが溶けていくような気持ちになるといわれています。リンデンとのブレンドがおすすめです。
ジャーマンカモミールはリラックス効果が高く、不安や抑うつ、睡眠障害を改善する他、体のこわばりを和らげるため、緊張型頭痛の緩和にも効果があるといわれるハーブです。ミルクティーもおすすめです。
パッションフラワーはたかぶった気持ちを鎮め、緊張をほぐしてくれるハーブとして知られています。いろいろなことが心に浮かんで寝つけない時などは、寝る前にジャーマンカモミールとパッションフラワーのブレンドのハーブティーを飲むと、心が落ち着くでしょう。
漢方生薬としてはサンシシ(山梔子)と呼ばれるクチナシの実には消炎、止血、利尿作用の他に鎮静作用もあり、不眠の解消や精神不安改善などの効果があるといわれ、更年期ののぼせ、焦燥感の改善にも有効です。ハーブティーにすると黄色が目に鮮やかに映え、炊き込みご飯やシチューなどの料理に用いるのもおすすめです。
ホルモンバランスの変化による更年期の体調不良は、ほとんどの女性が通る道です。必要以上に怖がらずに、セルフケアできる食べ物やハーブを取り入れながら体調を整えていきましょう。ただし、くれぐれも無理は禁物です。体がだるくて起き上がるのもつらい、気持ちが落ち込んで何も手につかないなど、生活に支障が出る場合は医療機関を受診し、医療の力を借りて、体調を改善していくことをおすすめします。