新型コロナウイルスのワクチン効果の持続期間は?「禁煙」が有効!その理由とは?

新型コロナウイルスのワクチン接種が進められていますが、接種後にワクチンの効果がどのくらい続くのかは気になるところです。そんな中、独立行政法人国立病院機構宇都宮病院の呼吸器・アレルギー内科を中心とする研究チームが「新型コロナウイルスのワクチン効果を維持するには、禁煙が有効」という調査報告を発表しました。研究責任者を務めた呼吸器専門医で宇都宮病院 病院長の杉山公美弥先生に、ワクチンの効果に及ぼす喫煙の影響や、これからの感染対策についてお話をうかがいました。

(インタビューは2022年4月19日に行い、内容はその時の状況に基づいています。)

監修プロフィール
独立行政法人国立病院機構宇都宮病院 病院長 すぎやま・くみや 杉山 公美弥 先生

福島県立医科大学医学部卒業。医学博士。獨協医科大学医学部特任教授。専門は呼吸器、アレルギー、膠原病、感染症。日本呼吸器学会認定専門医・指導医、日本感染症学会推薦感染制御医(ICD)、日本がん治療認定医機構認定医・指導責任者、肺がんCT検診認定機構認定医、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会認定専門医・指導医、日本リウマチ学会認定専門医・指導医。

ワクチン接種後の“抗体価”に影響する要因は?

新型コロナウイルスのワクチン

「抗体価」とは、ウイルスの感染を防ぐ中和抗体の量や強さを見る目安です。血液検査によって測定され、この値が高いほど、感染や重症化を防ぐ効果が高いとされます。

新型コロナウイルスのワクチン接種によって得られる抗体の量は人によって差があり、接種してから時間経過と共に低下することが分かっています。しかし、どのような要因がワクチン接種後の抗体価に影響するのかについては、これまで明らかではありませんでした。

杉山先生の研究チームが最初に行ったのは、新型コロナウイルスワクチン2回目接種3カ月後の抗体価の調査です。対象は2021年2月、3月にファイザー社製ワクチンを接種した同病院の職員378人で、年代は20代から70代にわたります。

この調査では、次のことが分かりました。

①年齢に反比例し抗体価は低下する

60~70代の男女と50代男性の抗体価は、20代の約半分。50代女性も20代の6割程度で、年代が上がるほど抗体価は下がる傾向が出ました。また、全ての年代で男性より女性のほうが抗体価は高い傾向にありました。

ワクチン2回接種3か月後の抗体価の中央値(U/mL)

②喫煙が抗体価低下に大きく影響する

年齢による影響を除いた上で喫煙や飲酒、高血圧、糖尿病などのリスク因子を検討したところ、喫煙が抗体価の低下に大きく影響していることが分かりました。喫煙歴がない人は全体の中央値より抗体価が約12%高く、喫煙歴がある人は約23%、現喫煙者は約35%、それぞれ抗体価が低いという結果でした。

喫煙歴の有無における抗体価の比較(%)

研究チームは引き続き、ワクチン2回目接種6カ月後の抗体価についても調査しました。その結果、抗体価は全年代で接種3カ月後より約3割低下していました。ただし、低下率は女性のほうが大きく、接種3カ月後に見られた性別による差は、6カ月後にはなくなっていました。また、高齢者と喫煙者の抗体価が特に低い傾向にあることは、6カ月後も同様の結果でした。

この結果を元に研究チームは、ワクチン接種後の抗体価に影響を与える主な因子は「年齢」および「喫煙」であり、「高年齢では半年おきのワクチン再接種が必要」、「禁煙は感染や重症化のリスクを軽減できる可能性が示唆された」と結論づけました。

日頃の生活習慣も抗体価を下げる因子に

日頃の生活習慣も抗体価を下げる因子に

 今回の調査では「年齢」と「喫煙」が、ワクチン接種後の抗体価を低下させる要因であることが分かりました。その理由は何なのでしょうか。

「高齢者は体の免疫自体が活性化しにくいためと考えられます。私たちはいったんかかった感染症に対して免疫を獲得し、維持するシステムをもっていますが、この働きが加齢と共に低下してしまうのです。これは新型コロナウイルスに限ったことではありません。例えば肺炎球菌による感染症の場合、若い方なら1回かかれば免疫が長期間持続しますが、高齢者ではそれが維持できないために、数年後にまた肺炎球菌性の肺炎にかかってしまうということがあります」。

続いて、喫煙が抗体価に影響を及ぼす理由については次のように分析します。

「喫煙によって、肺に多く集まっている免疫細胞の活性が抑制されてしまうためと考えられます。私たちが吸い込んでいる空気の中にはいろいろな病原菌が含まれており、それらから身を守るために肺には体の免疫機構の約半分が集まっています。しかし、たばこを吸うことでそれらの免疫細胞の機能が低下してしまう。喫煙者の方が非喫煙者よりも肺炎の発症率が高いことは明らかですから、抗体価を下げるメカニズムにおいても同じことがいえると思います」。

新型コロナウイルスの感染や重症化の予防に有効な抗体価の数値はまだはっきり分かっていませんが、禁煙した人は現在喫煙中の人より高い抗体価を示したことから「より多くの抗体を維持するためにも、ぜひ禁煙を実践してほしい」と杉山先生は語ります。

一方、今回の調査では、飲酒に関しては抗体価への影響が認められませんでした。

「私たちの研究では飲酒習慣による影響について調べましたが、飲酒量はチェックしていません。例えば1日に缶ビール1本だけ飲む人と、日本酒を2合、3合飲む人とでは明らかに体への影響が違うので、飲酒量は大きく影響する可能性があると推測しています。また、ワクチン接種直後の抗体価について、他の調査では影響が認められます」。

千葉大学病院等の発表したデータ(※)では、飲酒の頻度が高い人は抗体価が上がりにくいことが報告されています。そのことを踏まえ、ワクチン接種に当たっては節酒や禁酒をして臨む職員の方が多かったことも、今回の調査で抗体価に影響が見られなかった原因ではないかと杉山先生は考えています。

※千葉大学医学部附属病院は2021年6月に、ファイザー社製新型コロナウイルスワクチンを接種した病院職員1774名の抗体価を調べ、結果を報告。飲酒については、飲まない人と比べ週2~3回飲む人は差がないが、毎日飲む人は約2割低かった。

喫煙による影響は新型コロナウイルスだけではない

喫煙による影響は新型コロナウイルスだけではない

 これまで新型コロナウイルスの感染による重症化のリスク因子として語られることの多かった喫煙習慣が、ワクチンの持続効果にも影響することが分かってきました。

「飲酒と喫煙が決定的に違うのは、飲酒に関しては数日やめれば体への影響は大きく低下するのに対し、たばこはかなり長期間その影響が残ることです。たばこをやめても、全く吸わなかった人と比べれば肺がんも明らかに多い。動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞など、ほとんど全ての病気にかかるリスク因子にも喫煙歴は関与しています」。

長年にわたり呼吸器内科医として診療に携わってきた立場からも「喫煙していいことはない」と語る杉山先生。

たばこには分かっているだけでも4000種類以上もの化学物質が含まれ、そのうち有害物質は200種類以上にも上ります。中でも「3大有害物質」と呼ばれるのがニコチン、タール、一酸化炭素。これらに活性酸素を加えて、「4大有害物質」と呼ぶこともあります。こうした有害物質を取り込むことで様々な病気が引き起こされ、皮膚の老化、歯の着色、口臭などの原因ともなり、女性の場合は妊娠、出産にも悪影響を及ぼすリスクが。

さらに近年は、副流煙の害についても知られるようになりました。喫煙者本人が吸い込む主流煙を1とした場合に、副流煙に含まれるニコチンは2.8倍、タールは3.4倍、一酸化炭素は4.7倍にも上ることが分かっています。

「喫煙習慣は変えられます。健康リスクを考えると、たばこを卒業することも一案ではないでしょうか」。

<たばこに含まれる代表的な有害物質>
●ニコチン
・・・血管を収縮させ、心拍数を増加させる。中枢神経系に作用し、ニコチン依存症をもたらす。
●タール・・・多くの発がん物質を含む。呼吸器系の疾患や呼吸器系のがんと関係が深い。
●一酸化炭素・・・赤血球のヘモグロビンに結合し、体を酸欠状態に陥れる。動脈硬化を促進する。
●活性酸素・・・脂質代謝の異常や血管の障害を引き起こす。細胞を酸化させて老化を進める。

ワクチン3回目接種から見えてきたこと

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杉山先生の研究チームは、3回目ワクチン接種後の抗体価についても2022年4月に調査報告を出しています。それによると、3回目接種2週後の抗体価は、2回目接種2週後の10倍以上、6カ月後の40倍以上に上昇にしました。

「ただし、オミクロン株に関しては、3回接種した方も結構かかっており、デルタ株のような抑制効果は出ていません。ウイルスの株はだんだん変化していきますから、効果が落ちてくるのは仕方のないことだと思います。ただ、高齢者に関してはワクチンの接種率が80%くらいまで上がっているので(2022年4月19日のインタビュー時点)、最近では高齢者の重症化はかなり防ぐことができており、高齢者の入院も減っています。感染予防は完全でなくても、重症化予防にはいい影響を与えています」。

喫煙との関係については、3回目接種後もこれまでと変わらず、喫煙者のほうが抗体価の低い傾向が見られました。さらに、今回はワクチンの副反応の解析を行い、興味深い結果が得られました。ワクチンの副反応は、ワクチンの効果を長期間高める可能性があるといいます。

「2回目接種後に発熱、だるさ、関節痛などの全身性の副反応があった人は、なかった人と比べて接種3カ月後も6カ月後も抗体価が2割ほど高かったのです。副反応自体は一回的なものですが、その影響が半年後まで続いているのはちょっと驚きでした。また、全身性の副反応がつらくて解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン製剤を服用した人も、やはり2割高い抗体価を示しました。人によっては解熱鎮痛剤を服用するとワクチンの効果が減ってしまうのではないかと副反応を我慢した方がいらっしゃいますが、アセトアミノフェンは抗体の生産には影響しないので、その心配はありません」。

解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン製剤は抗体の生産には影響しない

副反応を懸念してワクチンの接種をためらっている人にとっては朗報です。

「高齢者や基礎疾患のある方はもちろん、若い方や副反応を心配されている方も、オミクロン株の流行を早く終わらせるために3回目のワクチンをぜひ打っていただき、つらければ解熱鎮痛剤を服用して副反応を軽く済ませて、免疫をつけていただきたいというのが我々の願いです」。

今回の研究成果は、私たちにとってワクチンの追加接種の判断材料にもなります。日常生活を取り戻していくために、引き続き一人ひとりがワクチン接種やマスク・手洗いなどの感染予防対策に取り組んでいきましょう。

※新型コロナウイルスに関する最新情報は、厚生労働省HPを参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html
※ワクチン接種に関する情報については、上記HPの他、各自治体の運営する新型コロナウイルス特設サイトを参照してください。
※インタビューは2022年4月19日に行い、内容はその時の状況に基づいています。


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