やけどは医学用語では「熱傷」といい、熱によって皮膚や粘膜に起こる外傷の1つです。治療は、やけどの範囲や深さに応じて行いますが、部位や範囲、程度によっては皮膚だけでなく全身が影響を受けてしまうので注意が必要です。まずはやけどを引き起こした熱源を断ち、水で冷やす応急処置が必要になりますが、重症の場合はすぐに救急要請をしてください。また、やけどの傷あとやケロイドが精神的、肉体的な不自由や苦痛をもたらすこともあります。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
やけどの原因は、日常生活の中に多く潜んでいます。例えば、やかんや鍋のお湯、揚げ油、みそ汁などの熱い飲み物をこぼしてしまったり、アイロン、ストーブ、ホットプレートなどの高温の電化製品に触れてしまったりすることでやけどが引き起こされます。浴室では高温のシャワーや浴槽でやけどをすることもあります。
炎によるやけどは、火災だけでなく、調理中に衣服へ引火したり、アロマキャンドルやタバコ、手花火などから衣服へ引火したりすることがあります。
低温やけどとは、気持ちよいと感じる程度の温度(40~60度)でも起こるやけどのことです。通常のやけどよりも傷が深く、治りにくいのが特徴です。湯たんぽや電気毛布、使い捨てカイロなどを始め、最近では枕元に置いたスマートフォンが体の同じ部分に触れ続けて低温やけどをしてしまう例や、洋式トイレの便座などで起きることもあります。また、冬の電車の車両で座席の下から温風が出ている場合には、足を近づけ過ぎないよう注しましょう。
やけどは「深さ・面積・部位」を総合的に判断して重症度が決まります。直後は深さの判定が難しいこともありますが、いざという時のために覚えておきましょう。やけどは、重症度(ページ下表参照)に応じた迅速で適切な初期対応が何よりも大切です。
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3つの層に分かれています。やけどの深さは、障害を受けた部分が皮膚のどの層にまで及んでいるかで判定します。ただし、やけどの直後は深さの判定が難しいこともあります。 表皮は皮膚の最も外側にあり、外部の様々な刺激から体を保護しています。真皮には、汗腺、皮脂腺、毛、血管などがありますが、神経が張り巡らされているため痛みを感じます。皮下組織には脂肪細胞があり、衝撃から身を守る、体温を保つなどの働きがあります。
深さの重症度 | 深さの重症度 | 皮膚の状態 | 皮膚の色 | 知覚・痛み | |
---|---|---|---|---|---|
I度 | 表皮 | 乾燥 | 紅斑 | 痛み 知覚過敏 |
|
II度 | 浅層熱傷 | 真皮 | 湿潤・水疱 | 薄赤 | 強い痛み 知覚あり |
深層熱傷 | 真皮 | 湿潤・水疱 | やや白色 | 痛み軽度 知覚鈍麻 |
|
III度 | 皮下(脂肪)組織 | 乾燥 硬化 炭化 |
蠟色 黄色~赤茶色 黒色 |
無痛 |
(出典)一般社団法人 日本創傷外科学会HPより一部加筆
やけどの深さと面積、部位によって、以下のように重症度を判断します。
重症度 | II度 | III度 | 部位 | 対応 |
---|---|---|---|---|
重症 | 30%以上 | 10%以上 | 特殊部位(顔・手・会陰など)の熱傷、 気道熱傷(熱い空気を吸い、のどや気管がやけどした状態)、 化学熱傷、電撃傷(感電・落雷)など |
救急センターでの集中治療が必要(救急要請すべきレベル) |
中等症 | 15~30% | 2~10% | 特殊部位(顔・手・会陰)を含まない | 一般病院での入院治療が必要(状況によっては救急要請する) |
軽症 | 15%未満 | 2%未満 | 2%未満 |
※%は体表面積に占める割合
※子どもや高齢者、重い持病のある人は、上記の%数値が低い場合でもより重症になります。
(出典)一般社団法人 日本熱傷学会HPより一部加筆
中等症のやけどでは手当に緊急を要する可能性もあります。時間外でも入院施設のある病院を受診しましょう。また、子どもや高齢者、重い持病のある人は上記の判定より低くても重症になるので、これらの人は少なくとも「本人の手のひら以上の面積の水疱のあるやけど」であれば、病院の診察時間外でもすぐに受診を。病院に連絡する場合や救急車を呼ぶ場合は「何歳の誰が、いつ、どんな場所で、どのような物によって、どの部位にやけどをしたか」の情報をあらかじめ伝えられるようにしておきます。
やけどの応急処置の基本は、まずは熱源を絶ち、すぐに流水で冷やすことです。衣服の上からやけどをした場合は無理に脱がすと肌を傷めたり、水ぶくれ(水疱)がつぶれてしまったりするので、着衣のまま流水で冷やします。やけどは、時間が経過すると症状が変化します。紅斑(I度のやけど)が、水ぶくれ(II度)になる場合もありますので、注意が必要です。
<やけどの範囲が狭い場合>
水道水で冷やす。冷やすことでやけどが深くなるのを防ぎ、痛みを緩和することができる。やけどの部位はだんだんと腫れてくるので、指輪などのアクセサリーは早めに取り外しておくこと。また、流水で冷やせない場合は水で濡らしたタオルや保冷剤などをタオルにまいて患部にあてる。
<やけどが広範囲に及ぶ場合>
浴室のシャワーで冷やす。衣類を着た部分にやけどをしたら、脱がさずに衣類の上から流水をどんどんかけて冷やす。
<水ぶくれ(水疱)ができている場合>
水ぶくれには傷口を保護する役目があり、つぶれるとそこから感染を起こしやすくなる。感染するとやけどの深度が深くなって治りにくくなるので、水ぶくれはできるだけつぶさないようにする。水で冷やす時に衣服を脱がすと水ぶくれがつぶれてしまう場合があるので、衣服は着たまま水道水で冷やすこと。女性はストッキングを無理に脱ごうとすると一緒に水ぶくれがはがれるので注意。水ぶくれ(II度)ができた場合は、やけどが真皮まで達していることを意味し、傷痕が残る場合があるので医療機関を受診して。
<冷やす時間>
一般的には最低5~30分くらい、できるだけ流水で冷やす。子どもや高齢者の場合、長く広範囲を冷却すると低体温となって、意識障害や不整脈を起こすことがあるので、症状に注意しながら過度の冷却とならないようにする。
Ⅰ度のやけどで小範囲の紅斑だけの場合は、流水で30分ほど患部を冷やせば痛みは治まってくるでしょう。時間が経過して、再び痛みが出た場合も患部を冷やすと痛みは治まります。患部は乾燥するとより深度が深くなることがあるので、やけどを乾燥させないことがポイントです。ワセリンなどの保湿軟膏で患部を保護するとよいでしょう。
乳幼児は保護者が目を離した瞬間に、ポットの蒸気に手をかざしてしまったり、テーブルクロスを引っ張って熱い液体をこぼしてしまったり、思いもよらない行動をして、やけどを負ってしまうことが多くあります。
以下のような家庭内の安全対策をして、保護者が目を離しても、やけどをしない安全な環境を整えるようにしましょう。