巻き爪とは、爪の両端が内側に巻き込んだ形に変形する疾患です。足の親指に起こることが多いのですが、他の足の指に起こることもあります。普段は痛みがなくても、運動や長時間の歩行で痛みが出てしまったり、爪が皮膚に食い込んで傷つけ、痛みや炎症を引き起こす「陥入爪(かんにゅうそう)」の原因にもなります。
そもそも足の爪には、歩く時に地面から指先にかかる力を受け止めるという役割があります。爪があるからこそ、足指が地面をしっかりつかんで蹴り出すことができるのです。巻き爪には、痛みを引き起こすという側面だけではなく、「足の指をしっかり使えていない」という歩き方の問題も隠れています。一生自分の足で歩き続けるためにも、たとえ今は痛みがなくても、自分の巻き爪の原因を知り、放置せずに治療・改善することが大切です。
医学博士、皮膚科専門医、日本フットケア・足病医学会理事、日本トータルフットマネジメント協会理事、日本皮膚免疫アレルギー学会代議員、一般社団法人足育研究会代表理事。1995年、山形大学医学部卒業。東京医科歯科大学病院にて足の問題を根本から解決するための装具外来、メディカルフットケア外来、歩行教室を併設するフットケア外来を開設。健康な足を保つ重要性について啓発を行っている。著書に『皮膚科医が教える本当に正しい足のケア』(家の光協会)、『巻き爪、陥入爪、外反母趾の特効セルフケア』(マキノ出版)等がある。
巻き爪の最大の原因は不適切な爪の切り方です。次のような爪の切り方は、巻き爪を引き起こすので止めましょう。
爪の先と角を切り過ぎる深爪をすると、指先の皮膚が盛り上がり、爪が埋もれた状態になります。本来、爪が皮膚をきちんと覆っていれば、地面を踏みしめる時に下から強い力がかかっても対抗できますが、深爪で爪の面積が小さくなり、爪が皮膚に埋まってしまうと、その力に対抗できなくなり、爪は外からの力に押され、内側に巻き込むように伸びていきます。その結果、巻き爪となります。
爪の両端を大きく斜めに切る間違った切り方がバイアスカットです。爪はケラチン繊維が縦方向、横方向、また縦方向と3層に重なった構造になっています。布を繊維に対して斜めに切ると丸まってしまうのと同様に、繊維構造をもつ爪もまた、斜めに切ると丸く巻いていってしまいます。
先のとがったデザインの靴など、窮屈な靴を履いていると足の両脇から圧力を受け続け、巻き爪が起こりやすくなります。窮屈な靴は、巻き爪だけでなく外反母趾など足の変形、足の指が浮いてしまう「浮き指」などの原因にもなるため、足の形と大きさに合った靴を履くことが大切です。
外反母趾で親指が内側に曲がった状態だと、爪は地面からの圧力だけでなく、隣の指によって、横や上からも押されやすくなり、爪が巻きやすくなります。
爪には元々、巻いていく性質があります。足の爪は、歩く時に生じる地面からの圧力によって、巻く力と広げる力のバランスがとれて正常な形に保たれているのです。そのため、足の指が浮いてしまう浮き指の人や寝たきりなどで歩くことがないなど、地面からの力がかからない人は、巻き爪になりやすくなります。
巻き爪にはさまざまな形があります。形によって原因も異なりますが、混在する場合も多くあります。
爪の端が周囲の皮膚に食い込んで傷つけ、炎症と痛みを引き起こす疾患を「陥入爪」といいます。巻き爪があると、陥入爪を合併しやすくなります。
巻き爪の最大の原因は爪の切り方にあります。正しく爪を切るだけでも巻き爪を改善・予防できるのです。爪は指の形に沿って丸く切るのではなく、「四角く」切ることがポイントです。次のポイントを参考に、正しく爪を切るようにしましょう。
爪は、指の先端より少し長め(指先から1mm以内)の位置でまっすぐに切り、角を少しだけ落とすように爪ヤスリでやや丸く整えます。爪ヤスリは往復させると爪に亀裂が入りやすくなるので、一方向にサッとなでるようにかけましょう。足の爪を切る頻度は1カ月に1度程度が目安です。
爪切りの刃先に丸い角度がついているものは深爪しやすいので、刃先がストレート(直刃)の爪切りを選びましょう。ニッパー型の爪切りもおすすめです。ニッパー型の爪切りで自分の爪を切る際は、一度に多く切ろうとせずに、少しずつそぎ落とすように切るのがコツです。切りたい位置にマスキングテープなどをまっすぐに貼り、テープに沿って切ると上手に切れます。
テーピングをクロス状に貼り、爪と爪の周りの皮膚との間に隙間をあけることで巻き爪を改善します。軽度の巻き爪はテーピング法と、爪の切り方を改善するだけで治ることもあります。
①2.5cm幅のテープを5cmの長さに切り、爪のきわギリギリに貼る。
②爪から皮膚を引きはがすように強く引っ張りながら指の腹を通し、反対側に回す。
③回したテープを指の斜め上に巻きつける。この時はテープを強く引っ張らない。
④爪の両端に症状がある場合は、反対側も同様に巻く。
巻き爪は、皮膚科・形成外科・整形外科・フットケア専門外来など、診療項目に巻き爪治療を掲げている医療機関で治療できます。また、ネイルサロンやフットケアサロン、整骨院など、医療機関以外でも巻き爪のケアを行ってくれるところもあります。医療機関では、皮膚に炎症がない場合は自由診療が基本です。
例えば以下のような施術があります。
巻き爪は、間違った爪の切り方、姿勢や歩行の悪いくせなど、生活習慣や間違った靴選びが原因で起こる疾患です。たとえ巻き爪を治療しても、原因を突き止め、生活習慣や歩行姿勢、靴などを見直さないかぎり、いずれ再発してしまいます。そのためにも予防が何よりも大切です。
まずは正しい爪の切り方で爪を切ることが、巻き爪のいちばんの予防になります。また、入浴の際に爪の周りをきれいに洗い、状態をよく確かめるようにしましょう。
巻き爪になると、爪の脇の溝の部分に古い角質や汚れがたまりやすくなります。それにより皮膚が圧迫されると、痛みや炎症の原因になります。爪の周りは歯ブラシを使ってよく泡立てた石けんで洗うのがおすすめです。洗った後は指と指の間にも石けんが残らないように洗い流し、水分をしっかり拭き取り、クリームなどで爪も十分に保湿しましょう。
巻き爪の予防にとって、足の形や大きさに合う靴を履くことはとても重要です。先のとがった窮屈な靴は、巻き爪の原因になるばかりか外反母趾のような足の変形を招き、さらには歩く姿勢が悪くなって膝や腰の不調も引き起こします。ウォーキングシューズやコンフォートシューズ、インソールなども活用して足の健康を守りましょう。最近では機能性とファッション性を兼ね備えたコンフォートシューズが数多く開発されています。
そして、歩くときは正しい姿勢と重心移動で歩くように心がけましょう。親指をしっかりと使って地面を蹴り上げることで、巻き爪になりにくくなります。浮き指がある人はインソール等で調整し、指がしっかり地面につくようにしましょう。
①かかとで着地する。
②小指の付け根に重心を移動する。
③さらに親指の付け根に重心を移動する。
④最後に指先に重心を移し、反対側の足に重心をのせ替える。