風疹は風疹ウイルスによって感染する感染症です。はしか(麻疹)と比べて症状が軽いのが特徴で、「三日ばしか」とも呼ばれます。症状としては、発熱や全身に桃紅色の小さな発疹が現れることが挙げられますが、近年は典型的な症状が出ないケースも多く、無症状の症例も増えています。
風疹ウイルスは感染力が強く、飛沫感染、接触感染などで発病します。有効な抗ウイルス薬はないため、ワクチン接種が唯一の身を守る方法といえますが、近年は、世代的にワクチンを2回接種していない成人男性が感染し、周囲に感染を広げる例が多く見られます。特に妊婦が感染すると胎児も感染し、流産や死産の原因になる他、心疾患や白内障、難聴などの障害を持つ「先天性風疹症候群」と呼ばれる赤ちゃんが生まれるリスクが高くなります。結婚前、妊娠前には、パートナーと共にワクチン接種を受けることをおすすめします。
千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉大学医学部臨床教授。公認心理師。千葉大学医学部関連病院勤務を経て、1998年千葉大学医学研究院小児病態学教官。2005年外房こどもクリニック開業(千葉県いすみ市)を経て、08年医療法人社団嗣業の会理事長、23年より「図書室のなかのクリニック」をコンセプトにした、こどもとおとなのクリニック パウルームを東京都港区に開業。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医・評議員。日本遠隔医療学会理事。著書に『駆け抜けた17年』(幻冬舎)、『プライマリケアで診る小児感染症 7講』(中外医学社)、共著『最新感染症ガイド R-Book 2018-2021』(日本小児医事出版社)ほか多数。
風疹は「風疹ウイルス」を原因とする感染症です。風疹ウイルスの主な感染経路は、呼吸器から感染する「飛沫感染」ですが、「接触感染」でも感染することが確認されており、感染者1人当たり6~7人に感染させる力を持っています。この数字はインフルエンザ感染の2~5倍に当たり、はしか(麻疹)ほどではありませんが、非常に感染力の強いウイルスといえます。
近年、国内での風疹の大流行は見られませんが、小さな流行や局地的な流行がなくなったわけではありません。出張や旅行でアジアやアフリカ、ヨーロッパに渡航した人が現地で風疹に感染し、帰国後に発症する例も確認されています。
風疹の潜伏期間は2~3週間ありますが、発病から3日程度で症状が治まります。まれに重症化することがありますが、はしか(麻疹)と比べると症状が軽いため、「三日ばしか」とも呼ばれてきました。
風疹の症状としては、桃紅色の発疹が顔から全身にかけて現れることや、耳の後ろや首のリンパ節の腫れ、咳やのどの痛み、発熱などが挙げられますが、感染者の半数程度は発熱の症状が出ず、感染者の15~30%は、はっきりと症状が出ないまま免疫ができる「不顕性(ふけんせい)感染」といわれています。ただし大人がかかると、発熱や発疹の期間が子どもに比べて長くなりがちで、快復に1週間ほどかかることもあります。また関節痛がひどくなるケースも確認されています。
風疹はこのように典型的な症状が出ないこともあるため、自分自身が感染したかどうかを判断するのは極めて難しいといえます。感染の疑いがある場合は、まず周囲に風疹が流行していないかどうか状況を確認しましょう。そして、かかりつけ医に電話等で診療方法を相談してください。感染力が強いため、いきなり受診せずにまずは相談しましょう。
風疹の症状はそれほど重いものではありませんが、深刻なのは、妊婦が感染した場合、お腹の胎児にも感染させてしまうことです。流産や死産の原因にもなりますし、「先天性風疹症候群」と呼ばれる、心疾患、白内障、難聴などの障害を持つ赤ちゃんが生まれる確率が高くなることも確認されています。妊娠4週目くらいまでが最も危険といわれていますが、20週目くらいまでは十分な注意が必要です。また、前述した通り、感染しても症状が出ないケースもあるので、ご自身が風疹に感染したことに気づかずに出産し、赤ちゃんが先天性風疹症候群になっていた例もあります。
近年、日本では子どもより成人男性、特に30~50代の男性が風疹に感染するケースが増えており、夫や職場の男性から、女性に感染させる例が多く見られます。これは過去のワクチン接種の制度により、ワクチンを2回接種していない人が、この世代に多いためです。妊娠中にワクチン接種をすることはできませんので、結婚前、妊娠前には男女共に抗体検査やワクチン接種をしておくことが重要です。また、風疹の抗体がない妊婦さんの場合は、出産後にワクチン接種をすることで、赤ちゃんへの感染を防ぎ、次の妊娠に備えることができます。家族や周囲の人もワクチンを接種し、風疹を流行させないようにしましょう。
風疹に有効な抗ウイルス薬はないため、感染した場合は対症療法のみとなります。発熱や発疹などの症状が出て風疹の感染が疑われる場合は、まず、かかりつけ医に電話をして、受診方法やホームケアの指示を仰いでください。
熱が出ている時は、わきの下を冷やすのが最も有効な対処法です。また症状が出ている間は脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給を心がけましょう。水を飲むのがつらい時は、経口補水液のゼリータイプ、あるいはゼリー飲料を少しずつ摂取するのがおすすめです。冷やすとより飲みやすくなります。
症状が出ている間は外出を控えましょう。風疹は、子どもの場合、基本的には「学校保健安全法」により、発疹が全て消えるまで登園や登校は禁止されています。他の方への感染を防ぐため、登園、登校、出勤などのタイミングは医師に相談して決めてください。特に周囲に妊婦さんや、妊婦さんを抱える家族がいる場合は注意が必要です。
風疹は、ワクチン接種が唯一の予防法です。
風疹のワクチンについては、年代や性別によって接種状況に差があります。1990年4月2日以降に生まれた人は幼児期に個別接種で2回ワクチン接種している世代で、2006年以降は、1歳児に1回、就学前の1年間に1回の合計2回、「麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)」の定期接種が行われています。
それ以前は、女子だけが接種していた時代、個別接種の時代、時限措置として小学生や中学生にワクチン接種をしていた時代もあり、年代だけでは接種歴が分かりにくいのが実情です。さらに、世代的に1回しか接種していなくても、自然免疫が得られていることもありますし、2回接種していても風疹の抗体価が低くなっているケースもあります。ご自身の感染歴や予防接種歴が不明な方は、一度、風疹の抗体検査やワクチン接種を受けておきましょう。
特に、医療従事者や教育関係者、接客業の方、海外の流行地域に出張予定がある方など、感染リスクが高い方は、風疹のワクチン接種を強くおすすめします。既に抗体を持っている方がワクチンを接種したとしても、悪影響を及ぼすことはないので、抗体検査をせず、ワクチン接種をしても差し支えありません。また海外に出かける場合は、地域によって推奨されるワクチンが決まっていますので、かかりつけ医に相談してください。
2023年1月現在、厚生労働省では、昭和37(1962)年4月2日から昭和54(1979)年4月1日生まれの男性に対し、お住まいの自治体から原則無料で風疹の抗体検査と予防接種を受けることができるクーポン券を送っています。ワクチン接種の制度上、この年代の男性は風疹ワクチンを2回接種していない可能性が高いため、ワクチン接種率を高めることで、風疹の流行を抑え込むことを目指しています。
全国約4万カ所の医療機関の他、勤め先の健康診断や、人間ドックの受診時に利用できる場合もあるので、ぜひ検討してみてください。子どもやその先の世代の健康を守るため、ワクチン接種で風疹の流行を防ぎましょう。