知っておきたい応急手当知っておきたい応急手当

不意のけがや事故などは、いつ自分や身近な人に起こるか分かりません。そんな時もあわてずに正しい対処ができれば、痛みを和らげ悪化を防ぎ、治癒を早めることにもつながります。今回は、家庭で起こりやすいけがの「応急手当」をご紹介します。
応急手当とは……
けがなどをして医師に診てもらうまでの間に行う対処のこと。治療ではないため、その後は医師による治療(受診)が必要です。

加藤啓一 先生

日本赤十字社医療センター 副院長・麻酔科部長

かとう・けいいち 1980年群馬大学医学部卒業。医学博士。日本麻酔科学会麻酔科専門医・指導医、日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療専門医。

いざという時あわてないための4つの心構え

救急用品をそろえておく

いつ起こるか分からないけがに備えて、救急用品をそろえておきましょう

【傷の手当用品】
ピンセット、滅菌ガーゼ、絆創膏、毛抜き、綿棒、かゆみ止め薬、ビニール手袋

【固定用品】
包帯、固定用テープ

【冷却用品】
氷のう、氷枕、保冷剤など

救急車の呼び方を知っておく

119番通報をしたら、指令員からの次の質問に対して順番に、あわてず、ゆっくり答えます。応急手当が必要な場合は、消防本部からの指示に従って行います。

  1. 1.火事ですか? 救急ですか?
  2. 2.住所はどこですか?
  3. 3.どうしましたか?
  4. 4.おいくつの方ですか?
  5. 5.あなたの名前と連絡先を教えてください。

※人手がある場合は、救急車が来そうなところまで案内に出ると到着がスムーズ。

緊急連絡先を書いて貼っておく

かかりつけ医や救急病院、救急車を呼ぶかどうか迷った場合の救急電話相談などの電話番号を書いて、目立つところに貼っておきましょう。

休日や夜間に子どもが具合を悪くしたら… #8000 こども医療電話相談
#7119 大人・こども救急電話相談

応急手当講習を受けておく

応急手当などを学べる一般向けの講習会が、各消防署や日本赤十字社、医療機関などで行われています。実際に経験しておくことが「いざ」という時の冷静で適切な対応につながります。

家の中で起こりやすい事故

割れたガラスで切ってしまった!

出血

「直接圧迫法」が最も簡単で効果的。
3〜5分傷口を圧迫すると出血は止まります。
繊維が残りやすいティッシュは使わない。傷口の組織を傷めるため、消毒液も使用しないこと。
傷が大きく出血が止まらない場合は救急車を呼ぶ。刺さっている異物を抜くと大量出血することがあるため抜かずに布などで固定する。
  • 直接圧迫法

    傷口にガーゼあるいはハンカチなどを当て、3分以上強く押さえる。血液に触れないようビニール袋などを着用する。

    傷口を心臓より高く上げると出血が止まりやすい。

  • 包帯を巻く

    ある程度出血が治まったら、包帯などがあれば巻いて、ガーゼを固定する。

アイロンに触れてしまった!

やけど

やけどを放置すると、深部まで熱が広がり痛みも増します。
できるだけ早く冷やすことが大切です。
傷を悪化させることがあるため、みそやアロエ、パウダータイプの消毒薬などは塗らない。
全身の10%以上のやけどをしたら救急車を呼ぶ。
服の上からシャワーなどで水をかけて冷やすが、10分以内にとどめる。
  • すぐに水で冷やす

    10分以上を目安に、痛みがひくまで流水で冷やす。

  • 水疱は
    つぶさない

    水ぶくれは傷口を保護する効果があるので、つぶさずにガーゼで保護して受診する。

食事をのどに詰まらせた!

のどに詰まった

窒息には迅速な対応が必要。早急に除去します。
やみくもに口の中に指を入れ異物を探すなどして時間を無駄にしてはいけない。
声が出ない場合は、のどが 完全に閉塞しているため応急手当と同時に119番通報をする。
  • 強い咳をさせる

    呼吸ができる場合は、咳をすると自然と排出されることがあるので、咳を続けさせる。

  • 手のひらの付け根で
    肩甲骨の間を強く叩く

    咳をしても異物が取れない場合は、傷病者を前かがみにして背中を叩く。

  • 背中から抱えてお腹を突き上げる

    傷病者の背後からウエスト付近に両腕を回す。一方の手でヘソの位置を確認し、もう一方の手で握りこぶしをつくり、親指側を傷病者のヘソのすぐ上(みぞおちより十分下)に当てる(A)。
    ヘソを確認した手で握りこぶしを握り、素早く手前上方へ圧迫するように突き上げる。
    ※異物が取れても必ず受診する。
    ※妊婦、1歳未満の子どもには行ってはいけない。

1歳未満の場合は
  • 頭を下げ
    背中の真ん中を叩く

    うつ伏せにして片方の腕にのせて手のひらで顔を支え、もう一方の手のひらの付け根で、背中の真ん中を続けて数回力強く叩く。

  • 1、2を数回ずつ交互に繰り返す1、2を数回ずつ交互に繰り返す
  • 頭を下げ2本の指で
    胸を圧迫する

    仰向けにして頭と首を支え、指2本で、胸の真ん中を続けて数回力強く圧迫する。

事故を防ぐためにできること
3歳以下の窒息原因1位は「ピーナッツ」

噛んだり飲み込んだりする力が弱い子どもがピーナッツを食べると、狭い気道を塞いで窒息を招くことがあります。事故を防ぐためにも、乳幼児にナッツ類を食べさせないこと。うっかり口に入れないよう家庭にも置かない方がよいでしょう。

屋外で起こりやすい事故

転んで足をひねってしまった!

打撲・捻挫

体を打ったり関節をひねったりしたら、患部を保護し痛みを和らげる「RICE(ライス)処置」を行います。
無理に動かしたり揉んだり、引っ張ったりすると悪化するので、やってはいけない。
骨折をして骨が皮膚の外に出ている場合は、救急車を呼ぶ。

基本のRICE処置

  • Rest 安静
    安静にして悪化を防ぐ。
  • Icing 冷却
    氷のうや冷水で患部を冷やす。内出血や腫れを抑え、痛みを和らげる。
  • Compression 圧迫・固定
    伸縮性のある包帯などで圧迫しながら固定する。内出血や腫れを抑え、痛みを軽くする。
  • 突き指をしたら、絆創膏などで
    隣の指と一緒に固定する。
  • Elevation 挙上
    患部を心臓より高く上げて、内出血や腫れを防ぐ。クッションなどの上に患部をのせると安定する。
  • ※骨折や脱臼をしていることもあるので、応急手当をしたら受診する。
庭の手入れやハイキングで

ハチに刺された

続けてハチに刺されないよう、静かにその場を離れてから手当を行います。
口の粘膜から毒が入ることもあるので、口で吸い出してはいけない。

毒針を抜き水で洗う

ピンセットなどで毒針を抜き、流水で洗い流して濡れタオルなどで冷やす。虫刺されの市販薬があれば塗り、すみやかに受診する。

子ども同士でぶつかった!

歯が折れた・抜けた

折れたり抜けたりした歯でも、乾燥させなければ元に戻すことができる場合があります。

卵白液につけてすぐに病院へ

抜けた歯の歯根膜を乾燥させないよう、卵白(なければ牛乳)につけて歯科に持参する。折れた歯は、ラップに包んで持参する。抜けた歯の付け根を触ってはいけない。

添田あき=イラスト 井上幸恵=取材・文