ノロウイルスとロタウイルスは冬から春に猛威を振るう!感染予防と対処法は?

ノロウイルスとロタウイルスは冬から春に猛威を振るう!感染予防と対処法は?

冬から春先にかけてはウイルスが原因の胃腸炎にも注意が必要です。実はノロウイルスは冬が流行のピーク。さらにロタウイルスは春先に流行するウイルスです。これらのウイルスは感染力が非常に強く、体内に入ると下痢や嘔吐、発熱などの症状を伴う感染性胃腸炎を起こします。ノロウイルスとロタウイルスによる感染症について、その症状と感染予防、感染した際のホームケアを、外房こどもクリニック院長の黒木春郎先生にお聞きしました。

監修プロフィール
こどもとおとなのクリニック パウルーム 院長 くろき・はるお 黒木 春郎先生

千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉大学医学部臨床教授。公認心理師。千葉大学医学部小児科医局に所属し、関連病院勤務を経て、1998年千葉大学医学研究院小児病態学教官。2005年外房こどもクリニック開業(千葉県いすみ市)を経て、08年医療法人社団嗣業の会理事長、23年より「図書室のなかのクリニック」をコンセプトにした、こどもとおとなのクリニック パウルームを東京都港区に開業。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医・評議員。日本遠隔医療学会理事。著書に『駆け抜けた17年』(幻冬舎)、『プライマリケアで診る小児感染症 7講』(中外医学社)、共著『最新感染症ガイド R-Book 2018-2021』(日本小児医事出版社)ほか多数。

冬から春は要注意!ウイルスが引き起こす感染性胃腸炎とは?

冬から春は要注意!ウイルスが引き起こす感染性胃腸炎とは?

ウイルスまたは細菌などの病原体に感染して起こる嘔吐や下痢などを総称して「感染性胃腸炎」と呼びます。ウイルス感染の中でよく耳にするのは、ノロウイルス、ロタウイルスなどですが、他にもエンテロウイルス、アデノウイルスなどがあり、細菌性としては、サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌(O157)、カンピロバクターなどが知られています。

感染性胃腸炎は食中毒と同一視されがちですが、必ずしも同じではありません。「食中毒の感染経路がウイルスや菌に汚染された食品や飲料に限定されるのに対し、感染性胃腸炎は食品に限らず、感染者の触ったもの、あるいは吐物や便などを介し、直接病原体に触れることで感染しますので、より注意が必要です」と黒木先生は話します。

ノロウイルスは1年を通じて感染する可能性がありますが、特に冬が流行のピーク。一方、乳幼児や小児が重症化しやすいロタウイルスは、春先にかけて流行します。ノロウイルスとロタウイルスの違いと対処法を詳しく見ていきましょう。

ノロウイルス感染症の症状と対処法

ノロウイルス感染症の症状と対処法

感染性胃腸炎の中で最も患者数が多いのが、11月~2月に流行するノロウイルス感染症です。ノロウイルスは人の腸管の中でしか増殖できない特徴がありますが、60℃程度の熱や胃酸では死滅せず、わずかな数のウイルスが付着するだけで感染するなど、強い感染力をもっています。また乾燥にも強く、感染者の吐物や便が乾燥すると、ウイルスが空中を漂い、周囲に感染を広げることも確認されています。

ノロウイルス感染者の症状としては、感染後1~2日の潜伏期があり、その後、嘔吐、水のような下痢、腹痛、発熱などが1~2日続きます。軽症で済む場合もありますが、感染力が強いことから、感染を広げないための注意が必要です。まずは感染した際のホームケアから見ていきましょう。

●脱水症状を防ぐには、こまめな水分補給が大事

ノロウイルスには抗ウイルス薬やワクチンはないため、対症療法しかありません。嘔吐や下痢などの症状は1~2日で落ち着くため、まずは安静に。そして脱水症状を防ぐため少量、頻回の水分補給を心がけましょう。「水を飲むのがつらいときは、経口補水液のゼリータイプ、あるいはゼリー飲料を少しずつ摂取するのがおすすめ。冷やすとより飲みやすくなりますので、ぜひ試してみてください」(黒木先生)。

脱水症状を防ぐには、こまめな水分補給が大事

●食事は炭水化物を中心に
下痢が続く時は、つい食事を控えがちですが、「過度な食事制限をするとかえって下痢を長引かせることがあります」と黒木先生は話します。ポイントは、ご飯、パン、いも、バナナなど炭水化物を中心とした食品を少量ずつ、吐かない程度に食べること。「特にお粥にしたり軟らかくする必要はありません。炭水化物をよくかんで食べることが大事です。また乳幼児の場合、ミルクを薄める必要もありません」とのこと。

●不要な薬はのまないこと
症状が続いている時に下痢止めや抗菌薬をのむと、ウイルスを体外に早く排出させることができなくなるため、かえって体に負担をかけることがあります。ノロウイルスを疑ったらまずは受診し、薬に関しても医師の指示を仰ぎましょう。

ノロウイルスの感染源となる食べ物は?牡蠣は危ない?

ノロウイルスの感染源となる食べ物は?牡蠣は危ない?

次にノロウイルスの感染源を確認しておきましょう。食べ物からノロウイルスに感染するケースでは、ウイルスが付着した手で野菜や果物に触れ、その食品を生で食べた例の他、牡蠣やアサリなどウイルスが取り込まれた食品を十分加熱せずに食べた例があります。貝がウイルス汚染される原因としては、ノロウイルスに感染した人の便や吐物が下水に排出され、ウイルスが死滅することなく海に流れ、貝に取り込まれることが考えられます。調理では次の点に注意してください。

●野菜や果物は流水でしっかり洗う
生野菜や果物にウイルスが付いていたとしても、食べ物の表面でウイルスが増殖することはありません。外側に付着しているだけなので、流水でしっかりと洗えば生で食べても問題はありません。ただし生ものを扱った包丁やまな板、ふきん、タオルにもウイルスが付着することもあるので、こちらもこまめに洗いましょう。

●牡蠣などの貝類は中まで火を通す
ノロウイルスは85~90℃で90秒以上加熱することで感染力を失います。60℃程度ではウイルスは死滅しないので、湯通しだけでは不十分です。11月~2月は牡蠣のおいしい季節ですが、生牡蠣はなるべく控え、揚げ物や鍋などで、中までしっかり火を通して食べることをおすすめします。

ノロウイルスの感染予防と効果的な消毒方法

ノロウイルスの感染予防と効果的な消毒方法

ノロウイルスの食品以外の感染としては、感染者が使ったトイレやドアノブ、物などに触れて感染する例や、感染者の便や吐物を処理する際に感染する例があります。黒木先生によると「ノロウイルスの流行で多いのは、むしろ食べ物ではなく、こちらのケース。特に家族内ではお子さんが感染し、便や吐物、おむつなどを処理した親が感染するケースが多く見られます」とのこと。どのような対策をとればよいのでしょうか。

●症状が落ち着いても、油断は大敵
症状が落ち着いても便通がよくなるまではウイルスを排出しており、そこから感染が広がる可能性があります。トイレ使用後は手洗いを徹底し、タオルは共用せずに、こまめに取り替えましょう。

●感染者の便や吐物に触れない
ノロウイルス感染者の便や吐物を処理する場合は、使い捨てのエプロンやマスク、手袋などを用意し、便や吐物に直接触れないよう細心の注意を。眼の粘膜からの感染を防ぐため、眼鏡あるいはゴーグルがあると安心です。

●次亜塩素酸ナトリウムによる消毒も有効
ノロウイルス感染者の便や吐物は完全に拭き取り、塩素系漂白剤を薄めた次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm、0.02%)などで消毒し、最後に水拭きします。「便や吐物が乾燥すると、ウイルスが空中に漂う原因になりますので、必ず乾燥する前に処理をしましょう。また吐物や便を処理する場所を1カ所に決め、こまめにその場所を消毒してください」と黒木先生。また、処理後は、使用したエプロンやマスク、手袋、拭き取ったペーパーなどをビニール袋に入れて次亜塩素酸ナトリウムをかけて密閉し、廃棄します。眼鏡やゴーグルなどもその都度、丁寧に洗い、吐物や便がついた衣類は他のものと分けて洗濯します。

●最大の予防はやはり手洗い

最大の予防はやはり手洗い

黒木先生は「ウイルスの感染予防対策として、最も大切なことは、やはり手洗いです」と話します。「石けんがあればなおよいですが、石けんよりも重要なのは必ず流水を使うこと。爪先や指の間なども丁寧に洗い、付着したウイルスを物理的に洗い流すことを意識してください」。

ロタウイルス感染症の症状と対処法

ロタウイルス感染症の症状と対処法

世界中の子どもが5歳までに感染するといわれるのがロタウイルスです。ロタウイルスが小腸の腸管細胞に感染することで起き、年末から春先にかけて流行します。特に生後6カ月から2歳までの乳幼児の発症が最も多く、次いで乳児に見られます。初めての感染で重症化しやすい傾向があり、まれにけいれんや脳炎、脳症を合併することもありますが、2020年10月からロタウイルスワクチンが定期接種化され、感染予防、重症化の予防ができるようになりました。

●乳幼児の発症が多い、ロタウイルスの特徴と感染源
ロタウイルスは主に患者の便に排出されたウイルスが経口感染することで発症します。ごくわずかな量のウイルスでも感染するのが特徴で、ウイルスが付着した物に触れた手指を介して口に入るケースもあります。潜伏期間は通常2日間。その後、発熱と嘔吐が始まり、1~2日後に水っぽく、白い下痢が頻繁に起こります。

●少量頻回の水分補給で脱水症状を防ぐ
抗ウイルス薬はないため、ロタウイルスに感染した場合は対症療法となります。「ノロウイルスと同様、脱水症状が起きないよう、少量、頻回の水分補給を心がけましょう」と黒木先生。通常は1~2週間で治ります。子どもは成長過程において何度かロタウイルスに感染しますが、徐々に症状が軽くなります。

ロタウイルスの予防接種で感染と重症化を防ごう

ロタウイルスの予防接種で感染と重症化を防ごう

前述した通り、2020年10月1日からは0歳児へのロタウイルスワクチンが定期接種となりました。これにより、ロタウイルスへの感染を約8割予防できるだけでなく、点滴や入院を必要とする重症化を約9割防ぐことができます。

ロタウイルスワクチンは口から飲ませる生ワクチンで、生後6週から24週になる前までに2回接種する「1価(単価)ワクチン」と、生後6週から32週になる前までに3回接種する「5価ワクチン」の2種類があります。「1価」と「5価」で接種回数は異なりますが、予防効果に違いはありません。またいずれのワクチンも1回目の接種は生後14週6日目までを推奨していますので、早めに予約しておきましょう。ワクチン接種に関する不安な点があれば、かかりつけ医に相談してみてください。

また、2020年7月31日以前に生まれ、ロタウイルスワクチンの接種を受けていないお子さんの場合は、接種すべきか気になるところですが、「ワクチンには対象年齢があります。その年齢を超えた場合の接種の効果は不明です。そのため、接種年齢を超えたお子さんに接種することはありません」と黒木先生。

ノロウイルス、ロタウイルスはいずれも感染すると、つらい症状を引き起こします。感染者に対しては脱水症状を防ぐためのケアを行いましょう。また、いずれのウイルスも家庭内感染や集団感染が最も多い感染経路となります。家族や周囲に感染を広げないように、汚物の適切な処理や消毒を行うなど万全の対策を取ることが大切です。そして、日々の手洗いが何よりの予防策となります。日頃から家庭全員が手洗いの習慣を心掛けるようにしましょう。


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