乗り物酔いは出発前の備えが大切。乗り物酔いのメカニズムと克服法

乗り物酔いは出発前の備えが大切。乗り物酔いのメカニズムと克服法

旅行に出掛ける機会が増える行楽シーズン。乗り物に揺られ、吐き気や嘔吐、めまいなど不快な症状に悩む人もいることでしょう。乗り物酔いを防ぐには、乗り物酔い薬を服用する他、睡眠をしっかりとるなど体調を整えることも大切です。乗り物酔いが起こるメカニズムや対策法、克服法をご紹介します。

監修プロフィール
川越耳科学クリニック院長、埼玉医科大学客員教授 さかた・ひであき 坂田 英明 先生

1988年埼玉医科大学卒業。帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長、目白大学言語聴覚学科教授を経て、現職。日本耳鼻咽喉科学会専門医。著書に『【読む常備薬】図解 いちばんわかりやすいめまいの治し方: 「医師がすすめる名医」の最善・最短の治療法』(河出書房新社)『あぶない! 聞こえの悪さがボケの始まり: 「耳」を知る、治す、鍛える』(小学館)などがある。

乗り物酔いのメカニズムは?

乗り物酔いは主に、体の動きを感じる「内耳」と、体のバランス感覚を調整する「脳」の器官が関係して起こります。それぞれの器官の働きを見てみましょう。

●体の動きを感じる器官(内耳)

・三半規管(さんはんきかん)……耳の奥の内耳にある器官で、回転運動を感知する。体の動きに伴い三半規管内にあるリンパ液が動くと、刺激となって情報が脳に伝達される。
・耳石器(じせきき)……内耳の三半規管と蝸牛の間にある器官で、移動や傾きを感知する。移動に伴い中にある砂のような耳石が動くと、その刺激が情報となって脳に伝達される。

身体の動きを感じる器官は三半規管と耳石器

●バランス感覚を調整する器官(脳)

・前庭小脳(ぜんていしょうのう)……小脳の一部で、体のバランス感覚をコントロールする器官。三半規管や耳石器、目、筋肉など体の各器官がキャッチした刺激を調節して、大脳に伝達している。

バランス感覚を調整する器官は前庭小脳

では、乗り物酔いがなぜ起こるのか、そのメカニズムについてご説明しましょう。

通常、私たちが乗り物に乗ると、内耳や目、筋肉・関節は次のような刺激をキャッチします。
・内耳……揺れやスピードに伴い、三半規管内のリンパ液や耳石器内の耳石がかき乱されることによって受ける刺激。
・目……景色がめまぐるしく変わることによって受ける刺激。
・筋肉・関節……激しい揺れや振動によって受ける刺激。
内耳や目、筋肉や関節から激しい刺激の情報を受け取った前庭小脳は、混乱してしまいます。混乱した前庭小脳から情報を伝達された大脳は、それらを正常に処理できずに「不快」と判断してしまうのです。すると、脳の視床下部が反応して自律神経の働きが乱されます。

乗り物酔いのメカニズムは、各器官が刺激をキャッチし脳が混乱することで自律神経が乱れ、乗り物酔いの症状が起こる

血圧や呼吸、胃腸の働きなどをつかさどる自律神経が乱されることで、一時的に吐き気や嘔吐、めまいなど不快な症状が現れるのです。この症状を乗り物酔いといいます。

乗り物酔いの主な症状は、吐き気、めまい、眠気・あくび、顔面蒼白、頭痛

乗り物酔いは誰にでも起こりうるため、一般的に病気という認識は低いですが、ひどくなった場合は「動揺病」と診断されることがあります。

乗り物酔いと年齢には関係が!4~12歳頃までは酔いやすい

体のバランス感覚をコントロールする前庭小脳の発達段階によって、乗り物酔いの起こりやすさは変わっていきます。
0~3歳くらいまでの乳幼児は前庭小脳が未発達の状態にあるため、乗り物酔いすることはほとんどありません。その後、前庭小脳が発達し始める4~12歳くらいまでの間は、外部からの刺激に敏感に反応し、乗り物酔いを起こしやすくなります。ただし、この年齢になったからといって必ず酔うわけではありません。体調不良や体質、不安やストレスなども影響し、酔う子どもと酔わない子どもに分かれます。
一般的には20歳前後になると、前庭小脳の老化が始まるとされ、それ以降、刺激への反応が鈍くなっていきます。また、年齢を重ねるにつれて揺れやスピードに慣れていくことも関係し、乗り物に乗ってもほとんど酔わなくなります。

乗り物酔いと年齢

乗り物酔いを起こしやすい要因は?

同じ乗り物に乗っても、酔う人と酔わない人がいます。また、同じ人でも酔う時と酔わない時があります。
それは、揺れやスピードなど乗り物に乗ることで受ける刺激の「限界」が人それぞれ、その時々で違うからです。乗り物酔いは様々な要因が重なり、その人の限界を超えた時に起こる症状です。主な要因には次のことが挙げられます。

・体調不良……睡眠不足や疲労など。
・体質……低血圧や、前庭小脳をコントロールする力が不安定など。
・不安やストレス……乗り物に対する苦手意識や緊張感からくる心理的負担。
・慣れない動き……未経験や慣れない揺れ、スピードを受ける環境。


乗り物酔いを招く主な要因は、体調不良、体質、不安やストレス、慣れないい動きである。

乗り物酔いを防ぐには、これらの要因をできるだけ解消することが大切です。
ただし、20歳を過ぎても頻繁に酔って嘔吐したり、突然酔いやすくなったりした場合は、何らかの病気が潜んでいる可能性があります。一度、医療機関を受診しましょう。


乗り物酔いを防ぐコツは、出発前の準備から

乗り物酔いを防ぐには、出発前と移動中の対策が大切です。出発前は、次のことを心がけましょう。

●出発前の準備

・睡眠を十分にとる……睡眠不足や疲労があると自律神経が乱れやすい。乗り物で出かける前日は十分に睡眠をとり、休む。
・空腹・満腹を避ける……空腹や満腹状態は、自律神経の乱れにつながる。乗車前に軽い食事を摂るなどし、空腹や満腹になるのを避ける。
・体を締めつける服装を避ける……ベルトやネクタイ、きつめの下着など体を締めつける服装は酔いを助長しやすい。リラックスできるゆったりとした服装を心がける。
・「酔わない」と暗示をかける……不安は自律神経を乱す原因に。「酔わない」、「大丈夫」と思い込むことで、緊張をとる。
・乗り物酔い薬を服用する……乗り物に乗る30分前に服用する。薬効の他、服用したことによる安心感も得られる。

乗り物酔いの主な予防法

●乗車中の対策

乗車中は、揺れやスピードの刺激を緩和させることが大切。次のような対策をしましょう。
・頭をできるだけ動かさず進行方向を見る……三半規管のリンパ液の動きを最小限に抑える。
・読書や携帯用ゲームをしない……目から入る刺激を抑える。
・ガムをかむ……咀嚼により脳が刺激されることでリラックス効果が得られる。

乗り物に乗っているときの乗り物酔いの対策

●フィギュアスケート選手のように、頭の軸を動かさず回転すると酔い防止に

フィギュアスケート選手が酔わずに何回もスピン(回転)できるのは、訓練による「慣れ」と、回転中に頭の軸をぶらさないことで、リンクに対して三半規管の一部である外側半規管内のリンパ液を一定の位置に保ち、リンパ液の動きを最小限に抑えているためです。乗り物に酔いやすい人も同様に、車や電車の中では頭をできるだけ動かさず、進行方向を見て、乗り物の動きと同じように動くとリンパ液の動きが抑えられ、酔い防止につながります。

フィギュアスケート選手のように、頭の軸を動かさず回転すると酔い防止に

乗り物酔いが起きてしまったら、外へ出て気分を落ち着かせて

乗り物に酔ったら、乗り物を降りて外の空気を吸い、気分を落ち着かせましょう。
激しい揺れやスピードから解放されると、過剰な刺激による脳の混乱も治まり、徐々に症状は和らぎます。また、吐き気がある場合は我慢せず、吐いたほうが楽になります。
すぐに降りられない場合は、ベルトなど体を締めつけているような衣類を緩めます。窓が開閉可能な乗り物なら、こまめに窓を開けて換気し、新鮮な空気を取り入れましょう。

乗り物酔いが起きてしまったら、乗り物を降りて新鮮な空気を吸う

市販薬を上手に活用して、乗り物酔いを予防しよう

旅行などで長時間移動しなければならず、乗り物酔いが心配な場合は、市販薬を活用するのが効果的です。
乗り物酔い薬には、自律神経の興奮を抑え、嘔吐などの不快な症状を予防したり、和らげたりする成分が含まれています。
大人用、子ども用それぞれの薬に含まれる成分はほぼ同じですが、年齢によって服用量が変わるので、薬の説明書を確認し、適切な商品を選びましょう。
乗り物酔いの予防には、乗り物に乗る30分前の服用が効果的ですが、酔ってしまってからでも効果がある薬もあります。種類は錠剤と液剤の2つがあります。さらに錠剤の中でも口の中で溶けるチュアブルタイプは、乗り物の中で気分が悪くなった時に水なしですぐに服用できるので、便利です。
薬の服用は実際の薬効に加え、心理的な効果も期待できます。薬をのんだことによる安心感が、乗り物酔い防止につながるというデータもあります。

乗り物酔いの薬の種類は錠剤や液剤(ドリンクタイプ)

●子どもにおすすめなのは、小粒の錠剤やドリンクタイプ

子ども用の乗り物酔い薬としては、3歳から服用できる錠剤や液剤が市販されています。粒が小さい錠剤タイプの物や、フルーツ風味のドリンクタイプなど、子どもがのみやすい物を選ぶとよいでしょう。

頭痛を防ぐライフスタイル。規則正しい生活は、頭痛の予防につながります。

乗り物酔いを繰り返す場合は、耳鼻咽喉科やめまい外来を受診

頻繁に酔って嘔吐する場合や、20歳を過ぎても酔いやすい場合は、別の病気が潜んでいる可能性があります。耳鼻咽喉科やめまい外来で検査を受け、原因を特定しましょう。
乗り物酔いを招く病気は様々ですが、主に内耳と脳の病気が挙げられます。内耳の機能障害や脳の損傷などがあると、めまいやふらつきが現れ、酔いにつながります。さらに、口内炎や発熱、倦怠感、頭痛などを引き起こすヘルペスウイルスが内耳やその周辺の神経(前庭神経)に付着することによって、ふらつきや頭痛などを感じることがあります。
その他、自律神経失調症や低血圧、ぜんそくやアレルギー性鼻炎などのアレルギーをもっている人は、乗り物酔いを起こしやすい傾向があります。


●乗り物酔いを引き起こす病気の一例

・内耳の病気……メニエール病、突発性難聴、内耳炎など
・脳の病気……脳梗塞、脳出血など
・その他……低血圧、アレルギー、自律神経失調症、頭痛など

●病院での主な検査内容

検査対象 検査で分かること
目の動き 眼球が様々な方向に揺れる動きをすると、めまいやバランス感覚に障害が生じている。
聴力・聴覚 内耳の病気が原因の場合、難聴を併発していることがある。
バランス感覚 片足立ちや足踏みなどをして、体の重心に現れるふらつきを観察することで、脳や内耳の障害が分かる。

また、カフェインの摂り過ぎや、喫煙、騒音にさらされた環境など、日頃の生活習慣が乗り物酔いにつながることがあります。これらの習慣が内耳の機能に障害を与えやすいためで、乗り物酔いの改善には生活習慣の見直しも効果的です。

カフェインの摂り過ぎや、喫煙、騒音にさらされた環境など、日頃の生活習慣が乗り物酔いにつながることがあります。

乗り物酔いを克服するには?

乗り物酔いを克服するためには、揺れやスピードに慣れることと、バランス感覚を鍛えることがポイントです。次のような方法を実践してみましょう。

・乗り物に慣れる……バスなど大型の乗り物から乗り始め、少しずつ乗車時間を延ばしていく。慣れてきたら小型の乗り物に乗る。揺れやスピードに慣れていくと共に、乗り物への苦手意識を取り除く。
・寝返りを打つ……体勢を変えるトレーニングにより、体のバランス感覚を鍛える。
・滑り台やブランコで遊ぶ……子どもの場合は、体に動きを与える遊具でトレーニングするのも一案。遊びの一環として揺れやスピードに慣れる。


乗り物酔いの主な克服方法には、乗り物に慣れる、寝返りを打つ、滑り台で遊ぶ、ブランコに乗るなどがある。

この他、前転・後転運動や四股を踏む、頭を振るといったエクササイズも、体のバランス感覚を鍛えるのにおすすめです。無理のない範囲で毎日続けるとよいでしょう。

乗り物酔い予防のコツを押さえて、楽しくお出かけしましょう。


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