乳がんの早期発見に重要な「マンマチェック」と「ブレスト・アウェアネス」とは?

乳がんの早期発見のための啓発イベントが行われる毎年10月は「ピンクリボン月間」

各地で乳がんの早期発見のための啓発イベントが行われる「ピンクリボン月間」。毎年10月は乳がんについての関心が高まる時期です。このタイミングで乳がん検診を受けたり、「マンマチェック」や「ブレスト・アウェアネス」といったご自身でできる乳房チェックについての理解を深めたりしていけるとよいですね。乳がんへの理解推進と乳房のセルフケアについて、公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 乳腺外科医長の片岡明美先生にお話をうかがいました。

監修プロフィール
公益財団法人がん研究会 がん研有明病院 乳腺外科 医長 かたおか・あけみ 片岡 明美 先生

1994年佐賀医科大学医学部卒業。国立病院機構九州がんセンター乳腺科等を経て現職。乳がんの根治を目指した治療に加え、その後の社会復帰や結婚、子育てなど患者さんの個々の人生目標にむけて、再発しにくい体づくりやメンタルケアにも取り組んでいる。日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本外科学会指導医、日本乳癌学会乳腺指導医、検診マンモグラフィ読影認定医師。認定NPO法人ハッピーマンマ理事、認定NPO法人乳房健康研究会理事、NPO法人女性医療ネットワークマンマチアー委員会、日本乳癌学会評議員、日本サポーティブケア学会妊孕性部会長を務める。

乳がんになりやすい人の特徴

乳がんになりやすい人

乳がんは、日本人女性が患うがんの中で最も多いがんです。9人に1人の女性が、生涯に乳がんを患うと推定されています。2019年時点の乳がん罹患者数は約10万人(9万7142人)でした。次いで、大腸がん(6万7753人)、肺がん(4万2221人)、胃がん(3万8994人)、子宮がん(2万9136人)の順となっています。※1

※1 出典:国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」、厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2019」
 

年代別に見ると、乳がんの罹患者数は30代後半から増加し始め、40代後半から50代前半でいったん大きな山ができます。その後、50代ではやや減少しますが、60代後半で再び増加し、ピークを迎えます。

乳がんの罹患者数がこのようなカーブを描くのは、乳がんの発生に、女性ホルモンの「エストロゲン」が深く関係しているためです。卵巣から分泌されるエストロゲンは、主に女性の心や体を支えています。しかし、長年にわたってエストロゲンのレベルが高い状態が続くと、乳がんのリスクを高めることが分かっています。例えば、初経年齢が低い、閉経年齢が高い、出産経験がない、初産年齢が高い、授乳経験がないなど、月経周期に伴う卵巣由来のエストロゲンの産生が長く続いた人は乳がんのリスクが高くなります。また、閉経後の長期のホルモン補充療法もわずかながら乳がんリスクを高める可能性が示唆されています。

乳がんの年齢階級別罹患率

60代での乳がんの増加は、主に閉経後の体重増加と加齢が影響しています。閉経後は、ホルモンバランスの変化によって基礎代謝が落ちたところに運動不足も加わり、体重が増加する人が多くなります。閉経後のエストロゲンは皮下脂肪でつくられるので、体重増加とともに皮下脂肪が増加すると、分泌されるエストロゲンも多くなり、乳がんのリスクを高めてしまうのです。そして、50歳ごろからその状態が10数年続いた60代後半頃に乳がんが発生する確率が高まるというわけです。


乳がんのリスクを高めるホルモンの変化

また、乳がんの発生には遺伝の要素も強く関係しています。母親や姉妹など、近しい親族に乳がんになった人がいる人はかかりやすい傾向があることが分かっています。その他、飲酒や喫煙といった生活習慣も乳がんを発生させる要因となっています。


乳がんは「早期発見が大切」といわれるのはなぜ?

マンモグラフィで乳がんの早期発見

現状、日本において乳がんに罹患した場合、9割以上は治癒ができています。特に「非浸潤がん」と呼ばれる0期(ステージ0)のうちに見つけることができれば、転移はなく、再発もわずかにとどめられます。ただし、0期の乳がんはしこりが認められず、自分で発見することができません。しこりが発生するⅠ期(ステージ1)でも、その大きさは2cm以下と非常に小さく、よほど注意深く触診をしないと見つけることは困難です。乳がんのしこりは、1cmの大きさになるまでには5~10年かかるといわれていますが、1cmを超えると、1年間で倍の大きさに成長するといわれます。そのため定期的に乳がん検診を受けて、早期に発見をすることが大切なのです。

しかし、日本の乳がん検診の受診率は、40~69歳で44.9%※2であり、半数にも達していません。乳がん検診は、40歳以上の女性を対象に、2年に一度定期的に受けることが推奨されています。現在、国が推奨している乳がん検診は、問診とマンモグラフィ(乳房X線検査)です。検診費用の多くは自治体が負担しており、一部の自己負担のみで検診を受けることが可能です。面倒に感じるかもしれませんが、対象の方は確実に乳がん検診を受けて、できる限りの早期発見に努めましょう。

※2 出典:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」(2017年6月)


日々のセルフチェックで変化に気づく「ブレスト・アウェアネス」とは?

乳がんに気付くブレストアウェアネス

乳がんの早期発見においては、着替えや入浴、シャワーなど、日常生活のちょっとしたタイミングに乳房をチェックすることも重要とされています。乳房は、人に積極的に見せる部位ではないからこそ、自分自身で状態を日々チェックしておくことが大切です。

以前は、乳がんのセルフチェックを「マンマチェック」と呼び、月に1回程度しっかりと自己触診することを勧めていました。「マンマ」とはラテン語で「乳房」を意味します。ですが、しっかりと自己触診を行うことは確かに大切なものの、病気を見つけることが目的になるため気が進まなかったり、大げさに捉えられ、かえって敬遠されたりすることが少なくありませんでした。

そこで昨今では、もっと気軽に乳房の状態をチェックする「ブレスト・アウェアネス」という取り組みが推奨されています。日常的に乳房を見たり、さわったりする習慣を身につけて、自分の乳房の“いつもの状態”を知ることで、変化に気づきやすくなろうという取り組みです。乳がんの発見だけにとどまらず、広い意味で自分の体への気づきをもたらす効果も期待されています。日常生活に、以下のようなチェックをぜひ取り入れてみてください。

◆身につけよう、乳房セルフチェックの習慣
(1)見る
鏡の前に立ち、頭の後ろで手を組んで、バストの色や形を見ます。「くぼみ・ふくらみ」「ただれ・変色」「ひきつれ」がないかチェックしましょう。着替えのついでや入浴の前など、服を脱いだ時にやってみましょう。

乳がんの早期発見、乳房セルフチェック(1)見る

(2)さわる
頭の後ろで組んだ手の片方を下ろし、指4本で「の」の字を書くように、手を上げている側(左手を上げている場合は、左側)の乳房を軽くなでて、「しこり」の有無を調べましょう。手を上げることで乳房が広がるので、しこりが分かりやすくなります。乳首の下など乳房に厚みがある場所は、入念に伸ばしてさわってみてください。ついでに、わきの下のしこりの有無もチェックしておきましょう。

乳がんの早期発見、乳房セルフチェック(2)さわる

最後に、指で乳頭の根元を軽くつまみ、「血の混じったような分泌物」が出ないか調べてみましょう。

乳がんの早期発見、乳房セルフチェック(2)つまむ

(3)仰向けでさわる
寝る前など仰向けになった時も、乳房チェックのタイミングです。仰向けになり、背中の下に低めの枕または畳んだタオルを入れます。そして、立った状態で行う時と同様、片手を頭の後ろに持っていき、手を上げた側の乳房をさわって、しこりの有無を調べてみましょう。仰向けになることで、立っている時よりもさらに乳房が広がり、小さなしこりもチェックしやすくなります。わきの下も忘れずに確認しておきましょう。

乳がんの早期発見、乳房セルフチェック(3)仰向けでさわる

できればこれらのチェックを一日に1回程度行って、習慣づけられるとベストですが、まずはお風呂で体を洗う時などに気軽に乳房をチェックし、「いつもの状態」を知ることから始めてみましょう。

日々続けていくと、乳房の張りや硬さが月経周期によって変化することにも気づけるでしょう。例えば生理開始後5~7日目くらいは、乳房が最も軟らかくなるため、しこりを発見しやすくなります。この時期はいつもより入念にチェックをしてもよいでしょう。


いつもと違う感触があれば、早めに医師に相談を

しこりがあったり、いつもと違う感触があれば早めに医師に相談

バストのチェックをしていて、もしも、しこりのようなものが手に触れたり、いつもと違う感触があったりしたら、乳腺外科を受診しましょう。大切なのは、自分の“いつもの状態”を知っておくことと、“いつもとちょっと違う”という微妙な変化に気づいて、気軽に相談することだと片岡先生は話します。

 

「生理前はいつも胸が張るけれど、いつもとちょっと違う張り方だな……とか、ふだんはしっとりしているお肌が今日はざらざらしているな、とか。バストの変化だけでなく、自分の体調や気持ちの変化に、もっと敏感になってよいのです。お肌の調子を気にするような気軽さで、乳房に関しても、ちょっとした変化を感じたら気軽に受診してほしい」と片岡先生。

 

胸にしこりがある=乳がんとは限りません。何でもないこともありますし、治療の必要のない良性の疾患の可能性もあります。不安事を医師に相談するようなイメージで、怖がらずに受診しましょう。また、仮にしこりが悪性だった場合でも、患者さんの思いを聞いて治療法や手術の時期を選ぶなど、柔軟な対応ができるようになっています。


毎年10月は「ピンクリボン月間」乳がん検診の早期受診を

乳がんの正しい知識を広めるピンクリボン活動

乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の早期受診を推進することなどを目的とした「ピンクリボン活動」と呼ばれる、世界規模の啓発キャンペーンが毎年10月になると行われます。乳がんで亡くなられたアメリカ人患者のご家族が、「このような悲しい出来事が繰り返されないように」という願いを込めて、ピンク色のリボンを結んだのがキャンペーンの始まりです。リボンに託された思いが、今や世界中の女性に乳がん検診のきっかけを与えています。

アメリカがん協会(ACS)などが10月を「乳がん早期発見強化月間」と定めた流れを受け、日本でも毎年10月を「ピンクリボン月間」としています。10月になると、東京タワーや東京スカイツリーのライティングがピンク色になり、活動をPRします。また、乳がんの啓発イベントも全国各地で行われます。例えば平日は仕事で検診を受けるのが難しい人たちに向け、日曜日にマンモグラフィを受けられるようにした「マンモグラフィサンデー」というキャンペーンも開催されるなど、少しでも乳がん検診を受ける人が増えるよう、医療機関や医療従事者が協力して啓発にあたっています。

ピンクリボン活動や乳がんの検診、ブレスト・アウェアネスを通じて、体の変化に敏感になり、自分を大切にしていきましょう。


この記事はお役に立ちましたか?

今後最も読みたいコンテンツを教えてください。

ご回答ありがとうございました

健康情報サイト