犬も腸内環境が長生きの秘訣!? 愛犬の腸活を始めよう

犬も腸内環境が長生きの秘訣!? 愛犬の腸活を始めよう

人間の健康に役立つものとして腸活が話題になっていますが、犬の健康にとっても腸活は有効だと考えられています。
犬は、縄文時代の遺跡から骨が発掘されるなど、古くから私たちのそばで暮らしていますが、昔に比べて飼育環境も大きく変わり、犬の健康にも新たな課題が生じるようになりました。現代の犬が抱える健康課題と、腸活の取り入れ方について、獣医師の林先生にお話をうかがいました。

監修プロフィール
CHICOどうぶつ診療所 所長 はやし・みさえ 林 美彩 先生

獣医師。動物病院の娘として生まれ、幼い頃から動物と一緒に育つ。大学卒業後、代替療法と出会い、西洋医学と代替療法のよいところを融合させた治療、病気にならない体づくり、家庭でできるケアを提案する往診専門「chicoどうぶつ診療所」を2018年に、2024年6月に実店舗として北海道に「CHICOどうぶつ診療所」を開業。著書に『獣医師が考案した 長生き犬ごはん』『獣医師が考案した ワンコの長生き腸活ごはん』(どちらも世界文化社)などがある。


変わりつつある犬の健康課題

以前は、犬は番犬として屋外で飼われることが多く、飼い主のごはんの残り物など人間と同じ食べ物が与えられるのが一般的でした。しかし、人間の生活習慣も気候も変化した現代では、小型犬のみならず大型犬も室内で飼育されることが増え、バリエーション豊富なドッグフードが購入可能に。動物病院も身近な存在になりました。
愛犬の健康を気遣う飼い主も増え、犬の平均寿命は15歳前後まで延びましたが、それに伴い新たな健康課題も明らかになっています。


●運動不足

運動不足で、肥満や病気、筋肉や関節の動きの低下、ストレスによる問題行動が見られる犬が増えています。室内飼いであっても毎日の散歩を欠かさなければ問題はありませんが、飼い主が日々忙しく十分な散歩ができていないことも。また、「超小型犬は散歩不要」とうたって販売しているペットショップも見受けられます。どんなに小さな犬であっても散歩が不要なことはなく、しっかりと運動をしていないと心身の健康に影響が出てしまいます。散歩が難しい場合は、遊びを取り入れるなどしてお部屋の中で適度な運動をさせるとよいでしょう。


●現代の犬はストレス過多!?

人間は日々いろいろなストレスにさらされて体調を崩すことがありますが、実は犬も同じです。コロナ禍では、毎日通勤していた飼い主が家にずっといるようになったり、コロナ禍が明けると今度は不在がちになったりと、飼い主のライフスタイルが短期間で大きく変化しました。また、行動制限などで過度なストレスがかかったため、気持ちに余裕がなかったりイライラしたりしていた飼い主もいたのではないでしょうか。飼い主に寄り添って生きる犬には、このような飼い主の生活や感情の変化がストレスになります。


●住環境に潜む化学物質に注意!

洗剤などの日用品、カーテンやカーペット、建材などに使われている様々な化学物質は、人間の体に害がないように配慮された物がほとんどです。しかし、人間に比べて体に入った化学物質を代謝する力が弱い犬は、それらの化学物質を体内に蓄積させやすく、不調の原因となります。柔軟剤や芳香剤に含まれる合成香料によって体調不良や不快感が生じることを「香害」といいますが、合成香料も化学物質であり、犬もこの「香害」に苦しむことがあります。


●食べ物が負担をかけていることも

ペットフードの売り場に行くと、犬の体の大きさや年齢、健康状態などを考慮した多彩なドッグフードやサプリメントが販売されています。形状も素材も、製造方法も様々で、コロナ禍を境に手作りのドッグフードの通販も増えました。

ペットフードのイメージ画像

犬の体にあったフードが選べるようになった一方で、その犬にとって必要かどうかを吟味するのではなく、SNSの口コミでいいとされる物を安易に与えてしまう飼い主も少なくありません。その結果必要でない栄養が過多になってしまったり、体に負担がかかったりして体調を崩すケースがあります。また、フードだけでなくおやつの与えすぎで過食となることによって胃腸や肝臓が常に働き続けることになり、臓器が疲弊してしまいます。
サプリメントも同様に、あれもこれもと与えすぎた結果、栄養過多となり肝臓に負担がかかっているケースも少なくありません。


●「健康寿命」がより大切に

犬の平均寿命が延びるのに伴い、心臓や腎臓の病気、がん、白内障、糖尿病、認知症などを発症する犬も増え、介護が必要になるケースも見られるようになりました。人間と同様に、犬にとっても「健康寿命」がより大切になってきています。

犬の平均寿命が延びるのに伴い、病を発症する犬も増えているイメージ画像

犬の健康維持にも腸活は有効!

近年、心身共に健康な状態を維持するために腸内環境を整えようという「腸活」が注目されていますが、人間だけでなく犬の健康にとっても腸活は役立つと考えられています。


●犬にとっての腸活のメリット

腸は脳をはじめ体のあらゆる臓器と深くかかわっており、腸の不調は様々な病気につながります。そんな腸の健康のカギを握るのが、腸内細菌です。犬の腸内にも様々な細菌が存在し健康をサポートしていますが、加齢やストレスなどで腸内細菌の種類や数が減少し、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが乱れると、感染症にかかりやすくなったり、アレルギー症状などの不調を来したりすることがあります。その予防のためにも、腸内環境を整える腸活は大切です。
犬にとっての腸活のメリットとして、次のようなことが考えられます。
① 腸内環境の改善
下痢や便秘など消化器のトラブルを防ぎ、便通や便臭、口臭、目ヤニなどの分泌物を改善します。
② 免疫機能の正常な働きを維持
感染症やアレルギーなど、病気のリスクを低下させます。また、慢性炎症を防ぐことから、アンチエイジングにもつながります。
③ 栄養の消化吸収がスムーズになる
体に必要な栄養をしっかりと摂取することができ、基礎代謝もアップ。エネルギー代謝をコントロールする短鎖脂肪酸も十分につくられるようになり、肥満予防が期待できます。
④ 幸せホルモンがつくられる
イライラや食べ過ぎの防止に有効です。

腸内細菌の状態は生活習慣や環境、食事などで変化します。それはつまり、何歳からでも腸内環境は整えられるということ。飼い主が日頃から犬の腸活を意識することは、犬の健康維持、健康長寿にとって必要なことなのです。


●腸の状態は便でチェック

犬の腸の健康は、まず便の状態でチェックしましょう。
状態のよい便は次のようなものです。
・1回で2本程度の便がスムーズに排泄される
・地面にうっすらと跡がつく程度にしっとりとしている
・表面が滑らかで、軟らかいソーセージ状あるいはとぐろを巻いた状態

体の機能が未発達な子犬のイメージ画像

体の機能が未発達な子犬や、体の機能が低下し抵抗力が下がるシニア犬は、下痢や便秘などを起こしやすく、また、犬は人間よりも胃酸が強いため食中毒にはなりにくいものの、アレルギーや腸の粘膜に炎症を引き起こす病気、冷えなどが原因で下痢をすることもあります。
食べた物によっても便の状態やにおいは変わりますが、いつもと同じ物を食べているのに便の様子が異なっていたり、においがきつかったりするなら注意が必要です。また、ひどい便秘になると開腹手術になることもあるので、便が出ているかは毎日チェックするようにしましょう。
併せて、便と同じく体外に排出される目ヤニやよだれ、耳垢といった分泌物、体臭も、変化がないかチェックしておくと体調管理に役立ちます。


●病院に行く目安は「元気」「食欲」「年齢」で異なる

お腹の調子が優れない場合、成犬で元気で食欲もあるようなら、消化によい食事を与えたり、ファスティング(断食)したりしながら、2~3日様子を見てもよいでしょう。ただし、元気や食欲がない場合はすぐに受診してください。また、子犬やシニア犬は、元気があっても早めに病院に連れていきましょう。

腸活の基本、犬の食事はどうすればいい?

腸活の基本は、人間と同様に食事です。犬は雑食とはいえ肉食が基本であるため、動物性タンパク質を多めに、炭水化物は少なめがよいでしょう。犬は野菜を消化しにくいのですが、食物繊維が摂れるため、腸活を意識するなら食事に取り入れてみてください。
犬の食事については次のようなことを意識するとよいでしょう。


●ドッグフードの選び方のポイント

現代の犬の食事はドッグフードが中心です。種類も豊富で、中には腸の健康に配慮した物もあります。ドッグフードのパッケージにある「原材料名」は多く配合されている順に記載されています。選ぶ際は効果を期待している成分がどの程度入っているのかをチェックし、なるべく原材料が食材のみ(添加物が少ない物)がおすすめです。食品として安全面に配慮して製造されている物や、ドライフードの場合は高温調理されていない物を選ぶと、より安心でしょう。脂質は少ないほうが酸化のリスクを抑えられますが、脂質は犬にとっても大切な栄養素。脂質の少ないドッグフードの場合は、食べる時に新鮮で保管状態のよい油(亜麻仁油やえごま油、ココナッツオイル、サーモンオイル、クリルオイルなど犬の健康によいとされる物)を少量足してもいいでしょう。


●サプリメントも活用しよう

近年、犬用のサプリメントも増えています。特に子犬やシニア犬は、体調管理にサプリメントを有効活用できるでしょう。ただし、むやみに与えるのではなく、何のために使うのかを意識しましょう。フードと同様に期待すべき成分がどのくらい入っているのか、添加物は少ないかなどをチェックしてください。粉末、顆粒、錠剤、カプセルなど剤型も様々ですが、その犬が摂取しやすい物を選びましょう。

犬の腸活に、サプリメントを与えるイメージ画像

●犬が控えるべき食べ物とは?

腸内環境を悪化させる添加物や体内の炎症を加速させる酸化脂質、下痢や便秘の原因となるカゼインや乳糖、消化されにくいレクチン(タンパク質の一種)、肥満やアレルギーを起こすグルテンといった、犬の腸内環境に悪影響を及ぼす物を含む食べ物には注意が必要です。
また、人間がおいしく食べている物も犬にとってはダメな場合もあります。ねぎやチョコレート、お酒、タコ、イカ、いちじく、ぶどう、アボカドなどは与えないようにしてください。味が濃い物、脂質が高い物も体の負担になります。


●犬の腸活におすすめの食品・栄養素

①プレバイオティクス
腸内にいる善玉菌のエサとなる物で、代表格は水溶性食物繊維やオリゴ糖です。ただし、食物繊維を多く含む野菜や海藻類は犬には消化しにくい物が多いので、細かく刻んで加熱して与えるとよいでしょう。
②プロバイオティクス
ビフィズス菌や乳酸菌などの生きた善玉菌のことで、悪玉菌の増殖を抑え腸内細菌のバランスを整えます。発酵食品などで摂取できます。
③レジスタントスターチ
レジスタントスターチとは体内で消化されないでんぷんのことで、善玉菌のエサとなってその増殖を助けるだけでなく、動物性タンパク質の摂取によってアルカリ性に偏りがちな犬の腸内を弱酸性に保って悪玉菌の増殖を抑え、腸のバリア機能を高める働きもあります。また、脂肪の蓄積や血糖値の上昇を抑える作用も期待できます。レジスタントスターチには幾つかの種類がありますが、犬の腸活に適しているのは、冷えたご飯などに含まれる、糊化したでんぷんを冷やした際にできる物です。


●犬もSIBO(シーボ・小腸内細菌異常増殖症)に注意!

人間が腸活を行う際に、注意が必要な物にSIBOがあります。これは、小腸内で腸内細菌が異常に増殖して起こる病気で、炎症やガスが発生し、腹痛や便通異常といった症状が現れます。犬にもSIBOがあると考えられるため、腸活によいからといって発酵食品や善玉菌を含む食べ物を与え過ぎるのはよくありません。体調が改善しない、あるいは悪化したといった場合は、一度与えるのをやめましょう。


●手作りごはんは無理のない範囲で

犬のえさの手作りごはんのイメージ画像

手作りごはんは、犬に与える全ての食材が把握できて安心というメリットがあります。特にアレルギーがある場合はフード選びが難しいので、取り入れてみるとよいでしょう。ただし、全ての食事を手作りするのは、栄養計算なども必要になりハードルが高くなります。また、犬の口に合わなかった場合、「どうして食べてくれないの?」と怒ったりがっかりしたりする飼い主の感情の動きもまた、犬のストレスになりかねません。
人間のごはんの用意をする時に一部をアレンジするなど、負担にならない方法で作り、ドッグフードにトッピングすることから始めてみましょう。食事量の50%くらいを目指し、食いつきの様子や便の状態、体重が減っていないか、食欲が落ちていないかなども確認しながら割合を調整していってください。


●手作りごはんや腸活サプリは災害への備えになる

普段から手作りごはんに慣れておくと、災害時、備蓄していたドッグフードがなくなっても、人間が食べている物を分け与えることができるというメリットがあります。また、過去の災害では食事や環境が変わったことにより、便秘に悩まされた人が多かったという事例がありました。それは犬にとっても同じこと。人間と同様に腸内環境も乱れてしまいます。いつものフードはもちろん、犬用の腸活サプリメントも備蓄に加えておくとよいでしょう。

犬の腸活を支える生活習慣

食事、運動、睡眠が適切で、生活リズムが整っていること、ストレスが少ないことは人間の腸活でも、犬の腸活でも等しく大切なことです。「自分が同じことをされたらどう感じるか」という視点をもち、次のことを目安に、その犬の個性に合わせて調整しながら生活習慣の改善に取り組んでみてください。


●ストレスの少ない生活

ストレスが多いと下痢や腹痛、血尿、嘔吐、自分の体をなめ続けたり噛んだりするなど、体調や行動にトラブルが起こりやすくなります。環境の変化を少なくし、飼い主が適度なコミュニケーションをとって、心穏やかに過ごせるようにしてあげましょう。


●適度な運動

散歩は1日2回、超小型犬は20~30分/回、小型~中型犬は30分~1時間/回、大型犬は1時間以上/回が目安です。ただし、外が苦手、散歩が苦手という犬もいますので、無理のない範囲にし、お部屋の中で遊ぶなどして運動量を確保しましょう。


●十分な睡眠

犬の平均睡眠時間は12~15時間。成長期やシニア期はさらに長くなることもあります。快適に眠れる環境を用意してあげることが大切です。また、飼い主が夜更かしをすると犬もつき合って夜更かしに。その結果、犬にも疲れやだるさが出てしまうことがあるので、飼い主は生活リズムを整えるようにしましょう。


●健康な口腔環境

歯石ができやすく、歯周病にもなりやすいので、毎日の歯磨きを習慣化するとよいでしょう。人間と同様、歯間や歯周ポケットも入念にケアしてください。

犬の歯磨きのイメージ画像

人間も犬も「お腹」は大切

「腹をくくる」「腹が決まる」「腹に納める」などの言葉があるように、人間にとってお腹は生きていく上でとても重要な場所。犬にとっても、気を許した相手にしか見せないくらいお腹は大切です。家族の一員である愛犬のお腹を、ぜひ内側からケアしてあげてください。今は腸活だけでなく、血管活、口腔活など様々なケアが注目されています。腸活も含めて、無理をせず自分ができることを取り入れて、愛犬と共に健やかに生きていきましょう!



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