人間の健康に役立つものとして腸活が話題になっていますが、犬の健康にとっても腸活は有効だと考えられています。
犬は、縄文時代の遺跡から骨が発掘されるなど、古くから私たちのそばで暮らしていますが、昔に比べて飼育環境も大きく変わり、犬の健康にも新たな課題が生じるようになりました。現代の犬が抱える健康課題と、腸活の取り入れ方について、獣医師の林先生にお話をうかがいました。
獣医師。動物病院の娘として生まれ、幼い頃から動物と一緒に育つ。大学卒業後、代替療法と出会い、西洋医学と代替療法のよいところを融合させた治療、病気にならない体づくり、家庭でできるケアを提案する往診専門「chicoどうぶつ診療所」を2018年に、2024年6月に実店舗として北海道に「CHICOどうぶつ診療所」を開業。著書に『獣医師が考案した 長生き犬ごはん』『獣医師が考案した ワンコの長生き腸活ごはん』(どちらも世界文化社)などがある。
腸は脳をはじめ体のあらゆる臓器と深くかかわっており、腸の不調は様々な病気につながります。そんな腸の健康のカギを握るのが、腸内細菌です。犬の腸内にも様々な細菌が存在し健康をサポートしていますが、加齢やストレスなどで腸内細菌の種類や数が減少し、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが乱れると、感染症にかかりやすくなったり、アレルギー症状などの不調を来したりすることがあります。その予防のためにも、腸内環境を整える腸活は大切です。
犬にとっての腸活のメリットとして、次のようなことが考えられます。
① 腸内環境の改善
下痢や便秘など消化器のトラブルを防ぎ、便通や便臭、口臭、目ヤニなどの分泌物を改善します。
② 免疫機能の正常な働きを維持
感染症やアレルギーなど、病気のリスクを低下させます。また、慢性炎症を防ぐことから、アンチエイジングにもつながります。
③ 栄養の消化吸収がスムーズになる
体に必要な栄養をしっかりと摂取することができ、基礎代謝もアップ。エネルギー代謝をコントロールする短鎖脂肪酸も十分につくられるようになり、肥満予防が期待できます。
④ 幸せホルモンがつくられる
イライラや食べ過ぎの防止に有効です。
腸内細菌の状態は生活習慣や環境、食事などで変化します。それはつまり、何歳からでも腸内環境は整えられるということ。飼い主が日頃から犬の腸活を意識することは、犬の健康維持、健康長寿にとって必要なことなのです。
体の機能が未発達な子犬や、体の機能が低下し抵抗力が下がるシニア犬は、下痢や便秘などを起こしやすく、また、犬は人間よりも胃酸が強いため食中毒にはなりにくいものの、アレルギーや腸の粘膜に炎症を引き起こす病気、冷えなどが原因で下痢をすることもあります。
食べた物によっても便の状態やにおいは変わりますが、いつもと同じ物を食べているのに便の様子が異なっていたり、においがきつかったりするなら注意が必要です。また、ひどい便秘になると開腹手術になることもあるので、便が出ているかは毎日チェックするようにしましょう。
併せて、便と同じく体外に排出される目ヤニやよだれ、耳垢といった分泌物、体臭も、変化がないかチェックしておくと体調管理に役立ちます。
現代の犬の食事はドッグフードが中心です。種類も豊富で、中には腸の健康に配慮した物もあります。ドッグフードのパッケージにある「原材料名」は多く配合されている順に記載されています。選ぶ際は効果を期待している成分がどの程度入っているのかをチェックし、なるべく原材料が食材のみ(添加物が少ない物)がおすすめです。食品として安全面に配慮して製造されている物や、ドライフードの場合は高温調理されていない物を選ぶと、より安心でしょう。脂質は少ないほうが酸化のリスクを抑えられますが、脂質は犬にとっても大切な栄養素。脂質の少ないドッグフードの場合は、食べる時に新鮮で保管状態のよい油(亜麻仁油やえごま油、ココナッツオイル、サーモンオイル、クリルオイルなど犬の健康によいとされる物)を少量足してもいいでしょう。
①プレバイオティクス
腸内にいる善玉菌のエサとなる物で、代表格は水溶性食物繊維やオリゴ糖です。ただし、食物繊維を多く含む野菜や海藻類は犬には消化しにくい物が多いので、細かく刻んで加熱して与えるとよいでしょう。
②プロバイオティクス
ビフィズス菌や乳酸菌などの生きた善玉菌のことで、悪玉菌の増殖を抑え腸内細菌のバランスを整えます。発酵食品などで摂取できます。
③レジスタントスターチ
レジスタントスターチとは体内で消化されないでんぷんのことで、善玉菌のエサとなってその増殖を助けるだけでなく、動物性タンパク質の摂取によってアルカリ性に偏りがちな犬の腸内を弱酸性に保って悪玉菌の増殖を抑え、腸のバリア機能を高める働きもあります。また、脂肪の蓄積や血糖値の上昇を抑える作用も期待できます。レジスタントスターチには幾つかの種類がありますが、犬の腸活に適しているのは、冷えたご飯などに含まれる、糊化したでんぷんを冷やした際にできる物です。
手作りごはんは、犬に与える全ての食材が把握できて安心というメリットがあります。特にアレルギーがある場合はフード選びが難しいので、取り入れてみるとよいでしょう。ただし、全ての食事を手作りするのは、栄養計算なども必要になりハードルが高くなります。また、犬の口に合わなかった場合、「どうして食べてくれないの?」と怒ったりがっかりしたりする飼い主の感情の動きもまた、犬のストレスになりかねません。
人間のごはんの用意をする時に一部をアレンジするなど、負担にならない方法で作り、ドッグフードにトッピングすることから始めてみましょう。食事量の50%くらいを目指し、食いつきの様子や便の状態、体重が減っていないか、食欲が落ちていないかなども確認しながら割合を調整していってください。