愛猫の腸内環境、気にしていますか?
猫の飼育頭数が犬を上回ったと話題になったのは2017年のことでした。現在もその傾向は続いており、たくさんの猫が人間と共に暮らしています。家族の一員である猫の健康は、人間の健康と同じようにとても大切なもの。健康の源は食事であり、その食事が大きく影響するのが腸内環境、腸の働きです。
近年、人間の健康をサポートする腸活が話題となっていますが、猫の腸内環境や腸活についても研究が進められています。猫の腸活のメリットや、猫の食事の注意点について、獣医師の梅原先生に解説いただきました。
獣医師、国際中獣医学院日本校校長、ペット薬膳国際協会常任理事長。北里大学獣医畜産学部畜産学科、麻布大学獣医学部獣医学科で学び、東京都、埼玉県の動物病院にて勤務後の2001年、宮城県に「仙台プラム・アニマルクリニック」を開業。一般的な動物病院の西洋医学と、中獣医学(東洋医学)を併用した診療を積極的に取り入れ、鍼灸治療、薬膳、食事指導も多く行う。栄養学や薬膳学を得意とし、日本および海外での定期的なセミナー開講やメディアでの監修や執筆も多数。著書に『猫の寿命は8割が“ごはん”で決まる! 』(双葉社)がある。
猫の腸内環境や腸内細菌については、人間ほど研究が進んでおらず、犬と比べてもまだ多くの部分が解明されていません。人間や犬よりも猫のほうが球菌が多いといわれていますが、腸内細菌の種類や数、バランスについては明らかになっていないのが現状です。ただ、善玉菌や悪玉菌、日和見菌があることは分かっており、腸内環境は人間や犬と大きく異なる特徴はないと考えられています。
そのため、猫にとっての腸活には人間などと同じく次のようなことが期待できます。
① 腸内環境の改善
腸内環境の改善で、下痢や便秘など消化器のトラブルを防ぎ、便通や便臭、口臭を改善します。
② 免疫機能の正常な働きを維持
感染症やアレルギーなど、病気のリスクを低下させます。また、慢性炎症を防ぐことから、老化防止にもつながります。
③ 栄養の消化吸収がスムーズになる
腸内環境が整うと、体に必要な栄養をしっかりと摂取することができ、基礎代謝もアップ。エネルギー代謝をコントロールする短鎖脂肪酸も十分につくられるようになり、肥満予防が期待できます。
④ 幸せホルモンがつくられる
イライラや食べ過ぎの防止に有効です。
猫の腸内細菌も、人間と同様に母親からうつると考えられます。ただし、環境による影響のほうが大きいでしょう。腸活によって腸内環境を整え、病原菌が増えないようにすることが大切です。
人間のごはんは味が濃く脂質が過多で、必ずしも猫に適したごはんではありません。人間の食べ物の中には、ねぎやチョコレートのように猫の体に重大なトラブルを招く物もあれば、生肉や牛乳など食中毒や下痢の原因になる物もあります。猫の健康に配慮したキャットフードを選ぶのは、飼い主にとっても猫にとってもよいことでしょう。しかし、与え方には注意が必要です。
肥満や脂質異常症、コレステロール異常の猫が増えていますが、それは、昔に比べて栄養価の高いキャットフードを与えていることが原因ではなく、「食べ過ぎ」によるもの。おやつを与える場合も、量には注意し、与えた場合はその分食事の量を減らしましょう。キャットフードに限らず、刺身などを分け与える場合も、人間と同じ感覚で与えてしまうと量が多過ぎてしまいます。
食べ過ぎて太ってしまう猫もいれば、消化不良を起こして栄養がしっかり吸収できずにやせてしまう猫もいます。食事のコントロールは、猫の健康を管理する上で飼い主の大切な役割なのです。
キャットフードには、猫が必要とするアミノ酸の一種、タウリンが含まれていることが多く、高品質なキャットフードでは、猫の健康をサポートするために適切な量のタウリンを含んでいます。
猫にとってタウリンは非常に重要な栄養素です。タウリンは猫の視力、心臓機能、免疫システムの健康を維持するために必要です。猫は体内で十分な量のタウリンを合成できないため、食事から摂取する必要があります。
キャットフードを選ぶ時には、パッケージに記載されている成分表もチェックしましょう。もともと肉食である猫の場合、エネルギー源として人間や犬よりも多くのタンパク質を必要とします。キャットフードの総量に対して含まれる栄養素は、タンパク質35~40%、炭水化物35%※、脂質20%くらいが目安になりますが、この数値にこだわり過ぎなくてもOK。ただし、腎臓に疾患のある猫は、タンパク質が多過ぎると症状が悪化するので、フード選びに迷ったら獣医師に相談するとよいでしょう。
キャットフードのベースは肉類ではなく穀類ですが、「猫にとって穀類は不要なのでは?」と疑問をもつ人もいます。確かに猫は穀類の消化・吸収が苦手で、食べ過ぎると体の負担にもなります。しかし、キャットフードに含まれる穀類は猫が消化・吸収できるように加工されており、炭水化物以外の、猫に必要な栄養を補ったり、タンパク質や脂質が過剰になるのを抑えたりする働きがあります。適度に与えれば問題になりません。
また、キャットフードのメーカーの姿勢にも注目してみてください。何を大切に考え、どれだけ研究しているかが分かれば、期待している効果が得られるかどうかの判断材料になるでしょう。
※ 炭水化物量は記載されていませんが、「100-タンパク質-脂質-粗繊維-灰分-水分」で計算できます。
最近は手作りごはんを与える飼い主も増えてきました。手作りごはんは、猫の体調や嗜好などに合わせてカスタムしやすいのがメリット。腸活にも活かしやすいと考えられます。虚弱な猫には肉を多めに、ダイエットや水分摂取が必要な猫には野菜をプラスするとよいでしょう。肉と野菜を一緒に煮てごはんを作ったり、それが難しい場合は煮たりすりおろしたりした野菜を市販のフードに混ぜてもOKです。
ただし、手作りごはんは猫にとって必要な栄養素をバランスよく配合するのはとても難しいこと。猫は腸が短く、消化に時間のかかる植物性の食べ物を有効に活用できません。そのため、腸活を意識するあまり大量に野菜を与えてしまうと逆に体調不良に陥ることも。猫にとって必要な栄養素とは何かをきちんと理解した上で、毎食ではなく、食いつきや便の状態、体調などを確認しながら取り入れていくことをおすすめします。
猫の腸の状態をチェックするには、まず便の状態を確認しましょう。状態のいい便は次のようなものですが、便の状態は腸内細菌だけでなく腸の活動によっても変わります。
・1回で人間の人差し指1、2本程度の量がスムーズに排泄される
・1日1、2回
・乾いているが、表面に猫砂がつくくらいの湿り気がある
・かりんとうやバナナのような形
便の量は多ければよいというわけではなく、食べた物をしっかり消化・吸収していれば、それほど多くはなりません。また、猫はもともと乾燥地帯に住んでいたことから、水分摂取量が少なく、便が硬くなりがちです。水分が少な過ぎると、便秘だけでなく膀胱炎や尿結石なども起こしやすくなるので、水が飲みやすい環境をつくり、ドライフードばかりではなくウエットフードも与えるとよいでしょう。