脚のむくみはQOL(生活の質)を低下させるだけでなくパンパンに膨れてしまった脚は、外見的にも気になるもの。誰にでも起こる症状ですが、思わぬ病気が隠れている場合も。放っておかずに原因を知り、適切なケアをしていきましょう。
2000年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部形成外科助教、佐賀大学医学部形成外科診療准教授などを経て、2016年日本初の「足の総合病院」としてリニューアルした下北沢病院の院長に就任。日本形成外科学会専門医、日本フットケア・足病医学会評議員・認定師、日本リンパ浮腫治療学会評議員、日本創傷外科学会専門医。
脚がむくみやすいのは、私たちの脚が心臓よりも下にあるからです。全ての血液は、心臓から動脈を通って全身に運ばれ、その後、静脈を通って心臓に戻ります。立った状態だと脚は心臓よりも下になるため、血液は心臓に戻りにくくなっています。
これを押し戻す働きをしているのが、ふくらはぎや足の筋肉。血流が滞りがちな脚の静脈を圧迫して、ポンプのように血液を押し戻しています。そのため、ふくらはぎの筋力が弱かったり筋肉を使わなかったりすると、脚はむくんでしまうのです。
では、「むくみ」とは一体何なのでしょうか? 私たちの体の約60パーセント(体重)を占めている水分は、「細胞外液」と「細胞内液」に分けられます(図参照)。むくみに関係するのが細胞外液のうち「細胞間液」です。
細胞間液は、細胞と細胞の間に存在する水分で、毛細血管の動脈側から細胞間液にしみ出てきた酸素や栄養素を細胞に届けると共に、細胞にたまった老廃物を回収し、毛細血管の静脈側へ、一部はリンパ管へ吸収させる働きを担っています。
通常、細胞間液の量は一定に保たれていますが、何らかの原因で動脈側からしみ出す水分量が増えてしまったり、静脈側やリンパ管への回収がうまく行われなかったりすると、細胞間液は過剰にたまり、皮膚が膨張してしまいます。これがむくみの正体です。
脚のむくみの根本的な原因は、血液を心臓に押し戻すポンプ作用を弱くする「脚の筋力の低下」です。私たちの筋肉は年齢と共に減少してしまうため、運動などを習慣にしていない限りは加齢と共にむくみやすくなってしまいます。
女性は男性よりも筋力が弱いことに加え、女性ホルモンの影響も受けてしまいます。月経前に増えるプロゲステロンは水分をため込もうとする作用があるため、月経前はむくみやすくなります。また、女性ホルモンのバランスが変化する更年期も、自律神経の乱れから血行不良を招き、むくみやすくなります。
脚がむくみやすいシチュエーションの代表が、電車や飛行機などに長時間乗っている時や1日中デスクワーク(あるいは立ち仕事)をした日の夕方です。そのむくみの原因は、脚をあまり動かさないことによる血行不良。血液の流れがスムーズでないと、細胞間液から静脈側への回収がうまく行えず余分な水分をため込んでしまいます。
塩分過多の食生活にも注意が必要です。塩分が過剰になると、体は塩分濃度を薄めようと水分を過剰にため込み、むくみやすくなります。インスタント食品や外食中心の食生活をしている人は、塩分過多になりやすいので気をつけましょう。
実は、むくんでいる時間が長いほどむくみは取れにくくなります。むくみによって皮膚の下に水分がたまった状態が続くと、皮下組織が線維化し、固まったスポンジのようになってしまいます。こうなると、朝晩関係なく脚がずっとむくんでいる状態になり、本来の脚の太さに戻りにくくなってしまうのです。むくみを慢性化させないためにも、その日のむくみはその日中に解消するようにしましょう。
病気の症状としてむくみが起こる場合があり、そのむくみは「浮腫」といいます。この場合、朝になっても脚のむくみが引かない、手や顔などがむくむ、痛みを伴う、尿量が減る、短期間で急激に体重が増えるなどの症状も現れます。
医療機関では体の片側のむくみは血管外科で、「下肢静脈瘤」や「深部静脈血栓症」のチェックをしますが、むくみではなく筋肉や関節の炎症で腫れているケースもあります。また、乳がんや子宮がんの手術を受けた人がむくむ場合は、婦人科か形成外科でリンパ浮腫を調べます。
両側がむくむ場合は、内科で心臓、腎臓、肝臓のチェックを行います。
血行不良によるものか、病気によるものか、むくみではなく腫れや炎症なのかは見極めが難しいため、自己診断せず、少しでも気になることがあったら、かかりつけ医に相談しましょう。
サンダルやミュールなど、かかとが浮いてしまう靴で歩くと、歩幅が狭くなり、足首から下しか使わないペタペタ歩きになりがちです。こうした歩き方ではふくらはぎの筋肉がなまけてしまい、脚のポンプ作用が有効に働きません。足を無理な形で閉じ込めるハイヒールも、末梢の血行不良でむくみの原因に。ブーツは脚の側方が固定されるのでよいですが、高いヒールは前後が不安定でむくみや疲れが起こりやすくなります。
こうして見ると、女性がよく履くような靴は、むくみと隣り合わせといえます。むくみやすい靴を履いた日の夜は、Q6のようなケアを行ったり、5本指ソックスで足指を解放してあげたりするとよいでしょう。
むくんだ脚をそのままにしておくと、だるさや痛みの原因にも。むくみグセをつけないよう、1日のむくみは寝る前にケアする習慣をつけましょう。上記におすすめのマッサージを紹介していますが、その前にまず行いたいのが入浴です。血流を促し、筋肉を柔らかくしてくれるのでむくみの解消に効果的です。全身浴ができない時は、フットバスでもOKです。
ふくらはぎ(アキレス腱)が硬い人は、脚のポンプ作用をうまく使えていないことが多いです。むくみにくい脚を目指すなら、「アキレス腱伸ばし」でふくらはぎの筋肉や足首を柔らかくしましょう。また、むくみの予防には、私たちの体重や歩く動作を支えている、足首より下にある小さな筋肉の集合体(足底内在筋)を鍛えることも大切。トレーニングとしては、下記の「タオルギャザー」がおすすめです。
日常生活では長時間同じ姿勢を続けず、1時間座り(立ち)続けたら、ストレッチしたり、脚を台の上に上げたりし、こまめにむくみケアを行いましょう。
食事は塩分コントロールを心がけ、女性は1日7グラム未満(男性は8グラム未満)を目安に減塩を。利尿作用があり、塩分の排泄作用もあるカリウムを意識的に摂るのも有効です。カリウムが多いのはアボカド、バナナ、トマト、海藻類や豆類など。ただし、腎機能が低下しているとカリウムの排泄がうまくいかず体調不良を起こしやすくなります。腎疾患がある人は医師に相談してください。
いずれの対策も数日行えばむくみにくくなるというものではありません。トレーニングやストレッチ、減塩を習慣化し、むくみにくい脚を目指しましょう。
医療用に開発された「弾性ストッキング」は、脚の静脈に圧をかけてポンプ作用をサポートします。むくんでからでは効果を得にくいので、朝から着用して夕方以降のむくみを予防しましょう。就寝中は、締め付け度の緩い着圧ソックスがおすすめ。どちらも着用後に脚の色が悪くなったり、痛みが出たりした場合は直ちに着用を中止してください。