全身の体重を支える膝の関節には、日々多くの負担がかかっています。そのため膝は、痛みを起こしやすい部位といえます。膝の関節痛の原因で最も多いのが、加齢や肥満に起因する「変形性膝関節症」。膝の関節軟骨がすり減るなどして膝に痛みが起こり、放置すると歩けなくなることもある疾患で、膝の痛みを訴える人の約9割に発症し、推定患者数は2500万人ともいわれています。主に40代以降の女性に多く見られますが、筋肉の老化が始まる30代から発症する場合もあります。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ膝関節は、全身の体重を支えるため、日々多くの負荷や衝撃を受けています。こうした負荷を和らげるため、骨の先端は、骨が受ける衝撃を吸収したり、膝の動きをスムーズにしたりする働きをもつ「関節軟骨」に覆われています。大腿骨と脛骨の間にある三日月形の軟骨「半月板」も、骨同士が直接ぶつかり合わないよう、クッション材の役割を担っています。関節痛の原因で最も多い変形性膝関節症は、次のような原因により、関節軟骨や半月板が傷むことで起こります。
関節痛(変形性膝関節症)になりやすい人の特徴は、加齢の他に、次のようなことが挙げられます。
この他、半月板を損傷した状態でスポーツを続けると、半月板の破片などが膝関節軟骨を摩耗させるため注意が必要です。スポーツ中などに強い衝撃を受けた後、膝に痛みや引っかかりを感じた時は半月板損傷の可能性も。医療機関を受診して治療しましょう。
変形性膝関節症は、関節軟骨に傷がつくことで症状が現れ始め、数十年かけて次のように進行します。
ぶつけたわけでもないのに、時々痛み、しばらくすると治まる。
階段の上り下りや、いすから立ち上がる時など、動き始めに痛みを感じるが、しばらく休むと治まる。
歩くだけでも痛む。安静にしても痛みが治まらない。膝の周辺がはれて、ほてりを感じる。
歩く時に杖や手すりが必要になる。
症状の現れ方には個人差があるので、関節軟骨のすり減りだけが関節の痛みの原因とはいえません。とはいえ、膝のこわばりやだるさ、痛みを感じたら、放置したり我慢したりせず、早い段階で治療を始めることが大切です。
ぶつけたわけでもないのに、 時々 痛み しばらくすると治まる。
階段の上り下りや、 いすから立ち上がる 時など、 特定の動きで痛みを感じる。
歩くだけでも痛む。 安静にしても 痛みが治まらない。
歩く時に杖や手すりが必要になる。
※痛みの現れ方には個人差があります。
関節軟骨には血管がなく、血液によって栄養分が運ばれていないため、一度すり減ると元には戻りません。しかし早めに治療を行えば、9割の症状が改善され、治療をしない場合とでは10年の膝に大きな差が現れます。膝にきしみなどが現れた段階(前期)で、受診をしましょう。以下チェック表のような症状が現れる場合は、早急な受診が必要です。
□動いていない時でも痛む
□就寝中にも痛み、目が覚める
□歩行時に膝が揺れて歩きにくい
□膝に水がたまる
※該当する項目があれば、変形性膝関節症が中等度まで進行している可能性があります。早急に受診しましょう。
医療機関ではレントゲンなどで検査をした上で、ヒアルロン酸の注射や消炎鎮痛剤を処方し、関節の痛みを取り除く治療を行います。関節の痛みが続くと、運動不足から膝を支える筋力が低下し、余計に痛みが増すという悪循環にも陥りがちです。そのため、消炎鎮痛剤で痛みを緩和し、急性の強い痛みがなければ筋力の低下を防ぐ「運動療法」や「食事療法」、体重の適正化などの指導を行います。
変形性膝関節症は、関節軟骨がすり減り始める初期の段階では、長時間膝を動かさないでいると、関節周りの筋肉が硬直し、動き始めに痛みを感じることがあります。いすから立ち上がる時や起床時などは、膝を数回動かしてから、ゆっくりと動き始めましょう。また長時間乗り物に乗る時などは、時々膝を動かすようにしましょう。
日常生活の中で、膝には大きな負担がかかっています。痛みがある時は、次のような工夫をすると、痛みを和らげることができます。
膝の痛み予防・改善のためには、膝を支えている太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えること、膝関節の周りの筋肉をほぐしてスムーズに動くようにすることが大切です。膝が痛いからといって膝関節を動かさないでいると、次第に動かせる範囲が狭くなり、曲げ伸ばしが困難になるだけでなく、膝を動かす大腿四頭筋も衰えていきます。無理のない範囲で、できるだけ膝を動かすようにしましょう。
①いすの縁につかまり、浅く腰かける。
②左膝を伸ばして、かかとを10cm持ち上げて5秒間キープ。反対側も同様に行う。
①いすに浅く腰かけ片脚を伸ばす。膝の少し上に両手を置き、ゆっくり押して膝を伸ばす。この時、背中を伸ばし足先を上に反らして行う。反対の脚も同様に行う。
②床に座り、片方の足首に両手を添えて、お尻の方にゆっくりと引き寄せる。反対の脚も同様に行う。
適度な運動と併せて、バランスのとれた食事を摂ることが大切です。肥満を気にして肉類を控える人がいますが、筋肉をつくるためにタンパク質は必須の栄養素。豆腐や納豆などの大豆製品、卵、魚、鶏のささみ肉など、低脂肪・高タンパクの物を選ぶとよいでしょう。
その他、骨を丈夫にするカルシムやビタミンCも積極的に摂るようにしましょう。
また、急性期ではなくても、運動した後や買い物などで歩いた後など、膝を使った直後は、急性期と同じように膝に炎症が起こりやすくなります。自分では痛みやほてりを感じていなくても、アイシング、湿布によるケアを行うことをおすすめします。
関節への負担を軽減する「減量」も予防・改善に有効です。体重が1kg増えただけでも、歩行時は2~3kg、階段の昇降時は4~5kgの負担が増えるといわれています。まずは暴飲暴食を避けて、バランスの良い食事、適度な運動を心がけましょう。自己流の食事制限を行うと筋力をつくる栄養素が不足し、筋肉が落ちて痛みの悪化につながることもあるので、ご注意を。
変形性膝関節症は女性に多く見られます。40歳を過ぎた辺りから増え始め、70代では7割の女性が発症するといわれています。そのため女性は、他人事と思わず、自分も変形性膝関節症になる可能性があると認識し、予防に努めましょう。