日本人の成人約8割がかかっているといわれ、歯を失う最も大きな原因となる歯周病。歯周病菌が原因で歯茎が腫れて血が出たり、歯槽骨(しそうこつ)が溶けたりし、やがては歯が抜け落ちてしまう病気です。近年では、歯周病菌が歯茎から血液に侵入すると、動脈硬化や糖尿病、早産や低体重児出産など、全身に悪影響を及ぼすことが分かっています。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
歯周病とは、「歯肉炎」と「歯周炎」の総称で、歯の表面に付着しているプラーク(歯垢)内の歯周病菌が原因で発症する感染症です。プラークとは、食べ物の中の糖分と口の中の細菌によってつくられる物質。口の中には300〜700種類もの細菌が生息していますが、その中の歯周病菌が歯と歯茎の間に侵入して酵素や毒素を出し、炎症を起こすことによって歯周病が進行します。
歯周病の原因となるプラークはバイオフィルムという粘着性のあるに物質で覆われているため、口をゆすぐ、洗口液を使用するだけでは除去できません。プラークを確実に除去するためには、歯ブラシでブラッシングをして、かき落とすことが必要です。ブラッシング不足はもちろん、次のような生活習慣も歯周病の進行を助長する原因と考えられます。
女性が歯周病になりやすい原因の1つに女性ホルモンがあります。女性ホルモンには歯周病菌を増やしたり、歯周炎を悪化させたりする作用があることが分かってきました。そのため、女性ホルモンがつくられ始める思春期や女性ホルモンが大量に分泌される妊娠期には、歯周病が発症したり進行したりする傾向があります。特に妊娠期はつわりで歯磨きが十分にできないことがあるため、注意が必要です。
歯磨きが不十分で歯と歯茎の間にプラークがたまると、その中の歯周病菌が出す酵素や毒素によって炎症が起こり、歯茎が腫れてきます。この段階を「歯肉炎」といいます。
初期の段階では痛みもなく、自覚症状がほとんどないため、初期症状を見逃さないことが大切です。
歯茎の炎症が広がると、歯と歯茎の間にすき間(歯周ポケット)ができ、そこにプラークがたまって炎症が悪化。血や膿(うみ)が出たり、歯を支える歯槽骨が溶け始めたりします。口臭が強くなることもあります(軽度の歯周炎)。歯槽骨の破壊が進むと歯がぐらつき、物がかめなくなるために抜歯が必要になったり、抜け落ちたりします(進行した歯周炎)。
歯周病は、歯茎だけでなく、歯周病菌や菌が出す毒素などが歯茎の毛細血管から血液に乗って全身を巡り、様々な部位で命にかかわる疾患を引き起こしかねないことが分かってきました。初期症状を見逃さず、しっかりケアすることは歯茎だけでなく、以下のような全身への悪影響を未然に防ぐことにつながります。
ブラッシングは歯周病の予防だけでなく治療にも大きな効果を発揮します。歯周病の原因であるプラークがたまると、さら炎症が悪化するので、ブラッシングでしっかりとプラークを取り除きましょう。初期段階であれば、ブラッシングによって多くの炎症は治まります。
歯周病予防には、口の中のプラークをためないよう、毎日のブラッシングと共に次のようなケア用品を使って小まめに取り除くようにしましょう。
毎日ブラッシングしていても、歯周病の原因となるプラークは少しずつたまり、約2日経つと細菌の増殖につながりやすい歯石となります。歯石は歯磨きでは取り除くことができません。また、加齢と共にプラークや歯石はたまりやすくなります。
日々のセルフケアに加え、定期的に歯科医院で歯石を除去するとよいでしょう。再発しないためのメンテナンスを目的とする場合は3カ月に1度、健康な人であれば半年に1度を目安に、歯と歯茎の健康チェックを行うことが大切です。
元気な歯と歯茎は、毎日の生活習慣によってつくられます。ストレスをためず、栄養バランスのとれた規則正しい食事、質のよい睡眠、適度な運動といった健康的な暮らしを心がけて免疫力を保ち、歯周病を予防していきましょう。
喫煙者は血液循環が悪化したり、細菌と戦う白血球の働きが衰えたりすることから、吸わない人に比べて歯周病リスクは2~8倍といわれています。また、喫煙していると出血しにくくなるため、気づいた時にはかなり進行していることにもなりかねません。歯周病予防の視点からも禁煙をおすすめします。
歯周病患者が増えるのは、免疫力が衰え始める35歳頃からですが、実は歯周病菌は永久歯が生え始める小児期から歯茎の溝に潜んでいる人もいます。また、女性は思春期に女性ホルモンがつくられ始めると歯肉炎が起こりやすくなります(「女性ホルモンが歯周病を助長する!?」へ)。子どもの頃から正しいケア習慣を身につけ、原因となる菌を増やさない生活を送りましょう。