「湿疹」あるいは「皮膚炎」は、かゆみや赤い発疹を起こす、皮膚の様々な症状の総称で、湿疹も皮膚炎も同じ意味で使われます。私たちの体を外界から守ってくれている皮膚は、環境や季節にとても敏感です。空気が乾燥する冬や汗を多量にかく夏に湿疹は起こりやすく、アレルギーやアトピーの人は悪化しやすい傾向があります。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
皮膚表面の角質層では、保湿物質であるセラミドなどの細胞間脂質が水分を保ち、その上を覆う皮脂膜が、外界の刺激から肌を守ると共に水分の蒸発を防ぐ「バリア機能」を果たしています。冬は大気の乾燥により、皮膚から奪われる水分量が増えます。加えて気温が低く新陳代謝も低下するため、皮脂の分泌量も低下します。そのため、皮膚の保湿機能が低下してしまいます。健康な皮膚ならかゆみを感じる「神経線維」は真皮と表皮の境界部にとどまっていますが、乾燥肌になると角質層のすぐ下まで伸びてくるため、衣服のこすれといったわずかな刺激でも敏感になり、かゆみを感じてしまうようになります。皮膚のバリア機能が低下したままだと、皮膚内部に異物が侵入し、湿疹が生じてかゆみも強まります。それをかくとさらにかゆみが広がり、悪循環に陥ってしまいます。
肌を露出する機会が増える夏場、皮膚は常に刺激にさらされています。多量の汗は乾燥すると結晶となり、汗に含まれるナトリウムや尿素が皮膚を刺激し、炎症を起こします。そして増大した紫外線で、皮膚の免疫力が低下。加えて高温多湿により、免疫力が低下した皮膚に細菌や真菌(カビ)が繁殖し、皮膚の感染症を招きやすくなります。
汗が出る汗腺に汗がつまると湿疹(あせも)になります。また、汗によりアクセサリーなどの金属成分がわずかに溶け、その成分に皮膚がアレルギー反応を起こしてかぶれることがあります(アレルギー性接触皮膚炎)。
気管支ぜんそくや花粉症、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患のある人は、皮膚に刺激物質が接触すると体から異物を排除しようと働く「抗体」ができやすく、ひとたび抗原抗体反応が起こると、ごく微量のアレルゲンに触れただけでもアレルギー反応を起こし湿疹ができるようになります。また、アトピー性皮膚炎の人は皮膚のバリア機能が低いため、乾燥しやすい冬場や、汗の刺激を受けやすい夏場に症状が悪化する場合もあります。
直接外界と接している皮膚は、常に様々な物質からの刺激を受けていますが、中でも多くの刺激を受ける手に起こる湿疹を「手湿疹」といいます。毎日洗剤を使う主婦などに多く見られることから「主婦湿疹」とも呼ばれますが、正式には「進行性指掌角皮症(しんこうせいししょうかくひしょう)」です。日常的に使う洗剤や洗髪剤などの化学物質から受ける刺激によって、皮膚のバリア機能が破壊されて湿疹が生じます。アレルギー素因のある人は、手湿疹になりやすく、悪化しやすい傾向があります。
程度の差はありますが、湿疹(皮膚炎)ができると、必ずかゆみが生じます。また、皮膚が赤く腫れたり、ぶつぶつ・水ぶくれ・かさぶたができたり、カサカサになったり、と様々な症状が組み合わさって現れるのが特徴です。皮膚に何かしらの変化が現れたとしても、全くかゆみのないものや、症状が1つしか現れなければ、湿疹(皮膚炎)ではない場合が多いといえます。
まず皮膚が乾燥し、皮膚がぽろぽろと落ちることが増え(落屑)、指紋などが不明瞭になってくる。その後、ひび割れやただれが生じ、炎症による水ぶくれ、かゆみが起こる場合もある。利き手の親指や人差し指など、よく使う指先から発症することが多く、やがて手のひら全体に広がる
湿疹によるかゆみを早く止めるには「かかないこと」が何よりも大切です。かゆいからといって湿疹をかくとと一時的には和らぎますが、かいた結果、皮膚が傷ついたり刺激を与えることで炎症が悪化したりして、さらにかゆみが増してしまいます。まずは、皮膚を清潔に保ち、患部を冷やす、寝る時には手や患部を覆うなどで対処しましょう。
かゆみや湿疹などの炎症が起きたら、市販の治療薬を使い、かゆみを早く鎮め、かゆみの悪循環を断ち切るとよいでしょう。ステロイド薬(副腎皮質ホルモン剤)をはじめ、かゆみや湿疹など皮膚の炎症を抑える成分が含まれているクリームや軟膏を使います。治療薬は症状や塗布する部位に合わせて選ぶことが重要です。クリームタイプは伸びが良いので、患部が広範囲に表れている場合におすすめです。かき壊しなどがある場合は、刺激の少ない軟膏タイプがおすすめ。市販薬を購入する際は、薬剤師などに相談の上、選びましょう。
湿疹は、いったん慢性化してしまうと、なかなか治りません。また湿疹で皮膚のバリア機能が低下すると細菌や真菌に感染しやすくなり、その場合は抗真菌薬による治療が必要になります。湿疹が起こったら放置しないことが大切です。かゆみが強くてどうしてもかいてしまう、市販薬を5〜6日使用しても改善しない、分泌物がある、症状の範囲が広い、という場合は皮膚科を受診しましょう。その際、使用した市販薬があれば持参すると、医師との話がスムーズに進み診断にも役立ちます。
日常生活では、皮膚を清潔に保ち、悪化を防ぐために次のことを心がけましょう。