生理(月経)に伴う痛みを総称して「生理痛(月経痛)」と呼びます。生理痛は体外に経血が排出される際に、子宮の収縮にともなっておこる痛みで、下腹部や腰に痛みが生じます。生理痛の多くは治療の必要のないものですが、中には子宮や卵巣(らんそう)の病気が原因の場合もあるので注意が必要です。
1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。藤田医科大学医学部名誉教授。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。
子宮の内側を覆っている子宮内膜は、受精卵の着床に備えて、排卵と共に徐々に厚みを増します。しかし妊娠が成立せず不要になると、はがれ落ちて血液と共に体外に排出されます。これが生理です。この時、子宮内膜からは、経血を排出するために子宮を収縮させるプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮の収縮が強いと生理痛が強くなります。また、このプロスタグランジン自体が痛みを引き起こす物質でもあります。プロスタグランジンの分泌量には体質が関係し、分泌量が多い人は生理痛が強い傾向があります。
初潮から20代半ばくらいまでの若い女性では、子宮口が未熟で狭いために経血をうまく排出できない場合があります。そのため、無理に排出しようとして子宮が強く収縮し、痛みを強く感じることになります。このタイプの生理痛は、体が成熟するにつれて軽くなり、出産を機に消えてしまうこともしばしばあります。
心身のストレスが多いと生理痛が強く現れやすくなります。ストレスによって血液循環が悪くなると、骨盤内がうっ血し、痛みを敏感に感じるようになってしまいます。体の冷えや激しい運動といった身体的ストレス、職場や家庭での精神的ストレスの他、「生理になると痛みがつらい」という悩みや不安がストレスとなり、さらに痛みが増すこともよくあります。
子宮や卵巣などの病気も、生理痛の原因となることがあります。中でも特に多いのが、「子宮筋腫(きんしゅ)」と「子宮内膜症」です。子宮筋腫は、子宮壁の筋肉の一部が増殖してコブのような良性の腫瘍(しゅよう)ができる病気。子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が卵巣や腹膜などで増殖し、生理のたびに出血する病気です。生理痛に加え、以下のような症状が見られる場合は、早めに検査を受けてください。
子宮筋腫と子宮内膜症の主な症状
子宮筋腫 | 子宮内膜症 |
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経血にレバーのような血の塊が混じる 生理期間が長引く 生理中に下腹部が張る 不正出血(生理期以外の出血)がある 下腹部に硬いしこりを感じる |
次第に生理痛が強くなる 経血量が多くなる 排便時に腹痛がある 性交痛がある 生理期以外の下腹部痛がある |
痛みの程度や持続期間には個人差がありますが、生理の始まる前日から生理2、3日目に痛みが出やすいようです。また痛みに伴い、吐き気やめまい、倦怠(けんたい)感、下痢、頭痛、発熱、多汗、むくみ、イライラ、腰痛、下痢、便秘などの不快症状が現れることも少なくありません。これらの不快症状があまりにひどく、寝込んだり、学業や仕事など社会生活に支障を来たしたりする場合を「月経困難症」といい、治療の対象となります。自分の生理痛を振り返り、次の項目に1つでも当てはまる人は、我慢せず早めに婦人科を受診しましょう。
生理の1週間前くらいから、腹痛、乳房の張り、むくみ、便秘、イライラ、落ち込みなど、いつもと違う不快症状がある人は少なくありません。こうした症状がひどく、日常生活に支障がある場合は「月経前症候群(PMS)」と呼んでいます。月経前症候群の症状は、月経が始まると同時に消えてしまうのが特徴です。症状がつらい場合は、婦人科を受診して相談を。病院ではそれぞれの症状に応じた薬の他、漢方薬や低用量ピルによる治療なども行なっています。
生理痛を和らげるには、体を温めるのが効果的です。カイロや湯たんぽなどをおなかや腰に当てて温め、血液循環をよくすると、痛みが和らぎます。入浴で体を温め、心身をリラックスさせるのも生理痛の緩和に効果的です。また、心身のストレスは生理痛を助長させる要因に。生理中はなるべく無理なスケジュールを避け、ゆとりをもって過ごしましょう。生理痛のことを気にし過ぎないことも大切。趣味や運動など、自分の好きなことで気分転換を図りましょう。適度な運動は骨盤内のうっ血を改善するためにもおすすめです。不調が出始める生理の1週間前から意識して体を動かしましょう。
痛みの原因が子宮や卵巣の病気でなければ、市販の鎮痛剤を使って生理痛をコントロールするのもよいでしょう。痛みが我慢できなくなってから鎮痛剤をのんでも効きにくいため、毎月の生理痛のパターンを把握して早めに服用しましょう。市販の鎮痛剤で改善しない場合は、婦人科の受診を。生理痛の治療では、鎮痛剤以外に低用量ピルや漢方薬という選択肢もあります。
冷えへの対策は、生理痛の予防にも有効です。特に腰や足元は冷えやすいので、腹巻きやレッグウォーマー、ひざ掛けなどで対策を。シャワーで済ませず、体を温める入浴を習慣にするのもよいでしょう。喫煙は血液の循環を悪くして生理痛を強める恐れがあるため、禁煙は最優先事項です。
また、基礎体温を測るのもおすすめです。基礎体温を測って次の生理日を予測することで、生理痛の予防や心構えができるというもの。鎮痛剤もタイミングを外さずに服用できるでしょう。基礎体温は、排卵の有無や妊娠しやすい時期なども教えてくれる、体のリズムのバロメーター。現在は生理中のトラブルがない人でも、健康管理のために基礎体温を測る習慣をつけるようにしましょう。