起立性調節障害

起立性調節障害

「起立性調節障害」は、自律神経の乱れによって、座った状態の時や立ち上がった時に脳への血流が低下してしまう病気です。小学校高学年から中学生に当たる10~16歳の思春期の子どもに多く、倦怠感や起床困難、頭痛、めまい、立ちくらみ、腹痛といった症状があります。午前中に強く見られるこれらの症状は、その日の午後には軽減することが多く、周囲からは「怠けている」「甘えている」と受け取られてしまい、適切なケアが受けられないまま放置されてしまうケースも少なくありません。子どもたち自身も本当は学校に行きたいのに、行けないつらさや、体の不調に不安を抱えています。そんな子どもたちを理解し、ケアしてあげるためにも、起立性調節障害の正しい知識を身につけましょう。

監修プロフィール
OD低血圧クリニック田中院長 たなか・ひでたか 田中 英高 先生

大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)卒業。医学博士。スウェーデンのリンショッピン大学臨床生理学教室客員研究員、大阪医科大学小児科助教授、大阪医科大学附属病院発達小児科科長、准教授を経て、2014年にOD低血圧クリニック田中を開院。『起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応』(中央法規出版)、『起立性調節障害がよくわかる本』(講談社)など起立性調節障害に関する著書多数。

起立性調節障害について知る


起立性調節障害の原因

自律神経の機能低下による血圧の低下

血圧を決める因子は「血管抵抗」と「血流」です。人の体は、仰向けの体勢から起き上がると、重力により血液が下半身に移動し、静脈を経て心臓へ戻る血液量が減少して、血圧が低下します。通常なら、自律神経系の1つである交感神経が作用して血管抵抗を上げ、血圧を維持します。しかし、自律神経が正常に働かず血管抵抗が下がっている上に、摂取する水分が不足すると血液量が少なくなり、血圧が維持できなくなります。その結果、体(特に上半身)や脳への血流が低下し、めまいや立ちくらみをはじめとする様々な不調が起きるのです。

自律神経の機能低下による血圧の低下が起立性調節障害の原因

思春期の子どもたちに「起立性調節障害」が起こる原因としては、次のものが考えられます。
・体の機能が変化する第二次性徴期には自律神経も変化し、調整が難しくなる
・水分の摂取不足
・日常生活での活動量低下
・遺伝(日本人は自律神経の機能が弱い傾向がある)
また、症状を悪化させるものとして、思春期ならではの悩みや、学校・家庭でのストレスがあります。


天気や気圧などに左右されることも

「雨の日や曇りの日は、なんだか体調が悪い」「梅雨や台風の時期はいつもだるい」といったように、天候によって体調が大きく左右されることはありませんか?  天気や気圧、気温は血圧に影響を与えるといわれています。実際に気圧が下がった時、例えば雨の日などに血圧を測ってみると、いつもよりも数値が低くなっているでしょう。気圧とは空気の重みであり、気圧が急に下がると体にかかる圧力が減って血管が広がり、血圧が下がってしまうためです。自律神経がきちんと機能していれば、血管を収縮させて血圧の低下を防ぎますが、自律神経の働きが乱れていると血圧は下がったままに。そのため、起立性調節障害の方も、雨の日や曇りの日、暑い時期には体調不良が表れやすくなります。また、春先から初夏にかけては気温が徐々に上がることで血圧が下がることに加え、進学やクラス替えなどでストレスがかかることから、発症や症状悪化のリスクが高くなります。


起立性調節障害の症状

「何となく不調」と起立性調節障害の明確な症状の違いをチェック

起立性調節障害の症状と特徴には次のようなものがあります。
<主な症状>
・立ちくらみ
・めまい
・動悸
・頭痛
・腹痛
・倦怠感
・起床困難
・食欲不振
・乗り物酔い など

起立性調節障害の症状には立ちくらみ、めまい、頭痛、腹痛、倦怠感、起床困難、 食欲不振、乗り物酔いなどがある。

<症状の特徴>
・起立性調節障害の症状は午前中に強く、午後には軽減する傾向がある。そのため、夜眠れずに起床時間が遅くなるという悪循環に陥ることも。
・起立性という名の通り、起き上がる時に発症し、重症になると横になってしまうと起き上がれなくなる場合もある。
・小学校高学年から中学生(10~16歳)に多く、軽症の例も含めると小学生の約5%、中学生の約10%に症状が見られる。
・不登校の子どものうち約30~40%に症状がある。
・勉強に集中できなくなり、記憶力も思考力も低下するため、知識を覚えようと思っても覚えられなくなる。

起立性調節障害の主な症状とその特徴は上記の通りですが、中等症から重症になると、日常生活にも支障を来し、不登校につながることもあります。日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3カ月で改善しますが、学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要することもあるので、早期の発見と治療が必要です。


勉強には集中できなくても、ゲームには集中できる?

集中力が低下するというと、生活に大きく影響するようにも思えますが、実は全ての集中力が保てなくなるわけではありません。例えば子どもたちが好きなゲーム。勉強はすぐに飽きてしまうのに、ゲームを一度始めるとなかなかやめないという子どもも多いのではないでしょうか? それは脳の構造、特に脳に栄養を送る血管が異なることによって起こる現象と考えられます。勉強など思考作業する時は、主に脳の前のほう、ゲームをする時は主に脳の後ろのほうを使うのですが、脳の前のほうと後ろのほうでは血流を担当する血管が異なります。脳の後方の血管は比較的真っすぐですが、脳の前方にある血管の走行は蛇行し、距離も長く、血流が低下しやすい形状になっています。このことが勉強する時の集中力の下がりやすさにつながっていると考えられます。


起立性調節障害の対策・治療法

子どもの様子に変化が見られたら、以下の症状があるかチェックしてみてください。

●起立性調節障害の症状チェック
□立ちくらみ
□失神
□気分不良
□朝起床困難
□起き上がった時の頭痛
□腹痛
□動悸
□午前中に調子が悪く午後に回復する
□食欲不振
□乗り物酔いしやすい
□顔色が悪い

鉄欠乏性貧血や心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患などの病気を患っていない上で、3つ以上が当てはまる、あるいは、当てはまるものが2つ以下でも症状が強いようなら起立性調節障害を疑いましょう。かぜなど他の病気と重なる症状もあるので、1週間ほど様子を見て症状が改善しないようなら、小児科のかかりつけ医に相談しましょう。万が一、本格的な治療が必要になった場合も、専門医を紹介してもらえます。


起立性調節障害の治療は薬物療法とセルフケアを並行して行う

病院では検査によって起立性調節障害かどうかを見極め、治療へと進みます。薬物療法のみでは効果が少ないため、日常的なセルフケアや子どもの心理的なストレスを軽減する環境づくりも並行して行いながら、少しずつ治療していきます。

●病院での診断・治療の流れ
・起立時の血圧や脈拍などを測定し、起立性調節障害かどうかを見極める「新起立試験」を行う。
・検査結果と日常生活状況の両面から重症度を判定する。
・「心身症としてのOD(起立性調節障害)」チェックリストなどを用いて、学校や家庭のストレスが関与しているかどうかもチェックする。
・セルフケアなどの非薬物療法と共に、血管を収縮させる薬や交感神経の機能を促す薬(ミドドリン塩酸塩など)による薬物療法を行う。

●診断で見つかりにくい、血圧・脈拍が正常なサブタイプ「脳血流低下型」もある
起立性調節障害は、血圧や脈拍の変化のパターンによって主に以下の4つのサブタイプに分けられます。

<主なサブタイプ>
・起立直後性低血圧…起立直後に激しい血圧低下があり、血圧がなかなか回復しない
・体位性頻脈(ひんみゃく)症候群…起立による血圧低下はないが、心拍数(脈拍)が著しく増加する
・血管迷走神経性失神…起立中に突然血圧が低下し、意識を失う場合も
・遷延性(せんえんせい)起立性低血圧…起立直後ではなく、3~4分以上経過してから血圧が低下する

<脳血流低下型とは?>
上記は新起立試験で判別できるサブタイプですが、新起立試験だけでは分からないものもあります。中でも、新しいサブタイプ「脳血流低下型」は、起立直後の血圧・脈拍に異常はないのに脳血流だけが低下するタイプで、新起立試験では異常が認められないため見逃されがちです。
新起立試験を行っても診断がつかないのに、学習能力の低下(集中力や記憶力の低下)があって、自信を失ってしまう…といったケースの場合、脳血流低下型の可能性もあります。診断には脳血流の分布を測る「近赤外分光計(NIRS)」という特殊な装置での検査が必要になるため、検査ができる専門医を探すのも一案です。

<脳血流低下型の特徴>

脳血流低下型における新起立試験(臥位から起立)とヘッドアップチルト試験(臥位から身体を傾斜)の結果をグラフ(図)に示しています。グラフは3つあり、上から、NIRSで測定した脳酸素化ヘモグロビン(赤線グラフ)、心拍数、血圧の順です。

脳血流低下型における新起立試験(臥位から起立)とヘッドアップチルト試験(臥位から身体を傾斜)の結果をグラフ(図)に示しました。グラフの上から、NIRSで測定した脳酸素化ヘモグロビン(赤線グラフ)、心拍数、血圧です。新起立試験、ヘッドアップチルトのいずれでも、赤線グラフが低下していますが、心拍数、血圧は低下していません。
脳酸素化ヘモグロビンを測定すると、脳血流低下型は容易に診断できます。(図は、オリジナルをAI(Gemini)で、一部修正しています)

なお、脳血流低下型の場合、血圧や心拍数は正常範囲のため、薬物療法にはほとんど効果がありません。そのため非薬物療法(セルフケア)で治療をしていきます。

●起立性調節障害のセルフケア

症状を悪化させない起立性調節障害の立ち上がり方

日常生活では以下のようなことに取り組んで、症状を悪化させないようにしましょう。
・立ち上がる時は、頭を下げてゆっくりと。
・じっとして立っているのは1~2分までとし、時々足をクロスしたり足踏みしたりする。
・散歩などの軽い運動で、筋力の低下を防ぐ。
・血液量を増やすために水分と塩分を多めに摂る。
・血圧低下の予防に着圧ソックスやタイツを使用する。ただし、体を横にするときや睡眠時には使用しない。


周囲からの理解と協力が、完治のカギ

ストレスは起立性調節障害発症の原因にはなりませんが、自律神経の働きを妨げ症状の悪化につながります。治療やセルフケアについては、まずは全て完璧にやろうとはせず、子どもの様子を見ながら、小さなこと、できることから焦らずに取り組んでいってください。起立性調節障害は、身体疾患だということを理解して、むやみに𠮟責したり、無理やり学校に行かせたりするのはやめましょう。そして「起立性調節障害」について理解し、保護者として、学校関係者とも連携を取りながら、周囲の理解と協力を深めていくことが必要です。具体的には「遅刻を認めてもらう」「クラスメイトに病気について理解してもらう」ということが大切。また子ども自身にも、症状や原因を理解させることで当事者意識をもたせ、前向きに治療に取り組めるように導いていきましょう。ただ周囲の協力を得るためには、専門家の意見と知見が必須です。起立性調節障害と診断されたら、学校とのかかわり方についても、小児科のかかりつけ医に相談してみましょう。


起立性調節障害の予防法

健康的で規則正しい生活が予防につながる

起立性調節障害の予防には、血圧や自律神経を正常な状態に近づけることが大切です。そのポイントとなるのが、規則正しく、健康的な生活を送ることです。とはいえ、健康で自覚症状のない思春期の子どもにあれこれ言っても、なかなか思うように動いてくれないでしょう。簡単にできて有効な予防法を1つだけお伝えするなら「家でゴロゴロ寝そべらない」ということです。帰宅後や食後などの空いた時間に横になってスマホをいじったりゲームをしたりしているようなら、やめるように声をかけてください。
また、起立性調節障害になってしまった場合の再発防止対策として役立つこともご紹介します。

●起立性調節障害の再発防止対策

起立性調節障害の再発防止対策には、朝日を浴びて、軽い運動やストレッチ、水分・塩分の摂取、ぬるめのお風呂につかり、夜更かししない生活を送ること。

・軽めの運動やストレッチで血流を促す。
・夜更かしせず規則正しい生活を送る。
・朝日を浴びて体内時計を整える。
・ぬるめのお風呂でリラックスする。
・寝る前にスマホやパソコン、ゲーム機などを操作しない。
・水分や塩分の摂取を心がける。

起立性調節障害は、まだまだ世の中での認知度が低い疾患です。しかもその症状から「怠けているだけでは?」「気のもちようで治る」などと勘違いされ、適切なケアがなされない子どもたちがたくさんいます。子どもたち自身も、学校に行きたいのに行けない、勉強が遅れてしまう、自分はこれからどうなるのだろう……といった不安やつらさを抱え、悩んでいます。
「うちの子も、もしかしたら……」と思い当たることがあれば、まずは、適正な診断を受けるために小児科のかかりつけ医に相談しましょう。もし、起立性調節障害と診断されても、しっかり治療をすれば完治できる病気です。周囲の大人は、病気を理解し、怒らず、焦らずに見守りながらサポートしていきましょう。

起立性調節障害Q&A

Q. 起立性調節障害になりやすい年齢は?

A. 小学校高学年から多くなり、中学生で一気に増えます

起立性調節障害は小学校高学年の児童から増え始め、中学生で最も多くなります。また、女子は男子よりも2割ほど発症率が高いとされています。
起立性調節障害は、決して珍しい病気ではありません。例えばコロナ禍の休校以前には普通に登校していた生徒が、休校によるデコンディショニング(過度な安静などによって体を動かさない期間が続くことで引き起こされる、身体機能の低下)により、起立性調節障害を発症したケースもあります。その場合、サブタイプの「脳血流低下型」が多かったことも研究で分かっています。このように、生活環境の変化や心理的・社会的ストレスなどがきっかけで起こることもあります。

Q. なぜ朝起きられないのですか? 十分に睡眠をとっても治りませんか?

A. 午前中に交感神経機能が低下するのが主たる原因です。睡眠で改善する場合もありますが、過剰睡眠になると、かえって生活リズムが乱れることもあります

朝に起きられない理由は、以下の3つが考えられます。
➀朝に体を目覚めさせる交感神経機能が低下し、血圧が上がらずに脳の血流が悪くなり、睡眠から覚醒が遅れる。
➁交感神経活性化のリズムが遅れ、午後~夜に最高潮になるため、寝つきが悪くなって夜更かしになる。
➂就寝時刻が遅くなるから朝に起きられなくなる。
起立性調節障害では、➀→➂の順に症状が進行すると考えましょう。軽症の場合は、十分に睡眠をとることで改善することもありますが、1日に10~15時間の過剰な睡眠をとると、かえって生活リズムが乱れてしまうことにもつながります。対策として、まずは「カーテンを開けて朝日を部屋に入れる」「夜は消灯を30分早める」など、生活リズムを整えることから始めましょう。

自律神経の働きは、交感神経・副交感神経の働きであり、交感神経はアクセル、副交感神経はプレーキの役割をしている。自律神経のリズムについては、昼間は交感神経が優位で、夜間は副交感神経が優位になる。

Q. 起立性調節障害はどこの病院でも診断できますか?

A. ガイドラインに沿った診断は可能です。専門的な機械のある医療機関では正確に診断できます

日本小児心身医学会の『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン』に沿った診断方法であれば、一般の病院やクリニック、小児科専門医でも可能です。まずは小児科のかかりつけ医に相談してみましょう。起立性調節障害の専門的な医療機関には、非侵襲的連続血圧測定装置(フィナプレス、ポータプレス、フィノメーターなど)があり、正確に診断できます。


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