男性更年期障害(LOH症候群)

男性更年期障害(LOH症候群)

「何をするにもやる気が出ない」「仕事で集中力が続かなくなってきた」そんな症状に悩んでいませんか? もしかしたらその症状は、「男性更年期障害」の原因とされるLOH症候群かもしれません。LOH症候群とは、加齢によって血中の男性ホルモン(テストステロン)の値が減少し、基準値未満になった状態をいいます。放置すれば、生活習慣病のリスクを高め、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中、認知症といった病気につながる恐れもあります。女性の更年期障害の原因となる女性ホルモンのエストロゲンは、閉経前後の10年間に急激に減少することで起こるのに対し、男性ホルモンであるテストステロンは、20代をピークに中年以降穏やかに減少し、環境やストレスの状態にも大きくかかわってきます。40代以降の男性なら、どの年代でも起こる可能性があり、発症期間も長く、終わりがないのが女性更年期との大きな違いです。更年期の症状を抱える方の多くは、「年齢のせいだからしょうがない」と諦めがちですが、適切な診断と治療を行えば、症状を改善できる可能性があります。気になる不調があるなら、ぜひ医師に相談しましょう。

監修プロフィール
マイシティクリニック院長 ひらさわ・せいいち 平澤 精一 先生

日本医科大学卒業。医学博士。日本医科大学付属病院、三井記念病院などを経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。2014年から東京医科大学地域医療指導教授として医学生の教育にもかかわる。「テストステロン」の研究者として、「熟年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践している。

男性更年期障害(LOH症候群)について知る


男性更年期障害(LOH症候群)の原因

男性更年期障害(LOH症候群)の主な原因は加齢とストレス

男性更年期障害(LOH症候群)は血中のテストステロンの値が減少し、基準値未満になった状態をいいます。男性らしさを象徴するホルモンとしても知られるテストステロンは、男性ホルモンの中で最も分泌量が多いホルモンで、精巣から分泌され、脳や筋肉、腎臓、骨、肝臓、そして男性器に分布します。その働きは多岐にわたり、骨格や筋肉量、体毛など男らしい体をつくる他、生殖機能の維持・向上、さらに生活習慣病の原因となる動脈硬化や脂肪蓄積の抑制、認知機能や血管の健康にもかかわっています。その働きの中でも一般的に知られていないのは、やる気や判断力、決断力といった精神面の健康においても関与している点です。このテストステロンが減少する原因は、主に加齢によるものといわれていますが、実は環境の変化やストレスなども大きな要因となります。ストレスを感じると、体内で抗ストレスホルモンが分泌されますが、過剰に分泌されると、テストステロンの原料となるホルモンが製造できなくなるため、テストステロンの分泌量が減ってしまうのです。


コロナ禍による環境の変化も大きな原因に

テストステロンは、人と接することや、組織の中でリーダーシップを発揮したり、仲間同士で切磋琢磨し競争心が生まれたりすることで活性化するため、「社会性ホルモン」ともいわれています。テストステロンの活性化には雑談のようなリラックスした状態で行われるコミュニケーションが必要なため、外出の機会が減り、さらに在宅ワークに移行する企業も増えて、人とのコミュニケーションが激減したコロナ禍においては、多くの男性のテストステロン値が下がったと推測されます。また、テストステロンが減少する原因の要素としてもう1つ挙げられるのが、生活習慣の乱れです。コロナ禍で通勤がなくなることによる運動不足や、ストレスによる睡眠不足、食生活の乱れが、テストステロンの減少を加速させている可能性もあります。実際に、新型コロナウイルス感染症が流行する前に比べて男性更年期障害(LOH症候群)の治療に訪れる人が1.3~1.5倍ほどに増えている医療機関もあります。


男性更年期障害(LOH症候群)の症状

体・心の症状と共に、うつ病との違いもチェック

男性更年期障害(LOH症候群)の症状としては、大きく分けて体の症状と心の症状があります。

男性更年期障害(LOH症候群)の体の症状と心の症状

・男性更年期障害(LOH症候群)の体の症状
筋力低下、関節や筋肉の痛み、異常発汗、ほてり、肥満、頻尿、骨がもろくなる、肩こり、疲れやすい、性欲の減退、勃起力の低下など
・男性更年期障害(LOH症候群)の心の症状
元気がない、楽しくない、興味ややる気が失われてしまう、眠れない、不安、うつ症状、集中力や記憶力の低下、イライラ、パニックなど

この中でも最初に男性更年期障害(LOH症候群)の症状として表面に出てきやすいのは、「仕事がうまく回らなくなった」「やる気が出なくなって出社が面倒だ」といった心の症状です。うつ病の症状と非常に似ているため、専門医でも、診察のみでは判断できないこともあります。
男性更年期障害(LOH症候群)とうつ病の違いを見分ける指標として使われるのが、男性更年期障害(LOH症候群)に見られる症状の程度をチェックする「AMS調査票」と、うつ症状の状態を調べる「M.I.N.I問診票」です。双方のチェックを同時に行いますが、特にM.I.N.I問診票の症状に関する項目で5個以上に当てはまり、自傷行為や自殺企図がある場合は、うつ病の可能性が非常に高いとされています。


男性更年期障害(LOH症候群)の対策

気になる症状があれば泌尿器科か専門外来へ相談を

男性更年期障害(LOH症候群)が疑われる症状がある場合は、AMS調査票でチェック

男性更年期障害(LOH症候群)が疑われる症状がある場合は、泌尿器科、あるいは最近増えてきたメンズヘルス外来や男性更年期外来に相談しましょう。具体的な対処としては、AMS調査票とM.I.N.I問診票による診断に加え、男性更年期障害(LOH症候群)を引き起こす要因となるホルモン値を調べる血液検査も行いながら総合的に判断し、症状のレベルに合わせて適切な対処方法を選択していきます。

男性更年期障害(LOH症候群)対処法①:漢方薬による対症療法 
まず血液検査で異常が全くない場合は、漢方薬の処方を行います。中でもよく使われている「補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 」という漢方は、テストステロンの体内の分泌が高まるということが分かってきています。ただこの漢方薬は気力や体力がアップする分、血圧も上げてしまうため、血圧が高めの方には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」や「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」が処方されます。他にもいくつか漢方薬の種類があり、症状に合わせて判断していきます。

男性更年期障害(LOH症候群)対処法②:ホルモン補充療法
血液検査の結果、男性ホルモンの値が基準に満たなかった場合は、ホルモン補充療法を行っていきます。補充方法としては、筋肉注射と軟膏による塗布がありますが、現状では保険適用されるのは筋肉注射のみです。筋肉注射は、保険の種類にもよりますが1回750~850円台程度で、痛みもほとんどありません。また塗り薬は保険適用外となりますが、1本数千円程度なので、通院が難しい場合などは、塗り薬を選択するのもよいでしょう。ホルモン補充療法を行う際に注意しなければならないのは、前立腺がんや睡眠時無呼吸症候群にかかっている方には使用できないという点です。特に前立腺がんの場合は、男性ホルモンを補充することで、がん細胞の増悪を誘発することになるため、男性更年期障害(LOH症候群)の治療の前には事前に前立腺がんのスクリーニングをする必要があります。また6カ月以上の長期のホルモン補充療法を行う場合には、男性不妊を起こす恐れもあります。これは体外からホルモンが補充されることで、精巣で男性ホルモンをつくろうとする働きが弱まり、 精子 をつくる機能が抑制され、睾丸が萎縮してしまうためです。これからお子さんをもうける計画がある方は、別のホルモン剤治療を検討しましょう。


受診の目安はセルフチェックと身近な人からの意見

もし家族に男性更年期障害(LOH症候群)が疑われる症状があったら、「まずはAMS調査票でチェックしてみたら?」と促し、その結果をみて泌尿器科や専門外来への受診をすすめてください。

男性更年期障害(LOH症候群)の症状を自覚されている場合、一番客観的かつ手軽に症状をチェックできるツールとして、「AMS調査票」があります。この調査票はネットで検索をすればすぐに出てくるほど認知度の高いチェック方法です。このスコアが50点以上の場合は、重度の男性更年期障害の可能性が高いので、なるべく早めの受診をおすすめします。ただスコアが50点を下回っていても、テストステロンが減少し男性更年期障害(LOH症候群)を発症している可能性もあるので、不安に思う人はぜひ一度医師に相談してみてください。また、日々忙しく過ごしていると、自分の体調や精神的な変化は意外と気がつかないこともあります。ご自身では平気なつもりでも、ご家族やパートナー、職場の同僚など、身近な人から「以前と様子が違う」などと言われたら、要注意です。実際に相談に訪れた人の中には、男性更年期障害(LOH症候群)の自覚症状はないけれど、奥さんや娘さんからのすすめがあって、来院されたというケースも多くあります。もし家族に疑わしい症状があったら、「まずはAMS調査票でチェックしてみたら?」と促し、その結果をみて泌尿器科や専門外来への受診をすすめてください。


負の連鎖に陥る前に、ぜひ早めの受診を

男性更年期障害(LOH症候群)にかかりやすい年代というのは、ちょうど働き盛り。仕事の量や責任も増えていく世代です。テストステロンは低下することで集中力が切れ、仕事でミスを重ね、上司からの叱責で余計にストレスを抱えてしまうことも。もし中間管理職の立場であれば、その責任の大きさにプレッシャーを感じたり、部下からの突き上げを受けて将来への不安を抱えたりといったこともあると思われます。そういった不安やストレスが、テストステロンのさらなる低下を引き起こします。テストステロンが低下したまま放っておくと、男性更年期障害(LOH症候群)の症状が悪化するだけでなく、さらにはうつ病を併発するなど、「負の連鎖」が起きてしまうこともあるのです。
うつ病に関しては世間的に認知が広まってきており、最近ではうつ病による休職も認められてきています。ただ男性更年期障害(LOH症候群)への理解は不十分なため、たとえ出社できないほどに症状が悪化しても、それを理由に休職することが難しいというのが現状です。これから認知させていくべきではありますが、現状としては、負の連鎖が起きる前に受診し、症状に合った正しい対処を行うことが最も大切なのです。


男性更年期障害(LOH症候群)の予防法

「本来の自分」を取り戻し、規則正しい生活を

男性更年期障害(LOH症候群)を予防する上で一番大切なのは、テストステロン量の低下を防ぎ、高めていくことです。こちらでは、テストステロンを増やす生活習慣の具体的な方法をご紹介します。

■人や社会とのつながりを持ち続ける
テストステロンは「社会性ホルモン」と呼ばれていることからも分かるように、社会や人とのつながりによって活性化します。会社や家庭で充実した毎日を過ごし、自分の存在意義を再確認して自信を取り戻すことや、地域のコミュニティーに参加して新たな居場所を見いだすといったことも、テストステロンの分泌量の上昇につながります。

人や社会とのつながりを持ち続けることが、テストステロン分泌量の上昇につながる。

■適度な運動習慣を
筋肉にはテストステロンをつくり出す機能があるため、筋肉量を増やすための筋トレが有効的です。ただし強度が強過ぎる運動は、逆にテストステロン値を下げるため、やりすぎは禁物。具体的には20分ほどの有酸素運動と、ダンベルを使った軽いトレーニング(6~7回を1セット)程度でOKです。大切なのは強度よりも継続することなので、まずは信号やエレベーターの待ち時間、移動中の電車内など、日常のスキマ時間を使った軽い運動(スクワットなど)から始めてもいいでしょう。

■スポーツは「観戦」や「eスポーツ」でも効果あり
テストステロンの分泌には「競争心」を刺激することも効果的です。勝ち負けを争うようなスポーツはもちろん、運動をするのが難しい状況なら、スポーツ観戦や、パソコンの前でeスポーツをするだけでも、テストステロンの上昇によい効果をもたらします。

■夜更かしをせずに、質のよい睡眠を
テストステロンは、深夜1時~3時ごろに生成されるため、夜更かしを避けて早めに就寝して7時間の睡眠をとることが大切です。また質のよい睡眠をとるために、寝る直前にスマホやパソコンを見ることは厳禁。入浴も就寝の2時間前には済ませましょう。

■ストレスをためないようにする
ストレスがたまると、テストステロンをつくる働きが低下します。ストレスをためないように、自分なりのリラックス方法を見つけておきましょう。

■男性としての自信を取り戻す
テストステロンには「見栄っ張りホルモン」という異名もあります。これは異性を意識して身だしなみに気をつかうといった気持ちや姿勢がテストステロン値の上昇に関係しているといわれているからです。ファミリーカーよりスポーツカーに乗っている人、黒やグレーなど地味な服装よりも赤などの派手な服装の人のほうが、テストステロン値が高いという説もあります。もしスポーツを始めるなら、女性と一緒にペアで行う卓球やテニスを選ぶのもよいでしょう。


食生活の見直しで、テストステロン値をUP

テストステロンは、食生活の改善によって、値を高めることもできます。ここでは、テストステロン値アップにおすすめの食材や、毎日のメニューに取り入れやすい食べ方をご紹介します。

食生活の見直しで、テストステロン値をUP
  1. ネバネバ食材
    テストステロンの材料となるコレステロールからテストステロンが生成される時に、その変化に非常に有効な働きをするとされるムコ多糖タンパク質と糖タンパク質の混合物を多く含むのが、いわゆるネバネバ食材です。摂りやすい食品としては、納豆やオクラ、山芋、モロヘイヤなどがおすすめです。
  2. にんにく・玉ねぎ+豚肉
    にんにくや玉ねぎに含まれるアリシンという栄養素と、豚肉に多く含まれるビタミンB₁を一緒に摂ることで、テストステロン値を上昇させると考えられている物質(アリアチミン)が生まれます。にんにくは焦がすと、より効果を発揮するので豚肉と一緒にしっかり焼いて召し上がるとよいでしょう。逆に玉ねぎは、切った直後からアリシンが減っていってしまうので、新鮮なうちにサラダとして召し上がるとよいでしょう。
  3. 亜鉛を含む食材
    亜鉛はセックスミネラルとも言われていて、性機能にも関与する栄養素で、髪の毛に多く含まれています。この頭髪に含まれている亜鉛の量が少ない人は、テストステロンの値が低いというデータがあるため、亜鉛を含む食材は積極的に摂りましょう。亜鉛を多く含む食材としてカキが有名ですが、毎日食べるとすればチーズなどの乳製品やナッツ類がおすすめです。
  4. 抗酸化物質
    体内が「錆びつく」ことも、男性更年期障害(LOH症候群)の原因になるため、抗酸化物質も食事に取り入れていきましょう。ビタミンCやビタミンEといった栄養素を含む食材も効果的ですが、特に抗酸化力の強い栄養素は、サケなどに含まれているアスタキサンチンや、トマトのリコピンがおすすめです。例えば朝食のメニューに焼いたサケ、トマトや新鮮な玉ねぎのスライスを添えたサラダを取り入れるのもいいかもしれません。
  5. ビールは控えめに、おすすめは赤ワイン
    ビールのホップの中には、ナリンゲニンという物質が入っています。女性ホルモンに作用するとされ、飲み過ぎると女性ホルモンが増えて男性ホルモンの値が低下する可能性があります。最初の1杯はビール! という人も、飲むなら1日缶ビールの350mLぐらいまでにしましょう。対して抗酸化成分を豊富に含む赤ワインは、テストステロンを生成する精巣をしっかりと保護してくれるのでおすすめです。
  6. お肉を食べるならラム肉
    テストステロンをつくるには、良質なタンパク質が必要です。特にお肉に含まれるアミノ酸の一種であるカルニチンには、テストステロンの分泌を増やす効果があります。お肉の中でもラム肉にはカルニチンがたくさん含まれているので、積極的に摂っていきましょう。

毎日の食事を少し意識するだけでも、テストステロンの量を増やすことができます。おいしく、無理なくできる男性更年期障害(LOH症候群)の予防策の1つとして、ぜひ取り入れてみてください。


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