突発性難聴

突発性難聴

突発性難聴とは、ある日突然、片方の耳が聞こえなくなる疾患です。
原因は不明ですが、内耳の血流障害によって、蝸牛内部にある有毛細胞(音の振動を電気信号に変えて脳に伝える細胞)が壊れてしまうことや、ウイルス感染が影響していると考えられています。ごく軽度の場合を除き自然治癒は望めませんが、発症直後であれば聴力を改善できる可能性が高まるため、発症してから2週間以内には治療を始めることが非常に大切です。
男女共、どの年代でも発症しやすい疾患ですが、特に、仕事などでストレスがかかりやすい30~60代に多く見られ、近年増加傾向にあります。2001年の疫学調査(※)での突発性難聴の推定受療患者数は35000人でした。しかし、1993年の調査結果(24000人)と比較して約1.5倍に増加していることや、症状がごく軽度だとまれに自然に治る人もいることから、現在はそれ以上の患者がいると考えられます。
突発性難聴とはどのようなものかを知り、自分の「聞こえ」を大切にしていきましょう。
(※)「2001年発症の突発性難聴全国疫学調査」(Audiology Japan 47, 109~118, 2004 より引用)

監修プロフィール
馬車道耳鼻咽喉科クリニック 院長 きむら・しのぶ 木村 至信 先生

信州大学病院勤務時代は難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省の難聴遺伝子研究員になり、アメリカに留学。大学病院での高度医療、癌センターでのオペ研修など医療のトップレベルで15年以上勤務。アメリカから帰国後、横浜市立大学医学部にて医学博士取得。現在は横浜市の中心で開業。2013年よりフィリピン医療を支える会に参加し、スラムでの診療ボランティア活動にも10年以上参加している。木村至信BANDのボーカルとしてメジャーデビューも果たしたシンガーソングライターでもある。著書に『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』『1万人の鼻の悩みを解決した医師が教える 鼻炎のリセット法』(アスコム)がある。

突発性難聴について知る


突発性難聴の原因

突発性難聴は、音を感じ取って脳に伝える内耳(蝸牛神経:かぎゅうしんけい)がダメージを受けて発症する「感音難聴」のうち、急性で、原因がはっきりしないもの全てを指します。原因は明らかになっていませんが、これまでの研究から、内耳の血流障害やウイルス感染によって有毛細胞の機能が損なわれるためと考えられています。

耳の構造のイメージ図。耳の一番奥の内耳にある、蝸牛の中にある有毛細胞の機能が損なわれることで発症すると考えられる。

<突発性難聴の原因>
●内耳の血流障害
突発性難聴の原因の1つとして考えられるのは、内耳の血流障害です。内耳の血管はとても細く、ストレスによるフリーラジカル(活性酸素)の増加や自律神経の乱れ、気圧の変化などで血流が低下します。内耳に血流障害が起こると、蝸牛内部にある有毛細胞に十分な血液が行きわたらず、その働きが損なわれることに。血流障害が起こりやすい生活習慣病も、突発性難聴と関連が深いとされています。

●ウイルス感染
また、ウイルス感染も突発性難聴の原因になります。ストレスや疲労で免疫機能が低下すると、ウイルスに感染しやすくなります。ウイルス感染によって内耳に炎症が起こると、有毛細胞にも影響して聴力が低下すると考えられています。


突発性難聴の症状

突発性難聴の症状には次のような特徴があります。

<突発性難聴の症状>
●突然片耳が聞こえなくなる
発症の前触れになるようなものはなく、突然、片耳だけ聴力が落ちます。
●症状に個人差がある
症状の程度には個人差があり、全く聞こえなくなる人も、耳が詰まったように感じる人もいます。
●後遺症が出る場合がある
後遺症として耳鳴りが出ることがあります。
●再発することは少ない
一度発症すると、再発することはまれです。また、発症時に生じることが多いめまいや吐き気も多くの場合数回で治まります。


突発性難聴の治療・対処法

突発性難聴は原因がはっきりしていないため、次のような検査で他の病気との鑑別も行った上で治療方針を決めます。

<突発性難聴の主な検査>
●問診
発症前後の状態や基礎疾患などを確認して原因を探ります。
●聴力検査
聞こえの程度を確認します。
●耳鏡検査または耳の内視鏡検査
外耳や鼓膜に異常がないかを確認します。
●眼振(がんしん)検査
めまいの状態を確認し、その原因が耳にあるのか脳にあるのかを調べます。
●MRI検査
聴神経腫瘍、脳梗塞などと鑑別します。
●CTP検査
外リンパ瘻(ろう)と鑑別します。

<突発性難聴の主な治療法>
治療法は薬物治療を中心に主に次のようなものがあります。個人差はありますが、治療には1~3カ月程度かかります。また、入院治療が必要な場合もあります。
●ステロイド剤の投与
突発性難聴の一般的な治療で、内服や点滴で投与されます。代表的なものに、最初に高濃度のステロイドを点滴し、徐々にその量を減らしていくパルス治療があります。ただし、ステロイドを慎重に投与すべき持病(糖尿病や緑内障など)がある場合は、主治医と相談の上、治療を進めます。
●血管の拡張や代謝を促進する薬の投与
内耳の血流を改善する血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)や代謝促進薬(ATP製剤)、有毛細胞を守るビタミンB12製剤が使用されます。
●カクテル療法
突発性難聴を全身疾患と捉えて、原因を改善する薬を組み合わせて処方します。
●星状(せいじょう)神経節ブロック注射
首にある交感神経が集まる部分(星状神経節)に麻酔を注入することで、緊張を和らげ血流を改善します。
●高圧酸素療法
高圧酸素室に入り血流の改善を図ります。
●中耳腔注入療法(ステロイド鼓室内投与
中耳に直接ステロイド剤を流し込む治療法で、自費治療になります。局所に行われる治療のため全身への副作用は軽減されるものの、鼓膜に穴が開いたり、めまいや耳の不快感が起こったりする場合があります。


突発性難聴の予防法

突発性難聴を予防するために、日常生活の中では次のことを意識しましょう。

<突発性難聴の予防法>
●生活の基本を整える
生活のリズムを整え、栄養バランスのとれた食事を摂り、適度に体を動かして、質の高い睡眠を十分にとることは、健康維持の基本であり、血流や免疫機能の改善につながるもの。突発性難聴の予防にも役立ちます。
・食生活で必要な栄養を補う
栄養バランスのよい食事を基本に、内耳の血流を促すビタミンB12、末梢神経や中枢神経の働きをよくするビタミンB1、蝸牛にたくさん含まれる亜鉛、内耳の血流や代謝を促すアデノシン三リン酸(ATP)、血流改善に有効なビタミンE、ストレス緩和に役立つビタミンCなどを意識して摂るとよいでしょう。これらの栄養素は次の食品に多く含まれます。

ビタミンB12を含む食品
(血流を促し、末梢神経の働きを改善)

貝類、青魚、レバーなど

ビタミンB1を含む食品
(末梢神経と中枢神経の働きを改善)

豚肉、ウナギ、大豆、玄米など

亜鉛を含む食品
(蝸牛の働きや神経伝達を改善)

カキ、カタクチイワシ、レバーなど

アデノシン三リン酸(ATP)の生成を促す食品
(内耳の血流や代謝を促進)

のり、豚肉、納豆、卵、レバー、梅干しなど

ビタミンEを含む食品
(血流を改善)

ナッツ類、植物油、緑黄色野菜など

ビタミンCを含む食品
(ストレスを緩和)

かんきつ類など

日頃から多彩な食品を摂るようにしていれば、自然と必要な栄養素は摂取できます。しかし、体に吸収されにくかったり消費されやすかったりして、食事だけでは摂取量が不十分な場合も。そのような時は、食事の補助としてサプリメントを活用するのも一案です。ただし、「体にいいから」と過剰にサプリメントを摂取したり食事をおろそかにしたりすると、かえって健康を害してしまう場合もあるので注意しましょう。
・座りっぱなしを避ける
座りっぱなしの体を動かさない生活では、血流も滞りがちに。1時間ごとに10分程度は立ち上がったり歩いたりすることを意識し、血流改善と代謝アップを心がけましょう。

座りっぱなしを避けるため立ち上がる女性のイメージ画像

・ストレッチやマッサージを行う
首の後ろを通り、脳(脳幹、小脳)に血液を運ぶ椎骨脳底動脈(ついこつのうていどうみゃく)に血流障害が生じると、難聴やめまい、さらには重篤な脳疾患を招く場合があります。首を無理のない範囲でゆっくり回すストレッチは、椎骨脳底動脈の血流を促します。ただし、首を後ろにグッと大きく反らせてしまうと、かえって血流を妨げてしまうので注意しましょう。
また、血流を促し、副交感神経の働きを高めてストレスを和らげる耳のマッサージもおすすめです。耳のマッサージについては、大正健康ナビ「コラム イヤホン難聴(ヘッドホン難聴)とは? ヘッドホンやイヤホンの使い方に注意して対策しよう」をご覧ください。
・よく眠る
質のよい睡眠を十分にとることは、生活のリズムを整え、自律神経の調整や、免疫機能や疲労の回復、ストレス緩和にも役立ちます。大正健康ナビ「コラム 快眠のコツを身につけてすっきりと目覚めたい!」を参考に、睡眠も見直してみましょう。

●頑張る人ほど心身のメンテナンスを意識する
仕事や勉強、趣味、育児、介護など、何かに真面目に取り組んで頑張っていると、ストレスや疲労をため込んでしまったり、自分のキャパシティを超えて無理をしてしまったりすることもあるでしょう。突発性難聴は、そのような日々に対する体からのサインともいえるもの。満足できるまで頑張るためにも、折を見て体と心を休め、メンテナンスに努めるようにしてください。


突発性難聴 Q&A

Q.突発性難聴のリスクが高い人は?

A.生活の乱れ、ストレス過多、ホルモンバランスの変化がある人は注意が必要です

次の項目に当てはまる人は、血流障害や免疫機能の低下が起こりやすく、突発性難聴のリスクが高くなると考えられるので注意が必要です。
●生活が乱れている
睡眠や食事の時間がまちまちで生活のリズムが乱れている人や、偏った食事を続けている人、運動不足の人、質・量共に十分な睡眠がとれていない人。
●ストレス過多
環境や人間関係の変化、何かしらのトラブル、忙しさなどによって、強いストレスを感じていたり緊張状態が続いたりする人。
●ホルモンバランスの変化
更年期や月経前など、ホルモンバランスが変化するタイミングの人。

Q.突発性難聴が起こりやすい季節は?

A.突発性難聴のリスクはどの季節にもあります

突発性難聴は血行障害やウイルス感染が原因と考えられるため、どの季節でもリスクは潜んでいます。
…環境や気温・気圧の変化が大きいため、心身にストレスがかかり血流や免疫機能が低下しやすくなります。
…大量の発汗で血液がドロドロになったり、冷房冷えによって血管が収縮したりすることで血流が滞りがちに。また夏に起こりやすい胃腸の不調や、寝苦しさからの睡眠不足は、免疫機能の低下を招きます。
…春と同様に気温や気圧の変化が大きいことが、血流や免疫機能に影響します。空気の乾燥でウイルスから体を守る粘膜バリアが損なわれやすくなることも、免疫機能の低下の一因に。
…寒さで体が冷えると、血管が収縮し血流が悪くなります。また、体温が低くなると免疫機能も低下します。

Q.突発性難聴と特に症状が似ていて、鑑別が難しい病気は?

A.メニエール病です

次のような症状がある場合は、メニエール病との鑑別診断が必要になります。
自分や周囲がぐるぐる回るようなめまいがある
耳鳴りと共に難聴が起きている
吐き気を感じたり嘔吐したりする

Q.突発性難聴が起こると生活にどのような影響がありますか?

A.人とのコミュニケーションや身の安全を守ることに支障を来します

発症するのが片耳だけということもあり、次のようなことが起こりやすくなります。
自分や周囲が難聴だと気づかない
発症していないほうの耳で音が聞き取れるため、自分が難聴だと気づかずに治療が遅れたり、周囲の人に難聴だと理解してもらえなかったりする場合があります。
疲れやすくなる
聞こえる耳への負担が大きく、気も使うため疲れやすくなります。
コミュニケーションや安全確保を妨げる
賑やかな場所で会話がしにくくなる他、聞き逃しや聞き間違いが増えたり、音がする方向や距離感をつかみにくくなったりするため、人とのコミュニケーションや身の安全を守ることに支障を来します。聞こえが悪く、人とのコミュニケーションがストレスとなって抑うつ傾向になる人もいます。

Q.突発性難聴の治療上の注意点は?

A.何よりも大切なのは2週間以内での治療開始です

突発性難聴では、聴力に異常を感じたら決して放置せず、発症してから遅くとも2週間以内に耳鼻咽喉科を受診することが非常に大切です。
突発性難聴は、そのメカニズムや原因がいまだ明らかになっておらず、治療法もここ10年で大きく変わっていません。症状がごく軽度だと、まれに自然治癒する場合もありますが、多くの場合は、内耳の血流障害や炎症が続くことで有毛細胞の障害が大きくなり、聴力の回復が難しくなります。程度によりますが、1日でも早く治療を開始すれば、それだけ改善の可能性は高まります。

突発性難聴は発症してから遅くとも2週間以内に耳鼻咽喉科を受診することが非常に大切な疾患であることを表すイメージ画像

Q.治療中に日常生活で気をつけることはありますか?

A.治療中は耳に負担をかけない生活を心がけましょう

投薬に併せて、安静にすることも治療の一環になります。体を休めることでストレスと疲労を改善し、免疫機能を高めることや、過剰な音によって症状が悪化するのを防ぐ目的があります。治療中は、耳に負担をかけないように、次のことを心がけるとよいでしょう。
●無理をせずにゆっくり過ごす
仕事をしているなら仕事量を調整して、残業を極力しないようにしましょう。また、激しい運動を行わないようにし、学生なら体育の授業を休むのをおすすめします。
●大きな音を聞かない
テレビなどの音量は下げ、イヤホンやヘッドホンで大きな音を聞くのは避けてください。たくさん人のいる騒音が大きい場所やコンサートなどへの参加も控えるとよいでしょう。どうしても行かなければいけない時は、ライブ用耳栓などを使用してください。
●アルコールやカフェインを摂り過ぎない
血流を悪化させるアルコールやカフェインの摂取は控えましょう。特にステロイド治療を行っている時にアルコールを摂取すると、酔いが回りやすいので注意が必要です。ただし、お酒やコーヒーなどが好きな人は、全く飲まないこともストレスになるので、その場合はいつもより飲む量を少なくしてください。


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