子どもの虫歯、食器の共有は関係ないって本当? 子どもの虫歯予防対策

子どもの虫歯、食器の共有は関係ないって本当?

大人の口の中には、虫歯(う蝕)の原因菌をはじめとして数百種類の細菌がいますが、まだ歯の生えていない赤ちゃんの口の中は無菌状態です。そのため、赤ちゃんに歯が生えて離乳食が始まる頃になると、「親が使ったスプーンやお皿、コップなどを共有すると、赤ちゃんに虫歯菌が移る」という情報を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか? 実際、子どもの虫歯予防のために、親子間で食器を共有しないように気をつけているご家庭もあるかもしれません。

ところが2023年に日本口腔衛生学会が、「食器を共有しないことが、子どもの虫歯予防になるという科学的根拠は必ずしも強くない」という声明を発表し、話題となりました。その理由と、保護者が知っておきたい子ども(乳幼児)の虫歯予防について、専門家にうかがいました。

監修プロフィール
医療法人社団LSM 寺本内科・歯科クリニック 理事長 てらもと・こうへい 寺本 浩平 先生

2000年日本大学歯学部卒業、歯学博士。04年日本大学歯学部、08年Toronto Rehabiritation Institute留学、11年日本大学歯学部摂食機能療法学講座兼任講師などを経て、13年寺本内科歯科クリニック開業。日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本老年歯科医学会所属。


子どもの虫歯、食器の共有を気にし過ぎないで

子どもの虫歯、食器の共有を気にし過ぎないで

日本口腔衛生学会が2023年に発表した「乳幼児期における親との食器共有について」によれば、これまで定説とされてきた、食器共有による子どもへの虫歯菌の感染について、科学的根拠は強くないことが示されました。

そもそも親から子への口腔細菌の伝播は、食器の共有以前から既に起こっているというのです。近年の研究では、離乳食が始まる前の生後4カ月の赤ちゃんからも、母親からの口腔細菌の伝播が確認されました。親子のスキンシップを通じて、どうしても口腔細菌は移ってしまうため、食器の共有を避けることだけを気にし過ぎることはないという見解です。

また、親から子どもに口腔細菌が伝播したとしても、親が毎日「仕上げ磨き」を行って歯垢を除去し、砂糖の摂取を控え、フッ化物の塗布を行うことで、子どもの虫歯を予防できるといいます。

寺本内科歯科クリニックの寺本浩平歯科院長も、「歯が生えれば、一生無菌状態でいることはできません。口の中には数百種類もの口腔細菌が生息し、口腔細菌叢(そう)を形成しています。この細菌叢は年齢や状況によってどんどん変化していきますから、保護者の方は、子どもが口腔細菌叢と共存していくことを前提に、仕上げ磨きや、虫歯にならないための習慣づくりをすることのほうに力を注いでほしい」と話します。

人間の皮膚や管状の臓器の中の空洞には、様々な微生物が集団で生息し、「細菌の草むら=細菌叢」を形成している。口の中には数百種類もの口腔細菌が生息し、口腔細菌叢を形成している。

子どもの虫歯予防のために、保護者が行いたいケアのポイントをご紹介します。

※Kageyama S, Furuta M, Takeshita T, Ma J, Asakawa M, Yamashita Y: High-Level Acquisition of Maternal Oral Bacteria in Formula-Fed Infant Oral Microbiota. mBio 2022, 13(1):e0345221.


仕上げ磨きは虫歯予防だけでなく、歯磨きの習慣をつける大切なもの

仕上げ磨きは虫歯予防だけでなく、歯磨きの習慣をつける大切なもの

生後6、7カ月くらいになると、下あごの前歯から乳歯が生え始めます。赤ちゃんの歯が生え始めたら、ケアのスタートです。最初はガーゼなどを使って拭き、徐々に仕上げ磨き用の歯ブラシなどに移行します。子どもが歯磨きに興味をもち、自分で磨き始めても、上手に磨けるようになるまでには時間がかかります。小学校低学年くらいまでは、保護者による仕上げ磨きを続けることが大切です。

仕上げ磨きを嫌がり、泣いたり暴れたりする子どもは多いものです。寺本先生は、嫌がるからといって仕上げ磨きを行わないと、子どもが虫歯になってさらに痛い思いをしてしまうので、とにかく毎日継続することが大切だといいます。そうすることで、「毎日、歯磨きと仕上げ磨きをすることは当たり前のことだ」と、習慣づけることができるのです。

ただし、漫然と長時間行っていたり、子どもが痛みを感じるようなやり方をしていたりすれば、子どもが仕上げ磨きを嫌がるのも当たり前。保護者の側にも工夫が必要です。ポイントは「リズムよく」「痛くなく」「終わったらほめる」こと。

例えば、口腔内を右上、左上、右下、左下の4つのパートに分け、それぞれのパートを、10まで数えながら行ったり、歌に合わせて行ったりすれば、子どもも、仕上げ磨きがいつ終わるのかが分かりやすく、リズムよく行うことができます。また、痛みを感じさせないために重要なのは、前歯の中央にある筋「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」に歯ブラシがぶつからないようにすること。乳幼児はこの筋が長く、当たると痛いためです。そしてもちろん、歯磨きが終わったらたくさんほめてあげましょう。

痛みを感じさせないために重要なのは、前歯の中央にある筋「上唇小帯」に歯ブラシがぶつからないようにすること

〈仕上げ磨きのポイント〉

●姿勢は「寝かせ磨き」が基本
保護者が正座をしてその上に寝かせたり、伸ばした両脚の間に寝かせたりして磨く「寝かせ磨き」の姿勢が基本です。動いてしまう場合は、両脚のももで頭を挟み、腕を固定して行うと磨きやすいでしょう。子どもが大きくなり、不用意に動く心配がなくなってきたら、立たせて後ろから磨いたり、いすに座って向かい合わせに磨いたりしてもよいでしょう。

保護者が正座をしてその上に寝かせたり、伸ばした両脚の間に寝かせたりして磨く「寝かせ磨き」の姿勢が基本です。動いてしまう場合は、両脚のももで頭を挟み、腕を固定して行うと磨きやすいでしょう。子どもが大きくなり、不用意に動く心配がなくなってきたら、立たせて後ろから磨いたり、いすに座って向かい合わせに磨いたりしてもよいでしょう。

●歯ブラシはペンのように持ち、力を入れずに小刻みに動かす
歯ブラシはペンや鉛筆を持つ形(ペングリップ)で持ち、歯に対して直角に当てます。歯ブラシを動かす幅は、歯1、2本分程度で、小刻みに動かしましょう。力を入れて磨くと痛いので、筆でなぞる程度の、ほとんど力を入れない「フェザータッチ」を意識します。磨き残しがないように、順番を決めて磨くことも大切です。

●痛みを感じないように、「指の腹」を使ってサポート
上唇小帯は歯ブラシが当たると痛いので、指の腹で軽く押さえて歯ブラシが触れないようにそっとガードします。頬の内側や唇を指で押さえる時も、指先ではなく指の腹を使い、爪を立てないように注意しましょう。

●奥歯は、口を小さく開けて磨く
全て「アーン」と大きく口を開けて行うのではなく、歯ブラシが届きにくい奥歯の外側は、口を「イ」の形にして、小さく開けると歯ブラシが届き、磨きやすくなります。

歯ブラシはペンのように持ち、歯に対して直角にブラシを当てる。力を入れずに、歯1、2本程度の幅で毛先を小刻みに動かす●痛みを感じないように、指の腹を使って上唇小帯をガード●奥歯の外側は「イ」の口で、口を小さく開けて磨く。反対側の手で唇や頬を広げる。爪を立てると痛いので、指の腹を使って優しく広げる。

仕上げ磨きの時に「フッ化物(フッ素)」を利用し、歯を強くしよう

虫歯は、虫歯菌が産生する酸により、歯のカルシウムとリン酸が溶け出す「脱灰(だっかい)」によって起こります。逆に、溶け出したカルシウムとリン酸が歯の表面に戻る現象を「再石灰化」といい、私たちの歯は毎日、脱灰と再石灰化を何度も繰り返しています。再石灰化は、主に唾液によって行われます。唾液の成分が口腔内を酸性から中性に戻し、再石灰化を促しているのです。

私たちの歯は毎日、脱灰と再石灰化を何度も繰り返しています。

歯の再石灰化をさらに進めるために利用したいのが、「フッ化物(フッ素)」です。フッ化物を歯の表面に塗ると、まだ歯に穴が開く前の「初期虫歯」であれば修復が可能で、歯を強くすることができます。フッ化物は、「フッ素配合」と表示のある歯磨き粉(歯磨剤)に含まれていたり、歯磨き後に塗り込むジェルとして販売されていたりします。使用する際は、以下の推奨量を守りましょう。

〈フッ化物入り歯磨剤の、年齢別の推奨濃度・使用量・使用法〉

●歯が生えてから2歳まで
・フッ化物濃度……900~1,000ppmF
・使用量……米粒程度(1~2mm程度)

歯が生えてから2歳までのフッ化物配合歯磨剤の使用量……米粒程度(1~2mm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを1日2回行う。ごく少量の使用とし、歯磨きの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。歯磨剤は子どもの手が届かない所に保管し、歯磨きについて歯科医師等の指導を受ける。

●3~5歳
・フッ化物濃度……900~1,000ppmF
・使用量……グリーンピース程度(5mm程度)

3~5歳のフッ化物配合歯磨剤の使用量……グリーンピース程度(5mm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。歯磨きの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。子どもが歯ブラシに適切な量をつけられない場合は保護者が歯磨剤をつける。

●6歳以上
・フッ化物濃度……1,400~1,500ppmF
・使用量……歯ブラシ全体程度(1.5~2cm程度)

6歳~成人・高齢者のフッ化物配合歯磨剤の使用量……歯ブラシ全体程度(1.5~2cm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。歯磨きの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。

詳しくは、「う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」(2023年版/日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)にて 確認できます。

仕上げ磨きの際にフッ化物を利用することで、歯の再石灰化を進めることができるので、ぜひ活用してみましょう。

子どもを虫歯にしないために、お菓子は「食べさせない」ではなく「メリハリ」をつけて

子どもを虫歯にしないために、お菓子は「食べさせない」ではなく「メリハリ」をつけて

虫歯菌は、糖をエサにして酸を産生しています。そのため、「甘い物を食べたり飲んだりすると虫歯になる」と言われるのです。糖を摂って酸性化した口の中では脱灰が進み、唾液の働きによって中性に戻されると、再石灰化が進みます。

しかし、1日のうちに何度も甘い物を食べていると、口の中に常に糖がある状態が続き、再石灰化する時間が十分に取れず、虫歯になりやすくなります。そのため、おやつは決まった時間に食べることが大切なのです。

糖を摂って酸性化した口の中では脱灰が進み、唾液の働きによって中性に戻されると、再石灰化が進みます。

寺本先生は、「子どもが虫歯にならないように、お菓子を全く食べさせないという保護者の方もいらっしゃいますが、お菓子は子どもの心の発育にとって大切な嗜好品で、“心の栄養”になるものです。食べさせないというのではなく、食べる時間を決める、食べたら歯を磨くといった習慣づけをすれば大丈夫。大切なのはメリハリです」と話します。

また、虫歯になりやすいお菓子、なりにくいお菓子もあります。例えば、キャラメルのような粘着度の高いお菓子は、歯の表面にくっついて離れにくいため虫歯のリスクが比較的高く、おせんべいのような甘味の少ないお菓子は虫歯のリスクが比較的低いお菓子だといえます。最近では、虫歯予防効果が実証されている甘味料の「キシリトール」が入ったチョコレートなども販売されているので、活用するのも一案です。

早めに「歯科のかかりつけ医」をもち、定期的な歯のチェックを

早めに「歯科のかかりつけ医」をもち、定期的な子どもの虫歯のチェックを

各自治体では、1歳半健診や3歳児健診で歯科健診が行われるのが一般的ですが、これは必要最低限の検査のため、かかりつけ医を早めにもつことも大切です。

定期的にプロの口腔ケアと、高濃度のフッ化物塗布を行うことで、虫歯になりにくくなるのはもちろんのこと、歯科医院では歯並びやかみ合わせなど、お口に関する様々な状態をチェックしているので、早めに異変に気づくことができます。また、小さい頃からなじみの歯医者さんがいることで、子どもが歯科医院に対する恐怖心をもたずに済むのもメリットです。

歯がまだ生えていない乳児から、ほぼ永久歯が生えそろう12歳の学童期まで、子どもの口の中はダイナミックに変化していきます。この年代は虫歯リスクが高いだけでなく、一生涯続く虫歯予防習慣の基礎をつくる大切な時期です。かかりつけ医に相談しながら、親子で楽しく虫歯予防習慣を身につけていきましょう。


この記事はお役に立ちましたか?

今後最も読みたいコンテンツを教えてください。

ご回答ありがとうございました

健康情報サイト