虫歯

虫歯とは、口腔内に常に存在するミュータンス連鎖球菌をはじめ、乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)、グラム陰性嫌気性(いんせいけんきせい)桿菌などの「虫歯菌」が出す酸によって、歯のカルシウムやリン酸が溶けて歯がもろくなり、ついには歯に穴が開いてしまう病気です。

虫歯は、穴が開く前の「初期虫歯」以外は自然に治ることはありません。また、重症になるまで痛みなどの自覚症状はなく、痛みが出た時には、既に歯科治療をしなければならない状態に陥っています。しかし、痛みが出てもしばらくすると治まることも多いため、そのまま放置してしまい、さらに悪化させてしまう……というケースも多く見られます。歯の痛みを感じたら、その後に痛みが治まったとしても放置せず、歯科を受診することが大切です。

一方で、歯に穴の開いていない初期虫歯であれば、唾液の働きや毎日のケアによって、歯の表面のエナメル質を修復(再石灰化)することができます。そのため、歯磨きや食習慣による毎日のケアが大切です。

虫歯は私たちにとって、とても身近な疾患です。そのメカニズムを知って、正しく予防していきましょう。

監修プロフィール
医療法人社団LSM 寺本内科・歯科クリニック 理事長 てらもと・こうへい 寺本 浩平 先生

2000年日本大学歯学部卒業、歯学博士。04年日本大学歯学部、08年Toronto Rehabiritation Institute留学、11年日本大学歯学部摂食機能療法学講座兼任講師などを経て、13年寺本内科歯科クリニック開業。日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本老年歯科医学会所属。

<目次>虫歯について知る


虫歯の原因

虫歯の直接的な原因は、ミュータンス連鎖球菌などの「虫歯菌」が産生する酸

虫歯菌は、人が食事で摂り込んだ糖を分解し、粘着性の強い歯垢(プラーク)と酸を産生します。この酸が、歯の最も表面にあるエナメル質からカルシウムやリン酸を溶け出させる「脱灰(だっかい)」を引き起こし、歯が柔らかくなって形が崩れ、やがて穴が開いてしまいます。

歯の表面にいる菌は、本来ならば唾液で洗い流すことができるのですが、プラークの中で菌が増殖すると、やがてバイオフィルム(膜状になった微生物の集合体)という膜を形成します。そのバリア機能によって、プラーク内部の細菌が唾液から守られ、産生される酸も増え続けてしまうのです。

バイオフィルムのバリア機能によって、プラーク内部の細菌が唾液から守られ、産生される酸も増え続けてしまう

バイオフィルムは歯磨きでは落とせず、歯科のクリーニングでないと取り除くことが難しいため、バイオフィルムが形成される前に、毎日の歯磨きでしっかりプラークをこすり落とすことが大切です。


歯の「脱灰」と「再石灰化」の均衡が崩れると虫歯になる

虫歯菌が産生する酸によって、歯の表面のエナメル質からカルシウムとリン酸が溶け出す現象を「脱灰」といいます。逆に、溶け出したカルシウムとリン酸が歯の表面に戻る現象を「再石灰化」といいます。

虫歯は歯の「脱灰」と「再石灰化」の均衡が崩れるとできる

口腔内では、1日のうちに何度も脱灰と再石灰化が繰り返されていますが、虫歯はこの均衡が崩れ、再石灰化の量よりも、脱灰の量が増えることで発生します。口腔内が酸性(pH 5.5以下)に傾くと脱灰が始まります。

私たちの唾液には、酸性を中性に戻す「重炭酸塩」という成分が含まれており、酸性に傾いた口の中を常に中性に戻してくれる作用があります。しかし、1日に何度も間食を摂ったりして、口の中に常に糖分がある状態が続くと、唾液の緩衝作用が間に合わず、再石灰化する時間が十分に取れないため、虫歯になりやすくなるのです。再石灰化を優位にするためには、歯磨きだけでなく規則正しい食生活も大切です。

再石灰化を優位にするためには、歯磨きだけでなく規則正しい食生活も大切です。

唾液量や歯の構造など、体質的な要因も虫歯のなりやすさに関係する

歯磨きや規則正しい食生活など、同じように気をつけていても、虫歯になりやすい人となりにくい人がいます。例えば、口の中が乾燥している人は、唾液の量が少ないため、酸性に傾いた口の中を中性に戻してくれる作用が働きにくくなります。いわゆる「ドライマウス」の人は虫歯に注意が必要です。

また、歯の構造は遺伝の要素が大きく、元々エナメル質がザラザラしている人や、噛み合わせの溝が深い人は虫歯になりやすいといえます。同様に歯並びが悪いと歯ブラシが届きにくく、どうしても虫歯のリスクは増えてしまいます。

虫歯にはそのような遺伝的、体質的な要因もかかわることを知り、虫歯になりやすい人はフッ化物の塗布や、歯科衛生士によるケアなども積極的に取り入れていきましょう。


虫歯の症状

虫歯の症状の進行度は、「C0」から「C4」の5段階に分けられる

虫歯の症状の進行度は、「C0」から「C4」の5段階に分けられる

虫歯は専門用語で「カリエス」といい、頭文字の「C」の略称が、虫歯の進行状況を示すのに使われています。虫歯の進行度によって、以下のC0からC4の5段階に分けられており、C1からC4は歯科での治療が必要です。

●C0(初期虫歯)……積極的なセルフケアで再石灰化が可能
歯の表面が白く濁って透明感がなくなりますが、まだエナメル質に穴は開いていない初期虫歯の状態です。フッ化物の塗布などの積極的なセルフケアにより、再石灰化を促すことができる段階です。

●C1(エナメル質まで進行)……痛みなどの自覚症状はないが、削って詰める治療が必要
歯のエナメル質にだけ穴が開いた状態の虫歯です。痛みなどの自覚症状はありませんが、患部を削って詰め物をする治療が必要になります。

●C2(象牙質まで進行)……冷たい物や甘い物が染みるようになり、痛みが出る。痛みが治まることもあるので注意
エナメル質を突き破って象牙質に達した段階の虫歯で、冷たい物や甘い物が染みたり、噛むと痛かったりする自覚症状が出ます。しばらくすると痛みが治まる場合もありますが、治ったと勘違いせずに必ず歯科を受診しましょう。

●C3(歯髄:しずい まで進行)……熱い物が染みたり、何もしなくても痛んだりするようになる
虫歯が歯髄に達した状態です。歯髄には血管や神経が通っているため、熱い物が染みたり、何もしなくても痛むようになったりします。

C4(残根:ざんこん)……歯茎の上の部分が崩壊して歯がボロボロになる虫歯で、激痛を伴う
歯冠(歯茎の上の見える部分)が崩壊して歯がボロボロになり、歯髄が壊死してしまった状態。歯の根の先端部分の歯槽骨(しそうこつ)の中で細菌が増えると、あごに膿がたまり、炎症を起こして激痛を伴います。


歯の痛みが一時的に治まっても、虫歯の症状は進行している

虫歯の痛みの自覚症状は、象牙質にまで虫歯が達するC2の段階になって初めて現れます。しかし、しばらくすると痛みが一時的に治まってしまうケースもあるため、そのまま放置してしまわないように気をつけましょう。

虫歯の痛みが治まったように感じる理由は様々です。例えば、痛みを感じ続けると痛覚の感度が鈍くなることや、仕事などで集中している時は交感神経の働きが優位になり、痛みを感じにくくなることも。また、体調の変化によるものや、実はC3まで進行してしまい、歯の神経が壊死して痛みを感じなくなっていた……などが考えられます。

ただし、いずれにせよC0以外の虫歯が自然に治ることはありえません。放置すると進行してしまうため、一度でも痛みが出たら、痛みが治まった後でも必ず歯科を受診しましょう。


歯がボロボロになるC4のようなひどい虫歯は減少中! 50%以上の高齢者が「8020」を達成

歯がボロボロになるようなC4の虫歯にまで至ると、どうしても抜歯などの処置が必要になり、自分の歯を失うことになります。しかし近年は意識の変化により、そこまで歯がボロボロになる虫歯のケースは減ってきました。特に、1989年に厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して開始された、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020(はちまるにいまる)運動」により、意識と行動が大きく変化しています。

運動開始前の1987年の調査では、80歳以上で20本の歯をもつ人の割合はたったの7%で、10人に1人にも満たない状況でした。しかし、2022年には51.6%と確実に達成率が上がってきたのです。高齢化が進む中、虫歯予防に対する意識をさらに高めていきましょう。
※厚生労働省「令和4年 歯科疾患実態調査」より


虫歯の治療・対処法

穴(う窩)が開いていない初期虫歯は、再石灰化治療やセルフケアで修復が可能

う窩(虫歯により歯に開いた穴)ができる前の初期虫歯(C0)は、毎日の歯磨きやフッ化物の塗布などの再石灰化治療によって、修復・再生が可能です。とはいえ、痛みの自覚症状がないC0の段階で虫歯に気づくのは難しいものです。虫歯の早期発見のためにも、かかりつけの歯科医をもち、定期的な歯科検診を受けるようにしましょう。


穴(う窩)が開いた虫歯の治療法は様々。痛くない治療もあるので相談を

歯に穴が開いてしまった時の治療は、段階によって異なります。

C1、C2の場合は、穴の患部を削り、プラスチック樹脂(レジン)などの詰め物によって修復していきます。歯髄に達したC3の虫歯の場合は患部を削り、神経を抜いて、歯に被せ物をします。C4になると抜歯をして、入れ歯やブリッジ、インプラントなどの処置を行います。ただし、高齢者の場合は抜歯による全身のリスクも考慮し、歯根を残したまま入れ歯を入れることも検討されます。

虫歯が進行しても歯科受診をためらう人の中には、歯を削ることや痛みへの恐怖心がある人もいるかもしれません。近年では、歯を削る量を少なくできるレーザー治療や、麻酔などを利用して痛みを感じにくくする無痛治療などもあるので、相談してみるのも一案です。


虫歯の予防法

虫歯の予防法の基本は、毎日の歯磨き

毎日、何となく歯磨きをしている人は、一度、自分の歯の磨き方を振り返ってみましょう。磨き残しのない、効果的な歯の磨き方をご紹介します。

〈磨き残しのない歯磨きのコツ〉
●毎食後、30分以内に磨く
プラークは、時間が経つほど取れにくくなるので、毎食後30分以内に歯磨きを行いましょう。

●歯ブラシはペンのように持つ
歯ブラシは利き手で持ち、持ち方はペングリップ(鉛筆やペンをもつような握り方)にします。ペンのように持つことで、小回りが利き、細かく動かしやすくなります。

●歯ブラシを当てる角度は直角。歯1本分ずつ小刻みに動かす
歯ブラシは、歯に対して垂直に当てましょう。歯ブラシを1回に動かす範囲は、歯を1本ずつ磨く範囲に限定し、小刻みに磨きます。小刻みに動かすことでプラークが取れやすくなります。

●ほとんど力を入れない「フェザータッチ」で磨く
多くの人は、歯を磨く時に力を入れ過ぎています。筆でなぞる程度の、ほとんど力を入れない「フェザータッチ」が最もプラークを落としやすい力加減です。目安は、歯ブラシの毛先が広がらない程度の弱い圧力です。力の入れ過ぎは「知覚過敏」につながるため注意しましょう。

●利き手の奥歯の内側から、「一筆書き」の要領で磨いていく
磨き残しを防ぐには、あらかじめ磨く順番を決めておくことが大切です。最もプラークを磨き残しやすい場所は、利き手側の歯の内側や奥歯です。そこで利き手側の上の奥歯の内側から磨き始め、反対側へ徐々に移動していき、次に外側を磨く「一筆書き」のようにすると磨き残しがなくなりやすくなります。集中している磨き始めの時に、磨きにくい場所を磨いてしまうのがコツです。

磨き残しのない歯磨きのコツ

フッ化物配合の歯磨き粉を選ぶ

歯の再石灰化を促せるよう、歯磨き粉(歯磨剤)はフッ化物を配合した物を選ぶとよいでしょう。2017年に歯磨剤に配合できるフッ化物濃度の上限が上がり、近年は高濃度フッ化物配合の歯磨剤が販売されています。ただし、使用する際は推奨されている量を守ることが大切なので、以下の要領で使用しましょう。

〈フッ化物入り歯磨剤の、年齢別の推奨濃度・使用量・使用法〉

●歯が生えてから2歳まで
・フッ化物濃度……900~1,000ppmF
・使用量……米粒程度(1~2mm程度)

歯が生えてから2歳までの使用量……米粒程度(1~2mm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを1日2回行う。ごく少量の使用とし、歯磨きの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。歯磨剤は子どもの手が届かない所に保管し、歯磨きについて歯科医師等の指導を受ける。

●3~5歳
・フッ化物濃度……900~1,000ppmF
・使用量……グリーンピース程度(5mm程度)

3~5歳の使用量……グリーンピース程度(5mm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。歯磨きの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。子どもが歯ブラシに適切な量をつけられない場合は保護者が歯磨剤をつける。

●6歳~成人・高齢者
・フッ化物濃度……1,400~1,500ppmF
・使用量……歯ブラシ全体程度(1.5~2cm程度)

6歳~成人・高齢者の使用量……歯ブラシ全体程度(1.5~2cm程度)

・使用法……フッ化物配合歯磨剤を利用した歯磨きを、就寝前を含め1日2回行う。歯磨きの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。チタン製歯科材料(インプラントなど)が使用されていても、自分の歯がある場合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。

詳しくは、「う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」(2023年版/日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)にて確認できます。


歯間ブラシや、デンタルフロスで歯の間を磨くのが理想

プラークがたまりやすい歯と歯の間は通常の歯ブラシでは落としにくいため、歯の根元は歯間ブラシを使うとよりプラークを落としやすくなります。また、歯間ブラシが入らない歯と歯の間は、デンタルフロスを使いましょう。1日に1回、夕食の後の歯磨きの時に使うのが理想です。

歯間ブラシや、デンタルフロスで歯の間を磨くのが理想

かかりつけの歯科医をもち、定期的にプロのケアを受けよう

毎日ブラッシングをしていてもプラークは少しずつたまり、やがて細菌の増殖につながりやすい歯石になります。歯石は歯磨きでは取り除くことができないので、歯科医院で除去しましょう。加齢と共にプラークや歯石はたまりやすくなり、虫歯だけでなく、歯周病や口臭にもつながります。かかりつけの歯科医をもち、定期的にプロのケアを受けることが大切です。

かかりつけの歯科医をもち、定期的にプロのケアを受けよう

歯科での予防法「フッ化物歯面塗布」と「シーラント」

歯科医院で、歯科医師や歯科衛生士が行う虫歯予防法も活用すると、さらに虫歯になりにくくなります。以下のような予防法があります。

●フッ化物歯面塗布……比較的高濃度のフッ化物溶液やゲル(ジェル)を歯の表面に塗布してもらう方法です。乳歯のむし歯の予防として1歳児から、また、歯肉が下がってきた高齢者の歯の根元の虫歯予防として実施されています。

●シーラント……虫歯になりやすい奥歯のくぼみや溝を、あらかじめフッ化物を含むプラスチック樹脂で埋めて、虫歯を予防したり再石灰化作用を促進したりする虫歯予防法です。主に生えて間もない6歳臼歯や奥歯に行い、生えたての永久歯や乳歯であれば保険診療で行うことができます。

虫歯は、毎日のケアを行うことで防ぐことができる疾患です。人生100年時代、歯が生え始めた時から正しい虫歯予防とケアを行い、一生涯、自分の歯で食べられる喜びを維持していきましょう。


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