紫外線は太陽光に含まれる光線の1つです。紫外線の量は、場所や天候などにより左右され、季節によっても変化します。日本国内では5月頃から紫外線量が増え始め、6~8月の夏場に最大となります。紫外線は肌に様々なダメージを与え、シミや皮膚がんの原因になることも。シーンや肌タイプに応じた日焼け止めを使用するなどして、年間を通して適切な紫外線ケアを心がけましょう。
※この記事は2016年6月のものです。
1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、17年より現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。
紫外線は肌に様々なダメージを与えます。紫外線による急性の症状としては、いわゆる日焼け(日光皮膚炎)があります。日焼けでは皮膚の細胞が傷つき、炎症を起こして赤くなったり、ひどくなると水ぶくれ(水疱)を起こしたりします。日光に過敏に反応して皮膚の炎症やかゆみなどが起こる光線過敏症も、多くは紫外線によるものです。また、紫外線によって皮膚の免疫力が低下し、口唇ヘルペスが再発するようなケースもあります。紫外線のダメージが皮膚の細胞に蓄積されると、シミやシワ、たるみの原因となります。こうした紫外線による肌老化を「光老化」と呼んでいます。また、長期的に紫外線を浴び続けることによるダメージとしては、皮膚がんに最も注意が必要です。紫外線が皮膚の細胞の遺伝子を傷つけることは、がん発症の原因となります。
さらに、紫外線は目の水晶体の組織に影響し、白内障の誘因にもなります。美容だけでなく、健康上のリスクも高いことを知っておきましょう。
一般に肌の老化によるシミといった場合、そのほとんどは、紫外線による光老化が原因です。これを日光性色素斑(老人性色素斑)といいます。
紫外線を浴びると、皮膚の表皮にあるメラノサイト(色素細胞)が刺激され、メラニン色素が産生されます。メラニン色素は紫外線から肌を守る役割をもち、通常は肌のターンオーバーによってはがれ落ちます。しかし、メラニン色素が産生され続けて沈着してしまうと、シミとなって現れることになります。このように、メラニン色素の沈着がシミの原因ですが、シミには多くの種類があり、それぞれ原因が異なります(下表参照)。実際には、紫外線の他、加齢、ホルモンバランスの乱れ、食生活、ストレス、遺伝など、様々な要因が複雑に絡み合って発生すると考えられます。
なお、シミの中には悪性黒子といって、日光性色素斑と見分けがつきにくいものもあります。悪性黒子は皮膚がんの中でも最も悪性度の高い悪性黒色腫(メラノーマ)の一種です。気になるシミができた場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。
太陽光には健康を維持する上で欠かせない多くの作用があります。ビタミンDはカルシウムの吸収・代謝を促進して、丈夫な骨をつくるために大切な栄養素で、その80~90%は日光浴によって体内で生成されます。生体リズムを調整する作用、殺菌作用などもあります。
これらは確かに太陽光のよい作用といえますが、その一方、Q1で述べたように、太陽光の紫外線は肌ダメージや皮膚がん、白内障などの原因となるため、過剰に浴びることは避けるべきです。
ただし、極端に紫外線を避ける生活を送っていると、骨粗しょう症のリスクが高まるなど健康上の問題があります。目安として、ビタミンDの生成には1日10~15分程度の日光浴で十分とされています。骨を丈夫にするには日光浴と併せて食事からのカルシウムとビタミンDの摂取や適度な運動習慣も大切です。
くる病は、発育期にカルシウムが骨に沈着せず、手足の変形など骨の発育不良を起こす病気です。最近、子どものくる病の増加が話題になっています。主な原因としてビタミンDの不足が指摘されていますが、極端に紫外線を避ける習慣も関係しているのではないかと考えられています。紫外線の浴び過ぎはよくありませんが、乳幼児も1日10~15分程度の日光浴が大切です。
紫外線は日本では6~8月に最も多くなり、1日のうちでは正午頃に紫外線量がピークを迎えます。次のようなシーンではうっかり日焼けをしやすいので特に注意しましょう。
肌トラブルを避けるためには、紫外線を浴びないことが第一です。過度な防御はすすめられませんが、次のポイントを押さえて毎日の生活の中で紫外線ケアを実践しましょう。
日焼け止めは、容器に記載されているSPF値、PA値を参考に、自分の肌タイプと使用するシーンに応じて選ぶとよいでしょう。
SPFはUVBを防ぐ指標で数値が高いほど効果が高く、PAはUVAを防ぐ指標で+の数が多いほど効果が高くなります。目安として、日常生活ではSPF15~30、屋外のスポーツではSPF30~50くらいの物を使用するとよいでしょう。量が少な過ぎると効果が得られないので、十分な量を塗り、2~3時間おきに塗り直すのがポイントです。日焼け止めの中にはクレンジングが必要な製品もありますが、こすり過ぎると皮膚を傷めるので注意が必要です。
また、日焼けの仕方には個人差があるため、肌タイプに合わせたケアを行うことも大切です。日本人の肌タイプは3タイプ(下表参照)あり、このうち最も紫外線のダメージを受けやすいのはスキンタイプⅠの色白の肌の人です。このタイプの人は効果の高い日焼け止めを塗るなど特にしっかりとケアする必要があります。逆に紫外線に強いのはスキンタイプⅢの色黒肌ですが、このタイプの人も油断せずにケアを心がけましょう。
紫外線ケアが必要なのは、赤ちゃんも例外ではありません。ただし、デリケートな肌に合わせて製品を選ぶことが大切です。一般に「赤ちゃん用」とされている物は、赤ちゃんの口に入っても安全な成分が使用されており、問題なく使うことができます。
日焼けは症状が軽くてもやけどの一種なので、まずは冷やして皮膚の炎症を抑えることが肝心です。日焼けした部分にタオルにくるんだ保冷剤や氷水を入れたビニール袋などを当て、ほてりがある程度治まるまで冷やし続けます。日焼けした範囲が広い場合は、冷たいシャワーを浴びたり水風呂に浸かったりするのもよいでしょう。冷やした後は、保湿剤を塗って皮膚の乾燥を防ぎます。水ぶくれができた場合は、潰してしまうと治りにくくなったり、細菌感染によりただれたりするケースがあるので、潰さないようにして同様のケアを行いましょう。
ひどい日焼けをした後は強い痛みが起こったり、熱が出たりすることもあります。症状が治まらない場合は、自己判断で市販の軟膏などを塗ることは避け、早めに皮膚科を受診しましょう。また、子どもがぐったりして熱がある場合や脱水症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診させましょう。
サンオイルは広くいえば日焼け止めの一種で、日焼けを促進する物ではありません。日焼け止めが紫外線をブロックして日焼けや肌老化を防ぐことを目的としているのに対し、サンオイルは肌のサンバーン(UVBによるやけど状態)を防ぐことを主目的とします。肌のダメージを軽減しながら、日焼けしたい人向けの製品といえます。
光老化によるシミは、本来治療の必要はありません。しかし、美容的に気になる場合は治療を検討するとよいでしょう。皮膚科で行われる治療は保険適用外になりますが、機能性化粧品(成分としてハイドロキノン、ビタミンC・Eなど)を用いる方法や、機器を使った治療(レーザー治療、光治療)があります。治療方法や効果について医師からよく説明を受け、納得して選択するようにしましょう。なお、いったん治療をしても、再発はいつでもあり得るので、引き続き紫外線ケアを心がけることが大切です。
また、市販の機能性化粧品(いわゆる美白化粧品)を用いるのも一つの方法です。ただし、毎日使い続けることでシミを薄くしたり、これ以上濃くならないようにしたりする効果はある程度期待できても、完全に消すことは難しいと心得ておいたほうがよいでしょう。
60代以上に多い皮膚疾患に、紫外線を長年浴びたことによる日光角化症があります。顔面や頭部に直径1~2cmほどの紅斑やかさぶたができるもので、治療が遅れると皮膚がんに移行することもある前がん病変(がんになる一歩手前の状態)の一つです。痛みやかゆみを伴わないため、単なるシミのようなものと放置されがちですが、疑わしい症状がある場合は早めに皮膚科を受診しましょう。また高齢者の場合、本人が気にしないケースが多いので、家族が気をつけて肌の状態を見てあげてください。