熱中症対策は食べ物から。夏に備えよう!

熱中症対策は食べ物から。夏に備えよう!

年々患者数が増加し、社会問題になりつつあるのが熱中症です。熱中症は誰にでもリスクがありますが、実は暑くなる前から食べ物や運動などで暑さに強い体をつくっておく長期的な対策が有効です。
大正製薬株式会社が2024年5月に実施した調査では、熱中症対策として摂取したい栄養素であるタンパク質、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、タウリン、ロイシン(タウリン、ロイシンは共にアミノ酸)、ビタミンB、カルシウム、ビタミンCのうち、それらの栄養素が熱中症対策になると知っているかを聞いたところ、1200人中の353人、3割弱の29.4%の人が「どれも知らない」と回答。全て認知していた人はわずか27人(2.3%)でした(※)。
今回は、食で始める熱中症対策についてご紹介します。

大正製薬「夏に向け、熱中症になりづらい体づくりを。医師が解説する、食生活でできる熱中症対策」より

監修プロフィール
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長 たにぐち・ひでき 谷口 英喜 先生

医学博士、日本麻酔科学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医。麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。2024年5月に新刊『熱中症からいのちを守る』(評言社)が刊行。その他に『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)など著書多数。医療者のための生涯学習サイト、谷口ゼミを開塾。

暑くなる前から熱中症になりにくい体をつくろう

●暑熱順化(しょねつじゅんか)を始める

暑熱順化のため、軽く汗ばむ程度の運動をしている女性のイメージ画像

暑熱順化とは暑さに体が慣れることであり、意識的に暑さに対応して体温をコントロールできる体をつくっておくと熱中症への備えになります。
普段からあまり汗をかかない人や運動習慣のない人は、軽く汗ばむ程度の運動を行って日常的に汗をかくとよいでしょう。発汗量や皮膚の血流量が増加し、汗による気化熱や体の表面から熱を逃がす熱放散で体温の上昇を抑えやすくなります。
また、エアコンの利いた部屋にずっといると体温調節の必要がなくなり、汗や血流を調整する自律神経の働きが低下してしまいます。暑熱順化への取り組みの一環として、エアコンの使用開始のタイミングは慎重に見極めましょう。
暑熱順化には、通常数日から2週間程度の日数がかかることと、近年はゴールデンウィーク頃にも暑い日が多くなっているため、遅くともゴールデンウィーク前には取り組み始めることをおすすめします。

●水を蓄えやすい体をつくる
熱中症の原因の1つである脱水症状にならないように、十分な水分を蓄えておける体をつくることも必要です。普段から適度な水分補給をしていない人は、急に体内の貯水量を増やすことはできません。1日1.5Lを目安に、暑くなる前から意識的に水分補給の習慣をつくっていきましょう。

・理想は「8回に分けて1日1.5L」
水分補給は、のどが渇いたタイミングで問題ありませんが、体づくりのための水分補給では、少量に分けながら定期的に摂取することが理想的です。
水は急には大量に飲めないので、1日1.5Lを目安に、8回に分けて摂取する練習をしてみましょう。具体的には、朝起きた時、食事中、食間、入浴前、就寝前などに各コップ1杯程度の水分を摂取します。無理なく続けて習慣化できるように、自分が飲みやすい水分量や温度、飲み物の種類を知っておくとよいでしょう。

熱中症対策で、水を1日1.5Lを目安に8回に分けて摂取する練習をする女性のイメージ画像

・筋肉量を維持、増やすための運動習慣を身につけよう
私たちの体内の水分は、約半分が筋肉に貯蔵されます。実際に筋肉量が多い人は熱中症になりにくい傾向があります。ウォーキングやスクワットなどの運動で筋肉の量を維持しておくと共に、筋肉をつくるために必要な栄養素を食事に摂るようにしましょう。

暑熱順化と貯水しやすい体づくりを助ける3つの栄養素

①タンパク質
まず貯水しやすい体づくりのためには、筋肉が必要です。タンパク質は筋肉量を増やすのに最適な栄養素です。また、タンパク質を構成するアミノ酸のロイシンは、筋肉の合成を促す効果が高いので、ロイシンを含む肉や魚を積極的に食べましょう。
タンパク質は体内や血管内に水分を取り込み、維持することにも役立つ栄養素です。タンパク質を摂りながら、体を動かし、長期的に筋肉が維持できるようにしましょう。

②タウリン
タウリンには、筋肉疲労を回復する効果があります。体の様々な機能を調節する働きもあり、近年の研究から深部体温を下げる働きによって、暑熱順化に役立つことが明らかになりました。さらに、筋肉産生を促したり、活性酸素によって体が疲労して食欲も落ちるのを抑止して筋肉づくりをサポートしたりする働きもあります。
タウリンはイカやタコ、貝類、甲殻類及び魚類などに多く含まれていますが、水溶性の栄養素なので、汁ごと摂れる鍋物やスープなどで食べると効率的に吸収できます。手軽に摂るならばタウリンが含まれた栄養ドリンクもおすすめ。ただし、痛風や尿酸値の高い人はタウリンの摂取には注意が必要です。
※タウリンについては「タウリンの力と疲労回復の研究成果」もご覧ください。

③ビタミンC
ビタミンCには抗酸化作用があり、体内の活性酸素を減らすことで細胞を守り、炎症を軽減して暑熱順化をサポートしてくれます。タウリンと同様に水溶性のため、ビタミンCを含む野菜をスープやみそ汁で食べると摂取しやすく、水分補給にもつながります。

「汗で失われるもの」を補給する食べ物は

夏になる前には、体内の貯水量を増やすためにタンパク質を多めに摂ることが大切ですが、タンパク質は体温を上げる作用があるので、暑い時期になったら摂り過ぎには注意が必要です。暑くなってきてからの対策として必要なのは、汗をかくことで失われた体内の水分や栄養分を補うこと。熱中症にならないためには体内の水分を保つことが大切なので、汗によって失われてしまう水や電解質(マグネシウム、カリウム、ナトリウム)、ビタミン類などを補う食事が必要になります。

●汗で失われる補給すべき栄養素とは?
①体内の水分と塩分のバランスを調節する「ナトリウム」
ナトリウムは体内の水分と塩分のバランスを調節する作用がある、ミネラルの1つです。適度に摂取しないと、水分が体内に吸収されにくくなり、さらに体内に留めにくくなります。
<おすすめの食材・摂取方法>
塩飴または梅干し1つ+コップ1杯の水。真水だけを1時間に1L以上飲むと、体内の塩分濃度が極端に下がって水中毒の状態となり、筋肉のけいれんなどを起こす低ナトリウム血症のリスクが高まります。逆にナトリウム(塩分)のみを摂取して水分を摂らないと、水分の実質的な補給につながりません。熱中症の対策として重要なポイントは、ナトリウムと水分をセットで摂ること。塩分補給として塩飴や梅干しを摂る場合は、1つにつき必ずコップ1杯分の水分も摂ることを心がけましょう。

熱中症対策として重要な、塩分補給として塩飴や梅干しを摂る場合は、1つにつき必ずコップ1杯分の水分も摂るイメージ画像

②体温を下げる「カリウム」
野菜やいも類、海藻類に豊富に含まれ、尿を出しやすくする作用があります。尿と共に体内の熱も排出されるため、体温を下げて熱中症を遠ざけることにも役立ちます。
<おすすめの食材・摂取方法>
手軽に食べられるバナナやキウイ、干し柿やドライいちじくなどのドライフルーツ、トマトジュースなどでこまめに摂取しましょう。

③ナトリウムやカリウムのバランスを整え、体温を調節する「マグネシウム」
マグネシウムは、海藻類やナッツ、豆類などに多く含まれています。糖をエネルギーに換える時に必要となるのに加え、心臓や筋肉の働きをサポートしたり、ナトリウムとカリウムのバランスを整えたりします。また、体温も調節するなど体内の重要な働きにかかわっています。汗や尿と共に体から排出されやすいため、積極的な摂取が望ましいでしょう。
<おすすめの食材・摂取方法>
素焼きアーモンド、アサリやあおさのみそ汁、ミネラルウォーター(マグネシウムやカルシウムが多く含まれている硬水)に多いので、食事やおやつ、のどが渇いた時など、様々なタイミングでこれらの摂取を意識しましょう。

④熱中症の症状を緩和する「ビタミンB
豚肉や豆類に豊富に含まれ、熱中症の症状を緩和する働きがあります。また、暑さによる疲労を和らげ、食事から摂取した糖質を体内で燃やしてエネルギーを効率的につくります。
<おすすめの食材・摂取方法>
豚肉を入れた夏野菜カレー。豚肉とトマト、きゅうり、かぼちゃなどの夏野菜を使うことでビタミンB群とビタミンCを一度に摂取でき、熱中症対策にぴったりです。暑くて食欲が落ちている時には、野菜たっぷりの豚の冷しゃぶなどを、さっぱりいただくのもおすすめです。

熱中症の症状を緩和する「ビタミンB1」を摂取するのにおすすめの食べ物である、豚肉を入れた夏野菜カレーのイメージ画像

⑤筋肉を動かす「カルシウム」
軟水の地域に暮らす日本人にとっては、常に不足気味といわれています。筋肉を動かすのに必要で、汗で失われやすい栄養素でもあるので、熱中症リスクが高まってきたら積極的に摂るようにしましょう。
<おすすめの食材・摂取方法>
カルシウムは、牛乳や乳製品(ヨーグルトやチーズ)、小魚、ひじき、大豆製品に多く含まれています。カルシウムの吸収を助けるビタミンD(サーモンやイワシなどの青魚、卵、きのこなど)や、マグネシウム(ひじき、ごま、大豆、納豆、乾燥わかめ、こんぶ、煮干しなど)を多く含む食材と一緒なら、より効果的に摂取できます。

夏は食事からの水分補給も意識しよう

気温や湿度が高くなる夏は、エネルギーをたくさん使います。そんな夏だからこそ、水を飲むだけではなく、食事からの水分補給も大切です。例えば2000kcalの食事の場合、その水分量は約1Lといわれるなど、意外と食事から摂れる水分量は多いとされています。普段から水分が摂りやすい食事を心がけることは、熱中症対策にもつながります。

●朝食は抜かない
1日の始まりとなる朝食は抜かないようにしましょう。特に夏の朝食には、「水分補給」「消化器の活動を促して自律神経を活性化する」「暑い環境で活動するための体力を補う」という3つの役割があります。朝ごはんが食べられなかった時はいつもより500mLほど多く水分を摂るようにし、一緒に塩分を摂ることも忘れないようにしましょう。また、筋肉をつくるのに役立つロイシンは即効性があるので、熱中症リスクが高まってきたら摂取するのが効果的です。

朝食を食べる親子のイメージ画像

●汁物で水分と栄養分を効率よく摂取
暑熱順化を始める晩冬から春なら、鍋料理がよいでしょう。鍋は野菜のミネラルを摂りやすく、体も温まります。暑くなってきたら、みそ汁やスープに野菜や豚肉などを入れながら、水分と栄養素をしっかり摂りましょう。

●日本人が特に不足しがちなのは、カリウムやマグネシウム
しょうゆやみそなどを使う和食を主食とする日本人は、ナトリウムは十分に摂取できている人が多いのですが、カリウムやマグネシウムは不足気味。これらの栄養素は、旬の野菜や果物に含まれていることが多いので、消費エネルギーや代謝が高まる夏は、朝食で旬の野菜や果物を食べて、カリウムやマグネシウムを補って1日のスタートを切りましょう。

●冷たい物の食べ過ぎ・飲み過ぎは食欲低下の原因に
暑くなってくると、つい冷たい物を食べたり飲んだりしてしまいがちですが、冷たい物の摂り過ぎは消化器の働きを低下させ、食欲が落ちたり、栄養が十分に摂取できなくなったりすることにつながります。さっぱりとしたそうめんや冷や麦を食べる機会も増えますが、それだけでは栄養やエネルギーが不足することに。食事の見直しが難しい場合は、栄養補助食品やドリンク剤も活用して、不足しがちな栄養を補うとよいでしょう。

もし、熱中症になってしまったら? 覚えておきたい対策3選!

①タンパク質の摂取は避ける
熱中症にならないためにはタンパク質の摂取が重要ですが、タンパク質には体温を上げる作用があります。そのため、体温の上昇、めまい、激しい汗、頭痛など、熱中症を疑う症状が出た場合は、体温をさらに上昇させてしまうタンパク質の摂取は避けましょう。

②アミノ酸入りのスポーツドリンクや牛乳は避ける
アミノ酸入りのスポーツドリンクは、運動の前後に飲めば疲労回復効果が期待できます。ただし、体温を上げる働きもあるため、熱中症で体温が上昇している時に飲むのは控えましょう。また牛乳にもアミノ酸が含まれているので、熱中症の症状がある際には注意が必要です。

③すぐに経口補水液を飲む
症状が出たら、汗で失われた電解質と水分をたっぷり摂る必要があるため、水、ナトリウム、カリウムを適正濃度で摂取できる経口補水液を飲みましょう。成人の場合、経口補水液を摂取する目安は、1~2L。まずは500mLを急いで摂取することで脱水状態を緩和し、残りをゆっくりと飲みます。
経口補水液を1L飲んでも症状が改善しない、または悪化している場合、ペットボトルのふたを自力で開けて飲めない場合は、迷わずに病院を受診してください。

水分補給の常識、それってウソ? ホント?

最近は熱中症が多くの関心を集めているからこそ、間違った情報が常識として広まってしまうこともあります。改めて正しい情報をインプットし、今年の夏の熱中症対策に取り入れてください。

Q:経口補水液とスポーツドリンクは同じ物?
A:成分や吸収スピードに違いがあります

経口補水液は水、塩分、ブドウ糖、ミネラルが含まれ、アミノ酸やタンパク質、脂肪、ビタミンなどは含まれません。また塩分とブドウ糖濃度の比率も一定の範囲内に定められています。
一方スポーツドリンクは、水や塩分、電解質を効率よく補給できる機能性飲料で、含まれる栄養素や期待できる効果は商品によって異なります。また体内に吸収されるスピードも、経口補水液のほうが体への吸収が速いので、熱中症が疑われる場合は経口補水液を飲むようにしましょう。もし経口補水液が手元にない時の緊急対応としてスポーツドリンクを飲むのは問題ありません。

Q:水分補給にはスポーツドリンクがよい?
A:日常的な水分補給に飲むのは注意が必要です

電解質や糖質を多く含むので、スポーツなどで大量の汗をかいた時に、エネルギーや電解質、栄養素を補うという意味での水分補給には適しています。ただし、日常的な水分補給に用いると糖分や塩分の摂り過ぎになるので注意が必要です。

運動後に水分補給をする男性のイメージ画像

Q:カフェイン入りの飲み物は水分補給に向いていない?
A:飲み慣れている人は問題ありませんが熱中症の時は避けましょう

コーヒーや緑茶に含まれるカフェインには利尿作用があるものの、飲み慣れている人であれば利尿作用は出にくいので、日常的な水分補給には問題ありません。ただし、カフェインは血管を拡張し体温を上げるので、熱中症で体温が上昇している時は避けましょう。
カフェインに慣れていない人や控えたい人には、ノンカフェインのお茶がおすすめです。麦茶は水分と共にミネラルも摂取でき、ハーブティーには自律神経を整える物もあります。好みに合う物を選んで日常生活に取り入れるとよいでしょう。

Q:日常的な水分補給も冷たい飲み物がよい?
A:冷たくても温かくても、大切なのは飲みやすさです

日常的な水分補給で大切なのは、自分にとって飲みやすく、適切な量を飲めるということ。冷たくても温かくても、飲みやすい温度の飲み物であればOKです。ただし、熱中症で体温が上昇している時は、それ以上体温が上がるのを避けるためにも、温かい物ではなく冷たい物が適しています。

Q:水分補給ゼリーは病気の人や飲み込む力が弱いシニア向けの物?
A:誰にでもおすすめできる物です

持ち運びやすく少しずつゆっくりと口にできるので、健康な人や若い人の水分補給にも有効です。
シャーベット状の「アイススラリー」も、体に浸透しやすく、深部体温を効率よく冷やせるのに加えて、糖質や塩分、ビタミンなどの補給も手軽に行えるため、スポーツシーンだけでなく熱中症対策におすすめです。手でもんでから飲むことで、手のひらを冷却できるのも熱中症対策になります。ただし、アイススラリーは冷たいので、飲み過ぎは体の負担になることもあります。
※アイススラリーについてはコラム「『アイススラリー』が熱中症対策になぜいいの? スポーツ界も注目の、最新の対策を取り入れよう」もご覧ください。

まずは食から、熱中症対策を始めてみませんか?

暑い時期が長くなり、熱中症対策への重要度が年々高まってきています。だからこそ夏だけではなく、1年を通じて対策に取り組むことが大切です。身近な食事に熱中症対策を取り入れることで、無理なく熱中症にならない体づくりをしていきましょう。


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日本赤十字社医療センター 看護師長 ソルステインソン みさえ 先生

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