子どもが発熱をすると、熱の高さだけで慌ててしまいがち。しかし熱を取り込みやすい子どもは、温度が高い場所にいたり、興奮したりするだけで熱が上がることもあります。突然の発熱にも落ち着いて対応するための基礎知識として、発熱のしくみと、発熱したときの対処法、受診の目安について紹介します。
※この記事は2011年12月のものです。
1987年東京医科大学大学院博士課程修了。医学博士。国立小児病院麻酔集中治療科、米国ピッツバーグ小児病院/ピッツバーグ大学麻酔集中治療科、東京医科大学附属病院小児科を経て、現職。日本小児救急医学会理事、日本周産期・新生児医学会評議員、日本未熟児新生児学会評議員。
体温には、深部温と皮膚温があります。深部温は大人も子どもも38℃前後。深部温は様々な組織や皮膚の細胞を通り、皮膚の表面では低くなります。子どもは皮膚が薄いため皮膚温は37℃前後。皮膚が厚くなるに従って皮膚温は低くなり、大人になると36.5℃くらいになります。また子どもは体温が上がりやすいのが特徴です。
子どもは体重の割に体の表面積が大きいため、暑い環境では熱を取り込みやすい傾向があります。また汗腺が未発達で小さく、汗をかけない代わりに、皮膚から熱を放散して体温調整を行います。そのため温度の高い場所にいたり、衣服を着せ過ぎたり、興奮したりするだけでも熱が上がることがあります。
体温は普段、脳の体温調節中枢によって一定に保たれています。しかしウイルスや細菌などが体内に入り込むと、体は次の流れで発熱を起こします。
1.異物を攻撃……血液中の白血球がウイルスや細菌を攻撃。同時に白血球が、細胞間の情報伝達物質サイトカインを産生。
2.体温調節中枢を刺激……サイトカインが脳の体温調節中枢を刺激することで、体全体に、体温を上げる指令が伝わる。
3.体温が上昇……血管が収縮して汗腺が閉じ(鳥肌)、筋肉を震わせて(震え)体温が上昇。
そして体温を上げることで、次のようにして体を守ります。
このように発熱は、体を守るために起こる生体防御反応。発熱自体は悪いものではありません。通常かぜの発熱は3日ほどで治まり、かぜの症状も1週間くらいでよくなります。
3歳くらいまでの子どもは免疫力が弱く、かぜや発熱を繰り返します。また子どもはウイルスを排除する力も弱いため、かぜをひくと中耳炎、気管支炎などの合併症を引き起こしやすくなります。3歳くらいまでの発熱は特に注意が必要です。
ウイルスや細菌が体内に入り込むと、白血球が攻撃し、同時にサイトカインを産生。サイトカインが脳の体温調節中枢を刺激すると、中枢から体温を上げる指令が各所に送られる。
発熱時に慌てないために最も大切なことは、熱の高さだけで重症と判断しない、ということです。体温には個人差があり、1日の中でも変動があります。熱があるから病気なのではなく、具合が悪そうだから熱を測る、というのが正しい認識です。高熱だけに驚かず、次のことを守って体温を測定しましょう。
子どもを小さい頃からよく知っていて、相談できるかかりつけ医師や、かかりつけ薬局をもつことも、いざというときに慌てないためには大切です。
発熱は、体を守るための防御機能が正しく働いている証拠。そのため無理に熱を下げる必要はありません。かぜの症状による発熱は、3日ほどで治まります。大切なのは、体が自然に治してくれるまでの3日間を、いかに体への負担を少なく過ごすかです。これが子どもの自然治癒力を高めることにつながります。
発熱時におでこを冷やすことがありますが、これは発熱している間を気持ちよく過ごすための対症療法の1つ。解熱効果はそれほどありませんが、冷やすことで気持ちがよく、リラックスできる場合に行います。本人が嫌がる場合は無理に冷やす必要はありません。
次のことを目安に、過ごしやすい環境をつくってください。
発熱だけで、一晩で重い脱水症状になることはまずありませんし、普段の半分くらい水分を摂れていれば問題はありません。こまめに少しずつ飲ませるようにします。嘔吐のある場合、無理に水分を摂ると、胃を刺激して嘔吐を促すことになり、逆効果に。嘔吐が治まるまで待ちましょう。
また食欲がなくなると糖分の摂取量が自然と減るため、元気もなくなります。発汗することで塩分も失われるので、水分だけでなく糖分と塩分も摂ることが大切です。子ども用のスポーツドリンクや果汁ドリンクなどを摂るとよいでしょう。
発熱時の受診の目安は熱の高さだけではなく、年齢、症状、機嫌がよいか、元気があるかです。そのため、子どもの様子をよく観察することが大切です。
3~4カ月児までの場合、38度以上の熱が出たら夜間でも急いで受診をしましょう。5カ月児以上で38度以上の熱があっても、鼻水、咳などの症状がない場合は、自宅で様子を見ます。それでも3日以上熱が続く場合は、かぜ以外の病気が考えられるため受診が必要です。
逆に熱がなくても次のような症状がある場合には、かぜ以外の病気が考えられます。治療を考え、診療時間内に受診をしましょう。
また熱やかぜの症状がなくても、機嫌が悪く、一人で遊べずに泣く、何度もぐずって起きる、などの様子が見られる場合も、何らかの病気が考えられるので受診しましょう。ぐったりしていたり、息苦しそうな場合は、夜間でもすぐに受診が必要です。
受診の際には、どのような症状がいつから出て、どのように変化したのか、どんな薬を使用したのか、などの経過を整理して医師に伝えましょう。事前にメモをとっておくとよいでしょう。
熱を無理に下げる必要はありませんが、高熱でぐったりして食欲もない状態が続くと、ウイルスや細菌と闘う体力がなくなってしまいます。
発熱経験がある1歳以上の子どもで、夜間や休日などに家で様子を見る場合、高熱でつらそうなときには、症状を和らげるために解熱鎮痛剤を使用するとよいでしょう。投薬後、熱が下がり機嫌がよくなったら、体力をつけるため食事を摂らせます。1歳未満は症状の原因を特定しにくいため、解熱鎮痛剤の使用は必要最低限にします。