声は見た目と同じくらいその人の印象を左右する大きな要素です。年齢と共に落ち着きのある声になるのは自然なことですが、かすれ声や弱々しい声といった「老け声」になるのは避けたいもの。生き生きとしたハリのある声を保つケアを実践しましょう。
ボイスクリニックなど声に特化した外来で、のどの病気や声にまつわる疾患、悩みについての治療、指導を行う。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・耳鼻咽喉科専門研修指導医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医、日本気管食道科学会認定気管食道科専門医。共著に『誤嚥性肺炎を自力で撃退するNo.1療法』(マキノ出版)。
私たちが声を出す時は、喉頭(こうとう)にある声帯を使っています。声帯は、弦楽器の「弦」のようなものです。加齢によって、声帯には次の3つの変化が起こります。(下図・声帯の構造も参照)。
①声帯表面の潤いの低下
②声帯筋(ボディ)の萎縮
③声帯粘膜層(カバー)の弾性の低下
肌は加齢と共に乾燥してハリを失いますが、同じ変化が声帯にも起こります。ピチピチしていた声帯がシワシワになっていくのをイメージするとよいでしょう。そのため、程度の差はあれ誰でも声が低くなったり、ハリがなくなったりするのです。
女性は更年期以降、声の老化が顕著になります。女性ホルモンの分泌量が減ると声帯がむくんで太くなり、音域が下がります。男性の場合はホルモンの影響はあまりなく、加齢と共に声帯が萎縮して硬くなり、少し高く、力のない声になる傾向があります。
声は重要なコミュニケーション手段であると同時に、その人の印象や年齢を判断する基準となるものです。実年齢より上の印象をもたれてしまう「老け声」にならないためにも、声帯のトレーニングやセルフケアを実践していきましょう。
声は、のどの奥にある声帯が肺からの空気で振動して出る。声帯がしっかり閉じているときれいに振動し、ハリのある声になるが、声帯が老化してしっかり閉じられなくなると、きれいに振動せず、声が低くなったり、ハリがなくなったりする。
声が老化すると下記のチェックリストのように、声や発声に影響が現れる他、力が入りにくくなる場合もあります。私たちが踏ん張ったり、全身に力を入れたりする時は、声帯筋がギュッと締まり、腹筋など全身の筋肉も連動します。そのため、声帯筋が衰えてしっかり閉じなくなると、声帯から空気が漏れて全身に力が入りにくくなってしまうのです。瓶の蓋が開けにくくなったり、トイレでいきめなくなったりするのも声帯の衰えが関係している場合があります。
□ 昔と同じキーで歌えなくなった
□ 人から「声が変わった」と言われた
□ 滑舌が悪くなった
□ 少ししゃべっただけで話し疲れる
□ 声がガラガラしたり、かすれたりする
□ 「あー」と声を出して、一息で女性は15秒以上、男性は20秒以上続かない
→2つ以上当てはまる人は要注意!
次のような人は老け声になりやすいので注意が必要です。
最近はメールやSNSで情報をやり取りすることが増えているため、声を使ったコミュニケーションが減少しています。このため、若い人を中心に声帯筋の衰えが見られます。まれなケースですが、中には「音声衰弱症」という病名がつくくらい声がかすれて出なくなってしまう人も。これは20代なのに70代くらいの筋力低下が声帯に起きている状態といえます。
声帯は気管の入り口にあるため、しっかり閉じられずにすき間ができると、異物が気管に入る危険が生じます。唾液や食べ物、飲み物が気管を通じて肺に入ってしまうと、細菌が繁殖し、「誤嚥性肺炎」を起こすことがあります。高齢者は特に注意が必要です。
また、認知症のリスクを高めることも考えられます。声が出にくいと話さなくなり、さらに声が出にくくなるという悪循環を招き、コミュニケーションが減ることで、認知機能が低下しやすくなるためです。将来のこうしたリスクを避けるためにも声のケアが大切です。
高齢者はのどに詰まった感覚や、それを吐き出す反応も鈍いため誤嚥を起こしやすい。
声帯をしっかり閉じられるようにするには、声帯筋と声帯周囲の首の筋肉を鍛えましょう。
おすすめは「息こらえエクササイズ」。これは、体に力を入れる時は声帯がギュッと締まるという体の仕組みに基づいて考案したものです。声を出さないので場所を選ばず、いつでも手軽にできます。まずは1カ月続けてみましょう。ただし、自分の体力に合わせて無理のない範囲で行うようにしてください。
効果には個人差がありますが、このエクササイズを行うと息漏れがなくなり、かすれ声が改善、声帯がよく振動するハリのある声が出せるようになります。さらに、Q4で述べた声の老化による誤嚥などの予防にもなり、副次的効果としてあごのたるみの改善も期待できます。
①胸の前で手を組み、大きく息を吸う。
②両手を左右に引っ張り、5秒間息をこらえる。
※重い物を持ち上げた時に息をこらえるイメージで。
※5秒がつらければ3秒でもOK。
→10回をワンセットとし、朝昼晩計3セット行う。
※高血圧の人、立ちくらみを起こしやすい人は無理をしないこと。
Q3で挙げたような声の老化を進めてしまう生活習慣を改善すると共に、次のようなことを心がけるとよいでしょう。
外国人の声は大きいと感じることはありませんか?
英語などの場合、空気を強く吐いて発音する必要があるため、お腹から声を出す腹式呼吸のような発声方法が自然にできているといわれます。一方、日本語は口先だけでも発声できるため、声が小さい人や声が通らない人が多いそうです。声帯のエクササイズとして、英会話を始めるのも一案です。