コロナ禍で、マスクを着用する生活がもう2年半以上も続いています。長期間のマスク着用が引き起こす「頭痛」や「肌荒れ」「口呼吸」など、各分野で様々な研究が進んでいますが、「マスクドライアイ」もその一つです。近年、注目され始めた、マスクがドライアイに影響するメカニズムと、マスクドライアイの対処法と予防法を紹介します。
(インタビューは2022年5月16日に行い、内容はその時の状況に基づいています。)
筑波大学医学専門学群卒業。東京慈恵会医科大学眼科、慶應義塾大学眼科学教室専修医、東京歯科大学眼科を経て、1994年米国ハーバード大学・眼研究所留学。97年南青山アイクリニック院長となる。99年慶應義塾大学医学博士に。2002年南青山アイクリニック理事長に就任。04年慶應義塾大学眼科学教室講師。専門分野は屈折矯正手術(近視・乱視・遠視手術)およびドライアイ。
2020年1月に、国内で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されて以降、老若男女問わず外出時にマスクを着ける生活が続いています。そんな中、マスクが原因でドライアイになる人が増えていることが、徐々に明らかになってきました。
「マスクドライアイ」とは、口から吐き出された息がマスクの間から漏れ、目の表面に空気が当たり、目の乾燥につながることです。眼科医らでつくる「現代人の角膜ケア研究室」のグループが2022年に行ったマスクドライアイ可視化実験では、マスク未着用時は口からそのまま流れ出ていた呼気が、マスクの着用によって上部のすき間から漏れ、肌を伝って目にかかることが確認されました。
また、「マスク装用が眼表面に与える影響についての検討」(※)の研究では、マスク着用時は未着用時に比べてBUT (涙液層破壊時間)が短くなることが分かりました。BUTとはドライアイ診断の指標の一つで、目を開けてまばたきをしない状態で涙の層が壊れるまでに要する時間のことです。
「眼科専門クリニックでも、コロナ禍のマスク着用を機にドライアイになる人は増える傾向にあります」と、眼科医の戸田郁子先生も指摘します。
※「マスク装用が眼表面に与える影響についての検討」糸川 貴之、岡島 行伸、岩下 紘子、鈴木 崇、堀 裕一より、角膜カンファランス2022にて発表
マスクの着用がなぜドライアイを引き起こすのか。「マスクドライアイ」のメカニズムは以下の通りです。
①呼気がマスクの上部から漏れる
②空気が目に向かって流れる
③マスクから流れた空気(風)が目の水分を奪う
④結果的に目が乾燥しやすくなる
特に、顔にぴったりとフィットしていないマスクを着けていると、鼻の部分に隙間ができます。吐き出された息は上方向に流れますから、目に空気が当たることで水分(涙)が蒸発して、目が乾燥するというわけです。
これまでドライアイの症状がなかった人も、マスクの使用によって、マスクドライアイを発症する人が国内外で増えています。また、もともとドライアイだった人は、マスク着用が原因で症状が悪化することがありますから、特に注意が必要です。
まずは、自分がマスクドライアイかどうか、セルフチェックをしてみましょう。
<ドライアイのセルフチェック1>
10秒以上、まばたきをせずに目をずっと開けていられますか?
セルフチェックでは目を大きく見開く必要はありません。
いつも通りの目の開き方でチェックしてみましょう。
10秒以上開けていられた→ドライアイの可能性は低い
10秒以上開けられなかった→ドライアイの可能性がある。
<ドライアイのセルフチェック2>
以下の13の症状のうち、当てはまるものをチェックしてみましょう。
□目がかわく
□目が疲れる
□目が痛い
□目が重い感じがする
□充血しやすい
□まぶたが痙攣(けいれん)する
□風に当たると涙が出る
□目がゴロゴロする
□光を見るとまぶしい
□物がかすんで見える
□目やにが出やすい
□いつも涙目でしょぼしょぼする
□コンタクトレンズを入れる時に目が痛い
チェックが入った項目が多いほど、ドライアイの可能性は高くなります。
特に「目がかわく」、「目が疲れる」、「目がゴロゴロする」に当てはまる人は、ドライアイの可能性があります。
※このチェックは簡易的なもので、正確な診断を行うものではありません。また、これらの症状はドライアイ以外の病気の可能性もあります。1つでも症状が続く場合は、眼科の受診をおすすめします。
マスクドライアイを予防する方法や、ドライアイの改善や進行を防ぐために有効なセルフケアをご紹介します。
マスクドライアイを予防するポイントは、マスクの着け方にあります。
まずは、必ず自分の顔の大きさに合ったサイズのマスクを選ぶことが基本です。次に、市販されているほとんどのマスクについている機能「ノーズブリッジ」を正しく利用して、鼻の形に合わせて整えます。この時、ノーズブリッジをしっかり山折りにして、隙間ができないように鼻にぴったりフィットさせることがポイントです。
最近は、呼気が隙間から漏れにくい高密着の立体型マスクなどもたくさん出ていますので、より自分の顔にフィットするマスクを見つけてみるのも一案です。
鼻のほうに抜ける呼気をしっかりブロックできれば、目の乾燥はかなり防ぐことができます。
マスクを着用する機会の多いオフィスなどで過ごすオンタイムと、帰宅後にできるオフタイムのセルフケアについて、それぞれ有効な対処法をご紹介します。
<オンタイム>
コンタクトレンズを着けていると、涙をどんどん吸い上げてしまい、涙の層が崩れて目が乾燥してしまいます。ドライアイの症状がある人は、できる限りメガネの使用をおすすめします。マスクをしながらメガネをするとレンズが曇りやすくなりますが、ノーズブリッジを活用して、呼気が抜ける隙間を作らないことで軽減できます。
仕事などでメガネの使用が難しい場合も、帰宅後はすぐに外すなど、コンタクトレンズの使用時間をなるべく短くするように心がけましょう。
<パームアイのやり方>
「パーム」とは手のひらのこと。手のひらをこすって温めてから両目を閉じ、まぶたを隠すようにふんわりと手のひらで軽く覆い、まぶたを圧迫せずに空間を作って空気で温めます。目が充血していたり、熱っぽく感じたりする時は、手を軽く冷やしてから行ってもOKです。ただし、くれぐれも眼球は押さないように注意しましょう。
涙に近い成分の目薬「人工涙液」は、目の表面の涙の量を増加させて潤してくれます。目のかわきが気になる人は、用法用量を守って目薬を上手に使いましょう。
<オフタイム>
帰宅後のリラックスタイムには、ホットタオルやホットアイマスクなどで目を温めることが有効です。ストレスもドライアイを引き起こす原因になるため、リラックスできる時間を意識的に設けることも目のケアにつながります。
以前より、なんとなく目の乾燥を感じていたという方も多いのではないでしょうか。マスクドライアイはマスクの選び方や着け方の工夫である程度は予防、改善できます。深刻なドライアイになる前に、セルフケアも上手に取り入れて、マスクドライアイを防ぎ大切な目を守りましょう。