打撲・捻挫(ねんざ)

打撲・捻挫

「打撲=打ち身」は、人や物にぶつかったり転倒したりして起こる、皮膚には傷口がないものの、皮下組織や筋肉などが損傷するけがのことです。多くの場合、病院で治療を受けなくても自然に治りますが、打撲だけでなく骨折しているケースもあるので慎重に見極めることが重要です。 一方「ねんざ」は、関節部分の損傷です。本来、関節には一定の運動範囲がありますが、その範囲を越える無理な力が加わって曲げられたり伸ばされたりした結果、関節を構成する「関節包(かんせつほう)」や「靭帯(じんたい)」、「滑膜(かつまく)」がねじれ、部分的に切れてしまった状態のことです。足、手、肩、膝関節など、全身のあらゆる関節で起こります。

監修プロフィール
芝大門 いまづクリニック院長 いまづ・よしひろ 今津嘉宏先生

1988年藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室助手、同大学医学部漢方医学センター助教、WHO intern、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、首都大学東京非常勤講師などを経験。2013年芝大門 いまづクリニック開設。北里大学薬学部非常勤教員。著書に『風邪予防、虚弱体質改善から始める 最強の免疫力』(ワニブックス)など。

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打撲(だぼく)・ねんざの原因

打撲・ねんざの原因は、運動時はもちろん日常生活にも潜む

打撲やねんざはスポーツの時だけでなく、転倒など、日常生活の何気ない動作がきっかけで起こることがあります。

子どもは体のバランスが悪いため、転んで打撲やねんざなどのけがをよく起こします。大人の場合は、普段あまり運動をしていないのに急に走るなど、日頃使わない筋肉や関節に大きな負荷がかかると、ねんざなどを引き起こしてしまいます。打撲やねんざが起こりやすいのは、以下のような動作時です。

  • 打撲・ねんざの原因①:スポーツ
     〈打撲〉転倒して地面に体を打ち付ける、他の選手と激しくぶつかる、ボールなど競技の道具が体にぶつかる等。
     〈ねんざ〉転倒、走っている最中の急な方向転換、ジャンプ着地、柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツでタックルを受ける等。
  • 打撲・ねんざの原因②:日常生活
     〈打撲〉転倒、家具にぶつかる、つまずく、転落、子どものふざけ合いやけんか等。
     〈ねんざ〉転倒、段差の上り下りでの足の踏み外し、転落、ぎっくり腰(=腰椎のねんざ)等。
  • 打撲・ねんざの原因③:事故
     〈打撲〉交通事故、建物倒壊の下敷きになる等。
     〈ねんざ〉交通事故によるむちうち(=頸椎のねんざ)等。
打撲・捻挫と部位

打撲(だぼく)・ねんざの症状

打撲は痛み、腫れ、青アザなどができる。骨折が起こることも

打撲は体の一部を打ったために筋肉などが損傷するけがで、症状は痛み、腫れ、青アザなどが現れます。筋肉などの内部には直径1mm以下の血管が至るところに走っていますから、打撲が起こると血管が切れて内出血し、青アザができます。軽い打撲の場合、出血は周囲に散らばって、一定期間の後、自然に吸収されて痕は残りません。しかし、強打すると筋肉内で一定程度出血して「血腫」ができ、腫れや強い痛みが起こります。

注意が必要なのが打撲だけでなく骨折を伴っているケースです。胸を強く打った場合、深呼吸してみて胸が痛む時は肋骨骨折が疑われます。また、手足の打撲で骨折した場合は、骨が変形していたり、関節が普段は動かない方向に曲がったりします。

打撲の状態

ねんざは、ひねった瞬間に強い痛みが出る。足首やひざは、靱帯断裂にも注意

ねんざは関節をひねって起こるケースがほとんどです。もっとも多いのが足首のねんざで、続いてひざ、手の指(つき指)によく起こります。靭帯をどのくらい損傷したかによって、症状はかなり違ってきます。

  • 足首のねんざ

足首をひねった瞬間、強い痛みがあり腫れてくる。靭帯のごく一部分を損傷した場合は症状も軽く、自分で足首を動かしても痛みはなく、患部を指で押すと痛む部分がある程度。損傷が大きくなると足首をどの方向に動かしても痛み、腫れが大きく内出血を起こすことも。足首がグラグラと不安定な場合は、完全な靭帯の断裂が疑われる。症状が強い場合は、足首の骨折も考えられる。

足首のねんざ
  • ひざのねんざ

ひざには前後の動きの安定性を保つ「前十字靭帯」と「後十字靭帯」、横の動きの安定性を保つ「内側側副(そくふく)靭帯」と「外側側副靭帯」などがあり、必要以上に伸ばされるとねんざし、ひどい時は断裂する。中でも、内側側副靭帯と前十字靭帯はスポーツで損傷しやすい。内側側副靭帯を損傷すると、激しい痛みと強い腫れが起こり、歩行も困難になる。前十字靭帯は損傷した瞬間、「ボキッ」という断裂音がすることが多く、痛みと腫れが起こる。

右ひざを正面から見たところ

打撲(だぼく)・ねんざの対策

打撲・ねんざの応急処置は、「RICE(ライス)」療法で

打撲・ねんざを起こした場合、ただちに次に紹介する「RICE(ライス)療法」を行ってください。

  • R (REST=安静)
     患部を動かさないで安静にして休む。足には松葉杖を使う、腕は三角巾で吊るなど体重をかけないこと。
  • I (ICE=冷却)
     炎症を抑え、痛みをとるため、患部を中心に広めの範囲で、氷のうやバケツに入れた氷水などで冷やす。冷却スプレー、冷感パックも効果的。
  • C (COMPRESSION=圧迫)
     内出血や腫れを防ぐため、スポンジや弾力包帯、テーピングで患部を圧迫して固定する。
  • E (EREVATION=高挙)
     患部を心臓より高い位置に保つことで、内出血や腫れを防ぐ。
RICE療法

冷却は応急処置だけでなく、処置後も断続的に続けます。1回につき15~30分くらい、しびれて感覚がなくなった頃に冷やすのをいったんやめる治療を繰り返します。 ただし、子どもや高齢者、糖尿病の人などは血液循環が悪いため、長時間冷やすと凍傷を起こす危険がありますから、1回につき10分くらいにとどめてください。


打撲・ねんざで病院を受診した方がよいケース

打撲やねんざの程度によりますが、手足の軽い打撲・ねんざ以外は念のため病院で診察を受けるようにしましょう。特に、次のような症状がある場合は受診が必要です。

  • 打撲・ねんざで、骨折や脱臼、靱帯断裂が疑われる場合

手足を打撲した時、骨が「く」の字に曲がったり、変形を起こしたり、普段なら動かない方向に骨が動いたりする場合などは骨折が疑われる。また、ねんざで強い痛みと腫れがある場合は、脱臼、靱帯断裂の可能性があるので受診すること。

打撲・ねんざで、骨折や脱臼、靱帯断裂が疑われる場合1

打撲・ねんざで、1週間痛みや血腫が引かない場合打撲や軽いねんざの場合は、市販薬を使って1週間ほどすると通常は改善が見られる。1週間くらい使用しても痛みや腫れ、血腫が引かず、よくなる傾向が見られない場合や原因不明の痛みが続く場合は、他の病気の可能性もあるので受診を。

打撲・ねんざで、骨折や脱臼、靱帯断裂が疑われる場合2
  • 頭部や顔の打撲

頭部を打撲した時、意識障害があれば、「大丈夫ですか?」「もしもし」と肩を叩いて呼びかけ、反応を見る。打撲直後は一見、正常に見えるのに、10~20分から数時間のうちに意識障害や手足の運動麻痺が起こる場合、「頭蓋内血腫」が疑われる。意識障害がない場合は患部を冷やし、消化のよい物を食べさせ、ゆっくり寝かせて様子を見る。ただし、夜中、少しでも頭痛や吐き気を訴えたら、すぐに病院に行く必要がある。顔面を打撲した場合、鼻筋が曲がったら「鼻骨骨折」、ものが二重に見えるのは「眼窩の骨折」、片方の頬が平坦なら「頬骨骨折」などが疑われる。

  • 胸やお腹の打撲

胸を打撲した時、深呼吸をさせたり、胸部を前後方向に圧迫したりすると強い疼痛を訴える場合は、「胸部骨折」などが疑われる。お腹を打撲した時、持続性の激烈な腹痛が起こって腹部全体に広がる場合、肝臓や腎臓、脾臓の損傷や消化管の破裂が疑われる。打撲後、短時間で腹部が膨張してきたら、腹腔内の出血が考えられる。

  • 腰の打撲

腰部を打撲した時、下肢の方へ神経痛が走ったり、下肢を自分の意思で動かせなかったりする場合、脊柱が圧迫骨折を起こして、脊髄(背骨の中を縦に通っている神経の束)が傷ついている危険がある。


市販の外用薬でセルフケアする場合、急性期はまず冷やし、回復期に温める

打撲や軽いねんざには、貼り薬や塗り薬などの外用鎮痛消炎剤が有効です。外用薬での治療効果を高めるために、急性期には患部を積極的に冷やし、回復に向かう時期には血行を促すケアを併用するとよいでしょう。

急性の痛みや腫れは患部を冷やすことで毛細血管が収縮し、炎症を起こした組織からの出血を抑えて腫れを防止します。氷を患部に直接当てたり、冷やし過ぎたりすると凍傷を起こすので注意してください。外用薬を患部に使用した上に、さらにアイシングを行うこともできます。急性期に患部を温めると炎症が広がり、痛みが増すことがあるので十分注意を。急性期の症状が落ち着き回復に向かう時期(目安としてはねんざ後4日目以降)は血行を促すケアに切り替えると、新陳代謝を活発にし、回復を早めます。湿布薬には、冷感タイプと温感タイプがあります。

  • 急性期のケア
打撲・ねんざ 急性期のケア
  • 回復期のケア
打撲・ねんざ 回復期のケア

打撲(だぼく)・ねんざの予防法

運動前後はストレッチを習慣にしよう

打撲やねんざの予防のためにも、運動をする時は、運動前後のストレッチを習慣にすることが大切です。ストレッチの効果は、

  • 柔軟性を高めて関節の動く範囲を広げる。
  • 血行を促進させ、血流速度を大きくする。
  • 靭帯や筋肉の伸縮性を高める。
  • 未発達な筋肉を補助する。
  • 関節痛や筋肉痛、炎症を予防する。
  • 運動後に行うと、筋肉痛の発痛物質が排泄され、速やかに筋肉疲労が回復する。

などです。ストレッチを行う上では、次のポイントに注意してください。

  • 反動をつけずにゆっくり行う。
  • 痛みを感じない程度にして、無理をしない。
  • 最低30秒以上行う。
  • これから使う、または使った筋肉を中心にストレッチをする。
打撲・ねんざ予防ストレッチ

お役立ちコラム

ねんざがくせになるって本当?

ねんざを起こした部分は完全に治さないと、靭帯が伸びたままの状態が続き、サポートする力が弱くなってきます。この状態でスポーツを行うと、ねんざを繰り返すことになります。つまり「ねんざがくせになる」のはきちんと治療しないために起こることです。 とくに足はバランス感覚をとる場所ですから、足のねんざの場合はバランス感覚のトレーニングや、関節をサポートする筋肉を強化する訓練が必要です。


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