子宮内膜症は子宮の内側を覆う子宮内膜とよく似た組織が、卵巣や腹膜といった子宮以外のところにでき、増殖する病気のことです。進行すると腹腔内の癒着、卵管癒着などが起こり、それをきっかけに妊娠しづらくなるケースも少なくありません。中には不妊の検査をしてはじめて、子宮内膜症だったことに気づく場合もあります。主な自覚症状としては鎮痛剤が効かないような激しい月経痛、排便痛、性交痛が挙げられます。こうした症状に心当たりがある場合は、早めに婦人科を受診しましょう。
産婦人科医・医学博士。1984年弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、東京都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年に「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院。女性のための総合医療を実現するためにNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立(現理事長)。様々な情報提供、啓発活動、政策提言などを行っている。
子宮内膜症の詳しい原因はまだ分かっていません。しかし、以下のような仮説が考えられています。
そのほか、リンパや血管によって子宮内膜が体内に運ばれることで子宮以外にもできるという説や、免疫の異常があるといった説もありますが、いずれも子宮内膜症に対する全ての疑問の解決には至っておらず、残念ながら正確な原因は解明できていません。
正確な原因は不明なものの、月経の回数が増えることが子宮内膜症の進行につながるということは分かっています。現代女性は初経の年齢が早まったことや妊娠・出産回数の減少などにより、生涯に起こる月経の回数が昔とは比較にならないほど増えています。それに伴って子宮内膜症に悩む女性も増加し、出産可能な年齢の女性のうち、7~10%にあたる人が子宮内膜症に悩んでいるともいわれています。
つまり約10人に1人は子宮内膜症を患っているということ。決して他人ごとではない病気なのです。
女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が多い20~40代の女性がかかりやすく、中でもピークは30~34歳です。しかし、10代でも月経痛が重いケースでは7割が発症していたという報告もあり、月経がある人全てにリスクがあるといえるのです。子宮内膜症は将来の不妊の原因につながるため、ピークの年齢にあたる人はもちろん、20歳前後の若いうちから定期的に婦人科検診(超音波検査)を受け、異常がないか確認しておきましょう。また検診とあわせて、月経時の経血の量や月経痛がないか、骨盤底の症状(排便痛、性交痛、頻尿、腰痛など)の変化はないかにも注意しておくことが大切です。
子宮内膜症が進行すると、強い下腹部の痛みに悩まされます。月経が来るたび、鎮痛剤が手放せない、または鎮痛剤が効かないくらいの痛みや排便痛、性交痛があるという人もいます。また月経があるうちはずっと進行していく病気ゆえ、子宮内膜症による痛みが月経のたびに強くなっていくことも。こうした症状があるにもかかわらず、それを「誰にでもある月経痛だ」と我慢してしまった結果、進行しとりかえしがつかなくなるまで子宮内膜症に気づかない人が意外に多いのです。下記に当てはまる症状のある人は、早めに婦人科で診てもらいましょう。
月経時に、腰痛、頭痛、吐き気といった症状が現れることもあれば、ほとんど自覚症状がないこともあります。子宮内膜症はできる場所によって痛みを感じる場所や痛みの度合いが違いますので、症状がなければ子宮内膜症がない、とはいえません。
その他、卵管や膀胱表面、子宮周囲の腸表面なども子宮内膜症ができやすく、これらは全てがお互いに癒着を起こして、最後には全ての臓器がひとかたまりになる凍結骨盤(フローズンペルビス)になります。
痛みの他、進むと不妊になりやすいことも子宮内膜症の特徴です。例えば卵巣チョコレートのう腫の場合、進行すると卵巣が腫れ上がって破れたり、周囲の組織と癒着したり、卵管がふさがってしまったりして、妊娠しづらくなることがあります。ダグラス窩に発症した子宮内膜症は性交痛を招き、性生活の妨げとなります。また、腹膜にできた子宮内膜症が腹腔内の全ての臓器の動きを阻害し、炎症の持続によって組織を弱くし、排卵―受精―着床の一連の機能を落としてしまうので、妊娠しづらくなるのは自明のことなのです。
さらに、子宮内膜症の慢性的な炎症が血管を脆弱化させ、心筋梗塞の頻度を上げることも最近分かってきました。
自覚症状がある場合はもちろんですが、月経が始まったら2年に1回は婦人科を受診しましょう。子宮内膜症を発症していても自覚症状がなければ、異常を察知して病院を受診することはまず難しいといえます。このような場合でも、定期検診を受けていれば病気をいち早く発見できる可能性が高くなります。月経が始まったら、2年に1回の超音波検査を習慣化させておくと、早期発見や治療につなげられるのです。
検査の結果、子宮内膜症が見つかった場合、薬を使う、もしくは手術をすることによって治療を行います。
場合によっては薬物療法と手術を組み合わせて治療することもあります。
子宮内膜症は子宮と卵巣を取り除かない限り、ずっと症状が進行する病気です。したがってその時の年齢やすぐに妊娠を望むか否かによって、選ぶ治療法が変わってきます。担当の医師とよく相談し、自分にとって適切な治療法を確認しながら選択しましょう。また、閉経まで目を離さず経過をみましょう。
子宮内膜症は月経が起こるたびに症状が進むため、月経量を減らすことが予防法となります。そこで登場するのが低用量ピルです。低用量ピルはエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが配合された薬で、これをのむことで排卵・月経を抑制できることと、プロゲステロンが効き、子宮内膜が増殖するのを防ぎます。
ピルというと避妊のイメージが強いかもしれませんが、月経痛や月経量をとても少なくし、かつ子宮内膜症のような女性特有の病気の治療薬としても使われています。乳房のはりや痛み、頭痛といった副作用はほぼなくなり、初経後の年齢から閉経までピルの服用が可能です。ピルは婦人科で処方され、ほとんどの女性にとって安全にのめる薬です。
子宮内膜症を確実に防ぐことは難しいですが、定期的に婦人科検診を受けておけば、異常に気づきやすくなり、早期発見につながります。早い段階で病気が発見できれば、ピルなどをのんで進行を遅らせることも可能です。ホルモンの影響を大きく受ける女性の体は刻々と変わります。検診を習慣化し、体の状態をチェックしておきましょう。
子宮内膜症のみならず、女性の不調や病気の多くは女性ホルモンを外しては語ることができません。またこうした女性特有の病気は、現代女性なら誰しもかかって不思議はないものですし、女性の体は女性ホルモンの変動によって大きく変わっていくため、何も症状がなくても、あるいは、何か気になる症状があった時にはすぐに相談できる、かかりつけ医を見つけておくことが最も大事な予防法です。口コミなどを参考に、かかりつけの婦人科クリニックを見つけておきましょう。
昔の女性は10代後半で最初の妊娠・出産を経験した後、閉経まで繰り返し妊娠・出産をしていたため、月経が止まっている期間が現代よりもだいぶ長かったのをご存じですか? 1930年の合計特殊出生率(一生のうちに子どもを産む平均人数)は4.7なのに対し、現在は1.4。このように現代では子どもを産む回数が減っていることから、月経が止まっている期間がほとんどなく、生涯に起こる月経の回数が大変多くなっています。一説によると昔は約50回だった生涯の月経回数が、現代は約450回と、10倍近くになっているという推測もあるほど。
こうした変化に上手に対応するためにも、かかりつけ医を見つけておき、気になることがあればすぐに相談できるようにしておきましょう。