帯状疱疹

帯状疱疹

帯状疱疹とは、水痘、いわゆる水ぼうそうの原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスが引き起こす、発疹などの皮膚症状と痛みが現れる病気です。発症した際に適切な処置をしないと、神経痛や神経麻痺などの後遺症が残ったり、髄膜炎や脳炎といった合併症を招いたりすることがあります。日本人の90%以上はこのウイルスを保有しており、どの年代でも発症しますが、特に50代から発症率が急激に上昇し、80歳までに約30%、およそ3人に1人がかかるとされています。近年は20~40代の発症が増えており、さらに、アメリカの疫学的研究では新型コロナウイルスに感染した人は帯状疱疹の発症率が高まるという報告もありました。日本では、2016年と2018年に50歳以上を対象とした予防ワクチンが承認され、接種する人が増えつつあります。

監修プロフィール
中野皮膚科クリニック院長 まつお・こおま 松尾 光馬 先生

日本皮膚科学会皮膚科専門医・医学博士。東京慈恵会医科大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学付属病院皮膚科に入局。その後、社会保険大宮総合病院皮膚科、富山医科薬科大学ウイルス学講座などを経て、2014年に中野皮膚科クリニックを開業。専門とする単純ヘルペスや帯状疱疹の研究・診療に加え、アトピー性皮膚炎の治療や一般的な皮膚疾患、皮膚外科、美容皮膚科にも対応している。

帯状疱疹について知る


帯状疱疹の原因

帯状疱疹の原因は日本人の90%以上がもっている水痘・帯状疱疹ウイルス

水ぼうそうウイルスに感染→ウイルスの潜伏→帯状疱疹の発症

水ぼうそうウイルスに感染→ウイルスの潜伏→帯状疱疹の発症

女性ホルモンと月経周期

帯状疱疹発症の仕組み
神経節に潜伏していたウイルスが神経に沿って皮膚まで移動し発症する


帯状疱疹は、水ぼうそうの原因でもある「水痘・帯状疱疹ウイルス」によって発症する病気です。日本人は5歳までに約90%の人が水ぼうそうにかかりますが、ウイルスは完治後も脊髄や三叉神経などの「神経節」と呼ばれる神経の集まった場所に潜伏し続けます。加齢や疲労、ストレス、病気などによって免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスが神経節で増殖して神経に沿って体表へと移動し、帯状疱疹を発症させるのです。


帯状疱疹の発症には免疫力の低下が関係。疲れやストレスに注意。

発症には免疫力の低下が大きくかかわります。そのため、疲れやストレスがたまっている人、膠原病や糖尿病などの病気を抱えている人、免疫の働きを抑える薬を使っている人は帯状疱疹を発症する可能性が高くなります。50代になると帯状疱疹の発症率が急上昇するのも、子どもの頃に水ぼうそうにかかってから20~30年ほど経ち、ウイルスに対する免疫力が落ちていることに加え、加齢による全般的な免疫機能の低下、上記のような病気の罹患率の上昇などが影響していると考えられます。


近年増えている、子育て世代の発症理由は

子育て世代は子どもが水ぼうそうにかかることで水痘・帯状疱疹ウイルスに曝露しますが、ほとんどの大人は免疫が備わっているため発症することはありません。むしろ抗体産生や細胞性免疫の働きが増強される、いわゆるブースター効果が得られます。しかし、2014年に水痘ワクチンは乳幼児が無料で受けられる定期接種になり、子どもが水ぼうそうにかからなくなったことで、子育て世代は、免疫を活性化させる機会を得にくくなっています。その影響からか、近年は子育て世代である20~30代の発症率が高まっています。


帯状疱疹の症状

痛みや違和感の後に現れる帯状の発疹

痛みや違和感の後に現れる帯状の発疹

帯状疱疹というと発疹のイメージがありますが、発疹が現れる前に、まず体の左右どちらか片側だけにチクチクとした痛みや違和感が数日から1週間ほど続きます。これが「前駆痛」と呼ばれるもので、ウイルスが神経節で増殖し神経を傷つけながら体表に向かって移動していることで起こります。

次に痛みのあるところに赤く小さな発疹が現れます。これは神経を通して体表までウイルスが到達し、皮膚に炎症が起こるためです。また、体表の神経に沿って発疹が帯状に広がり、強い痛みを引き起こします。発疹はその後水ぶくれとなり、水ぶくれに膿がたまった膿疱となって破れ、かさぶたを経て皮膚は快方へと向かいます。これらの皮膚症状は、おおむね2~3週間で消えていきますが、免疫が落ちているなど、人によっては長引く場合もあります。


完治の後も痛みが続く帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹が発症した時の痛みは炎症によるものですが、炎症が治まり発疹も消えた後に、傷ついた神経の痛みが長く残ることがあります。これは帯状疱疹後神経痛と呼ばれるもので、帯状疱疹の発症後3カ月以上痛みが続くものを指します。帯状疱疹の痛みがピリピリ、チクチクと表現されることが多いのに対し、帯状疱疹後神経痛の痛みは、「電気が走ったような」「刃物で刺されたような」「焼けるような」などと表現されることが多く、服が触れたり風が吹いたりしても痛むという人もいます。帯状疱疹に罹患した人のうち約15~20%が帯状疱疹後神経痛に移行しますが、特に、もともと帯状疱疹の発症率が高い女性、高齢者、帯状疱疹の初期症状が強かった人、糖尿病や慢性の呼吸器疾患に罹患している人、末梢の血流障害がある人などが移行しやすいとされています。


帯状疱疹が顔にできた時の合併症には特に注意

発疹は体のどこにでもできますが、特に多いのは胸や脇腹、目や鼻の周辺、額です。特に顔面に発症した場合は合併症に注意が必要です。

・髄膜や脳に炎症が及ぶ場合

髄膜炎や脳炎を発症することがあり、脳血管の近くに炎症が生じると脳梗塞を起こすリスクも高まります。強い頭痛がある場合は、すぐに医療機関に相談しましょう。

・目の上で発症した場合

目の上から鼻にかけての部分に症状が現れると、角膜炎やぶどう膜炎などを合併することがあり、視力が低下して回復しないケースも見られます。

・耳の周辺で発症した場合

顔面神経に炎症が生じると、めまいや難聴、耳鳴り、場合によっては顔面神経麻痺を起こし、表情をつくれなくなったり食事や会話がしにくくなったりすることがあります。これら一連の症状は「ラムゼイハント症候群」と呼ばれます。


帯状疱疹の治療

帯状疱疹は皮膚科での抗ウイルス薬での治療が基本

帯状疱疹の治療では、痛みを抑えることと皮膚症状を改善することが中心となります。皮膚科を基本に、発疹の部位や痛みの強さなどによって眼科や耳鼻科、ペインクリニックなど他の診療科を紹介されることもあります。治療は抗ウイルス薬を中心に行われますが、発症初期ほど効果が高いため、発疹が出たらできるだけ早めに治療を始めましょう。痛みを和らげるために解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンや消炎鎮痛薬であるNSAIDsなどの内服を併用し、痛みが強い場合はオピオイドの内服や局所麻酔やステロイドを注入する神経ブロックを行うことで早期に痛みをとることがすすめられます。また、皮膚症状が悪化した場合は、抗菌薬や皮膚潰瘍治療薬などの外用薬(塗り薬)を使用することもあります。


帯状疱疹とは異なる帯状疱疹後神経痛の治療

帯状疱疹後神経痛は神経が傷ついたことによる痛みのため、炎症による痛みをケアする帯状疱疹の治療とは異なります。症状に合わせて、神経に働きかけて痛みを抑える、抗うつ薬や抗てんかん薬、オピオイド鎮痛薬などが使われます。帯状疱疹の治療に使われる抗ウイルス薬は、帯状疱疹後神経痛への移行率を抑えるものではありませんが、痛む期間を短くしたり、症状を抑制したりする利点があります。


発症中に注意すべきこと

水ぶくれを潰さないように患部をガーゼで覆う


帯状疱疹の症状が出ている間は、激しい運動は避け、患部を清潔に保ち、発疹や水ぶくれを潰さないようにしましょう。症状が軽く、医療機関を受診せずに治ってしまう人もいますが、ここで注意したいのが、周囲の人にウイルス感染させてしまうリスクです。

患部の水ぶくれの中には水痘・帯状疱疹ウイルスが多く存在し、つぶして何も覆わないと周囲への感染のリスクが高まります。水ぼうそうにかかっていない人や乳幼児には注意が必要です。特に、妊婦が感染した場合、まれに胎児に影響が出ることがあります。周囲にそのような人がいる場合、「帯状疱疹かな?」と思ったら放置せずに診断を受けるようにしましょう。


帯状疱疹の予防法

50歳以上であればワクチンの接種が可能

50歳以上であればワクチンの接種が可能

50歳以上であれば、自己負担で帯状疱疹のワクチン接種が可能です。ワクチンには次の2種類がありますので、自分に合ったものを選択するとよいでしょう。

・生ワクチン
毒性を弱めた生きたウイルスを使った生ワクチンで、乳幼児に対して水痘ワクチンとして用いられているものを帯状疱疹の予防ワクチンとして用います。発症予防効果は約50%。1回の接種で済み、効果は5~8年持続するとされます。費用は1万円を少々超える程度になります。後述する不活化ワクチンよりも副反応が出にくいので副反応が気になる人にはこちらがおすすめですが、生ワクチンのため免疫不全を伴う病気に罹っている人や免疫を抑制する治療を受けている人は接種できません。

・不活化ワクチン
ウイルスの一部の成分とアジュバントを組み合わせたもので不活化ワクチンと呼ばれます。帯状疱疹の予防のために作られたもので、その予防効果は90~97%と高く、効果は10年ほど持続します。ただし、2回の接種が必要で、費用は4万円程度かかります。また、局所の痛みや発熱、倦怠感といった副反応が多く出ますが、おおむね3日以内には治まります。


免疫力を下げない生活習慣を

帯状疱疹の発症には免疫力の低下も大きく影響します。睡眠や体を動かすことが不足していたり、食事で十分な栄養が摂れていなかったりするなら、生活習慣を見直すようにしましょう。また、ストレスや疲れも免疫力を落としてしまう要因に。自分の好きなことをして、意識的に心と体をリラックスさせるのをおすすめします。


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