虫刺され

虫刺され

屋外での活動やレジャーが楽しめる季節、気持ちが弾む一方で、気になるのが虫刺されではないでしょうか。虫刺されは、屋外に限らず家の中でも、そして誰にでも起こる身近なものですが、中にはひどいかゆみや痛みが全身に現れるケースや、感染症を媒介して命の危険を伴うケースも。外に出る機会が増える季節に備えて、虫刺されの予防策や対処方法・治し方を確認しておきましょう。

監修プロフィール
若松町こころとひふのクリニック院長 ひがき・ゆうこ 檜垣 祐子 先生

1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、17年より現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。

虫刺されについて知る


虫刺されの原因

虫刺されとは、その名の通り、虫に刺されたり、かまれたりすることによって起こる皮膚病です。虫刺されの原因となる虫は、いくつかのタイプに分かれています。
①血を吸う虫
蚊、アブ、ブユ(ブヨ)、ノミ、アタマジラミ、イエダニ、マダニなど。
②かむ虫
クモ、ムカデ、アリ(ヤマアリ・アミメアリ)など。
③刺す虫
ハチ(ミツバチ・スズメバチ・キイロスズメバチ・小型スズメバチ・アシナガバチ)、アリ(オオハリアリ・クシケアリ・イエヒメアリ)。
④その他
毒針毛や毒棘をもつ蛾の幼虫(イラガなど)や、虫ではありませんがクラゲ、ヒトデなども皮膚に炎症を起こします。

虫刺されの原因となる虫。血を吸う虫(蚊、マダニなど)、かむ虫(ムカデなど)、刺す虫(ハチなど)

集団発生や感染症を引き起こす虫も

東南アジアなど海外から持ち込まれることが多いアタマジラミは、ヒトの頭髪にすみつき、頭皮から吸血してかゆみを生じさせるもので、学童保育や保育園など子どもが集まる場所で集団発生することがあります。
あまり知られていませんが、布団やほこりの中などに潜んでいる一般的なダニはヒトを刺しません。ヒトやペットなどから吸血するダニは、主に、ネズミに寄生するイエダニと山林や河原の近くに生息するマダニの2種類。特に感染症などを引き起こす危険があるマダニは、最近では都市部の公園や河川敷などでも発見されることが増えてきました。
また、ダニの一種であるヒゼンダニが皮膚の中に入り込んで起こる「疥癬(かいせん)」という皮膚病があります。これもヒトからヒトへうつる感染症なので注意が必要です。


虫刺されの症状

虫刺されの主な症状としては、痛みやかゆみ、アレルギー反応による全身症状や感染症などが挙げられます。まずは、基本的な虫刺されの症状を、その原因、症状の特徴とあわせてご紹介します。


痛みやかゆみ、腫れといった虫刺されの症状は「アレルギー反応」によるもの

痛みには、虫に刺されたりかまれたりしたことによる痛みと、皮膚に注入される物質による刺激で生じる痛みがあります。痛みの原因となる虫はハチやクモが中心ですが、イラガの幼虫も強い痛みを引き起こします。痛みとともに、皮膚の赤みや腫れを伴うこともあります。
一方かゆみの症状は、虫に刺されたりかまれたりした際に、皮膚に注入された物質が抗原(アレルゲン)となり、ヒスタミンなどかゆみの原因物質が分泌されるアレルギー反応によって生じます。かゆみの原因となる主な虫は、蚊、ノミ、ブユ、アタマジラミ、ダニなどです。


虫刺されのアレルギー症状の現れ方は2パターン

アレルギー反応による痛みやかゆみが出る場合、すぐに症状が出る「早いタイプ」と、アレルギー反応がゆっくりと起こり、刺されてから1~2日して症状が出る「遅いタイプ」があります。
「早いタイプ」は、刺されてからすぐにかゆみや腫れ、患部が赤くなるなどの症状が現れ、多くの場合数時間程度で治まります。
「遅いタイプ」は、虫に刺された翌日以降に、かゆみや腫れ、発疹、水疱などの症状が見られ、2週間以上経過しても症状が治まらない場合も。さらに悪化してしまうと全身にじんましんが出たり発熱したりしてしまいます。
例えば蚊に刺された場合、多くの人は「早いタイプ」で症状が現れ、数時間程度で治まります。一方、症状が出るのが遅く、かゆみがなかなか引かない「遅いタイプ」の場合は、アトピー体質や、強いアレルギーをもっている場合が多いといわれています。症状が気になったら、早めに皮膚科に相談しましょう。


アレルギーをもつ乳幼児特有の症状も

乳幼児が虫に刺された後に生じるとても強いかゆみに「ストロフルス」があります。刺した虫の唾液中に含まれる物質に対して過敏反応を起こすもので、ストロフルス特有のかゆみを伴う発疹が現れます。ストロフルスは、アレルギーをもつ乳幼児が虫に刺された時に発症するとされ、特に幼児期から小学校低学年に多く、年齢を重ねるにつれ徐々に少なくなります。
逆に、年を重ねていくとアレルギー反応自体が徐々に起きにくくなるため、体質にもよりますが、高齢者は虫に刺されてもかゆさを感じにくくなるという現象があります。これは、加齢により「早いタイプ」「遅いタイプ」とも、アレルギー症状を起こす免疫の機能が低下したりすることで、虫刺されの症状が軽くなったり、症状が出なくなったりするためと考えられています。


実は2回目が危険! アナフィラキシーを引き起こすスズメバチに注意

実は2回目が危険! アナフィラキシーを引き起こすスズメバチに注意!

体質によっては、虫から注入された物質に対して強いアレルギー反応を起こし、全身のじんましんや腹痛、呼吸困難などアナフィラキシーと呼ばれる症状を起こすことがあります。
虫刺されのアレルギー反応による全身症状の中でも特に恐ろしいのは、スズメバチによって引き起こされるアナフィラキシーです。スズメバチがもつ「蜂毒」が体内に入ると、体が自身を守ろうとして抗体をつくります。この抗体が過剰反応をすると全身にじんましんや嘔吐、むくみ、呼吸困難、血圧低下などが生じます。このアレルギー反応が短期間で起こることを「アナフィラキシー」、そしてさらに命にかかわる危険な状態になることを「アナフィラキシーショック」といいます。
体内に一度刺された時にできた蜂毒に対する抗体があると、アナフィラキシー症状が引き起こされやすくなります。そのため、スズメバチに刺されて特に危険なのは「2度目」に刺された場合です。アナフィラキシーショックの状態になると、意識消失や血圧低下などを起こし、短時間で死に至る確率が上がってしまうともいわれており注意が必要です。このアナフィラキシー症状は、基本的に「蜂毒」にアレルギーをもつ人にしか症状が出ないので、アレルギーをもたない人にはアナフィラキシー症状が出ない場合もあります。ただし、知らない間にアレルギーもちになっている可能性もあるので、油断は禁物です。

スズメバチ以外でも、強い痛みや腹痛、吐き気、頭痛、血圧上昇などの全身症状が現れることがあり、重篤な場合は抗毒素血清が必要になる「セアカゴケグモ」や、毒針を持ち、刺されると痛みやアナフィラキシー症状を起こすことがある「ヒアリ」などにも注意が必要です。


虫刺されから感染症に発展することも

虫に刺されたり、かまれたりすることが原因となり、感染症を媒介することもあります。特に注意が必要な虫をご紹介します。

■蚊:デング熱、ジカ熱、ウエストナイル熱、日本脳炎、マラリアなど
■マダニ:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ライム病、日本紅斑熱
■ツツガムシ類の幼虫:ツツガムシ病

この中でも、特に注意が必要なのが、蚊に刺されることによって感染する疾患「デング熱」です。デング熱は、蚊に刺されてから3~7日程度で高熱の他、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が出ます。重症化するとデング出血熱やデングショック症候群を発症することがあり、早期に適切な治療が行われなければ死に至ることもあります。まれに国内で感染することもありますが、多くは海外での感染になります。旅行や仕事で海外に行く場合は、厚生労働省のホームページなどをチェックし、情報収集しておきましょう。


虫刺されの対処・治し方

虫刺されの症状が重い、長引く場合は皮膚科へ

虫刺されの症状は軽いものが多く、その多くが自然治癒しますが、症状が重い場合や、長引いてしまう場合は皮膚科の受診をおすすめします。特に「夜眠れないほどのかゆみや痛みがある」「刺されたり、かまれたりした数が多い」「患部の腫れがどんどんひどくなっている」といった場合は、迷わずに受診しましょう。受診時には症状の原因となった虫が分からないと適切な対処ができないこともあるので、虫が特定できている場合は、写真を持参するか、虫の特徴を医師に伝えるのもよいでしょう。
虫刺されには、対症療法として、主にステロイドが処方されています。局所の炎症を抑えるためには、ステロイド外用薬を、症状がひどい場合は、外用薬と併せて内服用のステロイドが処方されることもあります。

虫刺されでの受診の目安

虫刺されの痛みへの対処

ハチに刺された場合は、まず患部を冷やします。スズメバチなどに刺されて、全身にアレルギー症状や痛みが現れた場合は、迷わずに救急車を呼びましょう。患部にハチの針や、毛虫(イラガの幼虫など)の毛などが皮膚に残っている場合は、直接触れないように毛抜きや粘着テープなどで取り除いてください。難しい場合は無理をせず皮膚科に相談を。マダニに刺されてしまった場合も、むやみにむしり取ろうとするとマダニの体の一部が皮膚の中に残ってしまうことがあるので、すぐに皮膚科に行きましょう。また、クモにかまれて痛みが出た場合は、患部を流水と石けんで洗い、タオルにくるんだ保冷剤などで冷やすと痛みが和らぎます。


虫刺されのかゆみへの対処

流水や保冷剤などでかゆみのある場所を冷やすと、かゆみが落ち着きます。入浴などで患部を温めてしまうと、皮膚の近くの血管が拡張し、かゆみが増してしまうので気をつけましょう。また、虫刺されの市販薬を塗るのもかゆみを抑えるにはよいでしょう。市販薬を塗っても、かゆみが軽減されない場合は、皮膚科の受診をおすすめします。患部をかきむしってしまうと、そこから菌が入り感染症を招く恐れもあるので、その場合も皮膚科に相談してください。最近ではかきむしることを抑えるための「パッチ」も市販されているので、外で過ごす際に持っておくのもよいでしょう。


「爪でバッテン」「ハチにアンモニア水」は有効?

子どもの頃、蚊に刺されると爪でバッテンをつけていたなんてことはありませんでしたか? 人の体は「かゆみ」と「痛み」という刺激を同時に感じることができない仕組みになっています。そのため、患部にバッテンをつけて「痛み刺激」を与えることで、一時的に「かゆみ刺激」が軽減される可能性があります。しかし、それはあくまでかゆみを紛らわせているだけのこと。すぐにかゆみが復活してしまうので、あまり意味はないと考えられます。
また、以前は「ハチに刺されたらアンモニア水が有効」といわれていましたが、こちらも蜂毒の研究が進み、効果がないことが分かっています。


虫刺され用の市販薬を使う際はまず薬剤師に相談を

虫刺され用の市販薬は多数販売されていますが、それら市販薬には様々な成分が含まれています。虫刺されは症状によって適する成分や剤型があり、自分の症状に合った物を選ばないと意味がありません。購入する際は自己判断をせず、薬剤師に症状を詳しく話して、適した市販薬を選んでもらうようにしましょう。


虫刺されの予防法

屋外では「虫を遠ざける」対策を

虫刺されの予防法、屋外では肌の露出を控えた服装を

屋外に出る時、特にアウトドアレジャーや畑仕事など、草木の多い屋外で過ごす場合は、できるだけ肌の露出は避け、露出している部分にはスプレーやシートで虫よけ剤を塗布しておきましょう。虫よけ剤は成分によって年齢制限のあるものもあるので、使用にあたっては用法・用量を守ることが大切です。虫よけ剤を使用する際にもう1つ気をつけたいのは塗る順番です。日焼け止めなどと併用する場合は、虫よけ効果を最大限に発揮させるためにも、日焼け止めを塗った後に虫よけ剤を塗りましょう。
また、キャンプなど屋外でも特定の場所に長く滞在する場合は、蚊取り線香を使うのもおすすめです。最近では点火するタイプの他に超音波で虫を遠ざけるグッズもあるので、小さいお子さんと一緒の場合には安心です。


屋内を好む虫は「中に入れない」ことが大切

家の中での虫刺されの予防には、玄関や窓に虫よけ剤をつけたり、虫が入り込む隙間を塞いだりするなどして、屋内に入れないようにするのはもちろんですが、宿主に寄生して知らないうちに家に侵入してくるイエダニやノミにも注意が必要です。
「ネズミが家にいる」「服で覆われている部分に虫刺されがある」というような場合は、イエダニがいる可能性があります。ネズミに寄生するダニのため、まずはネズミの駆除から行いましょう。専門業者には、駆除依頼と共にネズミが侵入してこないような環境づくりについても相談することをおすすめします。
また、ノミは散歩中のペットなどに寄生し、家の中で繁殖します。ペット用の駆除剤の使用や散歩後のブラッシングなどで、ペットに付いたノミが屋内に入るのを防ぎましょう。


危険度の高い虫には厳重な対策を

危険度が高い虫においても、基本的には「寄せ付けない」という対策が基本ですが、複数の方法で厳重な対策するとより効果的です。また、繁殖を防ぐため見つけたら早めに駆除しましょう。こちらでは虫ごとの有効な対策をご紹介していきます。

<スズメバチ>
ハチは黒い色やにおいに反応するといわれています。スズメバチがいるような場所に出かける場合は、黒い衣類の着用を避け、香りの強い香水や化粧品、整髪料の使用は控えましょう。巣を見つけたら専門業者に駆除を依頼してください。
<マダニ>
ディートやイカリジンを有効成分とする人体用の虫よけ剤が有効です。マダニが生息していそうな野外で活動する際には、皮膚はもちろん、衣類や靴にも散布しておくと安心です。効果の持続時間は有効成分の含有量や処理量、発汗量などにより異なりますが、1~2時間ごとにこまめに使用するとよいでしょう。
<セアカゴケグモ>
屋外で作業する時は軍手などを着用し、付着を防ぐため衣類などを屋外に置きっぱなしにしないようにしましょう。もしセアカゴケグモを見つけたら、踏みつぶしたり、殺虫剤で処理したりし、自治体にも連絡しましょう。市販のピレスロイド系家庭用殺虫剤が効きますが、卵には効果が低いので、孵化した後に再び処理する必要があります。
<ヒアリ>
ヒアリを見つけたら、まず自治体に連絡しましょう。対応策の指示を受けられたり、駆除を行ってくれたりする場合があります。通常のアリ用殺虫剤でも処理が可能ですが、決して素手では触らないようにしてください。

気温が上昇し、肌の露出も増えてくるこれからの季節。いやな虫刺されを気にせずに毎日を過ごしたいものです。アウトドアレジャーを楽しむ時にはもちろん、近所の公園などに出かける時にも、虫から体を守るため、今回ご紹介した予防策を試してみてください。


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