白髪

白髪

白髪は加齢によって起こる自然なものですが、栄養不足やストレスなども影響します。白髪を防ぎたい人や、今ある白髪を増やしたくない人は、生活習慣を改善していくことも大切です。

髪は、「メラニン色素」で着色されています。メラニン色素は、髪を育てる毛母細胞の周りにある「メラノサイト(色素細胞)」という細胞でつくられ、それが毛母細胞に取り込まれることで黒や茶など色素を帯びた髪になります。メラノサイトは、毛根の立毛筋(りつもうきん)付近の「バルジ領域」に存在する「色素幹細胞」から生まれる細胞です。ヘアサイクルと共に、必要に応じて産生されます。

ところが何らかの原因によってメラノサイトがダメージを受けると、メラニン色素をつくり出すことができず、白い髪が生えてくることになります。白髪の原因や対処法・治療法、予防法について専門医が解説します。

黒髪・白髪とメラニン色素の関係。黒髪の場合、メラノサイトで作られたメラニン色素を毛髪内部に取り込むことで、髪が黒くなる。白髪の場合、幹細胞の枯渇、メラノサイトの減少・機能低下により、白髪になる。
監修プロフィール
松倉クリニック表参道 医師 たじ・めぐみ 田路 めぐみ 先生

1997年東京大学医学部卒業。帝京大学形成外科助手、東京大学形成外科勤務などを経て、2014年より現職。育毛外来を担当。従来の育毛薬の処方や治療だけでなく、栄養、ホルモンの観点からも診療し、根本的な治療を目指す。日本抗加齢医学会専門医。日本形成外科学会専門医。著書に『東大医師が教える 最強の育毛革命』(集英社)、医事監修に『髪が増える術 成功率95%のプロが教えるすごいメソッド』(ダイヤモンド社)。

<目次>白髪について知る


白髪の原因

白髪の原因は加齢や遺伝以外に、生活習慣も大きくかかわる

白髪は個人差が大きく、10代で白髪がある人もいれば50代、60代になっても艶のある美しい黒髪を維持している人もいます。白髪のメカニズムは全てが解明されているわけではありませんが、現在のところ以下のような原因が考えられています。

●加齢

白髪は、加齢による基礎代謝の低下、細胞機能の低下、幹細胞の減少、ホルモン分泌量の減少など様々な要因が作用し、結果的にメラノサイトの働きも弱っていきます。日本人の場合、白髪が現れ始める年齢は、男女共におおむね35歳前後とされます。

●遺伝

白髪になりやすいか、そうでないかは、ある程度遺伝的な要因が関係すると考えられています。特に10代~20代で白髪が出始める「若白髪」は、遺伝的な要因が強いと考えられます。

●酸素・栄養不足

白髪の原因の一つとして、酸素不足や栄養不足が挙げられます。髪は、毛根にある毛乳頭が毛細血管から酸素や栄養を吸収することで健康を保っています。毛乳頭に酸素を届ける「鉄」や、それを助ける様々なミネラルやビタミンなどが不足すると、毛乳頭が酸素・栄養不足に陥り、代謝が下がって白髪が現れやすくなります。

体が酸素不足の状態では、心臓など生命にかかわる臓器に優先的に酸素を届けるため、髪や爪などの末端部は後回しとなり、少しの酸素不足でも影響が出ます。特に生理のある女性は鉄分不足になりやすく、潜在的な「かくれ貧血」の人が多いので注意が必要です。

●血液やリンパの巡りの不良

血液やリンパの巡りが悪いと、酸素や栄養が頭皮に十分に行き届かなくなります。同時に老廃物が滞り、頭皮や毛母細胞、メラノサイトなどに負担がかかって白髪を進行させてしまいます。心や体が緊張状態にある時は交感神経が優位になり、血管が収縮して首や肩の筋肉も緊張が続くため、巡りの悪化を招きやすくなります。

●ストレス

強いストレスは白髪の原因となります。過剰なストレスは、交感神経を優位にして血流やリンパの流れの低下を引き起こしたり、体内の活性酸素を増やしたりすることにつながります。すると、毛母細胞やメラノサイト、特にその供給元として大切な幹細胞に悪影響を及ぼし、白髪の原因となるのです。また、近年の研究で、強いストレス下ではメラノサイトのもととなる色素幹細胞が枯渇し、白髪が増えることが報告されています。

米国ハーバード大学の研究チームが2020年に発表した「ストレスと白髪の関係」では、ストレスを感じ、交感神経が優位になると放出される神経伝達物質「ノルアドレナリン」が、色素幹細胞を過剰に活性化させることが分かりました。活性化した色素幹細胞はメラノサイトへ急速に変化し、結果的に色素幹細胞が枯渇してしまうと考えられています。

細胞の老化と寿命を決める「テロメア」と、寿命を延ばす「テロメラーゼ」

私たちの体をつくる細胞は常に新陳代謝を繰り返し、古い細胞が新しい細胞へと入れ替わっています。細胞の染色体の末端部には「テロメア」と呼ばれる部分があり、テロメアは細胞が分裂するたびに短くなります。テロメアがある程度短くなると細胞の老化が始まり、最終的には分裂できなくなる「細胞死」という状態を迎えます。そのため、いかにテロメアの寿命を延ばすかが老化予防のカギとなるのではないかと考えられ、注目されています。

メラノサイトをつくる色素幹細胞のように「細胞のもと」になる幹細胞は、他の細胞に比べて長命で、長く分裂を続ける性質があります。これは、幹細胞系ではテロメアを伸長させる酵素「テロメラーゼ」が活発に働いているためです。黒髪を維持するためには、色素幹細胞のテロメラーゼをしっかり作用させてテロメアの長さを維持することが重要で、これにはよい生活習慣やストレスコントロールが大切だといわれています。

細胞の老化と寿命を決める「テロメア」と、寿命を延ばす「テロメラーゼ」

白髪の症状

白髪は原因によって白髪の現れる場所に特徴がある

加齢による白髪は、頭部全体に現れるのが一般的です。一方、「酸素・栄養不足の白髪」と「ストレス白髪」の現れる場所には特徴があります。

●「酸素・栄養不足の白髪」は側頭部に現れやすく、元に戻りにくい

酸素・栄養不足が原因の白髪は、メラノサイトに酸素を届ける「鉄」や、それを助ける様々なミネラルやビタミンなどが不足することで起こります。このタイプの白髪は、側頭部に現れやすいのが特徴です。側頭部には頭皮に血液を送り届ける大きな血管が通っており、本来なら酸素や栄養が豊富な場所のため、鉄分が不足したり血流自体が不足したりすると、その落差の大きさから、ダメージが現れやすい部分だと考えられます。

鉄欠乏の人の場合、コラーゲンがうまくつくれなくなるため、頭皮が薄くなっているのも特徴で、白髪だけでなく、薄毛も起こりやすい傾向があります。

このタイプの場合、栄養不足を改善しても元の髪色にはなかなか戻りません。体内の栄養状態を改善するには時間がかかり、その間にメラノサイトがメラニンをつくる能力を完全に失ってしまうのです。

●「ストレス白髪」は後頭部に現れやすく、元に戻る可能性がある

ストレスで自律神経のバランスが乱れ、頭皮の巡りが悪化してメラノサイトの働きが弱まったり、色素幹細胞が枯渇または休止したりすることで起こるのが、ストレス性の白髪です。ストレス性の白髪は、後頭部に現れやすい特徴があります。

このタイプの人の頭皮は、血行不良で硬くなっていることが多く、頭皮にむくみやうっ血による赤みがあるケースも見られます。頭部に近い肩や首の血流も悪く、肩こりや首こりも起こりやすくなります。

ストレスが一時的なものなら、メラノサイトにメラニンをつくる能力がまだ残っているうちに、ストレス解消や栄養改善に努めることで、元の髪色に戻るケースもあります。気づいたら、少しでも早く対策を始めることが大切です。

「酸素・栄養不足の白髪」と「ストレス白髪」の特徴。酸素・栄養不足による白髪は側頭部に現れやすく、ストレス性の白髪は後頭部に現れやすい。

白髪の対処法・治療法

白髪の対処法として、カラーリング(白髪染め)やグレイヘアも選択肢に

メラノサイトがメラニンをつくる能力を完全に失った場合は、白髪になった髪を元の髪色に戻す治療や薬は現在のところありません。見た目が気になる場合は、カラーリングやグレイヘアを検討しましょう。

●白髪が気になる場合は、カラーリング(白髪染め)も一案

白髪が気になる場合は、カラーリング(白髪染め)も一つの選択肢です。カラーリングの方法は主に3種類あります。色もちや手間、頭皮への刺激の有無などに違いがあるので、メリット・デメリットを考えて自分に合ったものを選ぶことが大切です。

① 永久染毛料(ヘアカラー、ヘアダイなど)……1剤で酸化染料を髪の中心まで染み込ませてメラニン色素を脱色し、2剤で新たな色を入れる。脱色してから別の色を入れるためしっかり染まり、思い通りの色が出やすいが、髪の負担は大きくなる。色もちは2~3カ月ほど。

② 半永久染毛料(ヘアマニキュア、カラートリートメント、カラーシャンプーなど)……染料をキューティクルの隙間から髪の内部に入れて表面を着色する。繰り返し染めても髪の負担になりにくい。色もちは2~4週間ほど。カラートリートメントやカラーシャンプーは毎日の洗髪時に徐々に染まっていく。

➂ 一時染毛料(ヘアマスカラ、ヘアカラースプレーなど)……髪表面に着色剤を塗るので髪の負担はほとんどない。色もちは1回限りで、シャンプーで洗い落とすことができる。

カラーリング(白髪染め)の方法・主な3種類。①永久染毛料(ヘアカラー、ヘアダイなど)、②半永久染毛料(ヘアマニキュア、カラートリートメント、カラーシャンプーなど)、➂一時染毛料(ヘアマスカラ、ヘアカラースプレーなど)

特にヘアカラーの場合、薬剤の刺激で頭皮がかぶれたり、頭皮内の毛根やバルジ領域にも多少なりとも負担がかかったりします。施術の前にパッチテストを行うと共に、頻回なカラーリングは避けるようにしましょう。

●グレイヘアという選択肢も

グレイヘアは主に女性のヘアスタイルを指す言葉で、白髪を染めず、白髪交じりの髪色や髪質を活かしたヘアスタイルのことをいいます。または、うっすらと色をのせる程度のヘアカラーを使ったスタイルを指すこともあります。最近ではグレイヘアのいろいろなアレンジを提案している美容院も増えてきているので、美容師に相談するとよいでしょう。

白髪を抜くのはNG

白髪を見つけた場合、抜くことはおすすめできません。毛根にダメージを与えたり、その刺激によってかえって白髪を増やしてしまったりすることがあるためです。まだ白髪があまり多くない段階で目立たなくしたいなら、根元のところをハサミで切るようにしましょう。


白髪の予防法

体の内側・外側のケアで、白髪を予防しよう

白髪は加齢や遺伝などで仕方のない面もありますが、毎日の生活習慣によって現れやすさに違いが出てきます。白髪の予防には、栄養をしっかり摂る、質のよい睡眠をとるなど体の内側からのケアと、頭皮環境をよくするための外側からのケアを実践していきましょう。

●食事…「タンパク質」を意識して摂る

これを摂れば白髪が予防できるといった特別な栄養素や食品はありません。髪の生育には全ての栄養素が必要なため、幅広い食品から栄養素をバランスよく摂ることが大前提です。その上で、髪の主成分である「タンパク質」、頭皮の健康を維持する「鉄」、髪の成長をサポートする「亜鉛」、体内の代謝をよくする「ビタミンB群」の4つを意識して摂るようにしましょう。

タンパク質が不足すると、髪の毛を黒くする「チロシン」というメラニン色素の原料も不足して、白髪になりやすくなります。また、タンパク質は髪の成長に必要な各種ホルモンの原料でもあり、不足することで白髪だけでなく薄毛や抜け毛などのトラブルにもつながります。

「タンパク質」「鉄」「亜鉛」「ビタミンB群」の栄養素をまんべんなく摂りやすいのが、肉、魚、シーフードといった動物性食品です。理想としては、体重50kgの人であれば、タンパク質を1日50g摂るのが目安。食材に換算すると1日250g、ボリュームとしては合わせて両手1杯分ほどになります。

中でも肉類は鉄や亜鉛も多く含むのでおすすめですが、肉ばかりに偏らないよう、大豆製品や豆類などの植物性タンパク質や、卵、乳製品なども組み合わせるようにしましょう。いろいろな種類の食材を摂ることで、よりミネラル・ビタミンのバランスもよくなります。

理想としては、体重50kgの人であれば、タンパク質を1日50g摂るのが目安。食材に換算すると1日250g、ボリュームとしては合わせて両手1杯分ほどになります。

●睡眠…ストンと眠り、3時間以上深い睡眠をとる

白髪の予防には「成長ホルモン」の分泌が欠かせません。髪の成長に欠かせない「成長ホルモン」が最も分泌されるのは、睡眠深度が特に深い眠り始めの約3時間です。この時間帯に質のよい睡眠をとることで、成長ホルモンの分泌量が高まります。眠る前にリラックスし、入浴などでいったん体を温めると、体温が徐々に下がるタイミングで眠りにつきやすくなります。

寝る前に明るい蛍光灯の部屋で過ごしたり、パソコンやスマホを見たりしていると、体を活動モードにする交感神経が働き、眠りにつきにくくなったり眠りが浅くなったりするので注意が必要です。

昼夜逆転勤務の人も、眠り始めに深睡眠が確保できれば、スムーズに成長ホルモンが分泌されます。その場合、外光をシャットアウトする、寝る直前のスマホを避けるなど睡眠の環境を整える工夫をするとよいでしょう。

●運動…筋トレ+有酸素運動とストレッチ

白髪の予防には、実は運動も大切です。運動には体を活性化させて代謝をよくする他、血流を改善する、自律神経を整える、睡眠の質をよくする、ストレスを解消するなど、髪の健康のためのメリットが数多くあります。ぜひ運動習慣を生活に取り入れてください。

運動の中でもしっかり負荷をかけて行う筋トレは、その筋肉からの成長ホルモンの分泌を促すため、髪の老化予防にプラスに働きます。軽いジョギングや早歩きなど、息が弾む程度の有酸素運動も体内の糖化を防ぎ、血液やリンパの巡りを促し、内臓脂肪を減らして代謝をアップさせます。

筋トレと有酸素運動の両方を組み合わせればベストですが、どちらかやりやすいほうだけでも構いません。また、運動が苦手な人は、ストレッチや仕事の合間の軽い体操だけでもそれなりの効果があります。最初から無理をして逆にストレスにならないようにしましょう。

※糖化……過剰に摂取された糖質が体内でタンパク質と結合して AGE(終末糖化産物)が産生される現象。AGEは老化を促進し、白髪や薄毛にも影響すると考えられています。

軽いジョギングや早歩きなど、息が弾む程度の有酸素運動も体内の糖化を防ぎ、血液やリンパの巡りを促し、内臓脂肪を減らして代謝をアップさせます。

●ストレスケア

白髪の原因となるストレスもケアしましょう。ストレスを受けると交感神経が優位になり、血管が収縮するため血流が滞りやすくなります。その結果、頭皮への血流が不足したり、老廃物がうまく排泄されなくなったりして白髪につながります。また、ストレスがあると体内の活性酸素が増え、髪をつくる細胞もダメージを受けてしまいます。

ストレスの自覚がなくても、首や肩のコリがある人は、知らず知らずのうちに緊張で筋肉が固まり、頭皮の血流が滞っている可能性があるので注意が必要です。白髪を増やさないためにも、ストレスコントロールを心がけましょう。

●頭皮ケア

白髪は頭皮の状態にも左右されます。白髪や薄毛など、髪のトラブルを抱えている人の頭皮は血行不良でコチコチに硬く、コラーゲンなどのタンパク質成分が減少して、頭皮が薄くなっているケースが多いものです。頭皮マッサージで頭皮の血流をアップさせましょう。

(1)頭皮が動くかどうかチェック

両方のこめかみから側頭部にかけて手を当て、頭皮を上に引き上げてみましょう。健康な頭皮はよく動きます。全体が1cm以上動くなら、まずはOK。ほとんど動かない人は、頭皮の質が悪くなっている可能性があります。

健康な頭皮はよく動きます。全体が1cm以上動くなら、まずはOK。ほとんど動かない人は、頭皮の質が悪くなっている可能性があります。

(2)頭皮マッサージで血流アップ

ここで紹介するのは、頭部に走る大きな動脈である側頭動脈と後頭動脈に沿ってもみほぐしていく効果的な方法です。毎回のシャンプー時に行うようにすれば、習慣づけしやすいでしょう。

〈マッサージのやり方〉

①こめかみより少し上から、手のひらを使ってぐるぐると回しながら頭頂部までほぐしていく。

こめかみより少し上から、手のひらを使ってぐるぐると回しながら頭頂部までほぐしていく。

➁「ぼんのくぼ」の生え際から頭頂部に向かって、指の腹を使ってもみほぐしていく。

「ぼんのくぼ」の生え際から頭頂部に向かって、指の腹を使ってもみほぐしていく。

●紫外線を避ける

紫外線は体内に活性酸素を増やして細胞の老化を進め、白髪や薄毛を進行させます。頭部は無防備にしていると、特に紫外線によるダメージを受けやすい部位です。帽子、日傘、髪用サンスクリーンなどでしっかり紫外線を防ぎましょう。帽子をかぶる場合は、通気性のよい素材のものを選び、蒸れに気をつけてください。

●頭皮の乾燥を防ぐ

乾燥した頭皮は傷つきやすく、様々なトラブルの原因となります。予防のために、頭皮に直接ドライヤーを当て過ぎない、頭皮を洗い過ぎない、洗浄力が強過ぎるシャンプーは避けるといった注意が必要です。乾燥が激しい人は、スカルプローションなどで保湿をしましょう。

健やかな髪をつくるのは日頃の生活習慣です。もう白髪が始まっている人も諦めてしまわずに、体の内側と外側からのケアを続けていきましょう。

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