副鼻腔炎(ふくびくうえん)とは、鼻腔(鼻の中の空洞)とつながっている骨の中の空洞「副鼻腔」の粘膜に炎症が起こり、粘膜が厚くなったり分泌物が増えたりする病気です。
副鼻腔は、顔の骨の中(目の間や頬、おでこの奥)に、左右4対(8個)ある空洞で、鼻の細菌感染を防ぐ、声を共鳴させる、頭の骨を軽くするなどの役割があるといわれています。
副鼻腔の内部は粘膜で覆われ、直径数mm、長さ1cm程度の小さな穴「自然口(自然孔)」で鼻腔とつながっています。副鼻腔内の空気や分泌物は、この自然口を通じて交換・排泄されているのです。
しかし、主に鼻かぜなどで起きた炎症が副鼻腔の粘膜にも広がり、自然口が腫れて塞がれてしまうと、副鼻腔の中でウイルスや菌が繁殖し、副鼻腔炎を引き起こします。また、副鼻腔炎はダニや花粉などのアレルゲンが侵入してアレルギー反応が起きたりすることでも起こります。
副鼻腔炎になると、鼻づまり、鼻水、頭痛や頭重感、歯痛や頬、額の痛みなどの症状が現れます。急性のうちは容易に治療できますが、慢性化すると完治が難しくなるため、早い段階で適切な治療を行うことが大切です。
日本医科大学名誉教授、日本医科大学寄附講座花粉症学講座教授、奥田記念花粉症学等学術顕彰財団理事長、日本アレルギー協会理事、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会代議員。1984年日本医科大学卒業。同大学院修了後、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学。日本医科大学耳鼻咽喉科准教授を経て、2010年より現職。医学博士。花粉症治療の第一人者として知られ、『ササッとわかる最新「花粉症」治療法』(講談社)、『花粉症は治せる!舌下免疫療法がわかる本』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
副鼻腔炎には幾つかのタイプがあり、原因もそれぞれ異なります。
まず、治癒するまでの期間によって「急性副鼻腔炎」(1カ月以内に治る場合)と「慢性副鼻腔炎」(3カ月以上続く場合)に分けられ、原因や炎症を起こす白血球の違いで「好中球性」「好酸球性」などの種類に分けられます。
<副鼻腔炎の種類と原因>
●急性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎は、主に鼻かぜなどによって副鼻腔内にウイルスや細菌などが入り込み、副鼻腔で炎症が起こります。1カ月以内に治癒するのが急性副鼻腔炎で、いずれか片側の副鼻腔に起きることが多いのが特徴です。
●好中球性副鼻腔炎(蓄膿症:ちくのうしょう)
急性副鼻腔炎を放置したり治療が不十分だったりすると、副鼻腔が腫れて塞がれたまま分泌物を排泄することができず、ウイルスや細菌が増殖して炎症が悪化し、やがて両側の副鼻腔に膿がたまって慢性化します。これが好中球性副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症です。
かつてはこのように膿がたまるタイプの「好中球性副鼻腔炎」がほとんどでしたが、1960年代以降、衛生観念の高まりや、治療効果の高い抗菌薬の普及などにより減少してきました。一方で、生活習慣の変化や大気汚染、アレルギー体質の人の増加などにより増えてきたのが、以下の「好酸球性副鼻腔炎」です。
●好酸球性副鼻腔炎(難治性)
好酸球性副鼻腔炎は、ぜんそくなどアレルギーの持病がある人に起こりやすい慢性の副鼻腔炎です。
ダニや花粉などのアレルギー反応で炎症が起こると、副鼻腔粘膜に白血球の一種である好酸球が増加し、粘膜の腫れや鼻水の過分泌を引き起こします。好酸球が過剰に活性化し、粘膜の炎症が続いて腫れが戻らなくなると、徐々に「鼻たけ(鼻ポリープ)」が多数できるようになります。これが副鼻腔炎の慢性化や鼻づまりの原因になるのです。
好酸球性副鼻腔炎は薬が効きにくく、手術で鼻たけ(鼻ポリープ)を切除しても再発しやすい難治性の病気です。
●アレルギー性鼻炎との混合型
アレルギー性鼻炎に副鼻腔炎を合併した、混合型の副鼻腔炎です。ダニなど、通年性のアレルギー性鼻炎がある人の約3割は、副鼻腔炎との混合型だといわれています。アレルギーの治療と副鼻腔炎の治療を同時に行うことが有効です。
●歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)
歯性上顎洞炎は、虫歯や歯周病を起こす細菌が、歯根を経由して副鼻腔まで広がることで起こります。歯痛や片側の鼻だけに特有のにおいのする鼻水が出ることが多い急性の副鼻腔炎です。
●副鼻腔真菌症
副鼻腔真菌症は、真菌(カビ)が原因で生じる副鼻腔炎です。悪臭のする濃い鼻水、鼻血、頭痛や顔面痛が現れることがあります。慢性化しやすく、手術が必要になる場合もあります。
●航空性副鼻腔炎
航空性副鼻腔炎は、急激な気圧の変化によって生じる副鼻腔炎で、飛行機が降下する時に起きやすいため、この名があります。すでにかぜやアレルギー性鼻炎などがあり、自然口の周囲の粘膜が腫れている場合に起こりやすい急性の副鼻腔炎です。
副鼻腔炎の主な症状は「鼻水」「鼻づまり」「嗅覚障害」です。その他、副鼻腔炎のタイプによって現れる症状が異なります。
<副鼻腔炎の主な症状>
●鼻水…鼻の粘膜の炎症が続くと粘液の分泌が促進され、ネバネバした鼻水が出ます。
●鼻づまり…炎症により鼻の粘膜が腫れたり、鼻腔内に鼻水がたまったりして鼻づまりが起こります。
●嗅覚障害…鼻づまりを起こすと、鼻腔の天井にある嗅粘膜(きゅうねんまく)ににおいが届かず、においが分からなくなります。
以下の症状は、副鼻腔炎のタイプで現れ方が異なります
<タイプ別の主な症状>
●好中球性副鼻腔炎の症状
好中球性副鼻腔炎の症状は、細菌と戦った白血球(好中球)の死骸(膿)が鼻水に混ざり、黄色や緑色のドロッとしたにおいのある鼻水、鼻づまりが起こります。慢性化すると、鼻粘膜に鼻たけ(鼻ポリープ)ができたり、頭重感、嗅覚障害などが現れたりします。重症になると頬や鼻周囲・額の痛み、顔やまぶたの腫れなどが起こることもあります。
●好酸球性副鼻腔炎の症状
好酸球性副鼻腔炎の症状は、鼻粘膜で過剰になった白血球(好酸球)が鼻水に混ざるため、黄色で粘度が非常に高いネバネバした鼻水、鼻づまりが起こります。鼻水がのどに流れて(後鼻漏:こうびろう)、痰のからんだ咳も出ます。早期から、鼻たけ(鼻ポリープ)や嗅覚障害が起こりやすいのも好酸球性副鼻腔炎の特徴です。
その他、目の疲れ、頭重感、頭痛なども出ることがあります。ぜんそくやアレルギー性鼻炎など、他のアレルギー疾患の症状に伴って発症することもあります。
●アレルギー性鼻炎との混合型の症状
アレルギー性鼻炎では、サラサラした鼻水が出ます。花粉症の人は原因となる花粉の飛散時期に起こりやすく、ハウスダストが原因の人は通年で症状が現れやすくなります。
●副鼻腔炎の主な検査
副鼻腔炎の検査では、まずは問診を行った上で、主に以下の検査が行われます。
・問診…どんな症状がいつから起こっているのかを、詳しく聞き取ります。
・画像検査…副鼻腔炎のタイプを知るために、X線検査、CT検査などの画像検査を行います。
・鼻鏡検査・内視鏡検査…鼻鏡を使ったり、内視鏡を使ったりして鼻たけ(鼻ポリープ)や鼻中隔湾曲症の合併の有無などを調べます。
・血液検査…アレルギーの有無や副鼻腔炎のタイプを知るために、好酸球が増えているかどうかを調べます。
・細菌検査…細菌感染をしているかどうかを検査し、感染している菌の種類を調べます。
●副鼻腔炎の主な治療法
治療は主に薬物療法と局所療法を組み合わせて行い、効果が得られない場合は手術を検討します。重症の場合は先に手術をすることもあります。
<薬物療法>
副鼻腔炎は、タイプによって以下のように使用する薬が異なります。
・好中球性副鼻腔炎…菌に合った抗菌薬を服用します。慢性の場合は、マクロライド系の抗菌薬を2~6カ月服用し続けることで、高い治療効果が得られます。
・好酸球性副鼻腔炎…好酸球の働きを抑制するステロイドの点鼻薬を用います。腫れが強い場合は、経口薬を用いる場合もあります。特に好酸球性副鼻腔炎は再発しやすいため、症状が改善されても自己判断で薬をやめず、医師の指示に従うことが大切です。感染により症状が悪化した場合には、抗菌薬や鼻水をサラサラにして排出しやすくする粘液溶解薬を使うこともあります。
<局所療法>
・ネブライザー治療…鼻水の吸引や生理食塩水による鼻洗浄の他、抗菌薬やステロイド薬を霧状にして局所に噴霧します。
・カテーテル治療…急性副鼻腔炎で行われます。カテーテル(細いチューブ状の器具)を副鼻腔に挿入して自然口を開き、粘液や膿を抜いて洗浄液を流します。
<手術>
内視鏡手術が主流です。内視鏡を用いて副鼻腔を開き、炎症を起こした粘膜を切除します。基本的には1週間程度の入院が必要です。
副鼻腔炎の再発や慢性化を予防するためには、次のようなセルフケアが大切です。
●鼻水はこまめに鼻をかむ
鼻水にはウイルスや細菌、好酸球が含まれています。鼻腔にたまったままだと炎症の原因になるため、特にネバネバした鼻水の場合は決して鼻をすすらず、こまめにかんで鼻の清潔を保ちましょう。この時、一度に強くかまず、片方ずつ、2回ほどに分けて少しずつ押し出すようにかみます。粘りが強くて鼻をかみ切れない時には、鼻うがい(鼻洗浄)をするとよいでしょう。
●鼻うがい(鼻洗浄)をする
鼻の中にたまった鼻水を取り除くことで、鼻の粘膜が本来もつ生理機能を回復させます。
<鼻うがいの手順>
① 20~30℃のぬるま湯(できれば湯冷まし)250mLに対して塩を2g強の割合で生理食塩水を作る。
② 市販の鼻うがい専用容器や、長い管状の注ぎ口のついたボトル容器に入れる。
③ 前かがみになり、容器の先を片方の鼻の穴に当てて手で押し、「アー」と声を出しながら注ぐ。
④ 同様に反対の鼻の穴も行う。
※真水で行うと痛みを感じるので、必ず専用液か、0.9%生理食塩水を使用する。
※1日に数回程度行い、やり過ぎに注意する。
●鼻を温める(鼻スチーム)
入浴時に鼻を温める習慣をつけることも副鼻腔炎の予防に役立ちます。鼻から湯気を吸って口から吐く「鼻スチーム」を繰り返すと、鼻の中の異物が流され、鼻が通りやすくなります。蒸しタオルで鼻を温めることも効果的です。
ぜんそくや通年性のアレルギー性鼻炎がある人は、体質的に好酸球性副鼻腔炎になりやすい傾向があります。そもそも上気道の鼻腔と下気道の気管支とはひとつながりの気道です。好酸球が過剰に活発になりやすい体質だと、これら1本の気道の粘膜が慢性的に炎症を起こしやすく、粘膜が少しずつ厚くなって、気管支ではぜんそくが起き、鼻腔に鼻たけ(鼻ポリープ)ができやすくなるのです。
この他にも、鼻中隔(びちゅうかく)という左右の鼻腔を分ける仕切りの軟骨が曲がっている「鼻中隔弯曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)」の人は、一方の鼻腔が狭く、鼻が詰まりやすいため、副鼻腔炎にもなりやすくなります。
副鼻腔炎になると、次のようなことが起こりやすく、日常生活に悪影響を及ぼします。
・鼻をかんでもすっきりしない…副鼻腔炎の鼻水には粘り気があり、なかなか出てこないため、鼻をかんでもすっきりしなくなります。
・いびきや睡眠の質の低下…鼻づまりで気道が狭くなると、いびきの原因になります。また口呼吸になると、安眠が妨げられます。
・集中力の低下…頭痛や頭重感、鼻づまり、睡眠不足などから集中力が低下します。
・感染症にかかりやすくなる…鼻づまりで口呼吸になると、外気が直接気道に入るため、ウイルスや細菌などに感染しやすくなります。
・味を感じにくくなる…味は、においや舌触り、温度、色などが組み合わさって感じられるため、嗅覚障害が現れると、次第に味も分からなくなります。
・口臭…膿のような鼻水がのどに流れ込むと、口臭の原因にもなります。また、鼻が詰まって口呼吸になると口内に細菌が繁殖しやすいため、口臭が気になりやすくなります。
かぜで起こる鼻水は7~10日くらいで改善されます。ネバネバした鼻水がそれ以上の期間続く場合は副鼻腔炎を疑い、早めにかかりつけ医に相談、または耳鼻咽喉科を受診しましょう。副鼻腔炎の症状はかぜや花粉症と似ている上、これらと一緒に起こりやすい傾向があります。そのため、かぜやアレルギー性鼻炎と勘違いして放置して慢性化させてしまうケースも。かぜの鼻水は、初期はサラサラしていますが、やがて粘り気のある質感に変化し、1週間程度で治まります。花粉症などアレルギー性鼻炎の鼻水はサラサラで、原因物質(花粉など)にさらされている間は発作的に出続けるのが特徴です。鼻水の質感と期間で判断しましょう。
副鼻腔炎になるには、必ず他にきっかけとなる病気があります。例えばかぜもその1つ。感染症対策が、そのまま副鼻腔炎対策にもなるのです。規則正しい生活を送り、かぜの流行する季節にはマスクなどで感染を防ぎましょう。
他にも、口呼吸をしていると感染症にかかりやすくなるので、口閉じテープなどを使用して鼻呼吸に戻したり、鼻粘膜を刺激するたばこや過度な飲酒を避けたりすることも大切です。
何より、普段から鼻に意識をもつことがいちばんの予防策です。鼻で息をする、今、何を食べてどんなにおいや味がしているかを感じる……このように鼻の機能に意識的になることが、副鼻腔炎を防ぐことにつながります。