鼻水

鼻水

鼻水が過度に出てしまうと、気になって仕事や家事、勉強などの効率が落ちたり、鼻をかむことで肌荒れを起こしたりといった悩みを引き起こしますが、実は私たちの健康維持には欠かせない働きがあります。鼻水が出る原因や、注意したい鼻水の特徴、さらに鼻水の対処法や予防法などを分かりやすく解説していきます。

監修プロフィール
日本医科大学大学院 医学研究科 教授 おおくぼ・きみひろ 大久保 公裕 先生

日本医科大学大学院 医学研究科 頭頸部感覚器科学分野 教授、日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科 部長、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会理事、奥田記念花粉症学等学術顕彰財団理事長、日本アレルギー協会理事、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会代議員。1984年日本医科大学卒業。同大学院修了後、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学。日本医科大学耳鼻咽喉科准教授を経て、2010年より現職。医学博士。花粉症治療の第一人者として知られ、『ササッとわかる最新「花粉症」治療法』(講談社)、『花粉症は治せる! 舌下免疫療法がわかる本』(日本経済新聞出版社)、『クスリいらずで鼻はスカッとよくなる!』(扶桑社)など著書多数。

鼻水について知る


鼻水の原因・症状

鼻水の色や状態は健康のバロメーター

鼻水というと、かぜをひいた時や花粉症の時期に、一時的に出てくるというイメージをもっていませんか? 実は鼻水は常に分泌されており、鼻腔内の保湿・保温をして、鼻の粘膜に付着した異物を取り除くという重要な役割を担っています。適量が出ている分には、鼻からのど、そして胃へと流れ、外に流れ出ることはありません。そのため、普段から鼻水を意識することはあまりないのです。
この鼻水の分泌量には、自律神経の働きが関係しています。活動時など交感神経が活発な状態では、鼻の血管は収縮して粘膜の腫れは抑制され、鼻水が減少します。一方、リラックスしている時に働く副交感神経が活発になると、血管が拡張して粘膜に腫れが生じ、鼻水が増加するという仕組みになっています。
鼻水は、色や粘度などに様々な種類があります。通常は、透明や白色のサラサラとした鼻水ですが、様々な原因で鼻の中に異常が生じると、色がついたり粘り気が出たりして、分泌量も過剰になることがあります。鼻水の原因となる病気や特徴についてご紹介します。

 

鼻かぜ(感染性鼻炎)
アレルギー性鼻炎
花粉症
ウイルスやアレルゲン(アレルギーの原因物質)が侵入すると、それらを排除するために脳からの指令を受け、鼻水が増えます。細菌感染によって、鼻水に色がつきます。
<鼻水の特徴>
■鼻かぜ:最初は水っぽいが、症状が続くと粘り気が出て色が濃くなる。
■アレルギー性鼻炎・花粉症:水っぽく、粘り気や色がない。量が多い。
副鼻腔炎
鼻かぜや、ぜんそくが続くことで発症します。急性副鼻腔炎が治らず、粘膜の腫れで鼻と副鼻腔をつなぐ通路が塞がれ、膿がたまると慢性副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)になります。
<鼻水の特徴>
黄色や緑色で粘り気が強い。
慢性肥厚性鼻炎
(まんせいひこうせいびえん)
鼻かぜやアレルギー性鼻炎などを放置すると、鼻腔にある下鼻甲介(かびこうかい)という部分の粘膜が腫れ、鼻づまりや鼻水が生じます。
<鼻水の特徴>
無色で粘り気のある鼻水。

血管運動性鼻炎

季節の変わり目などの気温の寒暖差によって、副交感神経が過敏になり、鼻水が出ます。辛い物や熱い物を食べた時にも起こりやすくなります。
<鼻水の特徴>
水っぽい鼻水がたくさん出る。
上咽頭(じょういんとう)がん
上顎洞(じょうがくどう)がん
鼻腔の奥にある上咽頭や副鼻腔の上顎洞にがんができると、鼻水が出やすくなります。
<鼻水の特徴>
普段と違う悪臭のある鼻水が出る。

加齢(老人性鼻漏)

加齢によって鼻粘膜の機能が低下し、呼気内の水分が吸収されずに粘膜にたまって起こります。60代以上に多く見られます。
<鼻水の特徴>
水っぽい鼻水が断続的に出る。
鼻の構造

くしゃみをすると、なぜ鼻水が出るの?

鼻水と関連性が高いものといえば、くしゃみです。くしゃみは、空気と共に体内へ侵入しようとする異物を、吹き飛ばして体外へ出すための体の防御反応の1つ。花粉などのアレルゲンやウイルスが鼻腔内に入ってきた時、香辛料など刺激物を吸い込んだ時、急な温度変化を感じた時など、三叉神経が何らかの刺激を受けると、くしゃみ中枢に指令がいきます。それに連動して鼻水の分泌が促されるため、くしゃみが出ると同時に、水様性の鼻水が多量に出る仕組みになっています。


鼻水が新たな病気を引き起こすことも

鼻水の弊害は、息がしづらくなったり、においや味を感じにくくなったりするだけではありません。鼻水が気になってなかなか眠れなかったり、とめどなく流れる鼻水のために、仕事や家事に集中できなかったりと、生活に支障を来してしまうこともあります。さらに、鼻水が気管支に流れ込むと、咳や不快感を招くだけでなく、慢性咽頭炎や慢性気管支炎など、新たな病気を引き起こすこともあります。
特に鼻水の量が多い場合や原因が分からない場合は、たかが「鼻水」と侮らずに、耳鼻咽喉科を受診して、症状の改善や完治を目指すことをおすすめします。


鼻水の治療・対処法

市販薬で症状が改善しない場合は、耳鼻咽喉科で適切な治療を

急に寒い場所に来た、熱くて辛い物を食べたなどの一時的な刺激によって出る鼻水は、あまり心配はいりません。しかし、毎日5回以上鼻をかむ、色のついた鼻水が出る、1日中鼻水が止まらないといった症状がある場合は、原因を知るためにも、耳鼻咽喉科に相談してみてください。かぜの症状があると内科に行くことが多いと思いますが、鼻水や鼻づまりが気になる場合は、鼻を専門とする「耳鼻咽喉科」を受診することで、適切な診療を受けることができます。
病院に行く時間がない場合は、市販の抗ヒスタミン薬や、鼻の症状を緩和するかぜ薬を服用してまずは様子を見ても問題ありませんが、市販薬で症状が改善しない場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

<主な治療法>
●内服薬や点鼻薬での対症療法

症状や原因に合わせて、処方される薬が異なります。
・発熱やのどの痛みなどかぜの症状がある場合
主症状に鼻の症状が含まれるかぜ薬が処方されます。
・くしゃみや目のかゆみなど、アレルギー性鼻炎や花粉症の症状がある場合
抗ヒスタミン薬が配合された鼻炎薬、鼻の炎症を抑えるステロイドや副交感神経の働きを抑える抗コリン剤を配合した点鼻薬などが処方されます。
・血管運動性鼻炎の場合
アレルギー性の鼻水と同じく抗ヒスタミン薬が用いられます。
・細菌感染の場合
細菌による感染症を治療するための抗生物質が用いられます。

●鼻腔や副鼻腔の洗浄
副鼻腔炎の場合、鼻腔や副鼻腔の内部にたまった鼻水や膿を吸引し、洗浄することがあります。

●鼻水の吸引
かぜをひいた時に鼻水が出やすく、しかも上手に鼻をかむことができない小さな子どもに有効な方法です。昔はお母さんが子どもの鼻水を吸ってあげることもありましたが、感染症の場合、うつってしまう危険性があるのでNG。耳鼻咽喉科やかかりつけの診療所などで吸引してもらいましょう。

鼻水の吸引は、耳鼻咽喉科やかかりつけの診療所などで対応してもらいましょう。

●手術
仕事などで常に鼻に刺激を受けている人や、年齢を重ねて体をあまり動かさない人、以前は日常的に運動をしていたのに急にやめてしまった人などの中には、鼻水が止まりにくくなる人がいます。その場合、「後鼻神経切断術」という、アレルギー症状や鼻水の分泌に関与する後鼻神経という神経を切断する手術を行うことがあります。


すぐに試せる! 鼻水の簡単セルフケア

鼻水は予告なく、突然出てくるものです。病院に行く時間がとれない場合や、今出ている鼻水を急いで何とかしたいという時に、ぜひ試していただきたい簡単なセルフケアをご紹介します。

●鼻水を改善するツボ「迎香(げいこう)」を押す
「迎香」は、鼻水の分泌を抑えるツボで、鼻腔内の腫れをとったり嗅覚の不調を調整したりする効果が期待できます。
<迎香のツボ>
小鼻の横のくぼみ。

迎香のツボの位置

<ツボをうまく押すコツ>
人差し指の腹で鼻をつまむようにして、静かに押す。「迎香」から目尻に向けて、さすったり押し上げたりするのも有効。

●実は簡単で痛くない!「鼻うがい」でスッキリさせる

鼻うがいによって、鼻の中に侵入したウイルスや細菌、アレルゲン、鼻水などを洗い流し、鼻の粘膜を保湿することができます。
<鼻うがいの手順>
① 20~30℃のぬるま湯(できれば湯冷まし)250mLに対して塩を2g強の割合で生理食塩水を作る。
② 市販の鼻うがい専用容器や、長い管状の注ぎ口のついたボトル容器に入れる。
③ 前かがみになり、容器の先を片方の鼻の穴に当てて手で押し、「アー」と声を出しながら注ぐ。
④ 同様に反対の鼻の穴も行う。
※真水で行うと痛みを感じるので、必ず専用液か、0.9%生理食塩水を使用する。
※1日に数回程度行い、やり過ぎに注意する。

鼻うがいのやり方。専用液か0.9%生理食塩水を、市販の鼻うがい専用容器や、長い管状の注ぎ口のついたボトル容器に入れ、前かがみになり、容器の先を片方の鼻の穴に当てて手で押し、「アー」と声を出しながら注ぐ。

●部屋の湿度を上げる
空気が乾燥していると鼻の粘膜が刺激されて鼻水が出やすくなるため、部屋の湿度を上げると症状を改善するのに有効です。

●鼻を正しくかむ
鼻水をかまずにすすっていると、排出されなかった鼻水が上咽頭に向かい、中耳炎などのリスクが高まります。だからといって、力いっぱい鼻をかんでしまうと、耳が痛くなったり、鼓膜が破れたりする恐れも。鼻水が気になったら、あまり力を入れずに片方ずつ、かむようにしましょう。長くゆっくりと鼻をかむと、奥のほうの鼻水が出しやすくなるだけでなく、かんだ後に息を吸い込むのもゆっくりになって、鼻への刺激が抑えられます。

鼻水が気になったら、あまり力を入れずに片方ずつ、かむようにしましょう。

●適度に体を動かす
年齢が若ければ新陳代謝もよく、日常生活の中で体外に排出すべき水分を汗として出すことができますが、普段からあまり運動をしない人や汗をかきづらい高齢者は、汗として出すことができずに鼻水として排出することに。鼻水が気になるようなら、体を動かして汗をかくことを意識してみましょう。

●鼻や体を温める
入浴時などに体を温めるのはもちろん、お湯で温めたタオルを使って、直接鼻を温めると、血行がよくなり、鼻腔の通り道も広がって鼻水を止めるのに効果的です。


鼻水の予防法

鼻を刺激から守ろう

鼻水の予防に、日常的に気をつけるとよいことがあります。次の項目を参考に、鼻水に悩まされない生活を目指しましょう。

●「辛い」「熱い」食べ物には要注意!
鼻水も汗も、体から排出すべき水分です。交感神経が刺激されるような有酸素運動やサウナなどでたっぷりと汗をかいた時、その汗が引くと、今度は体内の余分な水分が鼻水として出るという仕組みになっています。辛い物を食べた時に鼻水が出るのも同じ仕組みで、強い刺激が口から伝えられると、防御反応として粘液の分泌が促されて鼻水が生じるのです。また刺激の強い辛い物を日常的に食べていると、β-エンドルフィンが分泌され、さらに辛い物を求めるようになり、神経が傷んで鼻の機能が正常に働かなくなります。刺激の強い食べ物は、適度に楽しむようにしましょう。

●外出時にはマスクを着用
気温や湿度の変化は、鼻粘膜を刺激して鼻水の原因になります。外出時のマスクは、鼻の周りを温めると共に湿度を保ち、鼻へのダメージを和らげてくれます。

●鼻毛を切り過ぎない
鼻毛には、体の中に入る空気のフィルターとして、ウイルスや細菌の侵入を防ぎ、鼻腔内の温度や湿度を保つ働きがあります。必要以上に切ったり抜いたりしてしまうと、鼻毛本来の働きが損なわれ、トラブルの原因に。鼻毛のケアは、外に出ている毛をカットする程度にしておきましょう。

●鼻呼吸を行う
日本人の約8割が口呼吸をしているともいわれていますが、意識して鼻呼吸に変えると、鼻の機能が正常化して鼻水が過剰に出にくくなります。鼻呼吸の大切さを体感する機会として、正しい呼吸法を学べる座禅やヨガを体験することもおすすめです。

●部屋を片付けて掃除する
アレルギー性鼻炎や花粉症による鼻水を防ぐために、日頃から室内にハウスダストや花粉などがたまらないようにしましょう。

●アレルゲンの侵入を防ぐ
花粉症などの場合、鼻の入り口にワセリンを塗ることで、アレルゲンが体内に入ることを防いでくれます。外出時のマスクも有効です。


鼻水は、過剰に出てしまうと日常生活にも支障を来し、煩わしく感じることも多いでしょう。しかし、私たちの体を健康に保つためには、なくてはならないもの。毛嫌いせずに、うまく付き合っていければと思います。
外出時にマスクをしていたコロナ禍が過ぎ、徐々にマスクを外す生活になりましたが、今度は鼻や口からの刺激に過敏になり、くしゃみや鼻水に悩まされる人が増えてきました。私たちは「マスクなし」の生活にもう一度慣れる必要があります。マスクを外しても不安なく生活できるように、普段からの予防対策とセルフケアを心がけるようにしましょう。

外出時にマスクをしていたコロナ禍が過ぎ、徐々にマスクを外す生活になりましたが、今度は鼻や口からの刺激に過敏になり、くしゃみや鼻水に悩まされる人が増えています。

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