「腱鞘炎を防ぐ!パパママ必見。抱っこのコツとセルフケア」

赤ちゃんを抱っこするパパ・ママ

腱鞘炎とは、骨と筋肉をつないでいる腱と、腱を包み込んでいる腱鞘がこすれ合って炎症を起こし、痛みやしびれを生じるもので、症状が悪化すれば生活にも支障を来します。子育て中のパパやママの中には、指や手首の痛みに悩まされている人が多く見られます。抱っこ、授乳、寝かしつけ、おむつ交換、沐浴など日々繰り返し行う動作によって、腱鞘炎を発症している、あるいは腱鞘炎の予備軍になっていると考えられます。腱鞘炎の予防や対策に暮らしの中でできることを、竹谷内医院院長の竹谷内康修先生にお聞きしました。

監修プロフィール
竹谷内医院院長 たけやち・やすのぶ 竹谷内 康修 先生

2000年に東京慈恵会医科大学卒業後、福島県立医科大学整形外科へ入局。2003年、米国のナショナル健康科学大学へ留学し、2006年に首席で卒業。2007年に手技療法専門のクリニック(現竹谷内医院)を開設する。『最新版 首を伸ばして自分で治す! 頸椎症』(宝島社)、『首の痛みは、自分で簡単に治せる!』(三笠書房)など著書多数。

腱鞘炎とはどんなもの?

腱鞘炎とは、骨と筋肉をつないで手指の曲げ伸ばしを可能にしている腱と、腱を包むように収めている腱鞘がこすれ合い、炎症が生じて痛みや腫れが現れている状態を指します。なぜこすれ合うようになるかというと、何らかの原因で腱が太くなったり、腱鞘が厚くなったり硬くなったりするためです。痛みだけでなく、腱がスムーズに動かなくなって動作に支障が出たり、悪化すれば鋭い痛みやこわばり、しびれが生じたりすることもあります。

腱鞘炎の状態

腱鞘炎は多くの部位に起こり得る症状ですが、特に症状が現れやすいのは指や手首、肘です。家事や仕事、パソコンやスマホの使用など、生活のあらゆる場面で動かすことが多い部位であり、育児中はさらにその負荷が増加します。

腱鞘炎の症状と原因についてはこちらもご覧ください。
https://brand.taisho.co.jp/tokuhon/body_pain/kensyoen001/


育児中は腱鞘炎に注意が必要

育児中は、それまで日常生活で行ってきた家事や仕事に加えて、赤ちゃんの世話が追加されます。抱っこやおんぶは回数も多く、長時間にわたることも。さらに、頻繁なおむつ替えや着替え、それに伴う洗濯の量や回数の増加、授乳の準備と後片づけ、沐浴、寝かしつけなど、やらなければいけないことはたくさんあります。
中でも特に指や手首の負担となるのが、抱っこと授乳です。赤ちゃんを抱きかかえたり、授乳したりするたびに、普段はとらないような姿勢を長時間キープしなければいけません。赤ちゃんを守り、より安心できる姿勢を維持しようと、パパやママは必要以上に力が入ってしまうことも。その傾向は特に育児経験のない新米のパパ・ママに顕著に見られます。


ママのほうが腱鞘炎のリスクが高い?

男女を問わずパソコンやスマホの使用が増えており、育児や家事に積極的に参加する男性も増えたことから、腱鞘炎のリスクはパパもママも変わらずあるといえるでしょう。しかし、腱鞘炎には女性ホルモンの働きも影響するため、実はママのほうが発症しやすいのです。
女性ホルモンのエストロゲンには、腱や腱鞘の柔らかさと弾力性を保つ働きがあり、もう1つの女性ホルモンであるプロゲステロンは、産後に腱鞘を収縮させます。これらの女性ホルモンが影響して、ママは腱鞘炎のリスクが高くなります。
とはいえ、パパは心配無用というわけではありません。特に、ほっそりとした体形の男性、パソコンやスマホを日頃からよく使っている男性は注意が必要です。


起こりやすいのは「ばね指」「ドケルバン病」「テニス肘」

腱鞘炎が特に現れやすい部位は、指、手首、肘です。

●指に現れる「ばね指」(弾発指)

腱鞘炎が指に現れる「ばね指」(弾発指)

指を使い過ぎるとスムーズに動かせなくなることがあります。熱や痛みを感じながらも放置していると、指の曲げ伸ばしの時に引っかかって跳ねるような動作を生じるように。それが「ばね指」です。これは負担がかかった指の腱や腱鞘が炎症によって肥大して起こるもので、妊娠・出産期の女性に多く見られます。指先を使う細かな作業がしにくくなるなどの影響が生じます。
「ばね指」の治療は、消炎鎮痛作用のある飲み薬や塗り薬の投薬、ステロイド注射などが行われます。

●手首に現れる「ドケルバン病」(狭窄性腱鞘炎)

腱鞘炎が手首に現れる「ドケルバン病」(狭窄性腱鞘炎)

指と手首をつなぎ、親指を伸ばしたり広げたりする2本の腱と腱鞘に炎症が起こるのが「ドケルバン病」です。手首の親指側が痛み、力が入らなくなったり腫れたりします。妊娠・出産期の女性に発症が多いものですが、主に親指の使い過ぎで起こるため、スマホのヘビーユーザーも注意しましょう。
「ドケルバン病」の治療では「ばね指」と同じく、消炎鎮痛作用のある飲み薬や塗り薬の投薬、ステロイド注射などが行われます。

●肘に現れる「テニス肘」(上腕骨外側上顆炎)

腱鞘炎が肘に現れる「テニス肘」(上腕骨外側上顆炎)

物をつかむ、持ち上げる、雑巾を絞るといった動作をした時に、肘の外側から手首にかけて痛みが生じるものです。腱鞘炎の一種といわれることもありますが、実は肘には腱鞘がないため、腱炎になります。肘から手首にかけての部位の使い過ぎが原因で発症するものであり、テニス愛好家に限らず、赤ちゃんを長時間抱っこしたり、1日に何度も抱き上げたりするパパ・ママも注意が必要です。
治療には湿布や塗り薬が使われ、ステロイド注射が行われる場合もあります。また、「エルボーバンド」と呼ばれるサポーターで、腱にかかる負荷を軽減するのも有効です。


腱鞘炎にならないための抱っこと授乳のコツ

腱鞘炎のリスクを特に高めるのが、抱っこと授乳です。

●抱っこのコツ
赤ちゃんを抱っこする時は、お腹の中にいた時のように赤ちゃんの背中が丸くなるようにして、手や腕だけでなく体も使って抱きかかえるようにしましょう。赤ちゃんにとって楽な姿勢であり、抱っこしているパパやママも余計な力が入りません。また、寝ている赤ちゃんを抱き上げる時は、腰をかがめてその体重を自分の体に預けるように、胸を中心に体全体で抱き上げると手や腕への負担を減らすことができます。

腱鞘炎にならないための抱っこのコツ

●授乳のコツ
授乳の時は、クッションで赤ちゃんを支えると手や手首への負担が軽減できます。タオルを重ねるなどして、ちょうどいい高さに調整して使うとよいでしょう。授乳に適した形や大きさの「授乳クッション」と呼ばれる物も市販されていますので、上手に活用してください。

腱鞘炎にならないための授乳のコツ

腱鞘炎を悪化させないための対策4選

① 指や手首を休める
腱鞘炎は指や手首を酷使することで発症します。今は食洗器やお掃除ロボット、衣類乾燥機、ベビー用品の洗浄や除菌グッズ、スリングなど、家事や育児の負担を軽減する様々な家電やアイテムがあります。それらを活用して、指や手首を休めるようにしてみましょう。

② 指や手首をストレッチする
育児や家事、仕事の合間に指や手首のストレッチを行うのもよいでしょう。腱鞘炎の改善だけでなく予防にも有効です。痛みがある場合は無理のない範囲で行ってください。

●おすすめストレッチ1「前腕・手首・指のストレッチ」
・腕を前に伸ばし、手のひらを天井に向け指先を地面に向ける。
・反対の手で指や手のひらを手前に引く。
・30秒キープする。

腱鞘炎を悪化させないための前腕・手首・指のストレッチ

●おすすめストレッチ2「ばね指に有効な〝とくなが法″」
・手首を軽く曲げ、人差し指から小指の腹と親指の付け根の膨らんだところでブロック状の物を挟み、力を入れて握る。30秒キープし、1日10回以上行う。

手首を軽く曲げ、人差し指から小指の腹と親指の付け根の膨らんだところでブロック状の物を挟み、力を入れて握る。

・手のひらを前に向けて指を伸ばし、もう片方の手で指を後ろに引っ張る。30秒キープし、1日10回以上行う。

手のひらを前に向けて指を伸ばし、もう片方の手で指を後ろに引っ張る。

・親指を内側に倒し、もう片方の手の親指で押し合うようにする。30秒キープし、1日10回以上行う。

親指を内側に倒し、もう片方の手の親指で押し合うようにする。

(参考)千葉ほか:日本手外科学会雑誌31:935-940,2015


③ 市販薬を利用する
腱鞘炎の症状があまりひどくないようなら、ストレッチと組み合わせて痛みや炎症を鎮める市販の湿布薬や塗り薬、内服の解熱鎮痛薬などを利用してもよいでしょう。授乳中のママは、薬の使用について必ず薬剤師や登録販売者に相談してください。

④ サポーターで手首を固定する
サポーターを使うと、手首への負担を軽減できます。薄手の物より、マジックテープで調整できる物や金属のプレートが入った物など、しっかりと手首を支えるサポーターを選びましょう。

サポーターで手首を固定する

つらい場合は我慢せずに整形外科医に相談を

腱鞘炎の症状がひどく、つらさを感じたり生活に支障が出たりした場合は、我慢せずに速やかに整形外科を受診しましょう。症状に適した投薬治療などの他、手術やリハビリ治療を受けることもあります。

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