汗って悪者? 体のために汗をしっかりかこう!

汗って悪者? 体のために汗をしっかりかこう!

暑い季節は、ちょっと動いただけでも汗をかき、不快感を覚えたり、においが気になったりします。また、汗は皮膚トラブルの原因になる場合もあります。やっかいな存在に思われがちな汗ですが、実は体の機能を維持するために欠かせないものです。汗とはどのようなものか、自分の体にとってのメリットとデメリットを知り、つき合い方を考えていきましょう。

監修プロフィール
若松町こころとひふのクリニック院長 ひがき・ゆうこ 檜垣 祐子 先生

1982年東京女子医科大学卒業後、同大学皮膚科に入局。84年よりスイス・ジュネーブ大学皮膚科に留学。その後、東京女子医科大学皮膚科助教授、同附属女性生涯健康センター教授を経て、17年より現職。医学博士。専門はアトピー性皮膚炎、皮膚科心身医学。著書に『皮膚科専門医が教える やってはいけないスキンケア』(草思社)など。


体を維持するために大切な汗

汗は、何のためにかくものでしょう? 体を正常な状態に保つために必要とされる汗の役割をご紹介します。

発汗のメカニズムと3つのタイプ
発汗とは汗をかくこと。
体には、呼吸や血液の流れ、内臓の働きなどを意識せずに調整できる自律神経が備わっています。発汗も自律神経にコントロールされているもの。体温が上昇すると、脳から自律神経の1つである交感神経に「汗を出すように」という指令が出され、指令を受けた交感神経が汗腺を刺激することで汗がつくられます。汗は汗管(かんかん)を通って体外に排出され、皮膚の上で蒸発しますが、その際に体の熱が奪われることで体温の上昇が抑えられるのです。この体温調節が汗の最も大切な役割になります。

発汗には次の3つのタイプがあります。
①温熱性発汗…暑さや運動などで体温が上昇した時に、体温調節のためにかく汗
②精神性発汗…不安や緊張などのストレスによって手のひらやわきの下にかく汗
③味覚性発汗…辛い物を口にした時などに神経が刺激されて顔や頭などにかく汗

発汗には次の3つのタイプがあります。温熱性発汗は、暑さや運動などで体温が上昇した時に、体温調節のためにかく汗のこと。精神性発汗は、不安や緊張などのストレスによって手のひらやわきの下にかく汗のこと。味覚性発汗は辛い物を口にした時などに神経が刺激されて顔や頭などにかく汗のこと。

また、汗には体温調節の他にも、体内の老廃物や過剰な塩分など体にとって有害な物質を体外に排出し、体や皮膚を清潔に保つ働きがあります。

自律神経は、季節の変わり目に乱れやすいことが知られていますが、実は夏も同様に乱れやすい季節です。これは、冷房の利いた室内と暑い屋外を行き来することや、脱水症状を起こしやすいことが影響していると考えられます。上着や膝掛けなどを用意して室内と屋外の気温差に対処したり、水分をこまめに摂ったりするのに加え、睡眠や食事など生活リズムを整えて自律神経の乱れを防ぐことは、汗の機能を正常に保つことにも役立ちます。

汗とはどのようなものか
汗は血液中の血漿(けっしょう)という成分からつくられます。血漿はほぼ水分であり、ミネラルも少量含まれているものです。そんな血漿を原料とする汗も、ほとんどが水分です。ナトリウムイオン(塩分)も少量含まれていますが、体内の塩分調整のために、ナトリウムイオンは発汗前にほとんどが体に再吸収されます。そのため、通常の汗はサラッとしていて蒸発しやすく、においも気になりません。
しかし、汗腺や汗管の働きが低下していたり、汗を大量にかいたりすると、ナトリウムイオンの再吸収が不十分になり、塩分濃度の高い汗が排出されます。汗をなめるとしょっぱく感じたり、たくさん汗をかくと塩分が失われて脱水症状を起こしたりするのはそのためです。このような汗にはベタつきがあり、においも気になります。

汗腺や汗管の働きが低下していたり、汗を大量にかいたりすると、ナトリウムイオンの再吸収が不十分になり、塩分濃度の高い汗が排出されます。

状態のよい汗をかくために

「よい汗、悪い汗」という言葉を耳にすることがあります。一般的に、「よい汗」とは正常に働いている汗腺や汗管から生じるサラサラでにおいが気にならない汗、「悪い汗」とはナトリウムイオンの再吸収が正常に行われなかった、ベタついてにおいのある汗を指します。汗はかいたほうがよいものですが、できれば状態のよい汗をかきたいもの。しかし、汗をかきにくい人や、逆に汗をたくさんかく人は、いわゆる「よい汗」をかけていない場合があります。

汗をかきにくい人の特徴とその対策
汗をかきにくい人の特徴としては、日常的に運動をしていない人や代謝の低い人が考えられます。このような人は汗をかく機会が少ないため、汗腺や汗管の機能が衰えて汗をかきにくい体になってしまうことがあるのです。汗をかきにくいと、気温や体温の変化にうまく対応できずに体に熱がこもってしまうだけでなく、汗腺や汗管が正常に働きにくくなっていることから「悪い汗」をかきやすくなります。少しずつでもいいので運動する機会を増やしたり、入浴時に湯船に浸かってしっかり汗をかくことを習慣化したりすると、それが汗をかくトレーニングとなり、徐々に上手に汗がかけるようになっていくでしょう。

汗を大量にかく人は「多汗症」かもしれません

汗を大量にかく人は多汗症かも

刺激などに関係なく日常生活に支障を来すほど汗を大量にかく人は、「多汗症」の可能性があります。多汗症は、全身に汗を大量にかくものと、手のひらや足の裏などの局所に汗を大量にかくものに分けられます。また、特定の原因がない原発性多汗症と、甲状腺疾患や更年期のホルモンバランスの変化などによって起こる続発性(二次性)多汗症があります。汗を大量にかくことは「悪い汗」の原因になります。汗が生活に影響して困っている状態であれば、我慢せずに、現在治療中の疾患があればかかりつけの医師に、ない場合は皮膚科医に相談しましょう。


汗が皮膚トラブルを招いたり悪化させたりすることも

汗が皮膚トラブルにつながる場合もあります

汗には体にとって大切な働きがある一方、大量の汗が皮膚トラブルにつながる場合もあります。起こり得る皮膚トラブルには次のようなものがあります。

●あせも(汗疹)…何らかの原因により汗管がつまって炎症が生じ、水疱やかゆみを伴う赤いブツブツができる。
●汗疱(異汗性湿疹)…手のひらや足の裏に水疱ができる。
●あせものより(多発性汗腺膿瘍)・とびひ(伝染性膿痂疹)…あせもが生じた時に皮膚をかきむしってしまい、傷口から黄色ブドウ球菌などに感染して起こる。
●汗かぶれ…汗の成分が皮膚を刺激して起こる。
●アレルギー性接触皮膚炎…汗によって溶け出した金属や天然ゴムなどの成分がアレルゲンとなって起こる。
●コリン性蕁麻疹…発汗に関与する神経伝達物質アセチルコリンが過剰になって起こる。
●アトピー性皮膚炎…皮膚のバリア機能が弱く、汗が刺激になって悪化する。


皮膚トラブルの防ぎ方と、生じてしまった時の対処法
このような皮膚トラブルを招かないためにも、汗をかいたらそのままにせず、タオルやボディシートなどでこまめに拭き取り、可能であればシャワーなどで流して皮膚を清潔に保ちましょう。ただし、汗をきれいに取り除きたいからといってゴシゴシと拭いたり洗ったりするのは、皮膚を傷め、乾燥を招くので避けてください。

皮膚トラブルが生じてしまった場合、市販薬で症状を和らげられるものもありますが、なかなか改善しなかったり、生活に支障を来す場合は皮膚科医に相談しましょう。特に、小さな子どもに多く見られ、かきむしって悪化させる恐れのある「あせものより(多発性汗腺膿瘍)」や「とびひ(伝染性膿痂疹)」、慢性化することもある「アレルギー性接触皮膚炎」は、早めの受診をおすすめします。

あせもの症状や治療、対処法については疾患ナビ「あせも(汗疹)」も併せてお読みください。

発汗を抑えるためのひと工夫

発汗を抑えるためには、太い動脈を冷やす

汗はかいたほうがよいものであり、無理に止めようとする必要はありません。しかし、外出先などで汗が気になる場面や、もともとあった皮膚疾患が悪化する場合など、汗をできるだけ抑えたいケースもあります。そのために役立つ対処法を2つご紹介します。
●太い動脈を冷やす
急いで発汗を抑えたい時におすすめの方法です。太い動脈のある首やわきの下、太もものつけ根、膝の裏などを冷やすと、そのひんやりとした感覚で、体が体温を下げるために汗を出そうとするモードから切り替わり、汗が治まりやすくなります。
●自分の限度を知る
食べ物や飲み物からの刺激に備える方法です。辛い物や刺激の強い物を口にすると汗を大量にかいてしまうという人や、その汗でアトピー性皮膚炎などの慢性症状が悪化するという人は、自分がどの程度の辛さや刺激に耐えられるのかを試して、その限度をあらかじめ知っておくと、対処がしやすくなるでしょう。

いかがでしょうか? 汗のことを知って、その印象が少し変わりましたか? 汗と上手につき合って、暑い季節も前向きに過ごしていきましょう!

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